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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
716/856

711階 戴冠式

戴冠式当日


新たな皇帝が誕生した


皇帝の名はヒース・クラン・・・インキュバス大陸とサタン大陸の二つの大陸で初めて魔人が治める国が誕生した瞬間だった


インキュバス大陸というのは俺達が住んでいる大陸の名でサタン大陸がこの大陸の名・・・ウロボロスが考えた名前なのだがサタンはともかくインキュバスはどうなんだと思う


まあ便宜上だし使うか分からないから別にいいが・・・


それよかこの国の名前はどうするんだろうか?


さすがにブルデン帝国のままでいかないだろうし戴冠式で発表があると思っていたのだが結局そんなもんはなく式は終わってしまった


ヒースが皇帝となり所信表明を聞いた国民達は満足して帰って行ったが・・・かなりモヤモヤする


まさか本当にブルデン帝国のままとか・・・


「師匠ー!」


「これはこれは・・・史上最年少の丞相殿ではありませんか」


城前の広場で行われていた戴冠式を見終わった後、残っていると元気よく走り寄って来たのはヒースを支える為に丞相となったフランだ


「むぅ・・・意地悪言わないで下さい」


「今のが意地悪に聞こえるのは丞相としての自覚がない証拠だ・・・で?何の用だ?もう帰っていいか?」


「待って下さい・・・もう少し・・・その・・・陛下に会ってくれませんか?」


「ヒースに?それはどの立場で?」


「えっと・・・外部の相談役・・・みたいな感じで」


「何を俺に相談する気だ?」


「色々です」


「お断りだ」


「えぇ」


「『えぇ』じゃない。戴冠式までと言うから我慢していたのに・・・俺は今すぐにでも帰りたいんだよ!」


「そこをなんとか・・・陛下はかなり悩んでいるらしく・・・」


「何を?」


「国名です」


「・・・まあそれはそうだろうな。ブルデン帝国のままいくとは思わなかったが・・・まだ悩んでいるのか?」


戴冠式まで時間はあったはずなのに


「そんな簡単に決められませんよ。これから長く続く国なんですよ?変な名前を付けたら目も当てられません」


「続くか分からんぞ?」


「続きます!」


まあ続く可能性は高いわな


なんてったって魔人が皇帝となったんだ。人間の皇帝のように老いて交代する事もないし逆らう者もいないだろうし・・・いやそれはどうか分からないか・・・


「それで?俺に国名を付けて欲しいとか?」


「お願い出来ますか?師匠が付けたならみんな納得するでしょうし箔がつきます」


「ふむ・・・そこまで言うなら付けてやらんでもないが・・・」


名前を付けるのは得意だしな。ここはいっちょ最後に一肌脱ぎますか


「そうと決まれば陛下の元に!」


「分かった分かった・・・けどそれが終わったら帰るぞ?」


「・・・はい」


「そう寂しそうにするな。別にいつでも来れる・・・だろ?」


「はい!」


まあ当分来るつもりはないけど・・・落ち着いたらたまにならいいかもな



嬉しそうに城に戻るフランの後をそんな事を考えながらついて行った


この後に何が起きるかも知らずに──────





「・・・来たか」


「随分魔力を抑える事が出来るようになったじゃないか皇帝陛下殿」


「からかうな・・・これでもギリギリで抑えているのだから」


謁見の間の玉座に座るヒースは酷く疲れている様子だった。それもそのはず激しい戦いを終えた後なのに休む間もなく不眠不休で働いているらしい。たとえ頑丈な魔人だとて肉体的には平気でも精神的には疲れるもんだ


「それで俺を呼んだのは国名の事なんだろ?」


そのまま立って話を始めるとマドマーが一瞬眉を顰める


元近衛兵長・・・で、現近衛兵長のマドマー・・・つまり処罰は疎か降格処分もされずに引き続き近衛兵長の役職に収まっていた。まあ前皇帝の言う事を聞いていただけだから処罰はないのは分かるが降格処分もしくは配置換えくらいした方が良かったような・・・


命令されたとはいえ2人を殺そうとしてたのだし・・・まあ2人がいいならとやかく言うつもりはないけど


「ああ・・・英雄殿に付けてもらえたら未来永劫栄えそうな気がしてな」


「英雄じゃないしそれにその言い方だと栄なかったら俺のせいみたいじゃないか」


「そう思うなら栄えるのを手伝ってくれ。礼は弾む」


「金ならいくら貰っても喜ばないぞ?俺は」


「分かっている。これでどうだ?」


そう言ってヒースが俺に見せた物は・・・


「魔銃?」


「いや、技術だ。魔銃を含む技術の開示が礼だとしたらどうだ?」


「・・・」


うーん・・・正直欲しいとは思わない


魔力で動く装置や道具か・・・魅力的にも感じるが・・・


「私はこれらを破棄するつもりだ」


「おい」


「別に捨てる物を礼として渡す訳ではないし破棄すると言っても本当に捨てる訳ではない」


「意味が分かるように説明してくれ」


「・・・この国にある装置や道具・・・魔道具と呼ばれる物は便利な物が多い・・・いや便利過ぎると言った方が正しいか・・・あれば使いたくなるものばかりだ。だがそうなると必要になるのは魔力だ」


「魔力は負の感情で生まれるから平和を望むこの国とは相反するか・・・けど魔力がゼロの世界なんてありえないと思うぞ?」


「それは分かっている。だがこれまでと同じように使う事は出来ない・・・出来ないような国にするつもりだ。だがそれを不満に思う者も出てくるだろう・・・つまり魔道具は争いの種になり兼ねん」


「いい度胸しているな・・・その争いの種を礼として寄越す気か?」


「貴様なら上手く使えると信じての礼だ。争いの種ではなく発展の為に使える・・・そう思ったのだが・・・違うか?」


「お前・・・俺を利用するつもりか?」


「・・・どうしてそう思う?」


「俺がもし魔道具を上手く改良して魔力の消費を少なく・・・もしくはマナで動くように出来れば逆輸入するつもりだろ?」


「なるほどその手があったか」


わざとらしい・・・そのつもりだったくせに


「今ある物は廃棄するが技術は捨てない・・・残してそっちでも改良を続けるつもりだな?」


「その通りだ。これまでは魔力を使う前提で作られて来たがこれからは魔力を使わずに・・・もしくはマナで使える道具作りを目指す」


かなり険しい道だがゼロから始めるよりはかなりマシだろうな。そして俺も大陸に持ち帰れば色々と便利な道具が生み出せるかも知れない・・・けど・・・


「とても魅力的な話だが・・・果たしてどうなんだろうな」


「と言うと?」


「魔力を使わなかったりすれば確かに便利かも知れない。けど道具に振り回されそうな気がしてな・・・この国と同じように」


ブルデン達が『支配』が目的だったのか『道具の為』だったのか分からないが、もし『道具の為』に人間から魔力を搾り取っていたとしたら・・・たとえ魔力を使わない道具を創り出したとしてもその『道具の為』にこの国と同じような事が起きないとも限らない


便利さを追求したが為にこの国がこうなってしまったのなら便利な道具は人間にとって『毒』となり得るのかも知れない


「・・・そうかも知れないな・・・だから貴様に渡すのだ・・・ロウニール」


「あん?」


「貴様なら正しい判断が出来るだろう?もし誰も犠牲にならない便利な道具が完成し普及したとして人間が堕落してしまったら破棄すればいい・・・そうでなければ使い続ければいい・・・その判断も破棄をする事も出来る貴様にだから渡せるのだ」


「・・・面倒事を押し付けられたように感じるのは俺だけか?」


「捉え方の違いだな。私は道具に罪はないと思っている・・・その身を変化させてまで作り出した道具だ・・・正しい使い方をすればきっと・・・」


「てめえ・・・どこでそんな知恵を・・・」


俺が面倒だと言って突っ返せばその身を変化・・・つまり進化してまで作り続けていたドワーフ族とエルフ族を否定する事になる


『使えない道具を進化してまで作り続けていた種族』・・・そういうレッテルを貼られてしまうからだ


ヒースがこんな小賢しいことを考えるとは思えない・・・となると・・・


俺の背後にいる人物に振り返り視線を向けるとそっぽを向きやがった


やはり考えたのはフランか・・・丞相してるじゃないか


大方『師匠なら何とかしてくれます!』とか言って押し付けるようヒースに進言したのだろう・・・やってくれるよまったく


「どうだ?引き受けてくれるか?」


「褒美には納得出来ないが・・・乗りかかった船だ手伝ってやるよ」


まあ俺ならゲートですぐ来れるしここにゲートちゃんかゲートくんを置いておく事も考えてたし・・・まあ手伝うくらいならいっか・・・完全に放置して滅びてた・・・なんて事になっても目覚めが悪いしな


「そうか・・・これで安心だな・・・では早速・・・手伝ってもらおうか」


「あん?」


国名でも決めるのかと思いきや違ったみたいだ・・・これは殺気?けど俺に向けられたものじゃなく・・・向けられているのは・・・フラン!?


その殺気に気付いたのは俺とマドマー・・・そして向けられた張本人であるフランのみ



時が静かに流れ思考が加速する



何の為に?なぜ?どうして?



答えはすぐに出た



唇を噛み呟く



「バカが」



時は急速に流れ始めあっという間に結末を迎える



ヒースは俺の背後にいるフランを強襲し俺はそれを防ぐ形で間に入る



そしてヒースを止めようとして手を突き出すと吸い込まれるように手は無防備なヒースの体を貫く



3日程度鍛えなかったとてここまでヤワになるはずがない



ヒースは・・・自ら俺の手を受け入れた



自らの願いを叶える為に



「な、なんで・・・どうして・・・」


混乱するフランの声が聞こえる


皇帝を倒しようやくって時に起きた悲劇に動揺するのは当たり前だろう


しかしそんなフランを前にしてもヒースは表情を変えず目を細め俺の肩越しにフランを見つめていた


《・・・つい気が緩んだら暴走した・・・それだけだ》


「嘘だ!そんなわけ・・・」


《本当だ。今もロウニールが押さえてなければフラン・・・お前の首を掻き切っている》


おい・・・俺は手を抜こうとしているのに筋肉で締め付けて抜けないようにしているのはどこのどいつだ


「師匠!今すぐその手を抜いて下さい!陛下が・・・ヒースがそんな事をするはずがないと証明する為に!」


「いやだからあのね・・・」


《ロウニール!》


俺が事情を説明しようとするとそれを阻止しようとヒースが叫んだ


そして見るとヒースの瞳は俺に何かを訴えかける・・・その何かを理解し深くため息をついた


「・・・皇帝陛下の乱心だ・・・俺が押さえている間に逃げろ」


「師匠!なぜそのような嘘を・・・」


「嘘じゃないさ・・・だから余計な事はしてくれるなよ?」


どうにかしてこの場を打開しようと動き出すデネットやマドマーを牽制する


俺が手伝えるのはここまでだ・・・後は好きにしろ・・・ヒース


《・・・私も魔道具だ・・・魔力で動く魔道具なのだよフラン》


「いきなり何を・・・違う!貴方は道具じゃない!人間だ!」


《違わない・・・違わないのだフラン・・・復讐に取り憑かれ役目を終えた魔道具・・・それが私だ》


「ちが・・・」


《だからお前も使用したのだろ?国を変えるには都合のいい道具だったから・・・別にその事について恨んだりしていない。お互い様だ。だが私を皇帝にするのはどうかと思う・・・こうやっていつ暴走するか分からない者を皇帝などにするべきじゃない・・・他の魔道具同様廃棄すべきだ》


「・・・」


《いいんだ・・・道具は使われてこそ道具・・・ただ・・・もう疲れた》


「っ!」


《勘違いするな・・・皇帝になったから疲れたのではない。それどころかこの3日間は魔人になって初めて安らげた・・・少しでもこのような体験が出来て感謝しているくらいだ》


「・・・ヒース・・・」


《さて・・・そろそろ時間もなくなって来たから本題に入ろう・・・私の後で皇帝の座につくのはお前だ・・・フラン》


「なっ・・・」


《私の事は国民に何とでも説明すればいい・・・暴走したとか寿命を迎えたとか・・・怪我が悪化して急死したでもいい》


「・・・」


《・・・そろそろ・・・皆の元へ・・・》


「待っ・・・待ってくれ・・・ヒース・・・」


《ああ・・・会いたかった・・・》


ヒースは視線を少し上げると魔人でもなく皇帝でもなく1人の青年が浮かべるような微笑みを浮かべる


そして目を閉じると一歩前に進み更に傷を深めると俺の肩に寄り掛かり『頼んだ』と呟き息絶えた



彼が何を見て微笑んだのか言うまでもない


けど・・・残された者の事も少しは考えろってんだ


考える余裕なんてなかったのかもしれないがもうちょっとこう・・・バカヤロウ



「・・・師匠・・・この国の名は決まりましたか?」


「・・・それ今か?」


「・・・はい」


静まり返る中振り返ると涙を浮かべたフランが俺に尋ねる。このタイミングで聞くか?と思いつつも俺は考えていた国の名を頭に浮かべそして答えた


「・・・この国の名は──────」



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