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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
717/856

712階 戴冠式2

それは前代未聞の出来事だった


戴冠式を終えた翌日に次の皇帝の戴冠式が開かれた。帝都全体に告知されると耳を疑い半信半疑の民衆が昨日行われた城前の広場に集まって来る


そこには昨日壇上にいたヒースの姿はなく丞相フランが立っており民衆の心をもしやとザワつかせる


そして


《これから皆には悲しい報せを伝えねばならない・・・昨晩皇帝陛下ヒース・クランは崩御された》


魔道具『拡声器』を使い街全体に響く魔力の声は民衆に衝撃を与えた


皇帝ヒースの崩御・・・つまりヒースの死を伝えたのだ


《・・・先の戦いの傷が陛下の体を蝕んでいた・・・その事に私達は気付かず・・・》


無念を滲ませるフランに動揺を隠せない民衆・・・これからやって来る明るい未来は閉ざされまた暗黒の時代がやって来る・・・そう考える国民は少なくなかった


《陛下は死の間際、私を後継者に選んだ。私はその遺志を継ぎ皇帝となる》


皇帝フランの誕生


だが民衆はそれを手放しで喜べない


何故なら今話しているフランは先の皇帝ジルニアスの息子である。反乱を起こした首謀者であり皇帝ヒース側の人間である事は周知の事実だが一抹の不安は拭えなかったからだ


《私が皇帝となるのに対して反対意見もあるだろう・・・納得の出来ない者も・・・だから期限を設けたいと思う》


「期限?」「何の期限だ?」


騒めく民衆


だがフランは気にせず言葉を続ける


《期限は1年・・・私が在任し1年経過した後に投票を行う。この街だけではなくこの国規模で、だ。その投票は私の是非を問うものとなる・・・皇帝を続けるべきか否か・・・もし是であればもう1年在任し否ならば他にその座を譲ろうと思う。その者も投票で決める》


在任期間と投票・・・馴染みのない言葉に呆然とする民衆にフランは微笑む


《要は期間限定の皇帝であり誰でも皇帝になれる・・・という訳だ。ここでは説明は省くがいずれ誰でも分かるよう詳しく説明する。ただこれだけは覚えておいてくれ・・・国は皇帝のものではないこの国に住む全ての民のものだ。今は理解するのが難しいだろうが・・・いずれ理解出来ると思う・・・》


フランは一旦言葉を止めて大きく息を吐いた。そして集まった民衆を見渡し力強く言葉を放つ


《改めて言う・・・この国・・・クラン帝国は皆のものだ。皆で作り上げようではないか・・・理想の国を!》


支配されていた者達が突然国はみんなのものだと言われてすぐに実感が湧く訳もなくキョトンとした顔で聞いていた


だがフランの熱意の籠った瞳が人々に変化をもたらす


『皆の国』『理想の国』という言葉に意味も分からず興奮し身震いする者、感動し涙する者、突然笑い出す者など様々だったが変化は確かに訪れた



こうしてブルデン帝国改めクラン帝国は変わっていく


本で描かれるような理想の国を目指して──────




城の一室の窓からフランの演説を聞いていると性懲りもなくヤツが現れた


《弟子の演説の感想は?》


「可もなく不可もなくってところかな」


《辛口ね。アナタなら何て言ったのか気になるわ》


「そんな機会が訪れる事はないから考える必要もない」


《うわ・・・身も蓋もないことを言うわね。けどどうかしらね・・・これから長い人生を歩む事になるのだからもしかしたらあるかもよ?》


「お前はあったのか?」


《・・・ないわ》


「・・・」


《私はこれまで表舞台に立つ事はなかったし・・・アナタは違うでしょ?街の領主だし権力だってあるし有名人だし・・・》


「それは今の話だろ?これからは慎ましく生きるつもりだ」


《え・・・》


「もちろんエモーンズの発展には注力するけど人の人生を謳歌したら引退してひっそり暮らすつもりだ・・・つまりお前と同じく表舞台から姿を消す」


《そんな・・・》


「・・・お前にとってもそっちの方が都合がいいんじゃないか?」


自分が楽しむ為に俺を殺そうとしたくらいだ・・・てっきり嬉しがると思ったのだが・・・


《だってどうせ表舞台から消えたって何かあればすぐ出て来るでしょ?呼んでもないのにしゃしゃり出て簡単に解決してくのよ・・・いくら苦労して戦力を拮抗させても水の泡・・・せっかくの楽しみを奪っていく悪魔・・・それがアナタよ!ロブボルスッ!!》


騒がしいので顎を砕くと俺の名前が変な事に・・・それにしてもウロボロスは気兼ねなく殴れるからツッコミ甲斐があるな


《・・・・・・アー・・・アーアー・・・ハア・・・顎を破壊するのやめてくれない?》


顎を再生させながら睨むウロボロス・・・ツッコませたのはお前だろ?


「お前が楽しむ為に企むのは勝手だが俺の楽しみは世界の平和だ・・・だから俺の楽しみを邪魔するな」


《ズルい・・・そんな事思ってもないくせに》


「思ってるさ・・・心からな」


世界が平和になればサラと子供とゆっくり出来る・・・もしかしたら更に子供が増えちゃったりして・・・・・・・・・ああ、なぜ俺はこんな所にいるのだろう・・・


《・・・急に気持ち悪い顔したと思ったら落ち込んだりして何を考えているんだか・・・まあいいわ・・・世界平和を目指すならまた面白いものが見れるでしょうからね。もしそれが嘘でもやっぱりアナタなら面白いものを見せてくれそう・・・そんな予感がするわ》


「嫌な予感だな・・・ん?」


もしかしたら記憶にないだけで俺の前世はとんでもない極悪人でそのせいでトラブルに巻き込まれているのでは・・・と本気で考えていると部屋のドアが開いた


「師匠!」


「フラン・・・ってこんな所にいていいのかよ?」


「やる事は色々ありますが・・・最も優先すべきはこの部屋にあると思い急いで来ました!」


戴冠式を終えた後、走って来たのか息を切らせながら興奮気味に言うフラン。優先すべきことってなんだ?この部屋には俺とウロボロスしかいないけど・・・


「師匠・・・しばらくこの国に残ってくれませんか?」


「断る」


「即答・・・なぜです?」


「あのなぁ・・・なぜも何も言ってなかったか?俺には妻子がいて子供なんてつい最近産まれたばかり・・・その子に会ってもいないんだぞ?お前が頼むから涙を飲んで我慢していたのにまだ残れだ?3日連続戴冠式を開催してやろうか?」


「そ、それはもちろん一度帰って頂くのは前提としてのと話です」


「あん?別に俺が出来ることなんてもうないと思うが・・・」


「いえ・・・実は・・・」


フランは言いにくそうにしていたが意を決したのか俺に残って欲しいと言った理由を語り出した


「ヒース・・・前皇帝の遺志を継ぐ為に魔道具は破棄したいと思っています。便利な物も多数ありなかなか手放せない物も中には・・・そのひとつが魔銃です」


「魔銃?」


「はい・・・今まで魔銃は対魔人用に開発されていました。そして兵士達もその魔銃を使えるよう訓練して来ました。言い換えるなら魔銃しか使えないのです」


「その魔銃を廃棄したら兵士は・・・」


「正直役に立つかは微妙です。武力は必要ないとは言え抑止力は必要と考えております・・・犯罪に対する抑止力が」


確かにそうかもな。国民は皇帝の支配から解放され自由を得た・・・その国民がこれからどんな動きをするかは未知数・・・となると抑止力は必要になる。だが魔銃を廃棄した後の兵士ははっきり言って烏合の衆と化すだろう・・・抑止力にならないほどの


「と言う事は・・・俺に兵士を鍛えろ、と?」


「はい。本当は兵士が要らない国が理想なのでしょうけどさすがにそれは現実的ではないと思います。規模は縮小し魔銃は全て廃棄するつもりです・・・となるとどうしても鍛える必要が・・・ただ鍛えるにしても私達は魔銃ありきでしたのでノウハウもなく・・・」


ヒースがいれば違ったのかもしれないな。住民はかなりの数がヒースの戦っている姿を見ている・・・逆らえばどうなるかは脳裏に焼き付いたはずだ。抑止力としてはヒースの存在は大きかった・・・けどそのヒースが死に魔法が使えるとはいえ見た目幼いフランが皇帝となった事により妙な考えを起こす者が出て来るかもしれない・・・ないとは思うがないとは言いきれないから抑止力として兵士は必須・・・ハリボテではなくちゃんと鍛えた兵士が


分かる・・・分かるし手伝うと言った手前断りにくいが一旦受けてしまえば帰るのがかなり遅くなる・・・いや、昼間だけここに来て夜は帰れば・・・ダメだ散々エモーンズの事を放置しているのにそんな事をしたらナージ達に何を言われるやら・・・


・・・待てよ・・・兵を鍛えるだけなら何も俺でなくてもいいはずだ。逆に俺は誰かを鍛える経験なんて皆無だし・・・


「フラン、俺は無理だが俺の代わりなら用意出来るぞ?」


「え?・・・そうですか・・・師匠が良かったのですが師匠もお忙しいでしょうし・・・残念ですが仕方ありません・・・」


「そう残念がるなよ。俺より適任の奴を連れて来るからさ・・・で、兵士はどんな感じで鍛えたいんだ?」


「魔法!・・・と、武器の扱いを・・・」


「・・・武器か・・・」


「言いたいことは分かります。魔銃という武器を手放しておいて結局武器を手にするのかと思ってますよね?でも必要なんです・・・獣人族や魚人族に対しては」


「フラン?」


「あ、勘違いしないでくださいね!私は種族で差別したりはしません。例えば獣人族と魚人族が喧嘩をしていてそれを兵士が止めようとすると素手では難しいと思いまして・・・そのふたつの種族を人間が超えようとするなら武器は必須・・・なので・・・」


確かにフランの言う通りだ。魚人族はどうか知らないが獣人族はかなり強いって聞いている。集団になればあのエミリすら苦戦するほどだとか・・・そうなると少し鍛えただけの兵士なんて歯が立たないだろうな。それを埋める為の武器、か・・・


「けど武器を作り兵士だけ持っているとなると威圧的に映るかもしれないぞ?そうなればどうなるか・・・お前なら分かるだろ?」


「・・・はい。民は萎縮してしまい言いたい事も言えなくなってしまう可能性も・・・いえ、多分言えないでしょう。ですが・・・」


制圧出来なければ抑止力にはなり得ない・・・けど制圧出来る武力を持てば民は萎縮してしまう・・・難しいところだな


「その辺は専門家に任せるか・・・」


「専門家・・・ですか?」


「その辺に詳しい奴を知っている。そいつにどうすればいいか聞いてから兵士をどう鍛えるか考えても遅くはないだろう・・・当面は抑止力を置いていく」


「と言うと・・・」


「まあ任せておけ。他には?用がなければ帰りたいのだが・・・」


「・・・一緒に行って頂きたい場所があります」


「場所?どこだ?」


「・・・この城の地下・・・魔力障壁を出したり魔力を溜める事の出来る装置がある場所です──────」

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