721階 フリップとアーノン
《珍しいじゃねえかお前から連絡よこすなんて》
「私も出来ればしたくなかったさ・・・国に喧嘩売って地方に飛ばされたヤツが今じゃ国2番目のダンジョン都市のギルド長・・・人生何がどう転ぶか分からぬものだ」
《運も実力の内だぜ?アーノン。したくなかった理由は嫉妬か?》
「1番が2番に嫉妬する理由がないだろ?したくなかった理由は自慢話を延々と聞かされる気がしたからだ・・・昔からお前は図体の割に話が長い・・・特に自慢話が、な。美人の奥さんを娶った時と子供が産まれた時・・・あれはもうトラウマものだ」
《図体は関係ねえだろ・・・お前も少しくらいは浮いた話くらいねえのかよ・・・まさかギルドの通信道具を使って結婚の報告とかじゃねえだろうな?》
「ふざけるな。そんな職権乱用などすると思うか?」
《・・・しねえわな。クソ真面目で一途・・・それ以外に何の取り柄もないお前がな》
「褒め言葉として受け取っておこう。運でのし上がったフリップギルド長」
《お前・・・相変わらずだな。んで用がないなら切るぞ?2番は何かと忙しいんだ・・・余裕ぶっこいている1番を抜かす為にな》
「てっきりエモーンズが1番だと言ってくると思ったが・・・どうやらギルド長になり少しは成長したようだな」
《不毛な言い争いが嫌だっただけだ。目の前にいたらぶん殴ってるところだぜ・・・さっさと用件を話せ》
「・・・最近エモーンズのダンジョンで何か問題が起きたりはしていないか?」
《問題?》
「例えば以前より冒険者がやられてしまうとか・・・」
《・・・ないな。どっちかって言うと以前より死者は減っているというか皆無だ。そんなだからかダンジョンを舐めちまう冒険者が大勢いて・・・そっちに頭を悩ませてるところだよ》
「そうか・・・」
《何かあったのか?・・・って例えがひとつって事はそういう事か》
「そういう事だ」
《原因は?》
「それが分からないからわざわざしたくもない連絡したんだ。汲み取れ」
《っの野郎・・・チッ・・・冒険者は何て言ってんだ?》
「『以前と変わりない』と」
《つまり以前と変わりないのに死者だけが増えてるって訳か・・・深刻だな》
「ああ・・・理由がないと対処のしようもない・・・職員は『組合がなくなったせい』と言っているが・・・」
《確かに組合がなくなった事により冒険者同士の関係は希薄になったが・・・それだけで死者が増えるか?》
「ギルドとしてはその辺しか変化はないからな。疑うのも分かるが確証はない」
《・・・なるほど・・・俺に連絡を寄越したのは同じ状況下の所で同じような状況になっていれば確証が持てる・・・そう思ったからか》
「そうだ。しかしそうではないとすると別の・・・アケーナダンジョンで何かが起きているのかもしれない」
《実際に潜っている冒険者が気付かない何かが・・・何か対策はしているのか?》
「対策も何もギルドで出来る事は少ない・・・腕利きの冒険者に気付いた事は都度教えてくれと頼んでいるがそれくらいだ」
《・・・腕利きか・・・まったく何かに取り憑かれているんじゃないのか?アイツは・・・》
「?・・・アイツとは?」
《・・・あまり詳しくは話せねえがエモーンズから腕利きの冒険者がそっちに向かっている》
「エモーンズから?それがどうした?」
《そいつならいとも簡単にアケーナで起こっている事を解決出来るだろう・・・多分な》
「なに?・・・もしかしてSランク冒険者のキース・・・」
《違う違う・・・ランクは・・・Gだ》
「・・・ふざけているのか?」
《ふざけちゃねえよ。まあ物は試しで頼んでみろ・・・俺の言っている意味が分かるはずだ》
「・・・にわかに信じ難いが・・・今は藁をも掴む思いだ・・・一応気には掛けておく。それでその者の名は?」
《・・・そいつの名は──────》
ギルド長はどうして・・・
いきなり呼び出されたと思ったら今後訪ねて来るであろうGランクの冒険者が来たら知らせよなんて・・・今はそれどころじゃないのに何かあるのかしら?
組合が解散となりアケーナダンジョンでの事故が増えた・・・私が受付をしてからここまで多くの冒険者が事故にあった事なんて一度もないのに・・・タイミング的にはやっぱり組合が関係していると思う
組合がなくなってからギルド内は殺伐としている
これまで通りみんなで協力して助け合って頑張ればきっと上手くいくのに・・・
「フェリスちゃーん」
上手くいくのに・・・
「ねえ聞いてる?」
上手く・・・
「だから今日終わったら食事でも・・・」
・・・
「フェリスちゃ」
「うるさい!」
「えっ?」
「あっ・・・いえ、すみません・・・少し考え事をしていたので・・・」
目の前にいる人はガートン・・・私をしつこく誘って来る人で軽薄な見た目とは裏腹にアケーナでは一目置かれるBランク冒険者
無下に断る事も出来ずにいつも適当な事を言ってあしらっていたけど・・・もういい加減にして欲し・・・
「すみません」
今度は何!
「・・・あ、取り込み中でしたか?アケーナダンジョンに行きたいのですが・・・」
ついイライラしてキッと睨むとこれまで見た事のない冒険者が申し訳なさそうにこちらを伺っていた
「だ、大丈夫です!アケーナギルドにようこそ!ダンジョンですか?ではギルドカードを拝見させて頂きます」
やってしまったと慌ててガートンを押しのけ一気に捲し立てると彼ら・・・男性2人と女性1人の冒険者パーティーはそれぞれ受付の上にギルドカードを置いた
「・・・え・・・」
私の目に飛び込んで来たのはGランクという表示
たまに冒険者になりたてでアケーナに訪れる冒険者はいるのだけど今は時期が悪い。もし右も左も分からない冒険者が今のアケーナダンジョンに挑めばどうなるかは目に見えている・・・以前のように組合があれば組合に入る事をおすすめしてちゃんとした指導を受けてから挑めたけど・・・
「・・・申し訳ありませんが入場許可証は出せません」
「え?なんで・・・」
「そ、それは・・・」
どうしよう・・・答えを用意する前に拒否してしまった
本来ならどのランクでも入場料さえ払ってもらえれば許可証は出していた・・・断る理由なんてなかったから
けど今はGランク冒険者だけでは厳しい。でも詳しく話す事も出来ないしどうしたら・・・
返答に困っていると不意にガートンと目が合ってしまう。すると彼は何を勘違いしたかニヤリと微笑み先頭に立つ冒険者に歩み寄るとその肩に手を乗せた
「さっさと帰んな坊主・・・ここは天下のアケーナギルドだぜ?新人が遊びに来る場所じゃねえんだよ」
・・・何て幼稚な言い草・・・しかも流れ的に私が言わせているような感じになってるし・・・最悪・・・
「・・・遊びに来たつもりはありませんよ?一応これでも・・・」
「おい!・・・俺が帰れと言ったら帰る・・・それがここでの常識だ」
そんな常識ありません
「・・・本当ですか?受付嬢さん」
「え?・・・あ・・・その・・・」
まさかここで私に振ってくるとは・・・てっきりガートンを恐れすごすごと帰ってくれるものかと・・・
どうしましょう・・・そうですと言えば嘘になるかと言って違うと言えば彼らに許可を出さなくてはならなくなる・・・・・・・・・となればやはり・・・
「・・・そうです。それがこのギルドのしきたりです」
私が嘘を言うことにより彼らの命が助かるなら・・・喜んでその汚名を着せられましょう!
「なるほど・・・という事はこのギルドは不正をしている・・・という事でよろしいですね?」
「はい・・・え?いやギルドではなく私が独断で・・・」
「しきたりとは貴女のしきたりでしたか・・・でもそれを見て見ぬふりをしているか気付いていないか分かりませんがどちらにせよ貴女の上司の責任です。貴女の上司はギルド長ですよね?でしたらやはりギルドに問題があるかと」
何この子・・・新人のくせに可愛くない!
ギルド長が見て見ぬふりをしていたら同罪、気付かなかったら無能の烙印・・・どちらにせよギルド長にご迷惑が・・・ガートンになんか頼らなければ良かった・・・って私からお願いした訳じゃないけど
それよりも今はどう返答すればいいか考えないと・・・この子・・・そう言えばランクばかりに目がいって名前を見てなかった・・・この子は・・・『ロウ』でこの子は・・・ん?『ロウ』!?確かギルド長に言われていた冒険者の名前も・・・Gランク冒険者のロウだ!
「も、申し訳ありません!一度ギルド長に会ってもらえませんか!?」
「??・・・ええ、それは構いませんが・・・」
突然話が変わりキョトンとするロウ
その横でガートンが慌てて身を乗り出して来た
「ちょ、ちょっと・・・フェリスちゃん!?」
「テナースさん!受付代わりにお願いします!ガートンさんはダンジョンに行きたかったらテナースさんにお願いしてください。では参りましょう」
何か言いたげなガートンを無視して同僚に受付を任せ私は3人をギルド長の元に連れて行く
彼の反応からギルド長と約束があった訳じゃ無さそう・・・じゃあなぜギルド長は彼らが来る事を知っていたの?もしかして彼らは実は国が派遣した調査員で秘密裏にアケーナダンジョンを調べに来たとか?
疑問に思いながらも言われた通りギルド長の部屋へと案内し部屋の前に辿り着くとノックをした
返事が返って来た為に3人と共に中に入るとギルド長は怪訝な顔で私の後ろに立つ3人を見た後で私を見た
「・・・なんだ?」
「え?・・・あの・・・彼がGランク冒険者のロウと名乗りましたので・・・違いましたか?」
「なに!?・・・随分と若いな・・・いや、大丈夫だ。私はこの者達に話があるから君は受付に戻りたまえ」
「は、はい」
気になる・・・けどテナースに受付を任せたままだし同席させてくれと頼んでも断られそうな雰囲気・・・私は泣く泣くギルド長の指示通り彼らを残して部屋を後にした
ギルド長が個人的に冒険者を呼び出すのは珍しい。他のギルドから来た新人冒険者なら尚更・・・一体彼らは何者なの?
目の前に立つ冒険者達は見た目からするとまだ若い・・・新人冒険者であるのは間違いないだろう
後ろに立つ長身の彼はそこそこ出来そうだが他の2人はとても腕が立つようには見えない
しかしアイツは真剣な場面で冗談を言うヤツではない・・・
という事はつまり彼らには何かがあるという事・・・何も無かったら・・・恨むぞフリップ!
「あの・・・お・・・私達に何か?」
「・・・一旦そこの椅子にかけてくれ。話はそれからだ・・・エモーンズから来たGランク冒険者のロウよ──────」




