表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
737/856

732階 攻略組

『幻影』のフェンリルか・・・


ウロボロスの話だと狡猾で残忍な性格のフェンリルは幾度となくインキュバスの言葉を無視した為にダンジョンに幽閉されていたのだとか・・・そのダンジョンがこの街のアケーナダンジョン


どうやって幽閉していたかと言うと・・・


「シュルガットめ・・・言えってんだ」


ウロボロスの店を出て1人呟く


そう・・・フェンリルをダンジョンに閉じ込めていたのは『閉鎖』のシュルガット・・・あのボケナスだ


まあ聞かれたら素直に答えていただろうけど・・・


シュルガットはインキュバスに命令されてフェンリルをダンジョンに幽閉していた。けど命令が有効なのはインキュバスが存在している時だけ・・・インキュバスが勇者に倒される度にシュルガットは命令が無効となったと判断しフェンリルを解放していたっぽい


その辺の事は後でシュルガットに聞けば分かるだろう・・・で、インキュバスが倒されシュルガットがフェンリルを解放・・・そのフェンリルがどういう訳か勇者アークを倒した・・・自分を閉じ込めていたインキュバスの敵討ち・・・じゃないよな?


とにかくアークはアバドンではなくフェンリルに倒されたのは間違いない。その後でフェンリルに対抗出来る人間はいなさそうだからそのまま人間を支配するとかしそうなもんだが・・・そんな事はせず行方も分かってないらしい


行方が分かってないと言うか興味がないだけのような気もしないでもないが・・・まあでもモヤモヤしていたものが解決したし良しとしよう


でもなんでインキュバスはフェンリルを閉じ込めたんだ?言う事を聞かないって言うならパズズとかベルゼブブだって・・・そう言えばヴァンパイアが人間を魔眼で操ってるのも止めたとか聞いた事がある・・・人間を強制的に従わせるのを嫌い、幻を使い圧倒するのも嫌う、か


どんだけ正々堂々人間と戦いたかったんだよインキュバス


そんな事ならいっそ共存の道を選べば良かったのでは?


人間と魔族と魔物・・・共存する事は可能だったんじゃないか?


今この時がそうであるように


そうすればアバドンも活動出来るほど魔力も蔓延せず・・・あれ?でもその場合輪廻はどうなるんだ?


魔王であるインキュバスと勇者がぶつかり合い出来る輪廻・・・まさか輪廻を起こす為にわざと人間と・・・


なら俺を『解放者』と呼んだのはなぜだ?


俺がインキュバスを倒してしまうとインキュバスと勇者とのぶつかり合いで起きる輪廻が起きない・・・つまり輪廻の終わり・・・もしかしてインキュバスは輪廻が必要ないと考えていた?いや考えるようになった?


うーん、分からん


けどインキュバスは苦し紛れで俺を『解放者』と呼んだのではないというのは何となく分かる。喜んでいるというか・・・感謝しているというか・・・そんな感じだった


インキュバスは一体何を考えて・・・あら?


適当に歩いているつもりがいつの間にか足はギルドに向かっていたようだ


気付くとギルドの前・・・立ち止まったのは偶然ではなく声が聞こえたからだ


誰かと誰かが争う声・・・ギルド内は争い事御法度のはず


まあ争い事はどこでもダメだが特にギルド内には荒くれ者も多い冒険者が集う場所・・・争い事を許してしまうと怪我人は疎か死者すら出かねない。なので特に厳罰に対処するはずだ・・・下手をすれば冒険者の資格を剥奪されるとも聞いた事がある


それなのにギルドから聞こえる声は徐々にヒートアップしているような気がする。周りの冒険者やギルド職員が止めに入る気配すら感じない


女性の声ならまたニーニャとナルがやり合っているのかと思うところだが聞こえてくるのは男の声・・・一体誰と誰が・・・


気になって寄るつもりもなかったギルドの扉に手をかけると開けて中の様子を伺った。すると・・・


「それでも納得がいかない!」


「おいおい・・・今日はやけに食い下がるじゃねえかダステン」


ギルドの中央でヒューイとジット・・・そしてその2人に向き合うようにダステンと呼ばれた剣士風の男とそのダステンの後ろに魔法使い風の女性とヒーラーぽい女性が対峙していた


「当然だろ?いきなり『お前達とはここまでだ』と言われて黙って引き下がるほど実力差は感じてない・・・まだ俺達はやれる・・・だから・・・」


「やれねえよ。実力不足に経験不足・・・こっちは子守りするほど暇じゃねえ・・・このパーティーは解散だ」


「くっ!・・・だが攻略するには近接アタッカーに魔法使い・・・それとヒーラーが必要になるはず!俺達以上の冒険者はアケーナにはいないはずだ!」


「まあな・・・アケーナでトップを張るお前達が無理なら他に適任者はいねえだろう・・・だったら攻略自体をやめるしかねえな。無理に突っ込んで行方不明者になっちまったらそれこそ目が当てられねえしな」


「諦めると言うのか!攻略はギル・・・」


「ダステン!・・・あまりお喋りが過ぎると一生口がきけなくなるかもな」


ダステンの言葉を遮り威圧するヒューイ・・・そりゃ他の冒険者やギルド職員が止められないはずだ・・・『千里眼』っていう二つ名から探索専門のスカウトと思いきや戦闘の方も得意みたいだな


「・・・後悔する事になるぞ?」


「逆だ逆・・・後悔したくないから諦めるんだよ・・・話は終わりか?なら帰れ・・・これ以上ギルドの空気を悪くする前に、な」


「・・・」


ダステンが踵を返すとぶつかりそうな勢いでこちらに迫って来た


やんのかコラ・・・と一瞬勘違いしたがダステンの目的は俺の後ろの扉から外に出る事・・・それに気付き慌てて横に移動するとダステンは怒りのまま扉に手をかける・・・すると


「飼い主によろしくな・・・ダストンくん」


「っ!・・・きっと後悔させてやる・・・ヒューイ」


ダステンはそう言い残し勢いよく扉を開けるとギルドから出て行ってしまった


慌ててダステンの後を追う2人の女性・・・3人が外に出て行くとギルド内の空気は安堵に包まれた


ヒューイとジットはそのままギルドに残り椅子に座るとギルドはいつもの姿を取り戻し平穏な時が訪れる


俺は2人を横目に移動するとカウンターにいるフェリスに小声で尋ねた


「何があったんですか?」


「・・・首を突っ込まない方が身の為です」


相変わらず手厳しい・・・まあ実際そうなんだけどね


事情を知っているから大体の予想はつく


ヒューイとジットは今の3人と一緒にダンジョン攻略を進めていた・・・けど実力不足と判断しあの3人をクビにした・・・で、なんでだよって揉めてたって感じかな


「ったくダステンの野郎調子に乗りやがって・・・昔は『ヒューイさんヒューイさん』って懐いていたのに・・・」


「・・・彼ももうAランク・・・いつまでも子供じゃないだろう・・・それなりにプライドもある」


「プライドねえ・・・それだけだったら可愛げもあるんだが・・・」


ヒューイとジットの会話が聞こえてきた


フェリスからは聞けそうにないしもう少し近くに行ってみようかな・・・面白い話が聞けるかもしれないしな


目立たぬよう静かに移動しヒューイ達の後ろの席に着くとそば耳を立てる。アバドンとの戦いの後、体の変化は聴力にも影響したのか以前よりも耳が良くなったので小さい声でも良く聞こえる


「だがどうする?ダステンが言うようにこの街にはダステン達以上の実力者は皆無・・・このままでは攻略は頓挫してしまうぞ?」


「まあな。けどダステン達を連れて行くリスクはデケェ・・・いつ裏切るか分かったもんじゃねえしな」


「・・・本当に領主の・・・」


「犬だ。命令されりゃダンジョンの中だろうが飯食ってる最中だろうがクソしている時だろうが襲って来るかもしれねえ・・・そんな奴に背中を預けられるわけねえだろ?」


「うむ。しかし毎度の事ながらよく調べられるものだ。向こうも隠そうとしているはずなのに・・・」


「千里眼は何もダンジョンだけで発揮するもんじゃねえから。何ならお前さんのプライペートも覗いてやろうか?」


「よせ気持ち悪い・・・それでダステン以外でも息のかかった者はいるのか?」


「そこまでは分からねえがダステンと繋がっている奴は疑った方がいいだろうな」


領主の犬?侯爵のスパイみたいなもんか・・・反ギルド長的な・・・


「うーむ・・・となるとほぼめぼしい者は・・・最近捜索隊を担っている彼らはどうだ?」


「レオとか言ったか・・・雰囲気もあるし強えと思う・・・底の知れねえ強さを感じるが攻略に引っ張っちまうと捜索がままならなくなる・・・フェリスちゃんに恨まれちまうよ」


「だがそうも言ってられまい。攻略しなければならぬ事情もある」


「まあな・・・ハア・・・もしレオを引っ張っても魔法使いにヒーラーが足りねえ・・・いっそ国に頼めば簡単に揃いそうなもんだが・・・」


「国に?」


「ああ・・・ほらあの時のメンツなら攻略も楽勝じゃねえか?」


「あの時の・・・エモーンズの時か」


エモーンズ?・・・あっ・・・見た事あると思っていたけどそうか・・・あの時・・・ディーン達と出来たての俺のダンジョンを視察に来たメンバーにそう言えば居たな・・・この2人


他の連中が濃すぎて忘れてたわ


「ディーン将軍に宮廷魔術師のラディル様・・・んで大司祭のシゲン様とならどのダンジョンに行っても鼻歌交じりで攻略出来るだろうな」


「だが国が出すとも思えん。今や唯一の将軍であるディーン将軍はもとより引退した宮廷魔術師のラディル様やシゲン様も然り・・・それに申し込んだところで邪魔が入るのは目に見えているしな」


「つってもならどうする?って話だよな。他のギルドのAランクって言っても実力はピンキリだろうし・・・呼んどいて使えねえから帰れ・・・なんて言えねえもんな・・・」


「ならばSランク冒険者はどうだ?この国に存在するSランク冒険者は現在2人・・・『大剣』キース殿と『風鳴り』サラ殿・・・近接アタッカーが強ければ魔法使いやヒーラーは若干劣っても何とか・・・」


おっ、サラの名前が出ると何だが嬉しい。にしても久しぶりに聞いたな・・・『風鳴り』という二つ名


「おいおいよせよせ・・・キースはともかくサラ?冗談は程々にしとけな。あんなのたまたま運良くSランクに上がっただけ・・・同じスカウトとして言うけど使える訳がねえ」


・・・あ?


「曲がりなりにもSランクだぞ?実力がなければ辞退するはずだ」


「面の皮が厚いんだろ?確か今は公爵の嫁だっけ?その辺で察しろよ・・・股を開けば簡単に手に入るのさ・・・Sランクって称号は」


「ヒューイ!それは言い過ぎだ・・・国が認めたSランク・・・魔族を仕留めた者のみに与えられるその称号は伊達ではないはずだ」


「どうかな?実際に魔族・・・無王を倒したのは公爵だ。『風鳴り』はそれに協力しただけ・・・しかも本来なら6人の中に入っていなかったらしいじゃねえか。キースが結界内に入ろうとしたら横から入ってキースが入れなくなったってのは有名な話だ。大方公爵を垂らしこんで入れてもらったんだろうよ・・・色々とな」


「だから言葉が過ぎると・・・ん?」


「なんだ?・・・うおっ!?なんだお前・・・」


サラへの悪口を耳にして気付いたらヒューイの後ろに立っていた


このままコイツの頭を捻り潰してやろうか・・・いや、それだと楽に死ねてしまう・・・先ずは四肢をもいでからサラへの謝罪の言葉を聞いてから頭を捻じ切って・・・


「おい何とか言えよ」


「・・・ぶっこっ!?」


『ぶっ殺す』と言おうとしたら突然手で口を覆われ服を掴まれ後ろに引きずられた


誰が・・・と思って振り向くとそこには顔を真っ赤にしたフェリスがいた


「何を考えているんですか!あのお2人が誰だか知らないんですか!?」


と、小声で怒鳴られる


「知ってますよ・・・けど・・・」


「けども何もありません!いいですか?これ以上問題を起こせばギルド長が何と言おうと・・・」


フェリスが俺に詰め寄ると背後で椅子から立ち上がり歩み寄るヒューイ・・・そしてニヤけ面でフェリスに声をかける


「おいフェリス・・・そいつは俺に用事があるみたいだぞ?」


「・・・き、気のせいです・・・あ、それかお2人のファンでサインを貰いたかったとか・・・そうですよね?」


「いや、ぶっこっ!?」


「そうですよね?」


再び『ぶっ殺す』と言おうとするとまた口を塞がれた


そして返事を強要しようとするフェリス・・・でも・・・


「ねっ!」


「・・・はい」


結局フェリスの圧に負けた


にしても数日前に知り合ったばかりの俺をこんなにも必死になって助けようとするなんて・・・本当にいい人だなフェリスって


「・・・まあいいや。フェリスに免じてそういう事だったって事にしといてやるよ。こっちはそれどころじゃないしな」


ヒューイは頭を掻きながらそう言うと席に戻って行く


コイツも大人だな・・・サラへの暴言は許せんけど俺も大人になるか・・・


「ヒューイさん」


「・・・あ?」


ヒューイの背中に向けて声をかけると少し面倒くさそうな顔をして振り向いた


フェリスは俺が何を言い出すか気が気でないようでまた口を塞ごうとするが俺はそれを躱しヒューイに向けて言い放つ


「近接アタッカーと魔法使い・・・それにヒーラーを私が用意すると言ったらどうしますか?──────」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ