70階 武闘家?魔法剣士?
「・・・今日も暇ですね」
「うむ・・・この前ジェファーが嘆いておったぞ?冒険者は増えるけど移住者は少ないと・・・良い街なんだがのう・・・」
昨日は散々な目にあったけど今日は平和だ・・・今のところは
多分あの2人は生きてるはず・・・報復される可能性はあるけど僕が罪に問われる可能性は極めて低い。なぜなら騎士の奴らは僕達村出身の人を見下してるからだ
見下してる人にやられましたなんて口が裂けても言えないはず・・・だから報復はあっても捕まったりはない・・・はず
問題はそれよりもあの時に剣を使わなかった事だ
あの日の夜──────
《バカロウ!》
「さっきから何?いやそりゃあやり過ぎたかも知れないけど・・・」
司令室に戻るや否やダンコはお怒りモードだ・・・でもダンコってあの2人をずっとやっちゃえやっちゃえ言ってたのになんで急に・・・
《あのね・・・ハア・・・バカ》
「ちょっと!なんかそれ凄い心に来る言い方なんですけど!」
《・・・ハア・・・私は嬉しいわ・・・ロウが人間相手にあそこまで動けるようになったなんて・・・もう赤ん坊が初めて歩いたのを見たような感じよ》
「え?・・・そ、そうなの?」
《でもね・・・なんで剣を使わないの!?バカなの!?大バカなの!?アナタ分かってる?その意味が》
「え?・・・だって剣を使ったら殺しちゃったかも知れないし・・・」
《ハア・・・最悪殺しちゃった方が良かったわよ・・・面倒な事になるけど・・・》
「え?」
《アナタねえ・・・何をしたのか分かってる?分かってないわよね?アナタはね・・・ローグじゃないの》
「知ってるわ!」
《知ってるけど分かってない・・・じゃあ分かりやすく言うわね・・・アナタはロウニール・・・魔法剣士よ》
「うん?・・・あっ」
《やっと分かった?ロウニールとして人喰いダンジョンで魔法剣士として活躍・・・適性ふたつはレアだから噂になってもおかしくないわ。で、アナタはそこそこの奴らを素手で圧倒した・・・その意味が分かる?》
魔法剣士は剣と魔法を使う・・・つまり操作と変化だ。もし僕じゃなければ操作・・・つまり近接アタッカーで言うところの拳士として倒したと思われるかもしれない。けど2人を倒したのは僕・・・学校では常にドベだった僕なんだ・・・
拳士は拳や足にマナを纏い武器を使わずに戦う・・・けど動きは普通の人と変わらない。普段から鍛えてたり元々強かった人なら拳士として騎士の2人を倒せるかも知れないけど・・・
《ロウを知る人間はこう思うはず・・・『ロウニールがあんな動きを出来るわけない・・・となるとスカウトの能力である強化を使ったのだろう。素手で剣を受け止めたからマナを纏う事も出来るし・・・という事は武闘家だ』・・・ってね》
なる・・・絶対なる
学校の訓練で一緒だったあの4人なら絶対に気付くはず・・・だって1年前まではあのマナも使えないロウニールだったのだから・・・
「い、1年間必死に頑張って格闘術を身につけました!は?」
《門番をしたがら?どこで?》
「はうっ・・・ひ、人喰いダンジョンで強くなりました!は?」
《あのねえ・・・移動に1週間かかってる体なのよ?実際に向こうに滞在したのは2日か3日程度・・・それくらいでそんなに強くなれると思う?》
そうだった・・・行きはガーゴイルに掴まれて飛んで行ったし帰りはゲートで戻って来たけど、みんなには歩いてカルオスに行った事になってるから実際の滞在期間はかなり短いはず・・・ん?
「てか、それなら剣を抜いてたとしても同じじゃない?マナを纏ったとしても剣術は上手くなれないんだし・・・」
《ロウ・・・人間がなぜ武器を持つか知ってる?》
「・・・そりゃあ・・・まあ・・・うん・・・」
《ハア・・・弱さを補う為。素手では出来ない事を出来るようになる為。間合いを補う為・・・簡単に言えば強くなる為・・・逆に武器を持たない者はそれだけ自らの力に自信がある者という事になるわ。アナタとは正反対ね》
「た、確かに・・・」
《魔剣士が魔法を使わずに剣だけで相手を倒したましたと魔剣士が魔法も剣も使わずに倒しましたと言うのを聞いてアナタはどちらがありえると思う?》
「・・・剣だけでの方です・・・」
《ハア・・・過ぎた事はもう何を言っても遅いけど・・・少しの綻びが全てを崩壊させるって事を覚えておきなさい・・・それでやる事は分かってるわね?》
「?」
《口封じよ!あの場にいた6人を始末するの!そうすればまだ魔剣士ロウニールかマナを使えないロウニールでいられるわ》
「んなアホな!?2人は別にしてもジケット達は・・・」
《・・・なら口だけを封じなさい・・・ペラペラ喋るな、と。あの2人は・・・まあ喋る事はないからどっちでもいいわ》
「だろうね。てか、黙っててもらうか・・・聞いてくれるかな?」
《聞かせるの!脅してでも!なんなら相手の弱味を握って・・・》
「分かった分かった!てか怖いわ!・・・何とか黙っててくれるように言ってみるよ・・・」
──────とは言ったものの・・・ハア
「どうしたのじゃ?ため息などついて・・・また腹痛か?」
「いえ・・・何となく・・・」
言える訳ない・・・友達と呼んでくれた4人に口封じ(ソフト)をするなんて・・・気が滅入ってそりゃあため息も出るさ
「ロウ坊・・・ロウ坊!」
「へ?は、はい!」
「お客さんじゃぞ」
そう言ってヘクト爺さんが視線を送ったのは街の外ではなく中・・・誰か街を出るのかと思いきや違う意味のお客さんだった
しかもなんで・・・この人が僕に??
「すまんな仕事中に・・・少し話せるか?」
「え?・・・は、はい・・・サラさん・・・」
例の如くヘクト爺さんにお願いして場所を移して話をする事になった
今の僕とサラさんの接点って・・・手紙の事かな?いや・・・まさか・・・あの時仮面の下を見られて・・・
「ふむ・・・この辺でいいだろう」
人気のない場所・・・聞かれたくない話って事か・・・
「えっと・・・一体僕に何の用が・・・」
「単刀直入に聞こう」
うっ・・・久しぶりに見るサラさんのキリッとした顔・・・戦闘中のような怖い顔やローグを見る気の抜けたような顔とは違い整った顔が引き立つ何者も寄せ付けないような凛々しい顔だ
「な、何でしょう・・・」
「君は・・・武闘家なのか?」
「は!?・・・何を突然・・・あっ!」
お、遅かった・・・どういう接点があるか分からないけどジケット達から何かしらの話を聞いたっぽい
「答えよ。君は武闘家なのか?」
ど、どうしよう
どう答えたら正解なんだ?違うと言ったら詮索されそうだし・・・ジケット達からどこまで話を聞いてるか分からない分下手な事は言えないぞ?かと言ってそうだと言ってもややこしい事になるし・・・
うーん、カルオスは遠いし人喰いダンジョンにいる冒険者がまだ出来て間もないダンジョンに来る可能性は・・・低い。やっぱりより良いダンジョンに向かうはずだし・・・後は商人か・・・彼らは情報も商売もひとつにしてる・・・もし僕が魔法剣士という情報を持ってこの街に来たとしたら・・・
「ロウニール」
「あ、はい!・・・えっと・・・」
そうだ!後でカルオスに行ってゲイルさんとダズーさんに口止めしておこう。そうすれば魔法剣士ってのは広まらないだろうし・・・
「実は・・・そうなんです」
「・・・ほう」
「えっと・・・ついこの間やっとの事でマナが使えるようになりまして・・・で、偶然にも適性が操作と強化で・・・」
「操作と強化?」
「あ、いや・・・近接アタッカーとスカウトに適性がありまして・・・その・・・武闘家と言うかなんと言うか・・・」
「うむ!ロウニール・・・君は私の弟子になれ!」
弟子?・・・弟子・・・は、はああああぁぁ??
僕が・・・サラさんの・・・弟子!?
「・・・最近色々と助けられる事が多くてな・・・助けられるのは嫌ではないが、私としては助け合いたいのだ・・・同等とまではいかないまでも背中を預けられる程に・・・強くなりたいのだ。だが強くなるにもがむしゃらに鍛えるだけでは意味がない。心身共に鍛えるには自分を見つめ直す必要があると思ってな。ただ初心に帰り見つめ直すにも限度がある。どうすれば良いか悩んでいた・・・そんな時に偶然耳にしたのだ・・・君が武闘家ではないかという話を」
めっちゃ喋る
しかも話してる内容ってほぼほぼローグの事のような・・・
そっか・・・助けても傷付く人もいるんだな・・・何でもかんでも助けりゃいいってもんでもなくて信用してる信頼してるみたいな素振りを見せつつ助ける・・・例えば『コイツはお前に任せた!』みたいな・・・今度から気を付けよう
「・・・それで僕を弟子に?」
「ああ。ケン達・・・あー、私の知り合いの冒険者を鍛えるのもある意味自分を見つめ直す事にはなるのだがやはり同じ適性の方が何かと、な。それに最近彼らはある方から武具を頂いてめっきり強くなってな・・・あまり訓練は必要なくなったのだ」
あの武器とかあればそりゃあねえ・・・強くもなるわな
「にしても不思議なのだ・・・あの武具は一体どこから・・・しかも私達にピッタリの・・・私のなんて全く同じだし・・・能力は雲泥の差だが・・・もしやローグが・・・」
げっ!あんまり突っ込まれるとよろしくないのだが・・・かと言って僕は何も言えないし・・・
「あ!弟子の件ですよね・・・・・・お断りします」
「なっ・・・なぜ!?強くなりたくないのか?私はこう見えてもBランクであり、ある方のお陰で前よりも強くなった・・・自慢ではないがこの街では上位に入るはず・・・それなのに・・・」
強くはなりたいけどね・・・けど弟子になるとサラさんと一緒にいる時間が長くなる・・・そうなるとボロが出る可能性が非常に高い。どんな事でバレるか分からないから接触はなるべくしないようにしないと・・・
「僕は門番です。冒険者じゃないので・・・」
「強くなる必要がない、と?」
「いえ、強くはなりたいですけど・・・時間・・・そう、時間がないのです!門番は辞めるつもりはないですし、かと言って門番が終わってからだと遅くなりますし・・・」
「ぬるい!」
「はい!?」
「門番は街を攻めてきた敵に対する第一の矢!強くなりたいですけどなどではぬるい!ぬる過ぎる!誰が攻めて来ても守り抜く・・・そんな気概でなくてどうする!あの方なら敵が来ても街に一歩も入れぬだろう・・・それくらいの強さを求めたらどうだ!」
いや、どうだと言われましても・・・そもそも敵って誰?てか、門番の仕事ってその何者か分からない敵が来たら報せる役だと思うのですが・・・主な仕事は出入りする人の通行許可証を確認するだけだし・・・そしてあの方って僕なんですが・・・
「・・・友を守る為に騎士に歯向かったと聞く・・・今回は上手くいったが次どうなるか分からないぞ?相手が多かったら?強かったら?友を守れないでいいのか?」
「それは!・・・よくないです・・・」
「だろう!では決まりだ・・・なに門番の仕事に支障がないようにするから安心しろ」
えっと・・・サラさんってこんな強引な人だったっけ?
ヤバイ・・・このままだと言いくるめられそうだ・・・何か断る理由を・・・
・・・・・・え?なくない?
「では早速やるとするか!まずは基本の型から・・・」
「え?ちょ・・・僕まだ仕事中で・・・ほらさっき門番の仕事に支障がないようにって・・・」
「問答無用!私が必ず強くしてやろう!」
なんでぇ!?どうしてこうなった!?──────
「それで?まだ2人は喋れないのか?」
「当分は無理かと・・・ただ意識は取り戻し手は動くので犯人を聞いたところ・・・」
「互いに同じ事を書いたか・・・喧嘩して殴り合った・・・あんなもの一目で誰かにやられたと分かるのに嘘をつく理由はなんだ?」
「自分で仕返しするつもりか・・・不名誉な相手に負けたか・・・その両方か・・・でしょうか?」
「そんなところか・・・ジェイズ、治るまで減給だと伝えておけ」
「犯人をお探しには?」
「自分の尻は自分で拭かせろ。それが望みなんだろ?」
「恐らくは・・・。では今回の件は『喧嘩となり互いに顎を負傷した』と」
「ああ。後半年・・・順調にいってもらいたいものだな」
「・・・王都が恋しくなりましたか?ケイン様」
「・・・王都が恋しいのではない・・・この村がドブ臭いだけだ──────」




