743階 貴族不要論
そんな・・・ロウニール・ローグ・ハーベス・・・だと?
「さて・・・女王陛下の代弁者であるお前が俺の首を斬るって言うならそれはスウの・・・ひいては国の総意って訳か?」
「バ、バカを申すでない!誰がそのような事を・・・」
この国の王であるメスガキすら動揺している・・・それもそのはずロウニール・ローグ・ハーベスと言えば勇者ではないにも関わらず魔王を倒し大陸にある国全ての王と懇意にしている傑物・・・敵に回せばこれ以上恐ろしい相手はいないとされている人物だ。一国の王と言えど無下に扱う事など出来はしない・・・どこにでもいるような顔だからすっかり忘れていたが確かに見覚えがある・・・マズイマズイマズイぞ・・・
「は、ははっ・・・ローグ公爵閣下も人が悪いですな・・・まさか冒険者のフリをなされているとは思いもよりませんでしたぞ」
「ディーンは初めから気付いていたみたいだな」
「・・・ええ。顔を隠したくらいでは強さまでは隠せませんからね」
「シーリスは怪しいんでいたが確信に至らずって感じだったな・・・それはそれでどうなんだ?妹よ」
「うるさいわね・・・ぶっちゃけ怪しんでいたアタシがどうかしてたわ・・・顔を見ても未だに半信半疑だし」
「おい」
無視・・・無視ィィィ!?この私を無視だと!?何と不敬な・・・何と傲慢な・・・許さぬぞ・・・王とて私を無視など出来ぬというのに・・・
しかし和気あいあいと話しているが何とも滑稽な風景・・・レーストはなぜ円卓の上で跪いたままなのだ?
そもそも跪いた理由は・・・そうか・・・レーストも何かしらの理由で公爵である事に気付いて・・・ならば挽回のしようがあるというもの
「女王陛下・・・どうやらローグ公爵閣下と行き違いがあったようです。どうにか取り成してもらえませんでしょうか?」
「取り成せと言われてものう・・・どういう行き違いがあったかも分からんのだが・・・とりあえずそこの間抜けを降ろさぬか?」
「は、はっ・・・レースト、卓から降りよ・・・・・・聞いておるのか?」
「う・・・動けません・・・」
「なに?」
「何かに縛られているようでこの体勢からピクリとも・・・」
そんな馬鹿な・・・レーストは何を言っているのだ?
「・・・ロウニール・・・解いてやってくれるか?お主であろう?」
「・・・{動け}」
メスガキに頼まれるとロウニールはため息をつき仕方なさそうに『動け』と一言・・・するとレーストはすぐさま立ち上がり卓の上から飛び降りた
「・・・失礼致しました」
ロウニールは言葉で人を操れるのか?しかもレースト程の者を・・・だとしたらここにいる全員・・・ディーンも含めた全員がロウニールに命を握られているも同然では?
「ふむ・・・それでクリナス卿よ行き違いとはどういう事だ?そもそもお主の護衛がロウニールに斬りかかったのは紛れもない事実・・・その釈明はせんでいいのか?」
チッ・・・だからそれも含めて『行き違い』なんだよ!
これだから王位継承争いを早々に離脱させられ宮廷魔術師候補に追いやられるのだ。それが何の因果か王になってしまっただけのメスガキ・・・使えぬのは予想通りか
祭り上げられ王など貴族として生まれ貴族として育ち貴族として生き抜いて来た私に敵う筈もない、か
仕方ない・・・見せてやろう・・・侯爵ヘギオン・クリナス・エリエケの実力を!
「公爵閣下におきましてはかなり不快に感じられたかも知れません・・・ですが致し方なかったのです・・・隠しておりましたがアケーナ冒険者ギルド長アーノン氏と私ヘギオン・クリナス・エリエケは一触即発状態にあるのです」
「っ!・・・ほう・・・」
メスガキの反応・・・まさか知っていたのか?まあいい関係ない
「確執・・・と言うには些か控えめな表現になるほどの状態・・・と申し上げましょうか・・・とにかく表立ってドンパチしている訳ではありませんが互いに足を引っ張り合っている状態です。そんな折に不意に現れたGランクの冒険者・・・その冒険者が何故かAランクの冒険者を押し退けアケーナダンジョンの最深部に挑もうと言うのです・・・私は何かあると思いその冒険者を呼び立て何者か調べようとした次第です。それがまさか公爵閣下とは露知らず・・・」
「ふむ・・・ならばロウニールの言っていた『冒険者なんぞ』のくだりは?」
「まさか本心であるはずも御座いません。私にも懇意にしている冒険者はおり色々と手を貸してもらったりと助かっている身・・・特にアケーナでは冒険者が居なくては成り立たないのは周知の事実かと・・・街中でダンジョンブレイクでも起きたら目も当てられませんからね」
ダンジョンブレイクの起きる要因はダンジョンのマナ不足となっている。つまり冒険者がダンジョンに挑まなくなればダンジョンはマナ不足となりダンジョンブレイクが発生してしまう、と。それを知っている私が冒険者を無下にするはずがない・・・そう言えばこれまで謎だったダンジョンブレイクの謎を解いたのは確か目の前にいるロウニールだったか・・・
「ではなぜそのような言葉を?」
「恥ずかしながら駆け引きをしてしまいました。冒険者相手に私が冒険者を重宝しているとバレては図に乗られてしまうのではと浅はかな考えで心にもない事を言ってしまったのです。今は浅慮だったと反省しております」
「なるほどのう・・・ロウニールよクリナス卿はそう言っておるが・・・」
さあどう出る?ロウニール・ローグ・ハーベス!
隠しておきたかったアーノンとの確執も話したのだ・・・これ以上私を責める手はないはず!
「・・・そっか・・・ギルド長と揉めていて・・・ってなるかバーカ」
っ!?
「あのなぁ・・・こっちは全て把握した上で動いてんだ。何も無ければ身分を明かさないまま終わりにしてやろうと思ったのに・・・」
全て把握だと?・・・いや、アーノンとの事は聞いていて当然だ・・・だがロウニールはまるでそれ以上の事を知っているような・・・まさか私がアーノンの出した手紙を奪った事も?それとも総ギルド長に圧力をかけた事まで?
「仰る意味が・・・」
「分からないか?・・・まあいい・・・とりあえずその話は置いといて・・・スウじゃなくて女王陛下・・・俺がさっき言った『貴族不要論』は本音だぞ。軍も縮小した事だし余計な争いの種は摘んどいた方がいいんじゃないか?」
はあ!?コイツいきなり何を言って・・・
「ふむ・・・しかし貴族がおらねば国が回るのは事実・・・縮小する案は出てはおるが、な」
「へ、陛下!」
「そう慌てるでない案が出ているだけで実行が難しいのは妾も理解しておる。この国は貴族で回っていると言っても過言ではないからのう」
当たり前だ!貴族がいなければこの国はお終い・・・それが分からないほど無能ではなかったか
にしてもやはり縮小案は出ていたか・・・となれば早急に派閥を・・・
「街や村の事ならそこに住んでいる人達に任せればいい・・・税金の徴収も含めてな。てかそもそも徴収自体は村長やら市長がやってそれを受け取って国に送っているだけだろ?なら貴族がいても邪魔なだけ・・・いやむしろいない方がスムーズなんじゃないか?変に抜かれもしないだろうしな」
ぐぬぬ・・・抜いて懐に入れるのは誰でもやっている事じゃないか!それをさも自分はやっていないような口ぶり・・・もしかしたらやってないのか?だからメスガキの前でこんな事を・・・
「ふむ・・・だがお主も知っているだろうが小さな村ならまだしも大きな街になるとかなりの仕事量となる。その仕事量をこなすには人を多く使わねばならぬだろう」
「村長や市長にその権限を与えれば良いだけでは?無駄に権力があり偉そうにしているだけの貴族よりいい働きをすると思いますがね」
「だとしてもだ。性急に出来る話では到底ない・・・もし仮に貴族から各長へと仕事を引継ぐとしてもそれだけで数年単位必要になる」
そうだ!あまりにも非現実的な話・・・ロウニールはそんな事も分かってないで貴族が不要だと言っているのか?・・・うん?
メスガキと話していたロウニールが突然私の方を見た
その目は・・・明らかな敵意
「だったら・・・こんなクソ野郎にこの先もずっと従わないといけないって事か?女王陛下」
「ま、待て・・・いきなり何を・・・」
メスガキが動揺している
私の後ろにいるレーストもカタカタと震えているのが分かる
なんだ・・・なぜこうも息苦しいのだ・・・
「俺だって真っ当な貴族がいるのは分かっている。こんな腐った貴族だけじゃなく普通の・・・領民の事を考えるような貴族がいることは分かっているさ。けどな・・・『侯爵』という高い地位の奴がこれだけ腐ってたら他も腐ってるんじゃないかと疑いたくなる気持ちも分かるだろ?」
「こ、公爵閣下!私が腐っていると仰っているのか!それは・・・」
「黙れ・・・次言葉を発した瞬間その首刎ねるぞ」
ヒィ・・・な、なんだこの男は・・・て言うかなぜ私が腐っているなどと・・・
「ロウニールお主・・・」
「・・・コイツから提案があった。仲間を置いてこの街を去れ、と5万ゴールドの入った袋を投げて寄越してな。提案と言うより強制だな・・・で、その際に俺の仲間の1人は私兵として使いもう1人の女性の仲間は『専属メイド』として雇うと言っていた・・・その後に『飽きたら返してやる』と付け加えて」
「っ!・・・クリナス卿・・・貴様・・・」
マズイマズイマズイマズイ!
冗談だったと言わねば・・・いやしかし今言葉を発すれば・・・
「まあ冗談の可能性もある・・・冗談でも最低な冗談だがな・・・ただ万が一もあるからと思い調べさせたら・・・出てくるわ出てくるわ・・・コイツの悪行三昧が」
調べさせたら?バカなそんな暇などありはしなかった!ハッタリだ!
「スウ・・・答えを間違えるなよ?俺が今から話す内容は紛れもない事実だ・・・その事実を聞いた後のお前の答え次第で・・・俺はこの国を見限るぞ──────」




