71階 魔道具技師
ふう・・・良い汗をかいた後の湯浴みは格別だな
それにしてもロウニール・・・あれでよく騎士を2人も倒せたものだ・・・戦い方が全くなってない
まあ聞く限り最初の1人は不意打ちに近い感じだったみたいだから実質は1人か・・・それでもよく・・・
・・・そう言えばここのところ毎日湯浴みに来ているな・・・以前は濡れた布で体を拭くだけだったがこのエモーンズの湯という施設をマホに教えてもらってからはほぼ毎日・・・決して安いものではないのに・・・
「武器・・・か・・・」
本当にこの脂肪の塊がマホの言う通り武器になるのだろうか・・・確かに男の視線を感じる事は多々あるが・・・凝視する者はそういないが今日のロウニールのようにチラチラと見る者が多い。なぜ見ているのかと思っていたが・・・そういう事なのか?
だがローグの視線は感じた事がないような・・・仮面のせい?いや、仮面をしていてもある程度は視線を感じる事が出来るしやはり興味がないのだろうか
人によって趣味趣向は違うだろうしローグは小さい方が好むとなると・・・ハア・・・
光らない通信道具を眺めため息をつく
肌身離さず持っているが一向に光る気配がない・・・こちらから連絡も出来るが緊急時でないと怒られそうだ・・・最悪通信道具を取り上げられるかも・・・
数日連続で会っていたせいか会わなくなった途端に胸にぽっかりと穴が空いたような気分だ。ローグはどう思っているのだろう・・・寂しくはないのだろうか・・・ないのだろうな
・・・マナを流してみるか?
気付かれなかったらそれまで・・・諦めよう・・・そうだ・・・一瞬だけ・・・・・・・・・光ったぁ!!?
ウソ・・・私まだマナを流してない・・・って事はローグから?
どうしよう・・・今裸だし・・・いや、別に姿が見える訳ではないのだからいいのよね?
でも『すぐに会いたい』とか言われたら・・・そんな訳ないか・・・って、出ないと!!
「は、はい・・・サラです」
〘・・・今大丈夫か?少し声が上ずっていたが・・・〙
「全然まったく大丈夫です!何か御用でしょうか?」
ば、ばか!そんな事聞いたらまるで用がなければ通信してはダメみたいじゃない!私のばか!
〘・・・そうだな・・・調子はどうだ?〙
「え、えっと・・・問題ありません!」
〘そうか・・・〙
「あ、ローグに伝えたい事が・・・」
〘なんだ?〙
「もう少し増えてからとも思ったのですが・・・昨日も4人ほど組合に・・・この街出身の冒険者みたいです。それで人数も増えて来たのでそろそろギルド職員では手が回らなくなってきたのでお金と人の管理が出来る人材を雇いたいのですが・・・」
〘構わない。その者に私に当てる予定だった金額を渡せば引き受けてくれる者もいるだろう〙
「いえ、ローグは受け取るべきです。他にも収入源はあるので十分な費用はお支払い出来るかと・・・ただ問題が・・・」
あー、こんな事務的な話をしたい訳じゃないのに・・・でもいずれ話しておかないとと思っていたからつい・・・
〘問題?〙
「はい・・・私はまだこの街に来て日が浅いので信頼出来る人物を知りません。お金を管理してもらう予定なので信頼出来る人物でないと着服されかねませんし・・・ただある程度の能力も必要なので信頼出来て能力もある人物だとなかなか・・・」
一番いいのは商人・・・お金の管理は得意だし向いていると思う・・・けど信頼出来ると言ったらそうでもない。個人的な付き合いがあればいいけど特にないし・・・
〘・・・そうだな・・・この街の出身者に聞いて見るのはどうだ?〙
「あっ!・・・そうですね・・・長年住んでいた人なら信頼出来て能力のある人を知ってるかも・・・」
そうだ・・・何も私が信頼出来る人を探す必要はないわよね・・・私が信頼出来る人が信頼出来る人・・・そういう人を紹介してもらえばいいんだわ。さすがローグ!
〘それで・・・〙
「ええ。その方向で探してみたいと思います」
〘いや・・・〙
「あと、私・・・弟子をとりました。まだマナが使えるようになって間もない者ですが光るものはあると思います。なんと言ってもダブル・・・しかも私と同じスカウトと近接アタッカーの適性持ち・・・いえ、私はスカウトが適性で近接アタッカーは若干適性に近いって程度なので同時に使えるようになった彼の方が将来的には・・・あっ、彼と言っても歳は離れていますし全然恋愛対象とかではないので!でも歳が離れていると言っても私がかなり歳上かっていうとそうでもなくて・・・私・・・今年で20になるのですが・・・」
何言ってんだろ私・・・この流れでローグが自分の年齢を言ってくれる事を期待してる・・・口元は若かったから私の事年増とか思ってるかな?それとも同い年だったり・・・
〘そうか・・・〙
あう・・・『そうか』ってどんな反応なんだろ・・・興味無いって事かな?・・・
「そ、そう言えばさっき何か言いかけました?すみません、私がベラベラと喋ってしまって・・・」
〘・・・いや、特にない。また変わった事があれば報告してくれ〙
「はい!」
・・・ハア・・・至福
湯浴みの最中にローグとお話が出来るなんて・・・これは夢?
それにしてもローグは何の用で・・・そう言えば用事らしい用事はなかったような・・・つまり・・・私と話したかった?・・・・・・いやいや・・・そんな・・・でも第一声が『調子はどうだ?』だったよね?もしかして私を気遣って?・・・・・・あれ?なんだか体が熱い・・・これは・・・・・・
「ダーハッハッハッ!それでのぼせたッスか!?あの天下の『風鳴り』サラ・セームンが!?」
「くっ・・・黙れケン」
「もう大変だったのよ?ヒーラと久しぶりに湯浴み2行ったら店員が慌ててるからどうしたのか聞いたら客がなかなか出て来ないって・・・外から声をかけても反応ないけど無理矢理開けるのは店として禁止事項らしいから私達がこじ開けて中に入ると・・・ねえ?」
「うん・・・サラさんが倒れているのを見た時は何事かと思いました。幸い湯浴みを長時間続けるとのぼせるという知識はあったのでとりあえずマホと湯船から出して体を冷やす事が出来たのですが・・・」
「・・・なぜ俺はそこに居なかった・・・くそっ!」
もしスカットがその場に居たら・・・この世には居なくなっているだろう
情けない事にローグとの通信を終えた後に気を失ってしまったようだ・・・『のぼせる』と言われる状態でかなり危険なものらしい・・・恐るべし湯浴み
マホ達がたまたま店に来てくれてなかったらどうなってたことやら・・・お礼がてらに『ダンジョン亭』で食事でもご馳走しようと思ったらケンとスカットに出会して結局5人で食事をとることになった
「でもサラさんにしては迂闊よね・・・倒れている時大事そうに通信道具握ってたし・・・もしかして・・・」
「た、たまたまだ!たまたまローグから連絡が来て・・・」
「やっぱり」
なんだそのしたり顔は!全てを見透かされているようで恥ずかしいではないか!
「ん?マホ・・・何がやっぱりなんだ?」
「長湯でのぼせたと思ってたけど違うみたいよ・・・ねえ?サラさん」
くっ!マホ・・・ことその辺に関しては私より上手か
「ローグさんと話していたんですね・・・羨ましいです」
!?羨ましい?・・・ヒーラ・・・それはどういう意味だ??
「だな・・・あんなすげえ武器を貰ったのにまだまともにお礼も言えてねえ。使っている内に手に馴染んでいくのが分かる・・・多分これって・・・」
ああ、ただお礼を言いたかっただけか・・・いや、でも羨ましいって表現になるか?
「私達の為に作ってくれた・・・のよね」
そう・・・ケン達の武具はたまたまローグが持っていたで通じるかも知れない・・・が、私のは・・・服に鉄扇・・・偶然持っていたというのはありえない
もし彼がそうなら全て辻褄が合う
「姐さん・・・ローグさんって・・・」
「ああ、十中八九『魔道具技師』だろうな」
『魔道具技師』・・・この国に数人しかいない魔道具を作り出せる希少な能力を持つ者
魔核に含まれるマナは純粋なマナではなくその魔物の能力を持っていると言われている。下級の魔物はそこまで特殊な能力を持ってはいないが中級・・・上級ともなると必ずと言っていいほど能力持ちだ
人のように魔法を撃つ魔物から人ではどうやっても出せない能力を出す魔物もいる
そういった魔物の魔核・・・その中にあるマナを取り出し道具に封じれば『魔道具』が出来るという・・・そしてそれが出来るのが『魔道具技師』
「・・・すげぇ・・・ローグさんかっけぇ・・・」
「もしかしてダンジョンを守護してるのって魔核を確保する為?でもそれならもっと希少な魔物が出るダンジョンの方が効率いいと思うけど・・・」
「あれじゃない?ほら・・・先行投資って・・・うぁ!能力が発動しちまった!!」
「何やってるんですかスカット・・・でも、先行投資は的を得ているかも知れませんね・・・ここのダンジョンが他のダンジョンに比べて成長が早い事を早々に見抜いて・・・やっぱりローグさんは凄い方なのですね」
むう・・・同じ名称の『先行透視』を発動させたスカットは置いといて・・・ヒーラ・・・ちょっと褒め過ぎでは?いや、ローグが凄いのは確かだが・・・
「ん、んん!まあ憶測の域を出ないがまず間違いないだろう。シークス達をダンジョンに入れないようにしたのも何かしらの魔道具を使ったとか・・・」
「仮面ももしかしたら魔道具ッスかね?」
「かもしれんな。少し疑問に思った事があってな・・・一緒に街中を歩いていた時に街の者があまりローグに関心を持たなかった・・・私は慣れたが見慣れぬ者が仮面をつけた人を見たのならば少なからず関心は持つはずなのにな」
「・・・なんかえらく強調しますね・・・一緒に街中を歩いていたって」
「そうか?別に他意はないが・・・仮面や装備に何かしらの能力・・・目立たないようにする能力などが備わっていれば説明もつく」
強調したつもりはないのだが・・・強調しているように聞こえたのか?なぜだろう・・・
「とにかく一度改めてお礼を言いたいのでサラさん・・・ローグさんと会わせてもらえませんか?」
「・・・ローグも何かと忙しいからな・・・一応言ってはみるが・・・」
私でさえ自由に会えないと言うのに・・・会わせろだと?
「サラ姐さん・・・ちょっと顔が怖いッス・・・」
「す、すまん・・・少し考え事をしていた。弟子をどう鍛えるか・・・」
「弟子!?サラ姐さん弟子をとったんッスか!?誰ッスか!?その幸運な奴は!」
「あ、ああ・・・この街の出身者で・・・あっ」
「?どうしたんです?サラさん・・・」
「いや、何でもない・・・この街の出身者で門番をしているロウニールという者だ」
「門番?冒険者じゃないんッスね」
「ああ・・・ところでお前達・・・ダンジョンから戻ったらいつも何をしているのだ?」
「暇してるッス。飯までの時間があると本当やることなくて・・・どうかしたんッスか?」
「うむ・・・すまないが暇な時に手伝ってもらうかもしれん」
「それはいいッスけど・・・なあ?」
「うん。でも何を手伝うのです?」
「なーに、簡単な事だ・・・お前達と話してて悩み事が色々と解決しそうだ・・・マホとヒーラは当然としてケンとスカットにも奢ってやろう。遠慮せずたっぷりと食え」
「よっしゃー!」「ラッキー!」
弟子の件と組合の件・・・どうやら早々に解決出来そうだ──────




