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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
741/856

736階 ダストンくんとヘギオンさん

《・・・ウ・・・スウ・・・スウ!》


「なんっ!?・・・なんだロウニールか・・・」


夢現の中呼び声に反応し目を覚ますとスウは光る石に手を伸ばしマナを注いだ


「何の用だこんな夜更けに」


《急いでお願いしたい事があってな・・・寝てたのか?》


「見れば・・・と、見えぬか・・・見えずとも察せい。まあいい・・・妾に願い事?(めかけ)にでもなれと?」


《アホかどこの世界に国王を(めかけ)にする奴がいるんだよ・・・今アケーナに来ているんだけどちょっと問題が起きてな・・・それについてのお願いだ》


「なに?アケーナ?」


《ああ・・・ちょっとややこしい問題でな──────》




ロウニールとの会話を終えスウは普段より低い天井を見上げ深くため息をついた


「なに黄昏てるの?」


「膿は取り除くべき・・・そう思ってはいたが実際に耳にするとあまり面白いものではないと思うてな」


スウは向かい側に座るシーリスに答えると再びため息をつく


「良かったじゃない。バカ兄貴に丸投げ出来て」


「それはそうだが・・・いや、やはり丸投げはダメだ」


そう言ってスウは手を伸ばし小窓を開けた


「ディーンはおるか?」


「ここに」


「予定変更だ。エモーンズへはアケーナを通って行くようにせよ」


「・・・その進路ですと遠回りになりますが・・・」


「構わぬ。表向きは各街の視察だからな・・・視察を兼ねてロウニールとサラの子を見に行く・・・こうして大手を振って行動出来るのはその為だからな」


スウとシーリスは馬車に乗っていた


そしてその馬車を囲むようにして進むのはディーン率いる一個小隊の100名・・・しかもディーンが自ら選んだ精鋭の100名であった


「畏まりました・・・仰せのままに」


ディーンは頭を下げると先頭へと馬を走らせた


ディーンが先頭に命令を伝えに行くとスウはそれを見送り椅子に座る


「何しに行くの?」


「決まっている・・・クリナス侯爵はギルドに喧嘩を売った・・・それはつまりギルドを管轄している国に喧嘩を売ってるも同然・・・売られた喧嘩は買わねばならぬだろう?」


「そりゃまた大事(おおごと)ね」


「・・・いやに他人事だのう宮廷魔術師よ」


「他人事と言うか・・・今までの規模に比べたら、ねぇ・・・」


「・・・まあな。魔王から始まり『タートル』による首都襲撃にアバドンなどと比べたら一貴族の反乱など子供の癇癪程度の規模にしか思えんな。しかもその全てを解決してきたお主の兄が絡んでいるとあれば尚更だな」


「そう考えると全部バカ兄貴が起こしたんじゃないかって思っちゃうわね」


「もし自作自演なら大したものだ・・・それで公爵の地位まで手に入れているのだからな。しかし彼が望めば公爵どころか王の座・・・いや、大陸全てを統べる事も可能だろう・・・そのような必要があるか甚だ疑問だな」


「冗談に決まっているでしょ?・・・でも大陸の支配者の妹か・・・悪くないかも」


「やめろ。冗談でもそんな事を言って彼がその気になったらどうするのだ」


「その時は・・・諦めるのね」


「・・・ふぅ・・・そうならぬ事を祈る他ないか・・・腫れ物扱いする訳ではないが味方であればこの上なく心強いが敵となれば厄介極まりない」


「じゃあ簡単じゃない」


「ん?何がだ?」


「バカ兄貴と敵対さえしなければ安泰って事でしょ?」


「・・・そうだな。その通りだ・・・どこかの間抜けがロウニール・ローグ・ハーベスを怒らせない限りはこの国は安泰だ・・・怒らせなければ、な──────」





エモーンズの街の冒険者ギルド長室


その部屋に置いてある通信石が光り輝く


「・・・なんだよ」


《『なんだよ』だと?私がわざわざお前に連絡する理由など現時点でひとつしかないのは分かっているだろ?フリップ》


「・・・何かやらかしたのか?」


《そうだな・・・やらかしたと言えばやらかしているな。お前の送り込んだ冒険者が今誰とパーティーを組んでいると思う?》


「送り込んだ訳じゃねえ勝手に・・・ん?パーティー?」


《そうだ。聞いて驚け・・・彼らはヒューイとジットと共にダンジョンに挑もうとしている》


「へぇ・・・ヒューイとジット・・・なに!?ヒューイとジットだと!?」


《そうだ・・・『千里眼』と『要塞』・・・まだSランクになっていないだけの冒険者・・・Aランク最強と名高い2人と冒険者になりたてのGランク冒険者がパーティーを組んだのだ。決して鍛える為ではない・・・歴としたパーティーメンバーとしてアケーナダンジョンに挑むのだ。ここまで言えば何が言いたいか分かるな?》


「・・・『ありがとう』か?」


《ふざけるな!・・・いや感謝はしている・・・だが得体が知れなさ過ぎる・・・何者なんだ?彼らは》


「Gランク冒険者」


《フリップ!》


「そう何度も怒鳴るな。悪いな・・・俺の出せる情報はそこまでだ」


《情報も何も全く・・・》


「察しろ。あと俺からの忠告だ・・・決して怒らせるな」


《Gランク冒険者を?》


「Gランク冒険者を、だ。そうすりゃきっと上手くいく・・・はずだ」


《・・・要領を得ないが・・・肝に銘じておこう・・・敵を増やすつもりはないからな》


「敵を増やすつもりはない?敵がいるのか?」


《・・・敵ぐらいいるだろ?私にとっては男全てが恋敵さ》


「意味が分からん・・・うん?もしかして意中の相手でもいるのか?しかも超モテモテの」


《意中の相手ならいるさ・・・ずっと昔からな》


「・・・アーノン・・・」


《さ、粘っても聞けそうにないからもう切るぞ・・・アケーナギルドの朝は早いのでな》


「いずれゆっくり寝れるようにしてやるよ」


《・・・期待している・・・じゃあな》


「ああ・・・またな」


通信が切れるとフリップは椅子に背中を預け天井を見上げ更に仰け反るようにして壁を見た


そこには冒険者時代に使っていた戦斧が手入れされた状態で壁にかけられていた


「・・・の野郎・・・・・・・・・誰かいるか!」


「はい」


フリップが叫んだ瞬間にドアが開きペギーが姿を現す。まるでずっと外で待機していたかのような速さに驚きフリップはペギーをジッと見つめると彼女は慌てて手を振って否定の仕草をしだした


「ち、違います・・・退勤のご報告をと上がって来たタイミングで呼ばれたので・・・決して盗み聞きしてなどいません!」


「・・・そうか、まあいい。しばらく休むから代理を・・・」


「アケーナに行くのですか?」


「・・・お前がやれペギー」


「へ?」


「盗み聞きした罰だ・・・もちろん受付をしながら、な」


「・・・た、たまたま聞こえただけで決して・・・」


「これは決定だ。それと明日の朝、馬車を用意しといてくれ」


「・・・はい・・・」


意図せぬとはいえ盗み聞きしてしまった負い目のあるペギーはフリップの指示に素直に従う


「アケーナか・・・何年ぶりだろうか・・・もう二度と行くまいと思っていたが・・・」


しょぼくれるペギーをよそにフリップはニヤリと笑い立ち上がると壁にかけてあった戦斧を握ると肩に担ぐ


「・・・ちなみに・・・何をされに行くのですか?そんなものを持って・・・」


「ん?観光だよ観光・・・それと・・・墓参りだな──────」





アケーナ領主の屋敷


「それで?Gランクごときが君の代わりにヒューイ達のパーティーに入った・・・その続きを聞きたいのだが?ダストンくん」


「その・・・報告は以上でして・・・」


「ダストンくん・・・貴族は他の貴族を訪ねる時は必ず手土産を準備する・・・それが礼儀だからだ。特に格上の貴族には借金してでも上等な手土産を準備して媚びへつらう・・・まさか冒険者風情が侯爵である私に会うのに雑音だけを聞かせる気ではないよな?」


豪華な椅子に座りふんぞり返るヘギオンに対して表情を表に出さないよう歯を食いしばるダステン


昼間に見た衝撃的な光景・・・Gランク冒険者が『要塞』ジットを圧倒している姿はAランク冒険者であるダステンのプライドを刺激したが今目の前にいる高圧的な人物はダステンのプライドを傷付ける


「・・・一体どうすれば・・・」


「・・・ハア・・・それを考え実行するのが君も役割だろうに・・・今は時間がない・・・GランクとAランクの組み合わせで最深部まで行けるとは思わないが万が一もある・・・致し方ない助言してやろう」


「・・・あ、ありがとうございます!」


「その前にひとつ・・・なぜどうすればよいか分からぬと思う?」


「え?それは・・・」


「自分の手に余るからよ・・・つまり実力不足・・・自分ではどうにもならないから何も浮かばないのだ。ならばそのような時どうするか・・・その人物の真価が問われる。逃げるもよし無謀にも挑戦するもよし・・・人の手を借りるもよし」


「あ・・・」


「そうだ。自分の手に余るものなら他人の力を利用すればいい・・・それが出来るか出来ないかは自分の価値によって決まる・・・君の価値が高ければ自然と誰かが手を貸してくれたりもするが・・・まあ他人の力を借りるという選択肢がなかった時点で君の価値はお察しだがね・・・ダストンくん」


「・・・」


「おっと虐めるつもりはなかったのだが・・・そんな目をするなよダストンくん」


肘を付きながらダステンを見下ろすヘギオンは笑っていた


まるで逆らうなら逆らえばいいとでも言わんばかりに


「も、申し訳ありません!そんなつもりでは・・・」


慌ててダステンが視線を逸らす姿を見てヘギオンは更に笑みを深める


「私はねえダストンくん・・・味方には寛大であろうと常日頃思っているのだよ・・・だから味方である君に手を差し伸べるのは当然・・・ここまで言えば分かるだろう?」


「・・・侯爵様が力を貸して・・・」


「その通りだよダストンくん。使われるのは癪だが私とダストンくんの仲だ・・・ここは我慢して使われるとしよう。ここに彼らを・・・そのGランク冒険者を連れて来るんだ。私が見せてやろう・・・腕力ではない力・・・権力を使うとはどういったものかを、な──────」

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