733階 ギルド裏の決闘
「・・・おいジット・・・俺の耳がおかしくなったのか?今目の前のコイツが俺らに紹介するみたいな事をぬかしているように聞こえたが・・・」
「おかしくなっていないな。俺にも確かにそう聞こえた」
「そっか・・・フェリス・・・コイツのランクは?」
「・・・Gランクです・・・」
「そうかそうかなるほどなるほど・・・Gランク冒険者が攻略メンバーに頭を悩ませていた俺らに人を紹介してやる、と。・・・ははっ・・・ふざけてんのか?」
ものすごーく威圧されてます・・・はい
確かにそうだよな・・・Aランクの2人が真剣に前人未到のダンジョンを攻略しようと悩んでいる時に冒険者成り立てのGランク冒険者が人を紹介しますと言ってきたら・・・そりゃキレるわな
けど俺も大人だ・・・相手がキレたからと言ってキレたりしないぞ
サラの件は後でたっぷりとお仕置するとして今はアケーナダンジョンを優先してやる・・・大人として
「強いからと言って強い者を知っているとは限らないと同じで弱いからと言って強い者と知り合いではないとは言えないはずです」
「・・・俺らが知らない強い奴らを知っている・・・か。まあその可能性はあるわな・・・が、そいつらが俺らの求めるような人材かどうか・・・判断出来る程の腕があるとは思えねえけどな・・・Gランク」
「・・・先程はSランクの方を蔑んでいるように聞こえましたが?」
「盗み聞きしやがって・・・それがどうした?」
「ランクで決めつけるなら先程の言葉は矛盾しているかと」
「あん?」
ヒューイは俺の言っている意味が分からないようで首を傾げる。だが相棒のジットは理解出来たのか笑いを堪えながらヒューイを見た
「分からんか?ヒューイよ・・・お前さんは先程Sランク冒険者のサラ・セームンを馬鹿にするような発言を繰り返していた。だが今は目の前の男がGランク冒険者と聞いて完全に侮っている・・・片やランクに囚われず片やランクに囚われる・・・矛盾しているとは思わないか?」
「・・・どっちの味方だジット」
「どっちも何もギルドの味方だ。彼が本当に攻略の助けになる者を知っている可能性も捨て切れないだろう?それをGランクだからという偏見で切り捨てるのは勿体なくはないか?」
「・・・ハア・・・そうだな・・・雑魚でも知り合いに強者がいる可能性は確かにある・・・」
「であろう?だがもし大した事のない者を連れて来た時は・・・それなりの覚悟はしてもらわないとな」
ジットはヒューイから目を離すと俺をジロリと睨みつける
こちとら好意で言ってるのにコイツら・・・
「構いませんよ。もしお2人が納得されなかったら私は冒険者を引退しここを去ります・・・それとも命でも賭けた方がよろしいですか?」
「・・・テメェ・・・」
おっとヤバイヤバイ・・・大人になれ大人に
「と言うのは冗談です。ですがそれだけオススメ出来ると言いたかったので・・・どうですか?一度会ってもらえれば分かって頂けるかと・・・」
「・・・そこまで言うなら見てやるよ・・・その強い強いお仲間を、な」
大人に──────
ギルドの裏にある広場
ここは冒険者同士が揉めた時など決着をつける為に使われている。本来の用途はランクアップ時に本当にその実力があるかどうか試す為に使用する為だったらしい
そんな広場で対峙するのはAランク冒険者2人と最低ランクであるGランク冒険者の3人
それも指導目的ではなく力試しの為に戦うと言うのだ・・・結果は見えているが興味をそそるのだろう
誰も観戦していいと言ってないのに勝手に集まって来た冒険者達が思い思いのことを口にし非常に腹が立つ・・・やれ『茶番』だのやれ『身の程知らず』だの・・・見てからものを言えと言いたい。それと観戦するなら金を払え、と
「マ・・・ロウさ・・・ん。これは一体・・・」
「ダンジョンから帰って来て早々悪いなスミにセン・・・ちょっと2人を紹介したくてな・・・あの2人に」
「紹介・・・ですか?」
「低階層は他のダンジョンと変わらないし攻略し尽くされているようだし新たな発見は望めないだろう。中階層も同じ・・・なら更に奥・・・未開の場所にアケーナダンジョンの魅力が詰まっているかもしれない。その場所に連れて行ってくれる2人だ・・・キチンと自己紹介しとかないとな」
「・・・畏まりました。キチンと自己紹介させて頂きます」
スミはそう言って目の前の2人に視線を送る。その目はとても冷ややかでまるでゴミ虫を見るような・・・本当に理解したのか!?
スミは代理とはいえダンジョンマスターだ。そのスミにとって冒険者とはマナを稼ぐ為の道具にしか見えていないのかもしれない・・・魔物と人間という種族の違いもあるし
センは黙って頷き長剣を引き抜き構える
こちらは準備万端・・・後はどう自己紹介するかだが・・・
「おいおいまさかまともに戦う気か?別に俺達は虐めたい訳じゃねえんだ・・・ただ力量を見せてくれりゃいい」
「ではどうやって?」
「ジット」
「・・・ふぅ・・・仕方あるまい」
ヒューイが名を呼ぶとジットは両手に持った長い板を体の前でピッタリと合わせる。すると体を覆い隠す程の巨大な盾に早変わり・・・なるほど、確かに『要塞』に見えなくもない
要塞が完成するとセンは徐ろに近付き長剣を構える
「ジットを1歩でも下がらせれば認めてやるよ・・・言っとくけど要塞は簡単には動かないぜ?」
筋肉質な巨体にそれを支えるムキムキの足に足と同じくらいの太い腕・・・それらがすっぽり隠れる程の巨大な盾を前にすると確かに簡単には動きそうにない
まさに要塞・・・センはどんな攻撃をするつもりだろうか・・・あっ!
「セン・・・技は使わないように」
「・・・」
コクリと頷くとセンはマナを練り始める
センはセンジュの『蹂躙無尽』とかいう技を使う事が出来るけど下手に使えばジットを殺してしまうかもしれない
何せAランクであったセンジュの技に俺の眷族となり大量のマナを有するシャドウセンジュが合わされば上級魔物以上・・・魔族に匹敵する力を発揮出来るからな
「技は使うなだと?小癪な・・・全力でかかって来い!」
あまり乗り気でなかったジットは俺の言葉に触発され本気を出したのか盾・・・いや全体からマナを放った
小柄なジットが大柄なセンより大きく見える・・・さすが長年第一線で戦っていた冒険者・・・圧は上級・・・いや魔族並!
技を使うなって言ったのはまずかったかも・・・技を使わせるかどうか迷っている間にセンは要塞目掛けて長剣を振りかぶり・・・打った
この表現は正しいのか!?しかし斬ると言うより叩きつけるような・・・そんな感じで振り回すもんだから思わず打ったと表現してしまった
剣は当然の如く盾に阻まれその動きを止める・・・が、ギリッギリッと鈍い音が鳴り続けると次第に要塞が揺らぎ始める
そして・・・
「んぐぐぐっ・・・なんのこれしき・・・だがっ!」
センの剣が弾かれる・・・と思いきや『だが』と言ってぶっ飛んで行くジット・・・今度から彼の事を『空飛ぶ要塞』と呼んであげよう
空飛ぶ要塞は見物している冒険者達の元へと飛んで行き、あわや大惨事になるところ・・・しかしそこはさすがに冒険者、間一髪で空飛ぶ要塞を避け難を逃れる
空飛ぶ要塞はクッションという名の冒険者達が逃げた事によりそのまま壁に激突すると盾が左右に開いた
「開門・・・という事ですかね?」
「ジット!!・・・テメェ・・・」
「え?ちょ、ちょっと待って下さい!センはそっちの言う通りにやっただけなのになぜ睨まれないといけないんですか?」
ジットが飛ばされたのを見て殺気立ちセンを睨むヒューイ・・・いやいやおかしいだろ!
「うるせぇ!だったら次だ!俺っちの攻撃を受けて見やがれ!」
・・・俺っち?
「ヒューイ!・・・また以前に戻っているぞ?・・・俺は大丈夫だ・・・頑丈だけが取り柄だからな」
ゆっくりと立ち上がるジット
見る限り怪我らしい怪我はしてないように見える・・・センが手加減したのかそれとも・・・
「それで・・・合格ですかね?」
「・・・ああ、ランクに見合わないその馬鹿力だけは、な。一緒に潜るかどうかはともかくとりあえず認めてやるよ」
このっ・・・ん?
「次は私の番ですね。アナタの攻撃を受ければ良いのですか?」
スミがセンの前に立つと既に臨戦態勢に・・・しかも顔が若干怒っているような・・・
「へへっ面白ぇ・・・女を殴る趣味はねえがこうなったら・・・」
「ヒューイ・・・退け。まだ俺の番だ」
そう言うとジットはヨロヨロになりながらも元の立ち位置に戻り再び左右の鉄板を合わせて盾を作り出す。そして盾を地面に突き刺すとさっきよりも更に多くのマナを放った
「ジットお前・・・」
「Gランク冒険者にやられっ放しでは『要塞』の名が廃る・・・ランク差別をするつもりはないが事情を知らぬ者が聞けば俺は侮られ蔑まれ冒険者として終わりを迎えるだろう・・・こんなところで終わってなるものか!」
いや大袈裟な・・・俺はただ2人を紹介しようとしているだけなんだけど・・・
「その心意気しかと受け止めました・・・それでは受け止めてみなさい・・・我が主の怒りを!」
・・・スミさん?俺は怒ってないですけど?
「神に等しき我が主の拳よ!その怒りと共に我の前に具現化せよ!『怒神拳』!!」
怒ってないですけどぉぉ!!
詠唱をし想像力を高め具現化したマナで出来た巨大な拳・・・その拳が更に強固となった要塞へと放たれた
激しい激突音
「ぐっぬっ!・・・だがっぁぁ!」
ジットは数秒も耐えられずまた飛ぶ要塞となって壁に打ち付けられた
「我が主の怒りを知れ」
決めゼリフのように呟くスミ・・・だから怒ってないってば!
結局動くどころか2回連続でぶっ飛んで行きセンの時に避けていた冒険者達の横を通り過ぎ遠く離れた壁に激突したジット。壁に出来たヒビは更に拡がりもはや崩れる寸前となる
そして
「ジットォォ!」
ヒューイが叫ぶ中、ジットは壁から離れ膝をつきゆっくりと倒れてしまうのであった──────




