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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
751/856

746階 相談相手

「そう緊張するでない。今回は公式の訪問ではないから礼儀作法などもとやかく言うつもりはないし・・・元々妾はそういった格式ばったものが嫌いでのう」


「は、はっ!ご、御配慮ありがとうございます・・・女性陛下」


夢か幻か・・・フェリスから『小さい子供がギルド長を訪ねて来ている』と聞いた時はどこかの子供の身の上相談かと思った。たまにいるのだ『冒険者になりたいのだけどどうやったらなれる?』等聞いてくる子供が


たまたま時間が空いていたので冒険者の酸いも甘いも語り尽くしてやろうと待ち構えていると上がって来たのはなんとフーリシア王国国王スウ・ナディア・フーリシア女王陛下


過去に一度だけお会いした事がある


それはエモーンズにダンジョンが出来たすぐ後、そのダンジョンを調査する為の調査隊の中に王女様だったスウ様が帯同していた。その調査隊がアケーナの冒険者の力を借りたいとギルドを訪れた際にチラリと顔を見た程度だが・・・間違いなくこの方は現国王スウ・ナディア・フーリシア女王陛下だ


しかしなぜこのような場所に・・・しかも護衛も1人しか連れておらずあまりにも無防備・・・確か女王陛下自体が宮廷魔術師候補になるくらいの魔法の腕前と聞くがそれでも危険では?それに護衛の方も武器など持っているようには見えずしかも格好は何故か燕尾服・・・もしかして護衛ではなく執事?いやそんはなずは・・・


「ん?なんだこの男が気になるのか?」


「い、いえ!その・・・陛下の護衛にしては数が・・・。街中とはいえ何があるか分かりませんしお恥ずかしい話ですが特に冒険者ギルドは荒くれ者も多く危険かと・・・」


「危険?・・・安心せい冒険者が何人束ねてかかって来ようがこの者に傷一つ付けることは叶わぬだろう。たとえ相手がAランク冒険者だとしてもな」


Aランク冒険者でも傷一つ付けれない?って事はこの男はディーン将軍並の実力者ってことか・・・世の中にはいるのだな・・・隠れた強者というものが


「左様で御座いますか・・・それで陛下はなぜアケーナに来られたのですか?」


「アケーナには立ち寄っただけだ。そもそも寄る予定はなかったのだが少し野暮用が出来てな。聞いておるぞ?ヘギオンとの事は」


「ヘギ・・・え!?陛下それは・・・」


手紙は間違いなく奪われていた。と言うか陛下がここにいるということは手紙がもし届いていたとしても入れ違いになっていたはずだ。となると総ギルド長から聞いた訳でもなさそうだし一体なぜ・・・どこで知り得たのだ?


「そう驚かんでも知る術などいくらでもある・・・で、その野暮用を片付けたから伝えに来た」


「・・・へ?」


「ヘギオンを更迭した。次の領主が決まるまで暫くは妾が代理としてこの街を取り仕切る。アケーナはダンジョン都市だからのう・・・他の街と違い任せる人材に難航しそうなのが悩みの種だ。同じ過ちを繰り返さぬ為にも慎重に選ばないといけんしのう」


は?え?・・・理解が追いつかない・・・ヘギオンを更迭したと言われたか?いやなぜ・・・と言うか何の罪で!?


「あの・・・クリナス侯爵様は一体どのような事を・・・」


「ふむ・・・罪状としては『ある男を怒らせた』罪、だな」


「???」


「おそらく今までならヘギオンは罪に問われなかったであろう。借金のカタに子供を預かりその子供を死なせてしまった・・・そのような事が偶然何度続いても事故で片付けられていただろう。妾の耳にも入って来ぬ些細な事故として処理されて終わっていたはずだ。正直妾も・・・人伝に聞けば『そのような事があったのか』と流していたやもしれぬ・・・まるで些事であると言わんばかりにな」


女王陛下は少し寂しげな表情を浮かべ更に詳しくヘギオン失脚の顛末を話して下さった


正直な話大貴族である侯爵が『その程度』の事で失脚するなんて考えられなかった。話によると正確な人数も把握出来ていないらしいのだが陛下曰く『人数ではない』らしい。何だか常識が覆された気分だ


「・・・正直な話ですが・・・下手をするとほとんどの貴族が・・・その・・・」


「うむ。今回の件に照らし合わせるとほとんどの貴族を更迭せねばならぬかもしれんな」


「・・・」


そうだと思う


貴族ではない私でも借金をした方を責めるかも・・・借金しなければ起きなかった事なのだから


「もし妾も育ちが違えばヘギオン側の思考になっていたやもしれぬ。幸いな事に王位継承権が低かったお陰で貴族よりも民に近い位置におれたのが幸いだった。でなければ今頃この国は滅びの道を歩んでいたかもしれぬな」


民に近い王・・・か


良いのか悪いのか分からないが・・・少し不思議な気分だ。そう考えると目の前の女王陛下も何だか少し違って・・・


「と言ってもそのような親戚の子を見るような目で見られる謂れはないがな」


「へっ!?い、いや決してそのような・・・」


「冗談だ冗談・・・さてそれではそろそろ本題に入ろうか」


そう言えばこれまでの話はただの報告みたいなもの・・・陛下がわざわざ来て話す内容ではない


「本題と申しますと・・・」


「お主がアケーナダンジョンの攻略を進めていたのはヘギオンに対抗する為・・・それで間違いないな?」


そこまで知っておられるのか・・・陛下の情報収集能力は凄まじいな


「はい。冒険者達を守る為とはいえ安易な発想でした・・・侯爵・・・いえ、ヘギオンにとってダンジョンの収入はかなりのもの・・・そのダンジョンが無くなるかも知れないと分かれば交渉を上手く進められると思っていました。しかしヘギオンが失脚した今それも・・・」


「ふむ。必要はなくなるな・・・しかしもうひとつ攻略を進めていた理由があるであろう?」


「・・・そこまで御存知でしたか・・・はい・・・最近冒険者の行方不明になる確率が非常に高くなっておりましてダンジョンに異変が起きているやもと・・・攻略は調査の一環としての意味もありました」


「その原因は未だ不明・・・という事はこのまま調査は続けるのか?」


「・・・そうしたいところですが・・・その・・・女王陛下!」


「なんだ?」


「組合の復活を認めてはもらえませんでしょうか?陛下にお出しした手紙には組合が廃止になってからの行方不明者の増加を示す資料も添付しておりまして・・・その・・・短期間でも構いませんので組合を復活させて行方不明者が減るかどうかを・・・」


「ならん」


「・・・理由をお聞きしても?」


「妾が真っ先に着手したのは軍の縮小なのは知っておろう?次に貴族の私兵を減らすよう働きかけるつもりだ。そんな中で冒険者組合を許してしまえば貴族達は組合を警戒し私兵を減らす事を渋るだろう。短期間と言えど今の流れに逆行する事は出来ぬ。それに・・・行方不明者の数は組合をふっかむさせてもさせなくても減るだろうから今復活させてもその数値は実績として認められん」


「減る?どうしてそう言い切れるのでしょうか?」


「・・・これから話す事は妾の不徳の致すところ・・・お主のせいではないと初めに言っておく」


「?・・・と言うと・・・」


「ヘギオンのヤツ商人の子らだけでは飽き足らず冒険者にまで手を出しておったのだ。ギルド職員を使って、な──────」





女王陛下の突然の訪問の後、部屋は嵐が過ぎ去った後のような静けさに包み込まれていた


陛下がここを訪ねて来た理由は二つ


一つはヘギオンに協力したギルド職員を探し出し罰せよというもの


陛下自身がギルドに乗り込んで協力者を洗い出し処分しても良かったはず・・・それはしないのはギルド長である私の顔を立ててくれたからだ


まさか行方不明の原因の一つに職員が絡んでいるとは思わなかった・・・物的証拠はなくダステンの証言だけらしいがダステンが嘘をつくメリットはどこにもない・・・つまり本当に・・・


ギルドでダンジョンの許可証を発行し行方不明になればダンジョン内で行方不明になったと普通は考える。ギルドカードの光が消えた時は形式的とはいえ毎回ギルドカードの持ち主は本当にダンジョンに入ったか聞いていた。もちろん答えは『はい』だった・・・しかしその中の何件かはダンジョンに入らずにヘギオンの屋敷に連れて行かれ・・・くそっ!私は何をしていたんだ!ギルド長失格だ!


必ず見つけ出してみせる・・・一人として逃しはしない!


それには・・・ん?


タイミングよくドアがノックされる。どうやら早速来てくれたみたいだ・・・あの方が


「ギルド長・・・聖者様とお付の方がギルド長にお会いしたいと・・・」


「通してくれ・・・それと遠路はるばる来て下さったのだ冷たいお茶を人数分持って来てくれ」


女王陛下が犯人探しの為に寄越してくれた聖者・・・嘘を見抜くという『真実の眼』の力を借り見つけ出す・・・そして・・・私の手で──────





「ねえそこの常連さん・・・まだ開店前なんだけど・・・聞いてる?」


「ああ、聞いてるさ。てか常連言うな・・・来たくて来てる訳じゃない」


「ならなんで来たのよ?・・・さてはまた私から情報を仕入れようと・・・」


「・・・いや、今日の用事は情報収集じゃない」


「?」


ヘギオンの件の後始末は全てスウ達に任せた。ダステンの証言からヘギオンは冒険者にも手を出していた疑いがありそれを調べるのに必要な聖者を連れて来てやったが協力するのはそこまでだ。あとは俺が関与するような事ではない


そして聖者をギルドに送った足でふらっと立ち寄ったのがウロボロスの店だ。まだ開店前で客も居ないから気兼ねなくなんでも話せる絶好のスポットだ


「ちょっと!情報を仕入れに来たわけじゃないなら一体・・・ま、まさか・・・ついて私に惚れて・・・死っ!?」


ウロボロスに向けて魔力を放ったがギリギリで躱しやがった


「チッ・・・上手く避けやがって・・・」


「あのね!!アナタの一撃は痛いのよ!本来なら命が脅かされない限り痛みなんて感じないはずなのに・・・痛いのよ!冗談でもやめてくれる!?」


「冗談のつもりではないが?」


「・・・尚更やめてよ・・・で?用事は何なのよ」


用事か・・・ぶっちゃけこの悩みを打ち明けられる相手はウロボロスしかいない・・・もしかしたら答えも持っているかも・・・期待は出来ないけど


「とある人間が悪さをした」


「はあ?」


「今までならその人間をぶっ飛ばすくらいで気が済んでた・・・けど・・・」


「けど?」


「何となくその人間だけじゃなく人間全体がダメなような気がしてな・・・いっそ一から始めた方が良いんじゃないかって・・・」


レオン達の話を聞いたからだろうか?その考えに至ってしまったのは


「それはまた・・・なかなかの発想ね」


「だろ?1人の人間がそうなら他もそうなんじゃないかって・・・いや実際そうなんだろう・・・じゃあ一々そいつらを懲らしめていく・・・そんなの面倒だからいっその事・・・みたいな?」


「支離滅裂な内容だけど何となく分かるわ。で?それの何が問題なの?」


「いや問題だろ!そんなのまるで・・・」


「アバドンみたい・・・ってこと?」


「そう!『破壊』のアバドン・・・アイツなら面倒事はとりあえず破壊しようみたいになりそうだし・・・」


「否定はしないわ。面倒事どころかとりあえず破壊しようとするのがアバドンだし・・・」


「だろ?・・・もしかして俺の中に創り出してしまったアバドンに思考が寄るとか・・・ある?」


「ありえるかもね」


「・・・他人事だな」


「他人事だもの。それに私としてはそっちの方が面白・・・ちょ、そうやってすぐ魔力を放とうとしない!」


「・・・ハア・・・自分で想像して創造したアバドンに思考が寄るなんてシャレになってないぞ。体が乗っ取られなくても思考が寄ったら意味が無い・・・乗っ取られたのと同じ事じゃないか」


創造主だから力関係は俺が上・・・だけどアバドン的思考になってしまえば乗っ取られたも同然・・・いや、それよりタチが悪いかもしれない


乗っ取られたら取り返せばいい・・・けど思考の変化は自分で気付かないかもしれない・・・俺の人格自体が変わってしまったらその考えが自然と思えてしまうかも・・・


「ねえ・・・そんなに悪い事?」


「そりゃ当たり前だろ!これまでの考え方が変わるんだぞ?」


「違くて・・・一からやり直す事がそんなに悪い事?」


「あん?」


「内容は全く分からないけどアナタは軌道修正が難しいと判断したんじゃないの?例えば積み上げられた石がグラグラしているけど今更修正は不可能・・・みたいに。もしそのまま積み上げてしまえばいずれ倒れてしまってそれまでの苦労が水の泡・・・ならいっその事壊して新たに積み上げればいい・・・そう考えただじゃないの?」


「・・・」


「普通なら一度壊してしまえば同じ石は見つからない・・・けどアナタの場合は違う・・・輪廻・・・輪廻がある限り同じ石でまた積み直せる・・・今度は揺らぐことのなく頑丈に、ね」


否定出来ない・・・その通りだ


貴族は偉い、貴族は何やっても許される・・・みたいな風潮があってそれは一般常識のように扱われている。今更貴族は偉くない、やる事やったら貴族でも罰せられると言われても反発は起きるだろうし貴族以外の人もなかなか受け入れるのは難しいだろう


ならいっその事全てを破壊し一から教えていけば・・・そもそも貴族なんて身分を作らなければ・・・


「・・・相談相手を間違えたようだ・・・」


「そう?けど他に誰に相談出来るの?サラ・セームン?けどサラには知られたくないんでしょ?アナタの今の現状を」


うっ・・・にゃろ・・・


「一つ忠告しておくわ・・・その悩みはいずれアナタの弱点となる・・・インキュバスを倒しアバドンですら倒し魔族になったアナタのたった一つの弱点に、ね──────」

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