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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
747/856

742階 初めまして

グギギギ・・・ディーンめ!コヤツのせいで・・・


結局メスガキが参加の意思を確かめると冒険者の男は無言で頷きこの私が平民ごときの為に一席設ける事に・・・


会議室に移動し円卓を囲む


一番奥にメスガキが座りディーンはその側に立ち、メスガキの右隣にメスガキ2が座り更にその隣に冒険者が座る


私はメスガキ2の正面・・・メスガキの左隣に座る。それにしてもまさか私が平民と同じ卓を囲む事になるとは・・・


ん?


メスガキ2が怪訝そうな表情をして冒険者の顔を覗き込んでいる。髪で目が隠れているので顔が気になったのだろうか?平民の男など大した顔ではないだろうに・・・ああ、そう言えばメスガキ2も平民出だったな・・・平民同士惹かれるものがあるのだろう


「美味いのう・・・飲んだ事のない味だ」


「アケーナ産の採れたてのフルーツをふんだんに使ったフルーツティーです。お口に合ったようで何よりで御座います」


チッ・・・メスガキ共に振る舞うだけならまだしもなぜ平民にも・・・しかしここで平民に飲ませなければ器が小さいと思われかねない・・・ここは我慢だ我慢


それにしても・・・ここに来る途中のレーストの言葉が気になって仕方ない


冒険者を混じえ会談する事になり場所をここ会議室を選んだ。そして移動する際にレーストは他の者に聞こえないよう耳元で囁く



『今のディーンになら勝てます』



その言葉を聞いた直後はただの自慢かと思ったが・・・ディーンに勝てる・・・つまりこの場で一番強いのはレーストという事になる


もし・・・もし仮にだ・・・私がレーストに『メスガキの命を奪え』と命令すれば・・・いや待てよ・・・マナ封じの首輪を使えば魔法使いなどいくら腕利きと言えど赤子同然に・・・となるとあの2人はただのメスガキになり・・・



「どうしたのだ?クリナス卿」



「い、いえ・・・少し考え事を・・・」


くっ・・・腐っても王か・・・メスガキから発せられる威圧に思わず仰け反ってしまうところだった


しかも私が考えている事を見抜いているのか?油断ならぬな・・・



くだらない話が続く中、私はずっと決断を迫られていた


今私はフーリシア王国の王の命を握っているも同然・・・ほんの少し力を入れれば握り潰せる状況にある


メスガキとメスガキ2はディーンさえ始末してしまえばどうとでもなる・・・魔法使いは部屋の中で戦うには不向きだからマナ封じの首輪さえ着けてしまえば・・・


冒険者の男はヒーラー・・・まあ無視しても構わないだろう


今の問題は成功するか否かよりも成功した後の事だ


レーストがディーンと他の者達も始末したとしよう・・・『国王崩御』『侯爵の反乱』このふたつがどう作用するか・・・


単純に考えれば私は反乱者として処刑される身になるだろう・・・が、その処刑する王が居なくなるのだ・・・となると誰が私を処刑する?


貴族の殆どは私が掌握している。私を討とうとする者など皆無・・・いや、1人居る・・・しかも奴が動けば私は全てが終わる



ロウニール・ローグ・ハーベス



奴さえ居なければ・・・いや待てよ・・・なぜ私が王を討ったと正直に話さなければならない?幸いにもここは密室・・・更に言うなら私の屋敷だ。全て片付けて別の者の仕業と言ってしまえばいい


だが誰に罪を擦り付ければいいのだ?この状況で真っ先に疑われるのは当然私だ。賊の侵入を許したと言えば良さそうだが誰にも見られずに侵入し王を殺害し街を出て行くなど不可能に近い・・・となれば疑われるのは私になる


メスガキ2は奴の妹だししゃしゃり出て来るのは間違いない・・・その時に賊が嘘だとバレれば私が疑われるに決まっている


くそっ・・・手の届く所にあるが手を出せば私もタダでは済まない・・・どうにかして別の犯人を仕立て上げられれば・・・


「まだ一言も喋っておらぬのう。どうだ?冒険者から見てこの国は過ごしやすい国かのう?何か改善して欲しい事があれば遠慮なく言うがよい」


メスガキめ・・・冒険者に聞くなど・・・冒険者?・・・そうだ冒険者・・・この屋敷に頻繁に冒険者が出入りしているのは街の者も見て知っているだろう。つまりこの屋敷に冒険者が居るのは不自然ではない


そして冒険者ギルドの長であるアーノンは王都にいる総ギルド長に手紙を出していた・・・確か内容は組合復活の嘆願書・・・組合がある時とない時の冒険者の行方不明率までグラフにしていたな・・・つまり裏を返せば組合を無くすよう命令した国に対して恨みを持っているようにも受け取れる


組合をなくした事により冒険者が被害にあってきた事実・・・そしてそれを無視してきたメスガキ・・・本当は私が手紙を横取りしたのだがそんなものは後でどうとでもなる


つまりだ・・・ギルド長アーノンが一向に組合を復活させてくれない事を恨み冒険者をけしかけた・・・私とレーストは応戦するも冒険者はメスガキとメスガキ2・・・そしてディーンを殺害してしまう。その後、私達はその冒険者を始末しアーノンを計画を立てた者として捕らえれば・・・


アーノンはロウニール・ローグ・ハーベスが来る前に自殺を装い始末すればいい


動機もあるしこの屋敷に現在居る冒険者はAランク冒険者にAランク冒険者と共に最下層を目指す者達だ・・・ディーンが遅れを取ってもおかしくはないはず


ダストンくんには色々と迷惑をかけられたからな・・・最期に私の役に立って死ぬ事で帳消しにしてやろう



私が悩んでいる間に話はくだらない話から今後のフーリシア王国についてに変わっていた


これまでのくだらない話に比べ幾分興味があったので耳を傾けているとやはり私の決断は間違いではないと知る


ガキらしい理想論・・・平和になった世界で如何にこの国に住む者達を幸せにするか、だって?


笑わせる・・・幸せは不幸な奴がいて初めて感じられるものだ。全員が幸せになればそれは幸せと呼べやしない・・・普通になるのだ


それなのに地位もない名誉もない才能もない金もない・・・そんな奴らを幸せにする為の政策だって?馬鹿げているし意味が分からない


「クリナス卿はどう思う?」


「私は・・・そうですね・・・理想的ではあると思います」


「ほう?否定的か」


「否定と言うか・・・難しいと感じております。現実味がない・・・あくまでも理想でしかない、と」


全否定したいところだが気を悪くして帰られては困るからな。もう腹は括ったがどうにもタイミングが掴めない・・・何かキッカケがあれば・・・


「理想を現実にするのが我々の役目ではないか?出来ぬと言い目指さぬ事など誰でも出来る」


「出来る事を確実にするのも役目ではないでしょうか?人によって幸せの価値観は違います。お金を多く持ちたい、好きな物を好きなだけ食べたい、女性を侍ら・・・仲良くしたい等々個人差があるかと」


「ふむ・・・確かにそうだな。だが妾の言う幸せとは突出したものではない・・・些細な幸せ・・・とでも言うのだろうか・・・とにかく不幸ではない普通の幸せで良いのだ」


「それでしたら現状維持で宜しいのでは?少なくとも我が領民は不幸ではないと思いますが」


何が些細な幸せだ。そんなものは自分で掴むものであって他人から・・・ましてや国から与えられるものではない


「そうか・・・お主はどうなのだ?えっと・・・そう言えば名前を聞いていなかったな」


「冒険者Aです」


「・・・そ、そうか・・・では冒険者Aよ。お主はどう思う?国はどう進むべきか・・・幸せを追求するべきかクリナス卿の言うようにこのまま現状を保つか」


「そうですね・・・私は・・・」


何が『冒険者A』だ・・・にしてもコヤツこんな声だったか?・・・まあいい。何を言い出すか分からぬが下手な事を言えばそれをキッカケにして・・・


「貴族が要らないと思います」


「・・・は?」


コヤツ今なんと言った?・・・貴族が要らない?国の方針を話し合っている中で・・・貴族が要らないだと?国の中心である貴族が?


「ほう・・・面白いのう。それはなぜだ?」


「逆に聞きたいのですが貴族の役割とは何でしょうか?街の人からお金を集め国に届けているだけですか?」


「き、貴様っ!」


「クリナス卿・・・貴族のお主が答えよ。貴族とは何か・・・その必要性も含めてな」


くっ・・・なぜ私が平民などに貴族を説かなければならないのだ!・・・くそっ!


「仕方ない・・・物を知らぬお前に教えてやろう。貴族とは国に貢献した者が与えられる地位だ。役割は多岐に渡るが地方にいる貴族は指導者であられる国王陛下の代弁者として民を導く為にいる。この広い王国に直接陛下の言葉を届かす事は難しいからだ」


「つまり貴族の言葉は陛下の言葉・・・という事ですか?」


「そうだ!貴様はその貴族を要らないと言ったのだぞ?それは国に対する侮辱にも値する・・・なぜ貴族は要らないと言った?返答次第では只では済まさぬぞ!」


まさかそんな事を言うとは思わなかったがこれはこれでいいキッカケだ。ここで冒険者の男が下手な事を言えば私はレーストにこの男を殺せと命じる事が出来る・・・おそらくディーンはそれを止めようとするだろう・・・そこでレーストがディーンを・・・


「なるほど・・・という事はクリナス侯爵様の言葉は女王陛下の言葉であると・・・では先程の言葉・・・『冒険者なんぞ死なせようとどうとでもなる』と言ったのは女王陛下の言葉である、と?」


こっ・・・


「・・・お主そんな事を言ったのか?」


「ま、まさか!そのような事は一言も・・・そうか分かったぞ・・・貴様私を陥れようと・・・レースト!」


「はっ!」


よし!多少流れは強引だがキッカケにはなったはず


メスガキ達の目には余計な事を言う平民を口封じする為に殺そうとしていると映るかもしれない・・・けどそんなのはどうだっていい!私の目標はあくまで・・・ディーン!貴様だ!


「ぬぅ何やらおかしな事に・・・ディーン、あやつを止めよ!・・・ディーン?」


なっ・・・ディーンが動かない!?話が違う・・・ディーンはこういうのを見逃さない奴だと思っていたのに・・・


私の命令で腰の剣に手を掛けていたレーストは痺れを切らしフワリと飛び上がり円卓の上に立つ


そして剣を抜き冒険者の男の首に当てた


「ディーン!」


「・・・私は陛下の護衛です。この場から離れ陛下を危険に晒す事など出来ません」


くっ・・・意外と冷静だ。ディーンなら見ず知らずの男とはいえ助けに入ると思ったのだが・・・いやもしかしたら私の企みに気付いて?・・・それかレーストを恐れているのやも・・・


「・・・ディーンよいいのか?私は侯爵様への不敬罪でこの男を殺すぞ?」


「誰だか知らないが殺せるものなら殺すといい・・・私はその刃が陛下に向かない限り動かないから安心してくれ」


「・・・ならば本当にこの素っ首を落とした後でも同じセリフが言えるか試してやろう!」


レーストのヤツ冒険者など放っておけばいいものを


隣に座るメスガキ2も動く気配はない・・・このままだとレーストが男の首を刎ね、そのままレーストとディーンの対決になるか・・・マナ封じの首輪は今手元にないから持って来させねばならぬ・・・その間にメスガキ共が逃げなければいいのだが・・・


「平民の分際で侯爵様を陥れようとした罪・・・その身をもって償うがいい!死ね!」


もうこうなっては止まれない・・・ディーンさえ何とかなれば後はどうとでもなる・・・マナ封じの首輪を着けて嬲り尽くした後で私はこの国の王となるのだ!


「平民平民煩いな・・・{跪け}」


・・・へ?


円卓の上で剣を握ったまま片膝をつき頭を垂れるレースト


一体何が・・・


「・・・やっぱり・・・そうじゃないかと思ったのよね」


「誰だか知らないが気の毒に・・・まさかこの大陸で最も手を出してはいけない方に手を出そうとするとは・・・」


「え?・・・え?」


メスガキ2がため息混じりに言い、ディーンが呆れたように首を振る。この状況を理解していないのはメスガキと私だけ・・・なんだ?何が起きている!?


「どこかで会ったことあるかもしれないけど・・・俺は知らんから自己紹介しておこう」


そう言って冒険者の男は髪を掻き上げその顔を晒す


どこかで見た顔・・・どこにでもあるようなないような・・・いや・・・まさかそんな・・・


「冒険者Aことロウニール・ローグ・ハーベス・・・初めましてだこの野郎──────」

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