738階 VSニセヴァンパイア
ヴァンパイア?・・・いやいやダンジョンのボスが魔族って・・・しかもよりによってヴァンパイアだと?
ヴァンパイアは今俺の命令でサタン大陸にいる。だからここのボスをやってる暇なんて・・・もしかして誰かが入って来たらここに戻って来るとか?・・・ないな。んな事をヴァンパイアがするとは思えん。それにヒューイの言い方だと何度か100階のボスを倒している感じだった。そうならヒューイ達はとっくにSランクになっているはずだしヴァンパイアは生きてはいないはずだ
そもそもヒューイ達じゃヴァンパイアには勝てない。となると・・・100階のボスのヴァンパイアって何者なんだ??
「まあ驚くのも無理はない。安心しろ・・・本物のヴァンパイアじゃねえよ。もしそうだとしたらお前らなんか手も足も出ねえで殺られちまう」
配下ですが?
「そうなるとこの先にいるヴァンパイアとは?」
「ヴァンパイアの真似をしている魔物だな・・・正体は不明だが魔物の中にはそういう魔物がいるらしい・・・同じ魔物だったり人間の真似をする魔物がな」
目の前にいますけど・・・そういう魔物
つまりシャドウがヴァンパイアに扮してボスをやってる?・・・いや無理だ。んな事したらヴァンパイアはキレるだろうしダンジョンコア・・・サキュバスがそんな事をするはずない。だったら誰なんだ?ヴァンパイアと名乗っている・・・もしくはフリをしているのは
「あの・・・どういった行動をしてくるんですか?」
「ん?ヴァンパイアを知らねえのか?ヴァンパイアって言ったらあれよ・・・人間を操る能力・・・『魔眼』。目を合わせちまったら最後・・・仲間同士での殺し合いの始まりよ。それと血を使った攻撃が得意だな。自らの血を飛ばしたり剣にしたり・・・聞いた事あんだろ?」
その特徴を聞くとまんまヴァンパイアだな。マジでシャドウにヴァンパイアをやらせてるのか?一体何を考えてんだここのコアは・・・そういや行方不明だっけ?ここのコアも
「まっ安心しな。目さえ合わさなきゃそれほど強くはねえ。近距離も中距離もこなす万能型の魔物と思えば攻略法も見つかるさ。よく考えろ・・・これが最終試験だ」
「・・・分かりました。では3人で対策を考えて来ます」
「おお・・・1時間でも2時間でも好きなだけ時間をかけな・・・内容次第じゃここから歩いて91階まで行かせるからな」
「はい」
と言ってもこれといって特段対策など必要ないのだけど・・・
俺達3人は少しだけヒューイ達と離れ対策を練っているフリをする。自分の配下の・・・更に真似した奴に対策が必要なのか甚だ疑問だが・・・
「マスター・・・シャドウでしょうか?」
「だろうな。それ以外で考えられん・・・が、シャドウがヴァンパイアをコピーしたとしてそれをボスとして置き続けるのは可能なのか?」
「無理です。魔物は倒されれば別の個体となる為にまた新たにヴァンパイア様をコピーしなければなりませんので」
「だよな・・・けど話ぶりからすると何度か倒しているようだ・・・となるとシャドウじゃない事になる・・・もしくはヴァンパイアがわざわざコピーさせてる?」
「それはないかと。少なくともマスターの命令がない限りはそのような事をするはずがありません」
「じゃあこの奥にいるヴァンパイアはなんだ?」
「・・・分かりません。しかしなぜこの情報が外に出回らなかったのでしょうか?」
「ん?外にって?」
「偽物かコピーとはいえヴァンパイア様がいると知ればダンジョンはもっと盛況になるのでは?私ならば広く喧伝し集客しようと考えますが・・・」
言われてみればそうだな。本物ではないとしてもヴァンパイアと戦える機会なんてそうそうない・・・冒険者なら一度は戦ってみたいと思うだろう。なのになぜ・・・ふむ・・・その辺は聞いた方が早いかもしれないな
てなわけで作戦の話などほとんどせずヴァンパイアの話題に終始した話し合いは終わりいざ審判の時
「えらく早いな。聞いてなかったか?内容次第じゃ・・・」
「聞いてましたよ。その上で話し合いは終わったので来ました」
「そうか・・・なら聞かせてみろ」
作戦なんてものはぶっちゃけない。どうせ何しようが俺達が勝つ・・・だからヴァンパイアの対策ではなくヒューイ達が望んだ答えを答えるだけ
「先頭はジットさんにお願いします。出来れば中距離、近距離の攻撃を防いでもらいたいのですが優先的に防ぐのは近距離・・・中距離は最悪伏せがなくても構いません」
「ほう?」
「ジットさんと共に先頭に立つのはセン。彼にはジットさんが近距離攻撃を防いだ隙をつきヴァンパイアに攻撃してもらいます」
「・・・はっ、い」
「中間にはヒューイさんに居てもらいなるべく相手の攻撃を引き付けてもらい遠距離からスミが魔法で攻撃・・・私は更にその後ろで待機しておきます」
「・・・相手は物置じゃねえぞ?ジットとセンを躱してお前ら2人に突っ込んで来たらどうする?」
「私達も物置ではないので動きます。陣形は一直線・・・私達を狙おうとするならばどうしても膨らまなければなりません。ヴァンパイアのスピードは分かりませんが膨らんで遠回りして来るのであれば直線的な動きで躱せば平気かと・・・もちろんヒューイさんに足止め的な投擲はお願いしますが・・・」
「ふーん・・・じゃあ俺っちが狙われたら?」
「それは好都合かと」
「おい」
「ヒューイさんを狙っている隙にジットさんとセンが背後を取れます。それにスミも移動を終えた後に魔法を放つ事も出来ますし」
「・・・なるほど・・・まあいい、それで行こうか」
どうやら91階まで上らなくて済みそうだな
作戦自体は曖昧にしている。完全に動きを決めてしまうと何かあった時に対処が遅れるからだ
んで、決めては『2人を使う』だ
遠慮したり自分達だけで戦おうとするような作戦なら戦わずして帰れと言われていたはずだ
「とりあえず俺っちからひとつだけ忠告だ・・・『魔眼』は目が合ってもすぐに発動はしねえ・・・数秒間見つめると発動し奴の下僕になっちまう。だから目が合ったと思ったら奴の口元を見るようにしろ・・・間違っても目を逸らす為に横を向いたりするなよ!」
「隙だらけの首にガブリ・・・ですか?」
「そうだ。『魔眼』の強制力はそこまでじゃねえが噛まれたらアウト・・・ヴァンパイアの眷属になっちまう。そうなったら奴を倒しても元には戻れねえ・・・もしかしたら代わりに100階のボスになっちまうかもな」
ん?もしかして・・・
「まさかそうやって100階のボスが・・・」
「それはない。今のは冗談だよ」
「そうですか・・・けどヴァンパイアが居るなんて知りませんでした。もっと宣伝すれば冒険者が集まりそうですけど・・・」
「まあ、な。実際初めてヴァンパイアが出たって知った時はギルドは大盛り上がりだった・・・けど・・・」
「けど?」
「まあボス部屋に入ってみれば分かる・・・準備が出来たら行くぞ」
ボス部屋に入ったら分かる?どういう意味だ?
ギルドだって領主だって冒険者が集まれば賑わうし税収も上がる・・・ヴァンパイアの知名度を利用しない手はないと思うんだが・・・
準備らしい準備は必要なかった。何せ1階からここまで直行だったし
なのですぐに全員の準備は整いボス部屋の前に集まる
ジットが振り向くとヒューイに視線を合わせる。そして互いに頷くとジットは扉に手をかけ一気に押し開いた
ボス部屋は思ったより広い・・・周囲を見渡すと障害物になりそうな物はなさそうだな・・・んで奥に豪華な椅子がありそこに赤い液体の入ったグラス片手にこちらを見下ろすのは・・・ヴァンパイア?
《飽きもせずよく来た人間共・・・このヴァンパイアが相手をしてつかわそう》
え・・・ちっちゃ
しかも・・・太い?
小太りの自称ヴァンパイアは椅子からのっそりと立ち上がるとグラスを掲げ決めポーズを披露する
なんとまあ隙だらけな・・・こっから魔弾を使えば瞬殺出来そうだ
「なっ?あれがヴァンパイアが居るって宣伝出来ない理由だ。実際に見た奴は少ないだろうけど話に聞くヴァンパイアは多くの女を侍らせビシッとスーツを着こなす紳士だ。討伐対象の魔族に惚れるってのもおかしな話だが実際に想像だけでヴァンパイアに惚れて探し回っている奴もいるくらいの・・・そいつらがもしあのヴァンパイアを見たらどう思うよ?」
「ガッカリ・・・でしょうね」
「だろ?何を真似したんだか奴はヴァンパイアと言い張るが・・・大陸中のヴァンパイアファンの為にも実際に見て真似しているんじゃないって信じてるぜ俺っちは」
安心しろ・・・それは大丈夫だ
にしてもヴァンパイアファン?・・・イカれてるのかそいつらは
「来るぞ!今回は指示は・・・お前がしろロウ!俺っちは何も言わねえぞ!」
「分かりました!話した通りジットさんとセンは前に!その後ろにヒューイさん!」
「戦闘中に『さん』を付けるな!」
「おう!行けジット!セン!ヒューイ!」
「・・・いや、適応能力あり過ぎだろお前・・・」
適応って言うか普段通りと言うか・・・確かに戦闘中に気を使って遅れをとったらシャレにならないから普段通りにやらせてもらおう
まずニセヴァンパイアの実力を確かめないと・・・ヴァンパイアの劣化版であるのは間違いなさそうだがどれくらい劣化しているのか確認する必要があるな
「セン!とりあえず・・・斬れ!」
「はっ!」
俺の眷族となり強さが増したと言えどセンはヴァンパイアには遠く及ばない・・・けどニセヴァンパイアになら
センの長剣がキラリと光り斬撃がニセヴァンパイアを捉え真っ二つに・・・が、ニセヴァンパイアは血煙と共にその姿を消し離れた場所で血煙が集まるとその姿を現した
《随分な挨拶ではないか・・・人間・・・人間?》
おっとヤバい何かに勘づいたか・・・ここは考える暇を与えさせないが吉!
「スミ!」
「はい!ヴァンパイア様を騙るならその造形から何とかしなさい!ファイヤーランス!!」
スミ・・・ヴァンパイア『様』はやめろ『様』は
無数の炎が槍を形造りニセヴァンパイアに向かって行く
これで倒されるほど弱くはなさそうだが・・・少しくらいは効いたかな?・・・ん?
炎の槍が出す煙に包まれたニセヴァンパイアを見ているとヒューイが突然持ち場を離れ俺の元までそそくさとやって来るとスミを見ながらそっと耳打ちをした
「なに?もしかしてスミってヴァンパイアファンなのか?」
それを今確認してどうすんだと思いつつも適当に頷くとヒューイは神妙な面持ちで頷き返した
このやり取りが何の意味を持つか全く分からんが・・・どうやら今はそんな事を考えている場合じゃなさそうだ
《おのれ人間ごとき・・・いや人間もどきが!このヴァンパイアに傷を負わせるとは・・・万死に値する!!楽に死ねると思うなよ!》
ははっ・・・あれくらいの攻撃で傷を負った?ヴァンパイアのフリをするならもう少し勉強しとけ
「セン、スミ・・・もういい・・・その醜男を始末しろ」
「はっ」「はい!」
作戦なんて無意味と判断しセンとスミに命令を下す
するとセンとスミは素早く動きニセヴァンパイアの懐に入るとセンは長剣を振りかざしスミは超近距離で魔法を放つ準備をする
《バカめ!このヴァンパイア・・・貴様らごときに・・・》
「{動くな}」
《・・・なっ!?体が・・・やめ・・・やめろぉぉぉ!!》
「はい終わり」
センの剣がニセヴァンパイアを再び真っ二つにすると煙化する前にスミがその体を焼き尽くす
しばらくニセヴァンパイアの断末魔が木霊するとその不快な声もやがて消えてなくなりボス部屋の奥の扉が自然に開いた
「これで次からはゲートで101階まで来れますね」
「・・・お前ら一体・・・何者なんだ?」
「言ってませんでしたか?実は・・・」
「実は?」
「Gランク冒険者です──────」




