717階 影響力
死なないダンジョンで緊張感を持たせるにはどうすればいいか・・・シューティングスターの奴らに言われた言葉が頭から離れず最近その事ばっかり考えてしまうな
「・・・おい!聞いてんのか?ロウニ」
「ん?聞いてなかった」
「こっ・・・全会一致で魔鉄鋼の魔道具を受け入れるって言ってんだよ!」
おっと、そうだった
今は各国の王を集めてサタン大陸の報告会と今後どうするかを話し合っている最中だった
んで、一番の問題が『魔鉄鋼使用の魔道具』
もちろんそのまま使う事はしない。研究して実用性を上げる必要があるからな
魔力を使うっていうのは一見すると効率が良いように思えるが実はそうでもない。魔力の濃度が濃い場所なら稼働するが薄い場所では稼働しないなら意味がないからな
下手をするとサタン大陸の帝都のようにわざと魔力濃度を濃くする・・・なんて事も起きかねない
魔力濃度を濃くする為には負の感情を持たせる必要がある・・・人間の生活を快適にする為の魔道具を使用するのにそこに住む人間を不幸にしなければならない・・・何ともまああべこべな状態になる訳だ
そうまでして稼働させたいと思わせる魅力がサタン大陸産の魔道具にはある・・・だからこそ研究して改良しなければ世に出すのは難しい
「いいのか?」
「もちろん大前提は『問題を解決した物のみ』ですが・・・マナだとどうしても人の手で注ぐ必要があるのに対して貴方の持って来た物は大気中の魔力を自動で吸収し動く・・・これはかなり魅力ですし」
「問題は市販すればカラクリに気付く者が必ず出て来るといった点だね。そしてカラクリに気付いた者が悪用するという流れが必ず起きる」
少し話しただけで魔道具の活用方法を思い付いた2人・・・フレシアとデュランは積極的だ。それでも懸念するところはちゃんと理解している様子
逆に興味なさそうなのはワグナとジーク
元々魔道具を使わないラズン王国は賛成も反対もする気はないみたいだ。だからこそ必要な国があるのならと賛成の方に傾いている感じでファミリシア王国のジークは魔道具に関してあまり理解してないから周りの意見に合わせたみたいだな
んで否定的なのはスウとサシャ
スウは聖王国として表面上の否定・・・魔力を使用する魔道具に忌避感があるらしく他の国が使用する事に異論はないが自国では使用するか定かではないと。サシャは格差の心配をしていた。今リガルデル王国では各街や村の格差を埋める政策に取り組んでおり魔道具が導入される事によりその格差がまた広がってしまう事を懸念している
二つの国とも自国での使用に否定的なだけであって他国が使用する分には賛成というスタンスだ
だが果たして他国が使用して自国が使用しないなんて出来るのだろうか・・・必ず魔道具を使用している国の情報は入って来る・・・商人だったり旅人だったり他国から来る人間を規制する事は出来ないからだ
そうなると導入しない事に国民が不満を持ち結局は導入する事になる気がするけど・・・
その場は今後の魔道具の研究次第という話で落ち着き解散となった
各国の王を送り届け、最後にスウと共にフーリシア王国に戻ると話があると引き止められ応接室へと向かった
「あ、お帰り~」
応接室に入るとソファーで寝そべっている我が妹がいた
「ここはお前の家か」
「うるさいわね。王会合が終わったらバカ兄貴を連れて帰って来るって言うから待ってあげてたのにヒドイ言い草ね」
「頼んでないし・・・って事は元から俺に話があったのか・・・てっきり魔道具について詳しく聞きたいのかと」
王会合が始まる前は魔道具について知らないはずだから事前にシーリスに言うはずないしな・・・となると何の用だろ?
「魔道具について聞きたいことは沢山ある・・・が、それよりも先に聞かねばならぬことがある」
「魔道具?」
「あー、シーリスには後で話す・・・で、聞かねばならないこととは?」
スウが俺に聞きたいことってなんだ?特に問題起こしてないし・・・てかサタン大陸に行ってたから問題を起こすも何もないしな
「・・・子が産まれたらしいな」
「へ?」
何を聞かれるかちょっとドキドキしながら待っていたら・・・子?
「そろそろとは思っていたが風の噂でもう産まれたと聞いてな・・・こちらから聞くのは憚られるので卿からの知らせを待っていたが・・・」
「そうそう・・・派手子はともかく実の妹にも知らせないってどういう事?」
「ぬっ・・・妹よりも国に報告すべきであろう?卿は公爵ぞ?つまり妾の身内も同然・・・兄を兄とも思わぬ妹よりは近しい存在であろう?」
「血が繋がってないのにズケズケと身内とか言わないでくれる?派手子~」
「なんだ?図星をつかれて焦っておるのか?妾に血の繋がりを説くのは悪手ぞ?地味子よ」
いきなり2人は睨み合っているが・・・なんだこれ
「悪かったよ・・・報告しなかったんじゃなくてする暇がなかったんだ。俺がサタン大陸に行ってたことは知ってるだろ?」
「帰ってから数日経つであろう?通信道具もあるし一報くらいする暇はあったのではないか?」
「そうよそうよ!どれだけ心配してたか・・・」
「シーリス」
心配?・・・そうか2人はローズのことを知っているから聞くに聞けなかったってわけか・・・
「・・・無事産まれたよ・・・男の子だ・・・心配かけたな」
「そうか!・・・いや、無事に産まれたのならそれで・・・」
「甥っ子って事か・・・名前は?」
「アース・・・アース・ローグ・ハーベスだ」
「・・・アース・・・良い名前ね」
2人とも喜んでくれているのが妙に嬉しい・・・そうだよな色々あって報告してなかったけど色んな人に知らせないといけなかったな
「それでいつお披露目するのだ?公爵の子息となるとかなり盛大にせねばなるまい・・・しかも卿は他国とも繋がりがある・・・国を挙げてどころか大陸を挙げて祝わねば・・・」
「そんなのよりアタシだけでも会わせてよ!ゲートだったらすぐでしょ?」
「むっ・・・そんなのよりとは・・・だがまあ妾も先立って一目見るくらいはしたいものだが・・・」
「うーん・・・どっちもサラと相談してからだな。授乳やら何やらで寝れてないから相当疲れが溜まってて・・・」
「?・・・乳母に任せているのではないのか?」
「乳母?」
「サラは卿の正室であろう?乳母を募集し雇えばいい」
「ああ・・・てか正室とかそういうのって関係あるのか?」
「貴族の正室は主人不在の時の代理にもなる。屋敷に籠る主人ならともかく卿のような色々外を飛び回る主人なら代理をする機会も多かろう?故に正室は必ずと言っていいほど乳母を雇う。もちろん側室でも雇っている者は多い・・・子育ては大変と聞くからな。全てを任せないまでも手伝わせたりしている」
なるほど・・・けど
「乳母は雇わない」
「なに?」
「サラが一時期メイドしてたの知ってるだろ?あれは趣味とかじゃなく子供が出来た時に自分の手で育てたいからその修行の一環でメイドをしていたんだ。だから・・・」
「メイドが修行とは・・・しかしその気持ちは分かる・・・子に寂しい思いをさせるのはいつの世も親の勝手な都合だからな・・・」
スウの幼い頃も乳母に育てられたのだろうか・・・多分そうなんだろうな。寂しそうな表情を見れば何となく分かる
「んじゃサラさんに聞いてよ」
・・・この妹は・・・
「シーリスお主・・・」
「勘違いしないでよね?アタシだって今の話を聞いて無理に会おうなんてしないし聞くことでサラさんに気を遣わせるかもしれないなんて分かってる・・・けどバカ兄貴には話せない事があるかもしれないし手伝える事があるかもしれないでしょ?気にして遠くから見守るなんて他人のすること・・・アタシの性に合わないしそんなの家族とは言えないわ」
「・・・意外と考えておるのだな」
「意外ととは何よ意外ととは・・・これでも宮廷魔術師・・・国の頭脳よ?」
「・・・我が国の行く末が急に不安になったのだが・・・」
「埋めるわよ?」
「やってみよ・・・いつまでも上だと思うなよ?」
「いい度胸ね」
「やめろやめろ・・・王と宮廷魔術師のケンカなんてシャレにならん・・・」
2人とも高レベルの魔法使い・・・ケンカしたらこの城が崩壊しかねん
「ふん!・・・まあ無理にとは言わないから聞くだけ聞いといて。個人的に会うのはともかくお披露目会や生誕祭はしばらく経ってからになりそうね」
「お披露目会ならともかく生誕祭って・・・」
「記念日に指定しても良いぞ?他の国も追従するだろう・・・何せあのロウニール・ローグ・ハーベスの子の誕生だ。それだけ卿が注目されているということだ。その子息も然り・・・何せ大陸を滅ぼせる者に勝ったのだ・・・注目し気を遣っても遣い足りぬだろうよ」
「そうか?王会合じゃ誰も俺に気を遣っているようには見えなかったけど・・・」
「何を言っておる・・・自覚がないのが恐ろしいな」
「あん?」
「ああして各国の王が集まるのがどれだけ大変か分からぬのか?ゲートがあり数時間で終わるとはいえ都合を合わせるのはかなり至難の業・・・しかし『ロウニール・ローグ・ハーベスが』招集したからこそ他の予定をズラしてでも合わせたのだ・・・王が暇だと思ったら大間違いだぞ?」
・・・そう言えばすんなり日程が決まったな・・・てっきりサタン大陸の話に興味があったから参加したのかと思ったけど・・・
「卿だからこそ・・・と自覚してもらわねば敵わん。大事な予定が入ってたとしてもズラすしかないからな」
「・・・言えばいいじゃん・・・その日は予定あるとか・・・」
「各国の王との兼ね合いもあるし卿なら『じゃあ不参加で』と言い兼ねん。それで言葉を覆し『参加する』と言ったら言ったで『参加出来るのに断った』という印象を持たれても困るしな」
「いや別にそこまで・・・」
「それに不参加の時に得る不利益を考えれば参加せざるを得ない・・・ファミリシア王国が不参加の時に何が決まったか忘れたとは言わせんぞ?」
ファミリシア王国が不参加の時?・・・ああ『大陸の守護者』の件か・・・でもあの時はファミリシア王国が・・・いや関係ないか・・・ファミリシア王国がどんな状況かは関係なく一国が不参加の時に重要事項が決められたって印象が残る・・・となると参加しなければ同じような事が起きると考えるのが自然・・・知らぬ間に自国にとって不利な事を決められても困ると参加せざるを得ない・・・か
「何でも聞ければいいのだがどうしても言葉の裏を読むようになってしまってな・・・各国の王も卿と顔見知りの為聞こうと思えば聞けるのだろうが聞かずに言葉の裏ばかりを考えてしまう・・・今回の魔道具の件もその為の全会一致であろうな」
「魔道具?魔道具がどうしたの?」
「この大陸以外に大陸があり・・・その大陸をサタン大陸と呼んでいるそうだがそこである魔道具が発達していた・・・魔力を使う魔道具が、な」
「へぇ・・・いいじゃない。魔力なんてそこら辺に溢れているでしょ?それを使うなら・・・」
「・・・その空っぽの脳みそでよく考えよ宮廷魔術師・・・これまであったものが別の用途に使われるのだぞ?」
「空っぽって・・・いいからもったいぶらずに言いなさいよ!」
「・・・ハア・・・例えば空に浮かぶ雲を利用出来る魔道具があったとしよう・・・その魔道具を使用し続ければどうなる?」
「雲?・・・別に雲ならいいんじゃない?」
「・・・雲は雨を降らせ陽の光を遮ってくれる。一見無関係に浮遊しているように見えるが人間が正常に暮らすには欠かせぬのだ。もし万が一この世から雲がなくなれば数年・・・いや一年も経たず人間は滅亡するだろう」
「またまた~・・・・・・・・・マジ?」
そうなのか・・・俺もシーリスと同じでそこまでとは思わなかった・・・けど魔力を使う魔道具とどう関係が?
「おそらくな。要は普段気にも留めてないものが重要な役割を担っている場合がある・・・魔力も同じくその類かも知れぬという事だ」
「そりゃ魔力がなくなればマナは使えなくなるけど・・・他にも何かある可能性があるってこと?」
「その可能性は十二分にある」
「けど魔力を使うと言っても全てじゃないでしょ?だったら無くなるって考えなくてもいいんじゃない?」
「今は、な。だが将来的に普及し魔力がなくなり異変が起きたら?使用を止めよと言っても便利な物程手放し難い・・・結局手放せずその異変により・・・」
「ならなんで『全会一致』なんだ?会合の時にそこまで考えていたのならそれを言えば・・・」
「理由は大きくふたつある・・・ひとつは卿からの話だったから・・・もうひとつは・・・シャリファ王国の存在だ」
「シャリファ王国?」
「フレシア国王の目を見なんだか?魔道具の可能性に目を光らせておった・・・もしや凍てついた土地を何とか出来ると思うたのやも知れん」
「魔力を使う魔道具で?」
「うむ。それがどういった物かは分からぬが常日頃頭を悩ましていたであろうフレシア国王はすぐに閃いたのだろう・・・その魔道具の使い途が」
作物の育たない不毛の大地・・・他国に頼ることなくどうにかしたいと常に考えている事だろう。そんな中で降って湧いた魔力で動く魔道具の話・・・フレシアなら短い間でどういう魔道具が必要なのか考え付いたかもしれないな
「じゃあスウとして・・・フーリシア王国女王としての意見は・・・」
「反対も反対・・・大反対だ。魔力は人間が扱っていいものではない・・・魔力は魔族が扱うものだ」
「じゃあ・・・」
「だが・・・卿は例外かも知れぬ。卿なら魔道具を研究し人間が扱える物に変えてくれる・・・そんな期待を込めて賛成とした」
「・・・責任重大だな」
こりゃ研究だけで数年・・・いや数十年費やさないと駄目かも・・・サタン大陸で起きた事の二の舞にならないように・・・そして人々が幸せになるような魔道具・・・ハア・・・気長にやるしかない、か──────




