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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
731/856

726階 ヒューイとジット

前回と同じようにセンが長剣で斬り刻みスミが残りカスを魔法で消滅させる・・・俺とガートン達はただのダンジョン散歩になっていた


しばらく進むとあまりにもやる事がない為に俺はスミと位置を代わり後方を歩く3人と合流・・・暇潰しの会話に花を咲かせていた


「へえ、ウェルさんは戦士なんですね」


「まあね。剣なんてペラペラなもん使ってられっか・・・ワイはこの棍棒で相手をぶっ叩く・・・それだけさ」


ぶっとい棍棒をブンブンと振り回すウェルは確かに戦士だ・・・あまりお近付きになりたくないタイプの


「ナ、ナルさんも鉤爪使いの近接アタッカー・・・って事は3人共・・・」


「わふっ近接アタッカーパーティー!」


3人共近接アタッカーってバランス悪くないか?魔法しか効かない魔物が出たらどうするつもりなんだろう


「バランス悪ぃと思ってんだろ?ん?」


いきなり俺の肩に手を掛けると抱き寄せる・・・だから胸近いって!


「いや・・・まあ・・・」


「正直な奴だな・・・まっ、アケーナを知らねえ奴はそう思うだろうよ」


「アケーナダンジョンは他のダンジョンと違う・・・そう言いたいのですか?」


それこそ正に俺の聞きたい事かも・・・


「違いねえよ。ただ知り尽くされているだけ・・・他のダンジョンなら未知の部分が多いから備えが必要・・・けどアケーナに関して言えば備えなんて必要ねえ。3人近接アタッカーならそれに合った階層で稼げばいいだけだからな」


あーなるほど・・・既に攻略されまくっている階層なら何があるかなんてお見通し・・・つまり近接アタッカーだけのパーティーなら近接アタッカーを苦手とする魔物が多く存在する階に行けばいいだけ・・・魔法しか効かない魔物が出る階は避ければいい


アケーナダンジョンはかなり昔からあるし多くの冒険者が挑んでいるダンジョンだ。魔物の出現情報や罠の場所、道なんかも知り尽くされているから万が一を考えなくてもいいってことか


「本格的に攻略する気ならバランスも考えなきゃならないけどそうでなければ考えなくてもいい・・・アケーナにいる大半の冒険者はそんな感じだ」


「攻略するつもりはない、と」


「組合があった時は考えもしたさ・・・けど組合が解散したら攻略の難易度は跳ね上がったからな・・・みんな身の丈にあった稼ぎ方をしているのさ。もちろん未だに攻略を目指しているパーティーもいるけど・・・もう残り少ないな」


「・・・それでもアケーナに残る理由は何ですか?」


「それでもって?」


「いや・・・ただお金を稼ぐだけなら他のダンジョンでも・・・例えばエモーンズのダンジョンでも良いわけで・・・向こうの方が稼げるとも聞きますし・・・」


「はっ、わざわざ新しく出来たダンジョンに行って攻略しろってか?アケーナなら踏破した場所までは情報が出まくってる・・・冒険するも稼ぐも思いのままだ。今更未開のダンジョンに行って情報集めなんてかったるくて行く気にならないな」


未開のダンジョンとは酷い言い草だな・・・けどウェルの言いたいことは分かる


アケーナダンジョンと比べてエモーンズダンジョンは出来て日が浅い・・・稼げると言っても稼げるまで時間がかかるかもしれないし既存の冒険者が独占しているかもしれない・・・隣街とかならまだしも遠く離れたエモーンズくんだりまで行って稼げなかったら単純に無駄足になるしそれならアケーナダンジョンで稼げるのだからリスクを負ってまで行く必要はない、か


これは由々しき事態だぞ


ウェルの意見が一般的なものであれば冒険者はエモーンズから流出するけどアケーナからは来ないという事になる・・・つまりエモーンズの冒険者は減る一方・・・うーんいっその事アケーナダンジョンを破壊してやろうか・・・って無理か。アケーナからダンジョンが無くなれば街全体に失業者で溢れる事になる。冒険者は街を移動すれば済むがここに基盤を置いて生活している人達にとって冒険者が減るのは死活問題・・・街の衰退は国にもかなりのダメージになるからな・・・国の中枢であるスウやシーリスに負担が掛かるのは避けたい・・・イテッ!


「出番がないからって何ボーッとしてるんだ?ぶっ飛ばすぞ!」


後頭部を叩かれた後にぶっ飛ばすと言われても・・・叩かれた箇所を擦りながら振り向くとウェルは俺を見下ろしその視線の端でガートンがアワアワしているが今の俺はGランク冒険者・・・別に叩かれたといって報復したりしないさ、うん


てかヒーラーの俺が動く展開なんて低階層じゃない気がするけど・・・



それからも淡々と進む展開が続く


「ふぁぁぁ・・・これワイらいるか?」


「それ序盤で思ってた」


「色々あんだよ・・・色々な」


油断するなと俺の頭を叩いたウェルが油断しまくりナルなんかは土いじりを始める始末。ガートンは俺に気を遣っているのか一応はスミとセンの事を見てはいるがそれも限界に近い様子


そんなこんなであっという間に10階ボス部屋前に到達してしまった


「さすがにボスは今まで通りいかねえだろ。10階はド定番のトロール・・・大型も中級も初めてだろ?ちゃんと戦略練って・・・」




「・・・マジかよ・・・」


ウェルが呟き残りの2人は言葉を失う


3人が愕然とする中、俺は褒めて欲しそうな2人の前で頭を抱えた


瞬殺


まるで下級の魔物を相手にするかのように・・・と言うかスライムを倒すのと同じパターンでアッサリと



見上げるほど巨大なトロール・・・まずセンが飛び上がり一刀両断しスミが魔法で跡形もなく吹き飛ばす


これまで飽きるくらい見てきたパターンで下位とはいえ中級魔物であるトロールを瞬殺するGランク冒険者がどこにいるよ


「はっ、こりゃ参ったね・・・ワイらがいるかいらないかどころかワイらより強えんじゃね?」


「ちょっと戦いたくないかな」


「・・・」



スミ・・・スラミはダンジョンマスター代行としてエモーンズダンジョンの魔物達を統べる魔物・・・俺の眷族だしぶっちゃけ魔族に近い実力を持っている。センことシャドウセンジュも眷族でありAランク冒険者だったセンジュのコピーだし強いのは当然・・・ぶっちゃけて言うと2人がどこまで強いか分かってない


「これで次からは11階から進めるのですね」


「はは・・・そうだな。マジでアンタらナニモンなんだ?」


スミが喜んでいる様子もなく淡々と話し掛けるとウェルは呆れた感じで答える


「ただのGランク冒険者ですよ」


公爵とその眷族である魔物です・・・と答える訳にもいかず笑って誤魔化すとウェルは俺の方を向きため息をついた


「そうだろうな・・・少なくともお前はな。ワイが聞いているのは2人に対して・・・アンタは何もやってないじゃないか」


「・・・確かに」


俺の出番なんて果たして来るのだろうか・・・少なくともヒーラーの俺の出番という事はゼンかスミが怪我をした時・・・低層階じゃまずありえないから起こるとしたら・・・


想定外の事態が起きた時・・・だろうな──────





ロウニール達がアケーナダンジョンにいる頃、アケーナのギルドにとある冒険者が訪れ沸き立っていた


「チッ・・・いつもながらうるせえギルドだな」


「そう言うな。組合が廃止になったとはいえお前は一応このギルドの顔だ・・・少しは愛想でも振り撒いたらどうだ?」


「黙れジジイ、棺桶に押し込むぞ?」


「ぬかせ。お前なんぞにやられるほど耄碌しておらんわ」


2人の名はヒューイとジット


ここアケーナの筆頭冒険者である


「ヒューイ様!ジット様!御無事で何よりです・・・それで・・・」


「特に何もねえよ・・・ギルド長は空いてるか?」


「はい。今御案内・・・」


「要らねえよ・・・勝手知ったる何とやらだ・・・フェリスはそのまま仕事してな」


「・・・はい」


受付にいたフェリスが立ち上がり2人をギルド長アーノンの元に案内しようとするとヒューイは面倒くさそうに手を振りズカズカと2階へと上がっていってしまった


それに続きジットも2階へ・・・フェリスはジットの背中を見送ると椅子に座り3人がいる場所を見上げため息をつく


「いい知らせは・・・ないようね──────」





「いい知らせだアーノン!」


「・・・ノックくらい覚えたらどうだ?ヒューイ。仮にも組合長だった男がそれでは他に示しがつかないだろ?」


「仮にもは余計だ仮にもは。んで聞きたくないのか?」


「聞きたくないとは言ってないだろう?飲み物は何がいい?」


「・・・冷たいエール・・・と言いたいところだが水で構わねえ」


「なるほど・・・乾杯とはいかないらしいな」


「まあ、な」


ヒューイがソファーに腰掛けると後から部屋に入って来たジットがその隣に座る


それを見てアーノンは机の上に置いてあった水差しを持ち上げると棚からコップを2つ取り出しソファーの前にあるテーブルの上に置き水を注いだ


「で?いい知らせとは?」


「そう焦るなよ・・・こっちはダンジョンから帰って来て直接来たんだぜ?水の1杯くらい飲ませろってんだ」


ヒューイはコップを手に取り注がれた水を一気に飲み干すとテーブルの上にコンと置いた


「もう1杯いるか?」


「だからそうがっつくなって・・・ちゃんと話してやるからさ」


「なら話せ・・・異変はあったのか?」


アーノンが顔を突き出し尋ねるとヒューイは両手を広げ首を振る


「・・・安心しろ・・・異常なほど平常運転だよ」


「なるほど・・・いい知らせだな」


「だろ?誰にとってかは別にして、な」


「・・・ダンジョンは正常・・・つまり軍の投入もなければダンジョンの閉鎖もない・・・いっそ破壊指令でも出てくれれば楽なんだがな」


「おいおい・・・ギルド長が言うセリフじゃねえだろ・・・まさか何かあったのか?」


「なーに、大したことじゃない。私が寝ずに作ったここ数ヶ月の行方不明者の統計表・・・過去と照らし合わせて異常な数だと証明するにはもってこいの表だったが・・・握り潰された」


「はあ?誰に?」


「分かるだろ?ダンジョンがなくなったら1番困るお方だ」


「・・・ヘギオン・クリナス・エリエケ・・・」


「侯爵様、だ。貴族の方を呼び捨てにするな」


「はいはい・・・その侯爵閣下がどうやって邪魔を?」


「総ギルド長に手紙を出したがこの街を出ることなくなぜか侯爵様の元に届いてな・・・次何かあればギルド長の座を下りてもらう、だと。別にこの座に執着している訳ではないがおそらく次のギルド長は侯爵様の息のかかった者になるだろう・・・そうなるとどうなるか・・・考えなくても分かるだろ?」


「・・・通信道具で話してみるのはどうだ?スウ王女・・・じゃなくて女王は小生意気だが話の分からない小娘じゃねえ・・・書類がなくても話をすれば軍を派遣してくれたりすんじゃね?」


「女王様に小生意気とか言うな・・・残念ながらそれはないだろう」


「なぜ?」


「・・・侯爵様も必死だ・・・総ギルド長に脅しをかける程にな」


「っ!・・・おいおい・・・穏やかじゃねえな」


「・・・まあこれも・・・スウ女王陛下の政策のせい・・・とも言えるんだがな」


「あ?そりゃ一体・・・」


「民の為にと考えた事が・・・必ずしも民の為になるとは限らないって話だ──────」

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