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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
746/856

741階 来訪

私の名はヘギオン・クリナス・エリエケ


生まれながらにして貴族


それも侯爵である


誰もが敬い、誰もが恐れ、誰もがひれ伏した


父から当代の地位を受け継いだ時などは祝いの品を持った者達が行列を作った


この街で商売を行う商人達、私の子種を欲する女共、そして同じ貴族さえも


気に入らない奴がいれば痛めつけ、気に入った女がいれば所構わず犯した



世界が私中心に回っているとさえ思えた


何もかもが私の為に存在していると思えたのだ



なのである計画を立てた



『貴族派閥の設立』



フーリシア王国は王が統べる国である


国王が頂点に立ち、私は何をしてもその場所には辿り着けない・・・だから作る事にしたのだ・・・国王に並ぶ席を


王など所詮は血筋だけで頂点にいる存在・・・貴族達をまとめ実権さえ握れば並び立つのは容易い・・・そして私なら出来る・・・本気でそう思っていた



しかしそれが間違っていた事を思い知らされる


一旦狂った歯車は噛み合う事なく虚しく空回りし目標である『貴族派閥の設立』は遠のくばかりとなった



その元凶はロウニール・ローグ・ハーベス



平民だったその男は国中に・・・いや大陸全土に響き渡る程の功績を上げ平民出のクセに私より上の公爵となった


たかが冒険者でたまたま強く生まれただけで私より上の地位に・・・そこから私の計画に狂いが生じ全ての投資がパーになった


王になると思って投資していた第一王子への献金も他の貴族達に振舞った金も全て・・・ロウニール・ローグ・ハーベスのせいで無駄になったのだ!


平民風情が、冒険者風情が王の後見人気取りでのさばっているのにも関わらず私は侯爵のまま・・・いや、その地位すら危うくなっている


スウ・ナディア・フーリシア・・・新国王となったあのメスガキが軍を縮小させて次に標的にするのは貴族であるのは明白・・・搾り取るだけ搾り取っておいて地位まで奪おうとするとは・・・


侯爵である私は安泰だが男爵や子爵などは戦々恐々・・・貴族という最強の肩書きを奪われやしないか恐れ、それどころではないと『貴族派閥の設立』の話は頓挫してしまった


メスガキもだがやはり一番のネックはロウニール・ローグ・ハーベス!・・・奴がいなければどうとでもなるのだが・・・


てっきりメスガキと結婚しその地位を磐石にすると思いきや冒険者なんぞと結婚したと聞く・・・だがまだ分からない・・・メスガキが成長した時今の妻を捨ててメスガキを娶り王位を取りに来るかもしれない・・・平民出の元冒険者・・・そんな奴が王になるだと?・・・冗談じゃない!


それまで冒険者など歯牙にもかけなかった・・・金を貢いで来る荒くれ者くらいの認識だったが今ではすっかり憎むべき者と成り果てた


その憎しみは夜な夜な女冒険者にぶつけていたが・・・男冒険者が嬲り殺されるのを見るのも一興かもしれないな


幸いな事に行方不明者が続出しているダンジョンだ・・・ギルド職員を使ってダンジョンに入ったと偽装すればギルドの連中は疑いもせず居るはずのないダンジョンを延々と探し続けるはず


あのスミとかいう女冒険者・・・これまでの女共と違い犯しがいがありそうだったな・・・見目などあまり気にしていなかったが見目が良くスタイルも良いとは・・・何とも壊しがいがあるというもの



「閣下・・・どの程度まで痛め付けますか?」


レーストの声で現実に引き戻される


そうだ今は目の前の冒険者を・・・名前はなんと言ったか・・・まあいい・・・とにかくこの男を痛め付ける時間だったな


「なるべく苦痛を与えろ。泣き叫び『殺して下さい』と懇願するまで徹底的に、な」


「・・・加減を間違えれば殺してしまうやもしれませんが・・・」


「構わん。冒険者なんぞ死なせようとどうとでもなる・・・私はこの街の領主であり侯爵だからな」


「・・・はっ・・・では」


冒険者の前に立ったレーストが腰に差していた剣を引き抜く


さあレーストよ・・・最初にどこを斬る?腕か?足か?少しずつ刻むのがベストだがそれだと痛みで暴れ回り部屋を薄汚い血で汚しまくってしまうかもしれないな・・・そうだ!その血をスミに拭かせるか・・・雑巾などではなく口で!


女冒険者は大概最初は反抗的だからな・・・それくらいすれば死ぬまで従順になるかもしれん・・・と言っても1週間程度だが


・・・にしても男は全く動かんな・・・


恐怖で固まってしまっているのか剣を構えるレーストを前にしても一向に動かん・・・少し痛みを与えれば反応もあるとは思うのだが既に諦めていたらつまらんな・・・


「レースト!少し待て!・・・冒険者よ・・・生きたくはないのか?」


「・・・」


「返事はなしか・・・せっかく無罪放免で生かして帰してやろうかと思ったのに・・・そこに跪き・・・いや、土下座して命乞いすればレーストを侮辱した罪は帳消しにしてやろう・・・どうだ?やるか?」


男の罪は不敬罪・・・私の私兵であるレーストを疑うということは私をも疑うということ・・・そしてそれは侮辱に当たり不敬罪が成立する・・・まあ平民に対する罪なんぞこじつければどうなでもなる


「・・・」


「やはり痛みを与えねば分からぬようだな・・・レースト・・・痛みを与えろ・・・決してまだ殺すなよ」


「・・・はっ」


さあ、どうのたうち回る?


早くこの男の悲鳴が聞きたくなってきた・・・女にはない別の興奮が押し寄せて来る



しかしその時



「・・・ですので・・・ち下さ・・・」


扉の外が何やら騒がしい


せっかくの至福の時を邪魔するとは許せん!一体誰が・・・


立ち上がり扉の外の騒いでいる者達を叱責しようと一歩踏み出したその時、扉は荒々しく開け放たれた


「久しいのうクリナス卿!妾が来たぞ!──────」






くっ・・・なぜここにメスガキが・・・しかもメスガキ2と平民出の騎士まで・・・


散々私が第一王子に投資したにも関わらず横から王位を掻っ攫った第二王女スウ・・・コイツが王になるなど誰が予想出来たか・・・今思い出しても忌々しい


「おや?来客中であったか」


「ですから少々お待ち下さいと何度も・・・」


「だが苦しゅうない!続けるがいい」


どうやら騒がしかったのは執事がメスガキを必死に止めようとしていたからか・・・それにしても何が『苦しゅうない』だ・・・これだからガキは・・・


「お久しぶりで御座います女王陛下。この度は我が屋敷に御来訪頂き恐悦至極に存じます」


「堅苦しい挨拶など不要だ。邪魔しといてなんだが話を続けよ・・・妾はその為に来たのだ」


「その為と申しますと?」


「普段のアケーナを見る為に来た。つまり抜き打ち視察だ。だから妾が居ないものと思い続けよ」


抜き打ちの視察だと?まさか視察してネタでも探しに来たのか?・・・私を陥れるようなネタを


「も、もう既に話は終わってまして・・・前もって言ってくだされば宴の準備が出来ましたのに・・・」


「それだと抜き打ちになるまい・・・しかし終わっておったか・・・それは残念だ。さてどうするか・・・」


どうするかだと?用事が済んだのならサッサと帰れ!・・・・・・・・・ふむ・・・少し見ない間に成長したみたいだな・・・メスガキはメスガキのままだが少し胸の辺りが・・・


「何やら不快な視線を感じるのだが・・・」


「きゅ、急遽であまり充分なおもてなしは出来ませんが精一杯おもてなしさせていただきます!」


「あまり気にせんでいいのだが・・・ちなみにここで何をやっていたのだ?見る限りそこの者は冒険者のように見えるが・・・」


「それは・・・た、たまにこうやって市井の者に話を聞き街の状況を把握しようと・・・領主の立場からは見えないものがありますので」


危ない危ない・・・しかしレーストの奴機転が利くな・・・抜いていた剣を即座に納め足元に置いてあった金貨の入った袋を部屋の隅に蹴り飛ばしてくれたお陰でメスガキ達にはバレずに済んだ。後はこの冒険者が余計な事を言わなければ・・・


「なるほどな・・・それはなかなか面白い試みだ。妾もやってみようかのう・・・どう思う?シーリスよ」


「宜しいのではないでしょうか陛下。きっと民も喜ぶ事でしょう」


メスガキ2・・・宮廷魔術師のシーリス・・・コヤツの兄はあの平民出の成り上がりだったな・・・おそらく宮廷魔術師の座もその兄が裏で手を回したのだろう


将軍が王の剣ならば宮廷魔術師は王の頭脳とも言われている。つまりだ・・・あの成り上がりは権力も手に入れ国を裏から操る事も出来る事に・・・忌々しい・・・


「しかし陛下は国の象徴であられます・・・あまり下々の者と話されては陛下の威厳が損なわれるかと・・・そのような事は我々のような臣下がやるべきです」


メスガキが民の意見を直接聞くなど危険極まりない。下賎の輩は調子に乗るとすぐに厄介な事を言い出すからな・・・それをメスガキが鵜呑みにしてしまってはこちらが困るのだよ


「ふむ・・・あまり象徴などと言われるのは好ましくないのだが・・・」


なにが『好ましくない』だ。誰もそんな事は思ってないただのおべっかを本気にしおって・・・しかしこのままグダグダとここで話していると危険だな・・・おそらくあの冒険者は緊張のあまり喋れてないだけでいつ喋り始めるか分からん・・・ないとは思うがメスガキに変な事を吹き込む可能性もあると考えると・・・


「長旅でお疲れのようですがここではゆっくりと出来ないでしょう・・・なので別室を用意させます。そこで喉の乾きを潤わしながらこの国の未来についてお聞かせ願えたら幸いです。なにせこの国の中枢の御三方が一堂に会する事など滅多にないこと・・・各々方がどのような考えをされているのか興味深いところです」


なーんてメスガキ共の考えなどたかが知れてるだろうし興味など全くない・・・こうやって下手に出れば無下にはされまい


「どうするかのう・・・あまり長居するつもりはなかったが・・・ディーンよ、そう言えば寄ってみたい所があると申していたな。うん?どこを見ておる?」


メスガキが側に控えるディーンに振り返ると彼はメスガキでも私でもなくある場所を見つめていた


見ているのは冒険者・・・いや、その前に立っているレーストか


「いえ・・・クリナス閣下が中枢の御三方と申し上げられましたが私などがその中に数えられる程ではありません・・・ですがここには閣下が仰られる御三方が確かに揃っているようです」


?一体何を言っているんだ?


まさか3人の中にレーストが入っているとでも?・・・・・・いや、違うな・・・レーストはディーンとライバルであった・・・つまり自分と同等の人物と思っているはず・・・そして自分と同等の者を従えている私こそが中枢を担う人物であるとディーンは言っているのだ!


フッ・・・唯一の将軍となり天狗となっているかと思いきや弁えているではないか・・・後でこっそりメイドでもあてがってやるか・・・私の使い古しだがな


「ん?そうか?・・・まあいい。それで寄りたい所はどうするのだ?」


「せっかく侯爵閣下が御用意して下さると言うのです。御言葉に甘えてはいかがですか?私の寄りたい所など気にせずに・・・それと私からひとつ提案しても?」


「提案?構わんが・・・」


「この冒険者の方も同席してもらってはいかがでしょうか?」


なっ!?


「・・・どうしてだ?」


「この場に居るのも何かの巡り合わせ・・・彼が良ければですが忌憚のない意見を聞く事が出来れば陛下の気付きにも繋がるかと」


バカを申すな!この脳筋が・・・妙な事を口走ったらどうするつもりだ!・・・断れ!メスガキ・・・断れ!


「ふむ・・・確かにそうかも知れんな。ではクリナス卿よ・・・悪いが妾達の席と同じようにこの者の席も用意してくれるか?妾と貴族であるお主と冒険者・・・なかなか良い話が出来そうだ──────」

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