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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
744/856

739階 お断り

101階に下りた俺達はすぐにゲートで地上へと戻った


そのまま攻略すると思っていたけどヒューイ曰く『精神的に疲れた』らしい


今日はそれほど激しい戦闘をした訳ではないので休暇を設けず明日またダンジョンに潜る事になり解散となった


ヒューイとジットの2人が首を傾げながら帰って行くのを見て100階のボスであるニセヴァンパイアを倒した後のことを思い出す


「しかし驚いたな・・・ボス討伐の報酬が次の階への進行権なんてな・・・ボスを倒して次の階に行けるのは当然なのに・・・」


エモーンズダンジョンなら火を噴く剣とか全ての魔法を跳ね返す鎧とか出るレベルなのに・・・


「100階まで来れるような冒険者は自分の装備は持っているしお金も腐るほどある場合が多いからね」


「じゃあ何の為にダンジョンに?」


「決まっているだろ?彼らは冒険者・・・冒険の為だよ」


冒険・・・なるほど・・・そういう事か


「もちろん富や名声が要らないって訳じゃないと思う。けど彼らはそれ以上に冒険がしたいんだ・・・ヒリつく戦闘に一歩間違えれば死ぬかも知れない罠・・・無限に湧く魔物に見た事のないお宝・・・そして誰も踏み入れた事のない地を踏む達成感・・・人それぞれだけどみんなそういったものを求めるようになる・・・ある程度の冒険者になればね」


これが求めていた答えなのかもしれない


安全安心なダンジョン・・・そこに魅力があるかと言ったら答えはノーだろうな。金を稼ぐにはもってこいだが冒険にはならない・・・ドキドキもワクワクもしないのだから


「ハア・・・結局俺のやって来た事は裏目に出たって事か・・・冒険者の為になんて思ってたけど冒険者の求めるものは違ったと」


「それはどうかな?誰も死なないダンジョン・・・良いと思うけどね。冒険者が様々な理由でダンジョンに挑むように試行錯誤して新たなダンジョンを作ればいい・・・私が言う事ではないかもしれないけどね」


「・・・レオン・・・」


「そんな目で見なくても私は生きて償うつもりだよ・・・私達が殺してしまった人達にではなくこれから困難が待ち受けている人達にだけどね。それで許しを得ようとは思っていない・・・罪を背負って尚進むだけ・・・かなり重たいけどまだ前に進める」


「今度は道を間違えないといいな・・・レオン」


「道無き道を行くつもりはない・・・が、行き着く先は未知だけどね」


「・・・笑うとこか?」


「流すとこだよ。じゃあ私はこれで・・・明日は君達も食料を持って来るといい。私は荷物持ちとしてパーティーに呼ばれた。つまり君達も私に荷物を預ける事が出来る」


「分かった。空の大きいリュックを持って来るよ。リュックの中でゲートを開けるくらいの大きいリュックをね」


「お気遣いどうも」


「これ以上重くなって動けなくなったら困るだろ?」


「・・・そうだね」


レオンはフッとキザに笑うと背を向けて行ってしまった


レオン・・・今はセシスの姿って事忘れてないか?少年の姿でかっこつけてるとバカみたいだぞ?


〘マスター!人間が近付いて来ます!〙


あん?


レオンが去ったと入れ替わりで誰かが俺達に近付いてくる


偶然通りがかった訳ではなく明らかに俺達に向かって来ているのは確かヒューイ達と・・・


「やあ初めまして・・・かな?」


「初めましてこんにちはさようなら」


ヒューイ達とパーティーを組んでいたけどクビになった連中だ


名前は確か・・・領主の犬ダステン!


「・・・不快な何かを感じたが気のせいか?て言うか会っていきなりさようならはないだろ?」


「今から帰るところでして・・・それとも私達に何か用事でも?」


「随分と冷たいな・・・せっかくいい話を持って来たというのに」


「・・・いい話・・・ですか?」


「そうだ。Gランクの冒険者が本来なら逆立ちしても会えない相手・・・その方と良縁を結ぶチャンスをやろう」


「お断りします」


「・・・まあいきなりそう言われても警戒するわな・・・聞いて驚け・・・そのお方とはこの街の領主・・・」


「お断りします」


「・・・話を最後まで聞け!そのお方は・・・」


「お断りします」


「・・・後悔する事になるぞ?」


「お断りします」


「・・・」


「お断りします」


「何も言ってないだろうが!・・・いいだろうこうなったら力尽くで・・・」


「力尽くで?どうするつもりだ?」


「決まっているだろう!力尽くでコイツらを・・・コイツらを・・・ヒューイ?」


「おうヒューイさんだ。もう一度聞かせてもらおうか・・・コイツらを・・・どうするつもりだ?」


俺が『お断りします』と言い続けているといつの間にか戻って来たヒューイが姿を現す


「い、いや違うんだ・・・その・・・」


「去れ!そしてコイツらに二度と近付くな!次に近付いたら・・・」


「わ、分かった!分かったから!・・・俺はただ・・・」


「ダステン!」


「・・・」


有無も言わさぬ迫力で威圧するヒューイ・・・それを見て一回り小さくなったダステンは連れと共に一目散に逃げて行った


「悪かったな・・・どうやら巻き込んじまったみたいだ」


ヒューイは去り行くダステン達の背中を険しい表情で見つめながら呟く


「私達を領主の所に連れて行きたかったみたいですが一体なぜ・・・」


「分からねえが良くねえ事ってのは分かってる。腹いせかそれとも・・・まあ気にするな。もしまた近付いたら俺っちを呼べ」


「はい・・・ところでヒューイさんはなぜ戻って?」


「ん?ああ言い忘れた事があってな」


「言い忘れた事?」


「明日は食料と水を忘れるな・・・それだけだ」


「・・・はい」


面倒見がいいと言うかお人好しと言うか・・・組合長をやっていた時もさぞかし苦労したのだろうな・・・ヒューイ──────





「ダストンくん・・・君は何度私を失望させれば気が済むのだ?」


アケーナ領主屋敷にて椅子に腰かけ足を組んで目の前の男を見下ろしているのはこの屋敷の主人である侯爵ヘギオン・クリナス・エリエケ


そのヘギオンに見下ろされ萎縮しているのは先程ロウニールを屋敷に連れて来ようとしてヒューイに阻まれたAランク冒険者ダステン


「も、申し訳ありません・・・ヒューイに邪魔をされて・・・明日・・・明日には必ず!」


「明日?ダンジョンの中まで追い掛けるつもりか?ダストンくん」


「え?いや・・・またダンジョンから出たところを・・・今度はヒューイの動きに注意さえすれば・・・」


「ダストンくん・・・君はよく調べもせず私に『明日』と約束をする・・・意気込みは買うがそれは私を侮っているのと同じだとなぜ気付かない?」


「け、決してそのような事は・・・」


「では約束を守れなければ死んでくれるか?」


「え?」


「それだけの覚悟があるか?奴らは明日ダンジョンから出ては来ない。数日間ダンジョンに入り続ける気らしい・・・それなのに君は私に『明日連れて来る』と約束をする・・・軽々しく侯爵である私に約束をし平気でその約束を破るのだ。これは私との約束を軽んじている以外の何ものでもないとは思わないか?・・・ダストンくん」


「あ・・・」


荷物持ちを雇わなければならない程の大荷物を持ってダンジョンに挑むのは数日ダンジョンに籠る事を意味する。今日は大荷物を持って入ったがその日の内に出て来た為にダステンは明日ダンジョンに挑んでもその日の内に出て来ると勝手に思い込んでいた


しかし今日がそうだったとしても明日はそうとは限らない


それなのにダステンはヘギオンに約束してしまったのだ・・・『明日には必ず』と


「甘く見られたものだ・・・いや私が悪かったのだろう・・・これまでの失態に対して何の罰も与えなかったから君は私を侮った・・・そうだろう?ダストンくん」


「ち、違います!その・・・」


「さてどうするべきか。レースト何かいい案はないか?」


クリナス家の護衛隊長であるレーストは話を振られ目を細めダステンを見つめる


「おそらく彼は覚悟が足りないのでしょう。ですから簡単に閣下の信頼を裏切る。なので痛みを与えるのはどうでしょうか?」


「痛みを?」


「一度信頼を裏切る毎に腕か足を切り落とす事にすれば彼は必死になり必ずや閣下の期待に応える事でしょう」


「そ、そんな・・・」


「ふむ・・・だがそれでは既に歩けなくなるか自分で食事すら出来なくなってしまうな。かと言ってこれまでの事を不問にするのもな・・・」


「では今後はその罰を与えるとして今までの分は別の罰を与えるのはどうでしょうか?」


「そうだな・・・それがいい。片腕もしくは片足になれば冒険者を続けるのも厳しかろう・・・次失敗すれば冒険者は引退せねばならぬな。して今までの分だが・・・まだ冒険者・・・その身分を活かすいい案が浮かんだぞ」


「・・・」


「そう恐れるな。今の君ならさほど難しくはないだろう・・・女冒険者を何人か連れて来い」


「・・・え?」


「召使いの女共はすぐに壊れて面白くない・・・が、鍛えている女冒険者ならさぞかし壊しがいがあるだろうな・・・ああそうそう見目など気にしなくていいぞ?どうせすぐに見た目などどうでもよくなる・・・あまりにも醜いのは論外だがな」


「・・・ど、どうやって・・・」


「そんなもの自分で考えろ・・・と言いたいところだが今回だけ助言してやろう。なーに簡単な事だ・・・その女冒険者には行方不明者になってもらえばいい──────」







次の日の朝、予定通りダンジョンへ


101階からの攻略で『千里眼』ヒューイの指示の元、最短でひたすら突き進む


無駄な戦闘を避け、トラップを躱しつつただひたすら下の階を目指した


全てを見通す『千里眼』を持つヒューイはスカウトとしての能力はサラより上と認めざるを得ないな。戦闘能力はサラの方が上だけどね


10階単位のボス部屋もなく、入り組んだ迷路のような階やトラップだらけの階を通過し欠伸が出るのを必死に堪えているとようやくヒューイは立ち止まり階段を下りたすぐ近くを休憩場所に選んだ


「まあ座れ・・・階段近くは魔物はやって来ねえよ。Gランクでもそれくらいは知ってんだろ?」


お前より詳しいよ


魔物が自由に階を移動出来てしまったらダンジョンの難易度は跳ね上がる・・・一応計算して上から順に強くなるよう設定しているからな。1階に9階にいるような魔物が潜んでいたら初心者パーティーなんて全滅しまくるだろう


なので魔物を創る時に『与えられた階を人間から守れ』みたいな命令を予め下しておく。すると魔物はその階を守護するような動きを取る・・・まあダンジョンブレイクしたらその限りではないけどな


とまあ特例はさておき与えられた階を守ろうとする魔物は自然と上に上がる階段には近付かなくなる。本能的にこの先に行ったらマズいと感じているのかもしれないな


「しっかし随分と落ち着いてやがる・・・ヴァンパイア戦といい今といい・・・お前ら本当に何者なんだ?」


「答えましょうか?」


「けっ・・・どうせまた『Gランク冒険者です』とかぬかしやがるんだろ?・・・それを定番のギャグにしてるって言うなら正直に言ってやる・・・笑えねえぞ?」


「ギャグではなく事実を言っているだけです。それより今回はどこまで?」


「行ける所まで・・・と言いたいところだが『151階』だ」


「151階・・・もしかして毎回1階ずつ増やしていくという事ですか?」


「いんや、慣れてくればペースも上がるだろうからもっと下りる事になるだろう。先ずは手始めに151階を目指すだけだ。ちなみに何日分の食料と水を持って来た?」


何日分?何日分でも大丈夫なんだけど・・・ゲートで取って来るだけだし


けどヒューイ達にはゲートの事は告げてない。だから真面目に答えると・・・


「3日分・・・くらいです」


「いい線いってるじゃねえか。俺達も3日分だ。じゃあ質問だ・・・あとどれくらい潜れる?」


ん?食料は3日分だから半日経ってるとしてあと2日と半日が正解?・・・いや・・・


「あと・・・1日」


「正解だ。ゲートがあるか分からないから食料が半分になった時点で引き返す。同じ量を持ち込んでペースを上げるか持ち込む量を増やしてもっと長い時間潜るかは・・・今日の出来次第だな」


帰りはゲートがあれば一瞬で帰れるけど未だに101階以降のゲートは発見されていないらしい。だから帰り道の分も取っておかないとならない・・・結構厳しいな・・・アケーナダンジョン・・・


「さて休憩は終わりだ・・・今回は151階が目標だ・・・あと1日で着いたら時間が余ってようが今回は帰る・・・到達出来なくても、な。ガッカリさせてくれるなよ?Gランク冒険者共──────」

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