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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
745/856

740階 ヘギオン・クリナス・エリエケ

ハアァァァ・・・どっと疲れた!


何とか151階まで到達しそこから回れ右して来た道を戻る・・・ゲートを使えないのがこんなにも苦労が大きいとは思わなかったよ


行きよりは魔物は少なかったがそれでも再度湧いた魔物との戦闘もあり言うほど帰り道も楽じゃなかったし・・・ヒューイはこのペースなら次は170階くらいは行けそうだなとか言ってたけど・・・先に忍び込んでゲート作っておこうかな・・・


〘マスター・・・つけられています〙


ん?・・・あ、本当だ


ヒューイ達と別れた後の帰り道・・・宿屋近くまで来ると物陰からこちらに敵意を向けている人物がいるのに気付いた


多分ダステンだろうな・・・性懲りも無く俺達を領主の屋敷に招待する気なのだろう


しかしなぜ話し掛けて来ないのだろう・・・ああ、そうか・・・前にヒューイに邪魔されたから警戒しているのかそれとも人目につきたくないから人気のない所に行くのを待っているのかも


〘マスターどうしますか?御命令頂ければ始末して来ますが・・・〙


〘いや少し興味が湧いてきた。そこまで会いたいなら会ってやろうじゃないか〙


まあ侯爵が俺達に会いたがっている理由なんてたかが知れてる。どうせ攻略隊の俺達を排除するか籠絡するかしてダンジョンの攻略を邪魔したいんだろうな


宿屋に入ってしまったら向こうもやりづらいと思いわざと手前の路地裏に入ると案の定ダステンは走って追いかけて来た


そして・・・


「また会ったな」


「あ・・・」


声を掛けられ振り向きわざとらしく驚いたフリをする


息が切れているのに頑張って平然を装っているのはAランク冒険者のプライドかな?


「俺はAランク冒険者のダステン・・・今日こそこの街の領主である侯爵様の屋敷について来てもらうぞ」


「はい分かりました」


「断っても無駄だ。もう誰も助けには・・・・・・・・・何て言った?」


「ダステンさんについて行きます。侯爵様が私をお呼びなんですよね?」


「・・・お前『達』だ」


「分かりました。それでいつでしょうか?」


「今からだよ。ダンジョン帰りで悪いがこっちも時間がないんでね」


体力的には疲れてないけど精神的に疲れたから休みたかったのだが・・・サラとアース成分が足りない


でも従わないとややこしい事になりそうだ。ダステンを倒すのはわけないけどそれで侯爵に警戒されるのもあまりよろしくない・・・大事になるよりは今素直に従った方が良さそうだな


「分かりました」


「・・・今日はやけに素直だな・・・ああ、そうか・・・ヒューイが近くに居ないからか・・・まっGランクなんて所詮そんなもんだよな」


ランク差別が好きな連中が多いな


確かに強さの指標にはなるかもしれないけど・・・仕方ない・・・ヒューイ達みたいに経験してもらうとするか・・・ランクなんて所詮ギルドが付けたもので決して強さを表すものじゃないってね──────





ヒューイ達を警戒してか入り組んだ裏通りを進み領主の屋敷を目指すダステン


そのダステンについて行く事数十分・・・ようやく開けた場所に着いたと思ったら目の前に大きな屋敷が姿を現した


大きな門、その奥に広がる庭園や噴水・・・そして奥に見えるのは豪華絢爛を形にしたような造りの屋敷・・・見る分にはいいが住めと言われても居心地悪そうな印象を受けた


多分半分以上は見栄で出来てるんじゃないか?もっと機能的とか住みやすさとか考えた方が良さそうなもんだけど・・・


「ぼーっとしてないでサッサと入れ。いいか?決して侯爵様に口答えするなよ!それと侯爵様の機嫌を損ねるな・・・全て『はい』で答えろ。いいな?」


「・・・」


「おい返事は?俺は優しさで言ってやってんだぞ?機嫌を損ねたらどうなるか身をもって体験したいって言うなら止めはしないけどな」


優しさ・・・ねえ。こんな所に連れて来てよく言うよ


もう逃げられないと思ったのか強気な発言を繰り返すダステン。今から逃げてやろうかとも思ったが面倒臭いので頷きその場をやり過ごすと肩で風切る彼のあとを黙ってついて行く事にした



屋敷に入るとメイドや執事がいたのだがこちらに関心がないのか特に反応もない。いや、メイドは何故かスミを見て憐れみの視線を送っていた


意味が分からなかったが問い質す暇もなくダステンは2階へと上がりとある豪華な扉の前で立ち止まる


そして


「この先に侯爵様がいる・・・分かっているな?」


「はい。侯爵様がいるのですね」


「違う!全て答えは『はい』だ!分かったな?」


「はい」


「よし・・・入るぞ!」


ダステンは緊張した面持ちで扉をノックすると中からの返事を待ち扉を開けた


よくある謁見の間を彷彿とさせる広々とした部屋に赤い布が敷かれその先にある豪華な椅子にふんぞり返る男がいた


「待ちかねたぞダストンくん。そして冒険者達よ」


男は肘をつきニヤリと笑みを浮かべながら俺達を歓迎する。侯爵で名前は・・・メギオン?だっけ?てか今ダステン『ダストン』と呼ばれなかったか?俺の聞き間違い?


「聞くところによるとGランク冒険者でありながらAランク冒険者の2人とダンジョンの攻略を進めているとか・・・Gランクと言えば一番下のランクなのだろう?素晴らしい・・・正に期待のルーキーといったところか」


「はい」


「・・・随分と自信があるようだな。謙遜も時には必要だぞ?・・・まあいい。そこでだ・・・君達にひとつ・・・いやふたつばかし頼みたい事があるのだが・・・聞いてくれるかな?」


「はい」


「いい心掛けだ。まあなんだ・・・この私・・・侯爵であるヘギオン・クリナス・エリエケとこの街の冒険者ギルドの長であるアーノン・コルトバで少しばかり行き違いがあってな・・・お互いこの街を愛するがあまりおかしな事になっているのだ」


「はい」


「・・・端的に言うとアーノンは最近の冒険者の不甲斐なさをダンジョンのせいにしているのだ。ダンジョンとは魔物ひしめく魔境・・・大金を掴む事が出来る反面常に死と隣り合わせと聞く・・・なのに冒険者の死がダンジョンのせいとはおかしな話であろう?」


「はい」


「そんなアーノンは最近おかしな事を企んでいるようでな・・・冒険者可愛さあまりに冒険者を死から遠ざける為にダンジョン自体を無くそうと考えている節がある。君達が行っているのが正にそのダンジョンを無くそうとする行為なのだよ」


「はい」


「・・・んん!だから私はアーノンの暴走を止めたい・・・冒険者を守る為と言いつつダンジョンを無くし冒険者達を困らせようとしている行為を止めたいのだよ。私は領主として街の民を守る義務がある。もちろん冒険者達もその中に含まれる。しかし彼は一向に私の話を聞いてくれなくてね・・・なので君達にお願いしたいのは・・・この金を持ってこの街から出て行って欲しいのだ」


「はい」


「・・・えらく素直だな・・・本当に出て行ってくれるのか?」


「はい」


「そうか・・・この金と言いつつまだ出してはおらぬし幾らかも提示していないのだが・・・それはつまり幾らでもいいと言う事か?」


「はい」


「・・・無欲は時に不信を買うぞ?幾らがいい?出来るだけ希望に沿ってやろうと思うのだが・・・」


「はイタッ!」


くそっ・・・ダステンに後頭部をおもくそ殴られた


「一体何をしているんだ?ダストンくん」


「い、いえ・・・その・・・」


侯爵に気圧されるダステン・・・自分が『はい』とだけ言えと言ったくせに人の頭を殴るなんて・・・まあいい・・・助け舟を出してやろう


「侯爵様。ダステンさんは私に侯爵様の機嫌を損ねぬよう『はい』とだけ返事しろと仰いました。私はそれを実行していたのですが侯爵様という身分の高い方とお話する緊張に耐えきれず頭が真っ白になり・・・」


「なるほど・・・それで『はい』としか言えなくなってしまったか・・・それにしては流暢に喋るではないか」


「ダステンさんの一撃で緊張もどこへやら・・・普段通り喋れるようになりました」


「くっくっ・・・面白いやつだ。本来ならふざけた返事をした罪で牢にでも入れてやるところだが今回だけは許してやろう。さて仕切り直しといくか・・・この街を去るという事には同意したと考えても良いのかな?」


「その前にお聞かせ下さい。私達が去る事が本当にこの街の為に・・・冒険者の為になるのですか?」


「なる。君達が去れば攻略は頓挫するだろう・・・この街に私に逆らってでもアーノンに協力する者など皆無・・・となればヒューイとジットといえど2人では攻略は難しい為に他から冒険者を招かざるを得ない。しかし他の街から冒険者を招集するにしても私の許可がないと無理だからな」


「侯爵様の許可が必要なのですか?」


「他から冒険者を招集するという事はその場所の冒険者が手薄になるということ・・・ダンジョンが減ったとはいえ外を魔物が闊歩する現状を考えれば冒険者・・・しかも強者の離脱は厳しいはずだ。だから私がその招集する地の領主に掛け合う必要がある。もしその冒険者が離脱する事によりその地に被害が及んでしまったらその被害に応じた補填をせねばならぬしな」


言っている事は間違っていない。けどその辺の判断は各ギルド長が出来るはずだ・・・ギルド長同士で話し合い、冒険者を派遣する・・・そこに領主である貴族が絡んで来ると面倒なだけだと思うのだが・・・


まあこれで分かったな・・・領主だからといって口出すべきではないところまで口を出すから拗れる・・・いや、わざと拗れさせているのかも・・・自分の意見に従わない奴を炙り出す為に・・・


しかも今の話は建前・・・本音はダンジョンが危険と判断されたら破壊されてしまうかもしれないし攻略隊が最深部に到達しダンジョンコアを発見してしまえば何時でも壊せる環境が整ってしまう事になる。だから調査も攻略も止めさせたいだけ・・・


「私もアーノンとは仲良くやっていきたいのだが如何せん立場の違いがあるのでな・・・君達が協力してくれれば距離も縮まると思うのだが・・・」


刺激せず下手したてに出て思い通りに事を運ぶ・・・てっきりここで俺達を消すくらいするのかと思ったが意外だったな


ふと視線をヘギオンの隣に立つ護衛の男に向けた


Aランク冒険者であるダステンよりよっぽど腕が立ちそうだ。そんな護衛がいるのだから多少強引に事を進めてもおかしくないのに・・・慎重派なのかな?


「ふむ・・・君が3人のリーダーなのかね?」


「はい」


「ではこうしよう・・・後ろの2人はダストンくんと共に控え室で待っててもらい君と私の2人で話そうじゃないか。その方が何かと喋りやすくなるかもしれないからな。ダストンくん・・・ちょっと来たまえ」


ヘギオンがダストン・・・じゃなくてダステンを近くに呼び耳打ちする。ゲートを開けば盗み聞きも出来たけど護衛の男にバレそうなのでやめといた


「・・・分かりました・・・」


ダステンはヘギオンに何かを吹き込まれるとこちらに戻って来てスミとセンを見て顎をクイッと扉の方へ向けた・・・が、2人がそんなものに反応する訳もなく1人扉に向かって歩き始めるダステン・・・途中で2人が来てない事に気付き慌てて戻って来た


「いや分かるだろ!」


「スミ、セン・・・2人共ダステンさんと共に控え室で待っていて下さい」


「はい」「はっ」


ようやく動き出した2人に面白くなさそうな顔をしたダステンが今度こそ扉に向かいそして部屋を出た


なのでだだっ広い部屋に俺とヘギオン・・・そして護衛の男だけとなり微妙な空気が流れ始める


「彼女達の名前はスミとセンか・・・そう言えば聞いてなかったな・・・君の名は?」


「ロウと申します」


「ロウ・・・そうか。ではロウよ・・・この金を持って黙ってここを去れ」


「・・・へ?」


ヘギオンは突然態度を変え護衛の男に合図を送ると男は俺の前に袋を投げつけた


「耳まで平民か・・・跪きもせず突っ立ったままとは・・・もしその目が髪で隠れておらず私を見つめていたのならその目ん玉をくり抜いてやるところだ。平民の分際で私を直視するな、とな」


・・・は?


「全くもって腹立たしい・・・Aランク冒険者とパーティーを組んだからといって自分もAランクになった気分か?まあAランクだろうとSランクだろうと私にとっては関係ないがな・・・アイツらも王族との関わりがなければすぐにでも処分してやるものを・・・」


おいおいこれがコイツの本性かよ・・・まあらしいっちゃらしいがなんで急に変わったんだ?


「まだ去らぬか・・・冒険者というものは揃いも揃ってグズばかり・・・まあ冒険者の長たる彼奴がグズなのだ・・・その下の者がグズでも仕方ないか」


・・・


「そこに5万ゴールド入っておる。それを持って1人で何処とでも行くがいい」


「・・・1人で?スミとセンは?」


「2人はどうやら使えるらしいからな・・・男の方はこのレーストの元で私の私兵として雇うとして女の方は・・・しばらく私の専属メイドとして働いてもらう。なーにその間の給金はするし飽きたら返してやる」


んにゃろ・・・


「なぜ黙って突っ立っている?文句があれば言えばいい・・・その口が閉じる前にレーストが君の首を斬り落としてしまうかもしれないがな。レーストは私が配下に加える前は第一騎士団の有望株だった男だ。『至高の騎士』ディーンと比肩される程の、な」


へぇ・・・それはそれは。自慢風の自虐か?片や王国唯一の将軍、片や侯爵ごときの私兵・・・随分と差をつけられたみたいだな


「貴様・・・目は見えていないが雰囲気で出ているぞ・・・どうやら私の実力を疑っているらしいな」


あ、出てました?


「ほう?平民の冒険者ごときがレーストを?・・・フッ・・・フハハハ!これだから平民は!これだから地を這う底辺の輩は面白い!虫唾が走る!」


どっちだよ


侯爵の割には小物感満載だな。どうせアケーナダンジョンの恩恵で貴族としていられるだけでダンジョンがなくなったら侯爵からすぐ落とされるだろうな


その無能侯爵は何やら思い付いたのかニヤリと笑った


「レーストよ。疑うと言うなら証明してやれ・・・お前のその実力を、な──────」

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