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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
728/856

723階 不合格

どうしてこうなった


「感謝しろよ?特別にこの俺が手取り足取り教えてやるんだ・・・こんな幸運は二度とないぜ?」


幸運だと?不運の間違いだろ?


コイツの名前はガートン。アケーナギルドに入り浸るBランク冒険者だ


ソレがなぜ俺達に付きまとっているかと言うと遡ること数分前・・・ギルド長からの依頼を受けてようやくアケーナダンジョンへの入場許可証が得られる事になった後、受付嬢であるフェリスがコイツに頼んだからだ


俺達が本当にダンジョンに挑めるレベルの冒険者か見極めてくれ、と


ガートンはある条件でその依頼を受け俺達と同行する事に・・・それを感謝しろだって?感謝して欲しいのはこっちの方だ・・・今にも襲い掛かりそうになっているスミを必死に抑えているのだから・・・


〘マスター、我慢には限界というものがあるようです〙


〘やめれ〙


許可したら瞬殺しそうな勢いだな


とにかくこのBランク冒険者のガートンに俺達がダンジョンに入っても大丈夫と太鼓判を押してもらわないと自由に行動出来ない・・・新人冒険者として行動する反面少し気になる事もあるから詳しくダンジョンを調べたい・・・そうなると毎回付いてこられたら面倒だから今回で認めさせないと・・・


「なあ分かってるよな?俺のさじ加減でお前達はこの街を去らなきゃならなくなる・・・さっきから無視してっけどそんな態度でいいのか?」


「・・・嘘の報告をするかもしれない・・・そういう事ですか?」


「嘘は言わねえよ・・・ただ報告の仕方ってのがあるだろう?多少色を付けるかそのまま報告するか・・・別にどっちでも俺が損をすることはないがお前達は違う・・・ただそれだけの事だ」


まあ確かに同じ内容でも話し方次第で相手の受け取り方は変わってくる


受付嬢のフェリスは新人冒険者をダンジョンに行かせたくないから尚更だ


脅し・・・と言うよりは媚びへつらえって感じだな。特にスミに対して露骨な態度を取っている


中身スライムなんだがな


「おらキビキビ歩けよ!そんなんじゃダンジョンに着く前に日が暮れちまうぞ?」


ガートンが何か言う度にスミの顔にビキッと青筋が走る


ここはダンジョン都市だろ?そんなに急がなくたってすぐに着くだろうに・・・


文句を言おうと思ったがそれでスミがヒートアップしても困ると黙って歩いているとすぐにダンジョンの入口に到着した


高い壁に覆われており頑丈そうな鉄扉と屈強な兵士が立つダンジョン入口・・・ダンジョン都市だけあってダンジョンブレイク対策はきっちりとしているみたいだ


ギルドで貰った許可証を見せて鉄扉をくぐるとかなり広い広場がありその奥にポツンとダンジョンが口を開いて冒険者を飲み込もうと待ち構える


「引き返すなら今の内だぜ?色々と教えてやるが実際に魔物と戦うのはお前達だ・・・何かあっても助ける気はねえ。お嬢ちゃん以外はな」


素直な奴だな・・・性に対して


相手するのも馬鹿らしいので無視して中に入ると久しぶりに嗅ぐ生臭い匂いとジメジメとした湿っぽさに懐かしさを感じワクワクする


「セン、先頭に立ち魔物に備えろ。スミは俺の後ろに立ちセンを援護・・・スカウトがいないから魔物の気配は探れない・・・奇襲に備えて油断せず慎重に進め」


「・・・」


「はい」


3人パーティーで俺達の組み合わせだとこのような陣を組む事が多い。基本的には魔物は進む方向からしか来ない為に先頭は近接アタッカー、最後尾に遠距離アタッカー、そして2人で挟むよう中心にヒーラーを配置する


最後尾はヒーラーの方がいいと言う人もいるがヒーラーは体力と防御力が低く攻撃手段も持たない事が多い為、背後から魔物に襲われたら為す術なくやられてしまうので俺はヒーラーよりも遠距離アタッカーである魔法使いや弓使いなどを配置した方がいいと思っている


それにヒーラーがやられると回復手段を失い詰む場合もあるからやっぱりヒーラーは真ん中に配置するべきだ・・・まあ俺は名ばかりのヒーラーだから守られる必要はないけど監視役がいるから一応ね


「ふん、つまらない奴だ・・・セオリー通りか」


何言ってんだか・・・セオリー通りじゃなければ『常識も知らないド新人』とか言ってダメ出しする気だろ?


小うるさいガートンを無視して先に進むと道が二又に分かれており左が転移陣、右が順路と書かれている看板があった


転移陣・・・エモーンズダンジョンとは違い各階に繋がるゲートではなく10階単位のゲートが並んでいるのだろう・・・まあ今の俺達には関係ないので当然順路の方・・・左の道を選んで進む


しばらく進むと第一魔物発見・・・センは立ち止まると背中に背負った長剣を抜き構え、スミは杖を構える


一応どう戦うかは事前に話してある


センが長剣を使って魔物を斬り、スミはその援護で魔法を放ち傷付いたら俺が回復する・・・普通に戦えば俺の出番どころかスミの出番もないだろうけど今は監視役のガートンがいるからかなり手を抜いて立ち回らないといけない


普通の新人冒険者と見えるように


だが分かっていたけど最初の魔物がコイツとは・・・


〘スミ・・・大丈夫か?〙


〘?はい特に問題ありません〙


〘そ、そうか・・・相手がスライムだからてっきり・・・〙


〘?相手がスライムだと何か問題でも?〙


〘いや・・・ないならいいんだ〙


スミ・・・スラミは俺が初めて創ったスライムだ。だから同じスライムを倒すのは少し気が引けるのではと思ったけどそうでもないみたいだな・・・


〘セン、スライムとはいえ一撃で倒すなよ?軽く斬りつけて間合いを取りトドメはスミに任せろ〙


〘・・・〙


ガートンに聞こえないように念話で話すがセンは念話でも無口を貫き頷くだけ・・・話せない訳じゃないからキャラ作りか?念話くらいは周りに聞こえないから話してもいいのに


〘スミは今言ったようにセンが足止めしている隙にトドメを刺せ・・・だが分かっているな?ギリギリ・・・本当にギリギリトドメを刺せるくらいの威力に抑えるんだぞ?〙


〘お任せ下さい・・・ギリギリ跡形もなく消し飛ばしてみせます〙


いやそれギリギリ感皆無だろ・・・


一抹の不安を抱きながらも始まった魔物との対戦・・・センは核ごとスライムを真っ二つにして追い打ちでスミが跡形もなく焼き尽くす・・・うん完全にオーバーキルだね


「こっ・・・お前達本当にGランク冒険者か?」


センの斬撃は鋭く重く、スミの魔法は無詠唱で威力も高かった・・・そりゃそんな反応になる


下手すりゃB・・・いやAランクと言ってもおかしくないかもしれない。Bランク冒険者であるガートンですら今のやり方で倒せそうだ


「・・・ここに来る前にいっぱい修行したのでその成果かと・・・」


なんて言ってみるが疑いの目で見られた


その後もセンとスミの快進撃(虐殺)は続き3階に辿り着いた時点で戻る事に


俺の活躍の場は全くなかったがこれでギルドの受付嬢であるフェリスも笑顔でダンジョンに送り出してくれるはず・・・だった



「不合格だな。残念だが故郷に帰って細々と冒険者やってな」


「・・・え?」


「そうですか・・・ギルド長には私から伝えておきます。『Bランク冒険者ガートンの付き添いの元ダンジョン攻略に出掛けるが実力不足と判断された』・・・そう言えばたとえギルド長と言えど許可を出せとは言わないはずです」


「あれ?え、ちょっと・・・」


ギルドに戻って来てフェリスがガートンにどうだったか尋ねるとまさかの『不合格』さすがに面を食らって動揺しているとガートンは受付の机に肘を乗せ卑しい笑みを浮かべる


「つーわけで今日の終わりは何時だ?約束通り飯に付き合ってもらうぜ?」


「・・・はい。今日は・・・」


ちょっと待てこれで終わり?新人冒険者がアケーナダンジョンに挑む物語が幕開けと同時に終了!?


「・・・」


「ん?まだいたのかよお前ら・・・さっさと荷物まとめて帰れ・・・こっからは大人の時間だ」


「・・・どうして不合格か聞いても?」


「あん?言っただろ?俺のさじ加減でどうとでもなるってな。俺の独断と偏見で判断した結果・・・お前達はアケーナダンジョンにゃまだ早い」


なるほどなるほどそうかそうか


「ガートンさん」


「なんだ文句あっか?」


「いえいえ・・・ただ今回ダンジョンに付き添って頂けたのでお礼をしたいと思いまして・・・最後に私達に付き合ってもらえませんか?奢りますので」


「・・・先約があるんだ・・・今度な」


「いえいえ荷物まとめてさっさと帰るので時間がないのです。フェリスさんとはいつでも行けるじゃないですか・・・という事で行きましょう」


「お、おい!どこに連れて行く気だ!おい!」


ガートンの腕を掴むと強引にギルドの外へと連れて行く


その際の俺の顔はとても清々しい笑顔だったはずだ・・・先輩冒険者に感謝の意を込めて食事に連れて行くのだ・・・笑顔でないはずがない


「おいおい新人・・・ガートンをどこに連れて行く気・・・」


「{どけ}」


ギルドの出口を塞ぐ冒険者にお願いしてどいてもらうと俺達は外に出て人気のない路地へと向かう


そして・・・


「て、てめえら俺をどうするつもりだ!まさか・・・」


「言ったでしょ?奢るから付き合って下さい、と。美味しいですよ・・・私達の行きつけの店は」


そう言ってガートンを掴んでいた手を離すと胸をトンと押した


するとガートンはよろけ背後に開いていたゲートに飲み込まれる


「さて・・・俺達も行くか」


俺達も続いてゲートを通るとそこは豪華絢爛な広間でありメイド達がズラリと並び執事が頭を下げる


「お帰りなさいませ旦那様・・・こちらの方は?」


「客人だ丁重にもてなせ」


「・・・あまり機嫌が宜しくないようで」


「ああ・・・コイツのさじ加減で冒険者ギルドをクビになったからな・・・肉片にして今日のメインデッシュにしたいところだ」


「それはそれは・・・公爵ロウニール・ローグ・ハーベス様にそこまで言わせるとは大した方のようですね」


「まったくだ・・・俺は風呂に入ってからサラ達に会ってから食事にする。こいつの事は任せたぞ」


「畏まりました」


執事のサーテンにガートンを任せ、俺は風呂へと急いだ


赤子の時は免疫っていうのがなくて外に出るのも危険らしいからな・・・ダンジョンに行った汚れた体では会うのは避けた方がいいだろう


さてガートンは俺のおもてなしを気に入ってくれるだろうか・・・もしかしたら気持ちが変わって不合格から合格になるかも・・・な──────

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