725階 ダンジョン調査開始
「・・・どういうことですか?ガートンさん」
「あ、いやその・・・このまま追い返すのはあまりにもと思って・・・」
しどろもどろのガートン・・・まあ当然ちゃ当然か
昨日は『不合格』と言って俺達をアケーナから追い出す計画に加担していたのに今朝になって急にアケーナに残るよう働きかけたんだ・・・計画を立てたフェリスが怒るのは当然だ
「Gランク冒険者の私達だけでは実力不足でもBランク冒険者であるガートンさんが一緒ならダンジョンに行っても何も問題はない・・・ですよね?フェリスさん」
「・・・」
しどろもどろのガートンの代わりに俺が言うとフェリスはキッと俺を睨んだ後目を閉じた
「フェリスさん?」
「・・・Bランク冒険者が同行している間はランクを上げることは出来ません・・・それでもよろしいですか?」
「はい構いません」
「っ!・・・同行がない場合はダンジョンに入れず同行がある場合はランクが上がらない・・・つまりここに居たら一生ランクはGランクのままなのですよ?それでも・・・」
「構いません」
「・・・分かりました。ギルドカードの提示と入場料をお支払い下さい」
観念したのかフェリスは俺達のギルドカードを受け取り入場許可証をテーブルに置いた
その許可証を受け取ろうと手を伸ばした時、フェリスは俺の手を取りジッと見つめる
「決して無理をしないと約束して下さい・・・私に笑顔で貴方達を・・・迎えさせて下さい」
「もちろん・・・生まれてこの方無理はしたことないので安心してください」
「・・・お気をつけて」
フェリスが手を離すと俺は許可証を受け取りスミとセン・・・そしてガートンと共にギルドを出た
ダンジョンに向けて歩きながら考える
心配し過ぎだろうと思うけどGランクなんてそんなものかもしれないな・・・駆け出しの冒険者特有の無茶をして・・・
ふとラックの顔が浮かびフェリスの気持ちが理解出来た。きっとフェリスもあの時の俺と同じ気持ちなんだろうな
そう考えるとなんだか申し訳ない気が・・・でもまあフェリスが心配するような事は起こらないだろうし別にいっか・・・起こらない・・・よな?
薄々・・・いやとっくの昔にハッキリと気付いているさ・・・俺が行く先々でトラブルに巻き込まれているってのは
今度こそ何もなく楽しいGランク冒険者生活を送れると思ったのに・・・ハア・・・
「あ、あのぉ・・・」
「・・・ん?ガートンさん何か?」
「えっと・・・何とお呼びすれば・・・」
「普通にロウかコノヤロウかバカヤロウでいいぞ?・・・ですよ?」
「・・・ではロウ様で・・・」
「アホか。Bランク冒険者がGランク冒険者に様付けで呼ぶ風習がどこにある・・・喋り方も以前と同じような感じで構わない・・・って俺も気を付けないとな・・・普通にGランク冒険者に接するようにして下さい。でないと・・・怒りますよ?」
「ヒィ!・・・分かりました・・・いや分かった・・・これでいい・・・か?」
「ええ。なんならもっと横柄でも全然構いません。ところでガートンさん」
「はい・・・じゃなくてなんだ?」
「ガートンさんのパーティーメンバーが見当たりませんが・・・確か今日は活動日なのですよね?」
「あ、ああ・・・最近はそれぞれ許可証貰ってダンジョンの前で待ち合わせしているんだ」
「最近は?」
「ちぃとギルドに俺のメンバーと反りが合わない奴がいてな・・・昨日今日と見かけてないがもし2人が顔を合わせたら・・・」
「たら?」
「大乱闘が始まっちまう・・・しかも冒険者ってのは血の気の多い奴がほとんどだから止めるどころか煽ったり参戦したりして・・・」
「なるほど・・・それで会わないようになるべくギルドに滞在する時間を減らす為に待ち合わせ場所をダンジョン前に・・・」
「そういう事だ。ギルドで暴れると備品が壊れて修理費やら何やらで出費はかさむしフェリスは悲しい顔するしで・・・」
相当フェリスに惚れ込んでいるみたいだなガートンは
人の恋路なんてどうでもいいが少し応援したくなってきたぞ・・・まあ無理だろうけど
高嶺の花どころか天空の花と言うべきか・・・決して届かない夜空の星を取ろうとしている感じだな
「・・・今どこからともなく不快な思考が感じられたのだが・・・」
「気にしないで下さい。では行きましょう!」
どうやら勘は鋭い方らしい
誤魔化すように足早にダンジョンに向かうと門の前で2人の女性がこちらを見ていた。もしかしてあの2人がガートンのパーティーメンバーかな?
「やっと来た・・・と思ったら誰コイツら」
「見ねえ顔だな新人か?」
眠そうな顔の小柄な女性と目つきの鋭い大柄な女性が俺達3人を値踏みするようにジロジロと見てきた
「あ、ああ・・・そのフェリスに頼まれてな・・・しばらくこの人・・・コイツらの面倒を見てくれって・・・」
「え゛っ!?なんでワン達が?」
「ふざけんなよ面倒臭い今すぐ断って来い!」
ん?何だこの感じ・・・もしかして・・・
「ガートンさんってこのパーティーのリーダーじゃ・・・」
「ない・・・と言うか3人しかいねえのにリーダーもクソもねえだろ?」
「いやでも何かを決める時とかリーダーが代表して・・・」
「グダグダうるせえななんだよお前」
ち、近っ!
大柄な女性は俺よりも頭一個分大きい為に近寄るとその豊満な胸が顔に押し寄せて・・・お、俺にはサラという愛しの奥さんが・・・
「はっ!コイツ顔赤らめてやんの。まだ乳離れもしてねえようなクソガキ共を連れてダンジョンに潜れだ?舐めてんのかガートン」
「でも・・・」
「でももクソもねえ!いいから断って来い!」
「そーだそーだ。ワン達に新人を教育する義務はないぞ」
うーん完全に誤算だ・・・てっきりガートンがリーダーかと思って話を進めていたがどうやら違うみたいだ。リーダーは決めてないとか言いつつ完全に主導権は女性2人が握っている様子・・・話をつけるならまずこの2人からだったか・・・
「すみません」
「なんだ?オッパイ吸いたいか?」
「・・・勝手に話を進めて申し訳ありませんでした。ですがやむを得ない事情がありまして・・・貴女方がダンジョンで稼ぐ分・・・それに上乗せしてお支払いするのでどうか引き受けてもらえませんか?」
「寝言は寝て言え。ワイらは金じゃねえんだよ。どこぞの連中と違ってな」
「ならなぜ冒険者を?」
「そりゃお前・・・強えからだよ」
へえ・・・脅しのつもりか?
殺意に近い気配を感じスミが動こうとするが手でそれを制する
さてどうしたもんか・・・正体を明かすのはガートンだけにしておこうと思ったがこのままじゃ埒が明かないな・・・いっそこの2人にも話すか・・・
「ウェル!お前買いたいものがあるって言ってたよな?それにナル・・・お前いつもダルいって言ってなかったか?」
「別に稼いで買うさ」
「大人数で行動する方がダルい」
「くっ・・・聞け!ウェルは予定より早く買えるしついて行くだけだからナルは戦闘する必要がねえんだぞ?それでも受けねえってのかよ!?」
「いつもより深く潜りゃいい」
「ダルい」
「このっ・・・」
取り付く島もないなこりゃ・・・ウェルと呼ばれた大柄な女性もナルと呼ばれた小柄な女性も面倒事は避けたいと言わんばかりにガートンの説得に応じる気はない
ガートンには口止めしているからな・・・仕方ない俺から事情を・・・
「だからアイツらに差をつけられるんだよ・・・」
「なに?おいガートン・・・今なんて言った?」
「アイツらは今もダンジョンで行方不明者を捜索しているだろうな・・・ギルドの依頼で。俺達は頼まれもせずせっせとダンジョンに潜るだけ・・・ぶっちゃけ差が広がる一方だ」
「・・・別にギルドの評価なんか・・・」
「なら何で競うんだ?この前はボコボコにされて実力差を見せつけられてギルドの評価もうなぎ登りのアイツらに勝てるものって何だ?」
「・・・チッ」
「それとナル・・・負け犬のままでいいのか?」
「・・・わふっ」
ウェルは口をとんがらせナルはまるで仔犬のように犬耳のようなくせ毛をしならせ項垂れた
どうやら言いくるめたようだが何が何だか・・・とても納得したようには見えないが2人は先にダンジョンに向かって歩き出したので一応は承諾したって事でいいのか?
「えっと・・・」
「もう大丈夫だ。最近この街に来た奴らにいいようにやられてて・・・ほら顔合わせたら喧嘩しちまう相手がいるって言ったろ?向こうは2人のことを気にも留めてねえようだが2人はライバル視しててな・・・」
そいつらを上手く使って煽り言う事を聞かした訳か・・・
それにしても最近アケーナに来た冒険者か・・・ウェルとナルもBランク冒険者なんだろうしそこそこ強いはず・・・それを打ち負かす冒険者って一体・・・
「本当は誰かさんの正体を明かせれば早かったんだけどな」
「いや、出来るだけ知る者は少ない方がいいので・・・」
「・・・なぜだ?」
「少ない方がバラした人を特定しやすい・・・そうでしょ?ガートンさん」
「・・・」
ガートンは口をすぼめスタスタと先に行ってしまった
その背中からは絶対にバラすものかという強い意志を感じる
まあバレたらバレたでその時はその時だ・・・別にガートンを煮て食ったりするつもりはないけどな
ガートンが先行していた2人に追いつき俺達も合流すると計6人でいざアケーナダンジョンへ
「久しぶりだねこの感じは・・・せっかくだからとことん付き合ってやろうじゃないか・・・見せてみな新人冒険者の実力ってやつをな」
言われなくても
先頭は前と同じくセン、真ん中に俺が立ち最後尾にスミが立つ
2回目のアケーナダンジョン・・・せめて10階までは行きたいな──────




