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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
72/856

69階 墓前にて

「マジ・・・かよ・・・」


「うそでしょ?」


「・・・」


「そっか・・・そうなんだ・・・」


僕がジケット達を真っ先に案内したのは・・・ラックの居る場所・・・墓地


ラックの墓の前で立ち止まると彼らは墓標に書かれた名前を見て絶句した


「どうして・・・」


「・・・彼の・・・ラックの妹さんの事はみんなも知ってるよね?・・・ラックが帰って来てすぐに妹さんの容態が悪化して・・・ラックは無理してダンジョンで稼ごうと・・・それで・・・」


「マジかよ・・・」


「え?ちょっと待って・・・ラックの横に書かれてる名前って・・・」


「うん・・・ネルちゃん・・・ラックの後を追うように・・・」


「くっ!」


「ネルちゃんずっと具合悪かったもんね・・・ラックはそれを治そうと・・・そっか・・・」


どうにも出来なかった現実・・・後悔しても2人は生き返らない


明るいニュースを期待してエモーンズに戻って来たのにいきなり現実に引き戻されたって感じだ


「ロウニールはラックとは?」


「うん・・・一緒に食事した・・・でもすぐに・・・」


「そっか・・・悔やまれるぜ・・・もっと早く戻ってくれば・・・」


「そうね・・・最後に会ったのはこの街を出る時だっけ?・・・冒険者してればいずれはって思ってたけど・・・早いわよバカ」


ああ早い・・・早過ぎる・・・もっと話したかった・・・学校で話せなかった分・・・もっと・・・



「おいおい・・・復帰早々サボりか?ロウニール」


振り返り声のした方を見てみると、よく僕をイジメていたデクトとファムズの2人が僕に向かって歩いて来ていた


もしかして僕が帰って来たのを聞いて探して来たのか?


「・・・ヘクトさんには・・・許可を得ています・・・」


「ああ?俺は許可したつもりはないけどな・・・門番の仕事舐めてんのか?ロウニール!」


「・・・舐めてません・・・」


「あ?口答えか?知り合いの前だからって調子に乗るなよ・・・腕立て100!今すぐやれ!」


なんで・・・コイツは・・・


その時──────ジケットが僕とデクトの間に入る


「ちょ、アンタ何言って・・・」


「黙れ小僧・・・これはこの街の兵士の問題だ。それとも牢屋にぶち込まれたいか?」


「はあ?なにそれ?兵士だからって何でもかんでもまかり通ると思ったら大間違いだからね!法に触れなきゃ牢屋なんて・・・」


よせ・・・ダメだ・・・ハーニア・・・


「法に触れなきゃ?大したもんも持ってないガキが一丁前な事を言うじゃないか」


「なっ!?」


「てめえ!!何しやがんだ!」


「なにって・・・胸を突き出すから揉んでやっただけ・・・揉んで欲しかったんだろ?このアバズレが・・・っ!」


あぁ・・・ハーニアが・・・


ジケットが僕とデクトの間に入った後、更にハーニアがジケットとデクトの間に・・・するとデクトは突然ハーニアの胸を鷲掴み、次の瞬間・・・ハーニアはデクトの頬を叩いてしまった


「・・・法に触れたな?」


「はあ!?アンタが私の胸を・・・」


「どこに証拠がある?仲間内ででっち上げるつもりか?『胸を触られ思わず殴りました』と・・・誰がそんな戯言信じるって言うんだ?どうせお前らはあれだろ?このチンケな村で生まれてぬくぬく育って・・・他の場所で冒険者ごっこして通用しなかったから帰って来た負け犬・・・そんな奴の証言と王都で騎士団に所属している俺達の証言・・・どちらを信じると思う?お前は突然現れて俺を殴った・・・騎士団員を傷付けるのは重罪・・・法に触れたんだよ!バカ女が!」


「このっ・・・」


「ふざけんじゃないよ!」


「ムッ」


「・・・最低・・・」


「おーおー、今の内に喚け喚け。どうせ牢屋の中じゃ誰にも声は届かない。隅々まで取り調べしても誰も文句を言わない。泣き叫ぼうが誰も助けに来ない!」


「・・・誰が連れて行かせるかよ・・・この腐れ外道が!」


「じゃあどうする?連行されそうになっている仲間を助ける?美談だな・・・でも実際は犯罪者を助けようとするただの犯罪・・・殺されても文句はないよな?」


デクトが・・・剣を抜く


圧倒的な圧力・・・これが・・・騎士・・・


「どこまで・・・」


「ロウニールと同期なんだろ?ならたかだか冒険者になって1年ちょっと・・・そんなペーペーが俺に敵うとでも?」


「くっ・・・」


「この女は連れて行く・・・文句があるなら兵舎まで来い。牢屋の中でヒーヒー言ってる姿を見せてやるよ」


「ふざっ・・・こ、離せ!!」


「ロウニール!お前にも見せてやるから絶対来いよ!同期のそんな姿、なかなか見れねえだろ?それとまだやってねえのか?腕立て100!さっさとやらねえと連れてく女が2人になるぞ?」


あ・・・あ・・・ぼ、僕は・・・


「チッ・・・相変わらず鈍くせえ奴だ・・・てか、なんでこんな墓地で同窓会開いて・・・あー、なるほど・・・この墓標の奴も同期か・・・弱いくせに調子に乗ってダンジョンで死んだ同期とか?こんな村の出身で冒険者として大成する訳ねえだろ。身の程を知れってことだ。お前らもロウニールのように俺達の言う事を聞いてりゃいいんだ。大人しくしてりゃ3日くらいで返してやるよ。大していい女でもねえしそれくらいで飽きんだろ。それともこの女の為に俺を襲ってこの同期の奴の隣に入るか?俺はそれでも構わないぜ?どうせお前らなんて何かを成すなんて到底無理・・・意味もなく死ぬだけだ・・・このお友達のようにな!」


・・・


「・・・マグ・・・援護しろ・・・」


「おう!」


「やる気か?おっと、暴れんな・・・さもないとここで犯すぞ?それともあれか?死んじまったお友達にサービスで見せてやるか?なかなかお友達想いじゃないか」


「離せ!このゲス野郎!」



頭の中が真っ白だ


目の前の光景は現実?


デクトはハーニアの髪を掴みながらジケットを軽くあしらい剣の柄で殴り魔法使いながら体格のいいマグが殴りかかると簡単に蹴り飛ばす


その間、もう1人のファムズはニヤニヤしながら見てるだけ


エリンがデクトに何か叫ぶと見ているだけだったファムズが彼女に近付く


そしてエリンの髪を掴み引き摺り倒すと顔を・・・踏みつけた



僕はその光景を見てるだけ


体が動かず・・・見てるだけだったんだ・・・



ラックをバカにされても・・・僕なんかを友達と呼んでくれたみんながやられても・・・僕は・・・見ている事しか・・・出来なかった・・・


「ん?まだ腕立てしてねえのか?このグズが!ささっとやれ!死にてえのか!」


僕は・・・僕は・・・


「・・・ロウニール・・・逃げて・・・」


エリン?


ファムズに顔を踏みつけられなが僕に・・・逃げて?


なんで・・・


「早く逃げなさい!ロウニール・・・あなたまで・・・」


「うるせえ!黙ってろ!」


「きゃあ!」


ハーニアまで・・・


逃げる?


そうだ・・・逃げる・・・誰か助けを呼んで・・・


だって僕は・・・無力だから・・・



そう思った瞬間()()()感じた感覚が蘇る


ラックがリザードマンに挑んだと聞いてすぐに向かったのに・・・僕は間に合わなかった


倒れていたラックを抱き起こしたのにすり抜けていくような感覚


その時感じた無力感・・・その感覚が・・・蘇る──────



「あん?誰が歩いていいって言った?てめえがやるのは歩くことじゃない。デクトに言われた通りその場で腕立て・・・おい!聞いてんのか!!」


「ロウニール・・・ダメ・・・」


なんでエリンがこんな奴に踏まれてんだ?


僕の友達が・・・なんで!なんで!!


「どうやら指導が足りなかったらしいな。いいぜ、かかって・・・プグッ!!」


エリンから足を離して近付いて来たファムズの顎に拳を撃ち込む。マナで覆われた鉄の拳を


マナで覆っても感触はあるんだな・・・骨が砕けたような音と感触がした


ファムズは1mくらい真上に飛び、下に落ちて来た


気を失ったからか脚が地面に着くと力なくぐにゃりと足が曲がりそのまま地面に座り込む


「ロ、ロウニール!!」


ハーニアの声


振り向くとデクトが剣を片手に僕の名前を叫びながら駆け寄って来ていた


僕も剣を・・・いや、殺すのはマズイ


柄に手をかけたけど、思い直して手を離すと向かい来るデクトに向かって身構えた


デクトは何かを叫びながら容赦なく僕に向かって剣を振り下ろす


僕は冷静にその剣を躱しファムズに喰らわせたように顎を撃ち抜いた


デクトはファムズとは違い真上には飛ばず後ろに派手に吹き飛ぶ・・・感触も違うし効いて・・・ない?



「・・・す、すごい・・・」


ハーニアの呟く声が聞こえふと我に返る


「あ・・・」


ファムズは崩れ落ち微動だにしない


デクトも仰向けに倒れたまま


・・・やってしまった・・・


なんでだろう・・・動かなかった体が急に動いて・・・


「イテテテテ・・・クソ野郎・・・って、あれ?」


「むう・・・?」


ジケットとマグがほぼ同時に立ち上がると今の状態を見て首を傾げる


自分を軽くあしらった騎士がいつの間にか倒れてるんだ、不思議にも思うだろう


「え?なに?何があったんだ?」


「ジケット・・・ロウニールが・・・」


「え?ロウニール?・・・!あっ!」


「・・・よくも・・・」


やっぱり!


手を付き立ち上がろうとするデクトを見てジケットが声を上げる


ファムズの時と違って骨を砕いた感触がなかった。多分だけど派手に吹き飛んだのは自ら衝撃を逃がす為に後ろに飛んだのだと思う。腐っても騎士ってところか


「ロウニール!!貴様よくも!!」


そう言えば今まで聞こえなかったデクトの声がようやく聞こえてきた


少し冷静になれたのかな?


それにしても人を殴ったのは初めてだ・・・剣で斬るのとは違って衝撃がダイレクトに伝わってきて・・・あまりいい気がしない・・・けど、相手にどれだけダメージを与えたか剣よりも分かりやすい気がする


「黙ってないで!何か言ったらどうだ!ロウニール!!」


「ロウニール!逃げろ!!」


喚きながら近寄って来るデクト


僕を心配して逃げろと言ってくれるジケット


大丈夫・・・僕はもう・・・誰も失いたくないから──────



戦うよ



「いい度胸だロウニール!騎士の強さを思い知らせてやる!!」


「騎士ってそこで気絶してるファムズの事?それとも僕に呆気なく吹き飛ばされたデクト・・・お前の事?」


「お前・・・デクト様だろうが!!」


《ロウ?分かってると思うけど殺しちゃダメよ?》


分かってるよダンコ。殺さなきゃ・・・多分大丈夫


顎を撃ち抜かれて冷静になったのかデクトから感じる雰囲気はさっきよりも強く感じる


怒りに任せて剣を振っているように見せかけて的確に僕を殺そうとしているのが分かった


斬り上げ僕が後ろに仰け反ると突きを放つ


体を斜めに傾けその突きを躱すと手首を返し横に剣を振る


屈んで躱すと蹴りを放って来たので腕を交差して受け止めた・・・が、デクトはいつの間にか足にマナを纏っており衝撃はただの蹴りとは違いまるで鉄の棒で殴られたような衝撃・・・腕が折れなかったのが不思議なくらいだ


「チッ!ちょこまかと・・・」


痛い・・・けど・・・まだ戦える


《ロウ!剣を!》


ダメだよダンコ・・・剣を抜けば僕はデクトを殺してしまう・・・素手で・・・でもどうやって?


デクトは剣士だ。剣にマナを纏えるし足にも纏えるみたいだ


動きも早いし避けるのがやっとだ。このままだと・・・



間合いを詰め剣を振るデクト


剣を抜き受け止めるか・・・いや、抜けば僕はそのままデクトを斬り殺してしまうだろう


ならどうする?


デクトの剣にはマナが纏われてる


デクトは僕を本気で殺す気だ


なら僕も・・・いや、よく見ろ・・・このマナの量なら・・・


「・・・なっ!?・・・なんで・・・なんで斬れない!?」


受け止められる!


手のひらにマナを大量に纏いデクトの剣を受け止めるとそのまま懐に入り込み拳を突き上げる


拳はデクトの顎にヒットすると今度はファムズの時と同じように砕けた音と感触が伝わって来た。あまり気持ちいいものじゃないなこれ


真上に上がり落ちて来たデクトはファムズと同じように崩れ落ちる・・・もう・・・立ち上がるのは無理だろう



「す、すげぇ!すげぇじゃん!ロウニール!」


「一時はどうなるかと・・・本当クソ野郎ね!コイツら!」


「フッ」


「乙女の顔をよくも・・・このっこのっ・・・ふぅスッキリ」



良かった・・・僕は今度は守れたんだ・・・友達を・・・守れたんだ・・・


《バカロウ・・・剣を抜けと言ったのに・・・》



僕はみんなを守れた事が嬉しくてその時は気付いてなかったんだ



ダンコがなぜ剣を抜けと言ったのかを──────




「いやぁ、マジで凄かったな・・・でも大丈夫かな・・・アイツらってロウニールの同僚だろ?」


「だよね・・・でももしロウニールに何かしらの罰が与えられるならキッチリ抗議してやるんだから!あの腐れ外道が何をしたのか!」


「うむ」


「でも本当に凄かったね・・・あっ、このお肉美味しい・・・でも・・・あれだよね・・・ほら・・・」


「エリン・・・食べるか喋るかどっちかにしろよ・・・」


「ング・・・ふぅ美味しい・・・ほら、ロウニールって学校の時にマナ全然使えなかったでしょ?今日使えてたけど・・・あれって拳士?」


「まあそうじゃない?アイツの剣を手で受け止めてたし・・・」


「でもさ・・・ロウニールってあんなに速く動けたっけ?訓練だといっつもドベだったし・・・」


「そう言えばそうね・・・鍛えた?・・・にしてはまだ卒業してからそんなに経ってないし・・・ロウニールって門番・・・よね?鍛える時間があるようには思えないわね」


「でしょ?だから思ったの・・・ロウニールは拳士じゃなくて・・・拳士とスカウトの・・・武闘家?」


「ぶっ!・・・武闘家!?マジかよ・・・超レアじゃん!」


「もしそうならね・・・ずっと鍛えて武闘家になれる人はいるけど、マナが使えなかったロウニールがいきなり使えるようになるって事はふたつの適性があったって事だから・・・レアよね・・・普通適性はひとつだし・・・」


「マジか・・・今からパーティーに誘うか・・・武闘家で門番じゃもったいない・・・え?」


「・・・その話、詳しく聞かせてくれないか?」


「貴女は・・・誰?」


「私は──────」

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