710階 ロウニールとウロボロス
大きな戦いの後にはとてつもない量の事後処理が残っている。はっきり言って俺には全く関係のないもの・・・関わったとはいえ反乱を起こした首謀者でもないしこれから政治に携わる事もないし・・・平たく言えば無関係・・・ただ巻き込まれただけの哀れな被害者っ!
なのに・・・
『師匠お願いです!せめて・・・せめて戴冠式が終わるまで・・・』
と弟子に小動物のような目で懇願され未だ我が子に出会えず2日が経過した・・・こっそり帰ってやろうかと思ったが一旦帰ったら戻って来れないような気がして戻ってない
「・・・ハア・・・」
何よりも優先すべき事を放っておいて俺は何をしているんだか・・・
城の一室をあてがわれてフラン達が必死で事後処理をしている中、部屋の中からわちゃわちゃと動く人達をボッーと眺めているだけ
まあやる事がないからなんだけどだったら帰らせて欲しい
いや・・・戴冠式・・・つまりヒースが皇帝に即位する時のは明日みたいだからそれまでの我慢だ・・・他のみんなも帰るのを我慢しているし俺だけ帰る訳には・・・・・・・・・やっぱりちょっとだけ・・・
《あら?どこにゲートを繋げているのかしら?》
「・・・ウロボロス~・・・てめえ今までどこに・・・」
ウォンカーと戦っている隙にいなくなっていたウロボロス・・・コイツには言いたい事が山ほどあった
《邪魔されずに観戦したかったから隠れて見てたの・・・ちゃんとその後は私のやるべき事はやったわよ?傷付いた人間を聖女と共に治したり・・・あっ、そうそうアナタと関わりがある人間の腕も再生させておいたわ・・・片腕の兵士・・・ダットとか何とか・・・》
「・・・お前にしては珍しいな。そんな事するタイプだっけ?」
《私も命が惜しいもの》
「なるほど・・・俺に対する手土産か」
《そういうこと。許してくれるでしょ?》
俺が何しようと死なないくせに妙にしおらしいな・・・いやもしかしたら・・・
「許さないと言ったら?」
《全力で逃げるわ。いくら『再生』を司る私でも『創造』と『破壊』が相手だとちょっとね》
やっぱり・・・
「そこまで怒っちゃいないさ・・・返答次第だけどな」
《と言うと?》
「アバドンが俺の中にいるのは・・・お前の仕業か?」
《ち、違うわよ!勘違いしないで・・・あれは・・・》
「あれは?」
《・・・記憶を元に『創造』されたものよ。だからアバドンであってアバドンではない別物なの》
「『創造』・・・って事はつまり・・・」
《そう・・・アナタが創り出したものよ》
なんてこった・・・俺が娘の仇のアバドンを創り出しただって!?・・・いやでも・・・創った覚えないぞ?
《意図的ではないみたいね・・・私もびっくりしたもの・・・完全に消えたはずのアバドンがアナタの体を借りて降臨した・・・しかも相手は人間が考え作り出した対アバドン用の人形・・・思い出しただけで・・・イクわ》
「勝手に逝っとけ。いや今はイクな!・・・てか意図的なわけないだろ?俺がなんでアバドンなんか・・・てか創造の力って勝手に発動するものなのか?」
《どうかしら・・・もしかしたらアナタは思った以上に危ない存在なのかもね》
「どういう意味だ?」
《インキュバスが創り出した人間・・・『創造』の力はないけれど『想像』の力を持つモノ・・・ところがアナタはその両方を持っている・・・》
「・・・つまり俺が『想像』し『創造』したって言うのか?アバドンを」
確かに俺はあの時・・・俺の力ではどうしようもない状態で・・・そうか・・・あの状況をどうにか出来る存在を無意識に『想像』し『創造』してしまったのか・・・
《でしょうね。まあアナタの記憶だとそこまでアバドンを知っている訳がないからインキュバスも絡んでいるかも・・・どちらにせよアナタはアバドンを創造した・・・その事実は変わりないわ》
「そして俺の体を操り・・・くそっ、まだ残っているのか?もしまた操られたら・・・」
《それはないわ》
「なぜ言い切れる?」
《アナタが創造主だからよ。アナタが何を思って創造したのか分からないけどアナタの不利になるような事を想像して創造した訳じゃないはず・・・だったら問題ないわ》
「体乗っ取られたのですが・・・」
《そうアナタが望んだのでしょ?自分じゃ倒せないからって。その願いを叶えたのがアバドンだった・・・それだけよ》
あの時はフランを助けなおかつ自分も助かる方法がないか考えて・・・そして無意識にそれが出来るのはアバドンと考えて創造した・・・んで、そのアバドンが俺を乗っ取り見事その局面を脱した・・・けど
「結構俺の願い以上の動きをしたけど?」
《・・・それはまあ・・・ご愛嬌ってことで》
「・・・」
何が『ご愛嬌』だ
心配だ・・・何となく大丈夫な気もするけど・・・もし俺が望んでいない時に勝手に俺の体を乗っ取りでもしたら・・・
「何か消す方法はないのか?」
《消す必要がある?むしろ消さずに残してくれないと私がイケなくなるし・・・》
「先にお前を消すぞ?」
《・・・方法はあるわ》
「先にそう言え・・・で?その方法は?」
《一度死ねばいい》
「お前が?」
《アナタが、よ》
「どうやら本気で死にたいらしいな」
《ちょ、話を最後まで聞きなさいって!輪廻点であるアナタは死んでも生き返るわ・・・すぐにじゃないけどね。で、生き返る前に輪廻の部屋に行くのだけどあの部屋ってただの魂の保管所じゃないの》
「ほう?あの真っ白の部屋が何の役割を?」
《魂の初期化・・・浄化とも言えるかしら。生まれ変わった人間が前世の記憶がないのは魂が浄化されるからなの》
「へえ・・・ぶっ飛ばすぞ?」
《か、勘違いしないで。それはあくまで人間の話・・・魔族は記憶が残った状態で生まれ変われるの・・・ほら、ベルフェゴールやヴァンパイアだって記憶を残しているでしょ?多分だけど魂の格の問題と思うわ》
「魂の・・・格?」
《輪廻の部屋の影響を受けない程の格があれば浄化されない・・・たまに人間でもいるのよね・・・前世の記憶を持った人間が。多分その人間は魂の格が高かったから覚えていると思うの・・・まあ全てを覚えていわけじゃないからある程度は浄化されてしまっているみたいだけどね》
「なんだかそれだけ聞くと人間がまるで格下みたいじゃないか」
《事実そうでしょ?例えばもし人間が魔族のように老いる事がなくなったとして精神が耐えられると思う?それか転生する時に全ての人間が前世の記憶を持ってたとしたらどう?》
どう?って聞かれても・・・
「耐えられる・・・んじゃないか?言ってもただの記憶だし・・・」
《本当に?記憶っていうのは楽しいものだけじゃないと思うけどね・・・人間が死ぬ時って寿命を全うした時とは限らないんじゃない?》
そりゃそうだ
怪我や病気でとか・・・殺されたり・・・
「そうか・・・死の体験すらも記憶に・・・」
《そういうこと。死んだら終わり・・・だから人間の精神は保たれているのよ?だから死ぬほど辛い思いをした人間が自死を選ぶこともあるの・・・精神が壊れるくらいなら、この辛い体験が続くのなら、死んだ方がマシ・・・そう思って死んだのに転生してその記憶が残ってたら?》
「耐えられない・・・か・・・」
《まっ、格下と言ったけど人間という生物は魔力を出す為に元々感情の揺さぶりが大きくなるよう創られているから耐えられなくても仕方ないのかも・・・元人間のアナタに言う言葉じゃなかったわね》
「いやまあそれはいい・・・それに納得出来たよ・・・記憶は浄化されるべきだな・・・けど待てよ・・・それなら俺の記憶も・・・」
《アナタは大丈夫・・・なはず。もうほぼ魔族だし》
「死んでも生まれ変わる・・・記憶を残したまま・・・アバドンの記憶だけを消して・・・んな都合のいい話あるか?」
《・・・だ、大丈夫よ・・・きっと・・・》
目が泳いでる・・・怪しい・・・何か企んでいるな?
「ぐっ!」
《?どうしたの?》
「み、右手が・・・俺の右手がアバドンにぃ!乗っ取られて・・・『破壊』してしまいそうだ」
右手を掲げ大袈裟に苦しんだように見せて最後の言葉はウロボロスを見て微笑みながら言い放った
すると効果てきめんだったようでウロボロスはガタガタと震えながら後退りし始める
「さて・・・この右手が完全に乗っ取られない内に答えた方がいいぞ?何を企んでいる?」
《ち、違うの!ちょっとアナタがいない隙にこの世が混沌に満ちれば楽しいかなって思っただけで・・・》
「どこも違わないが?お前が楽しみたい為に俺を嵌めようとした・・・そうだろ?」
《・・・テヘ》
「死ね」
アバドンに乗っ取られた(乗っ取られていない)右手を伸ばしウロボロスの首を掴んだ。このまま魔力を注ぎ込めばウロボロスはしばらく再生出来ないくらい木っ端微塵になるだろう
《ちょっと・・・待って・・・》
「他にアバドンを消す方法は?」
《ある・・・あるから・・・離して・・・》
本当にあるのか疑わしいがとりあえず手を離すとウロボロスは涙目で睨みつけてきた
《ゴホッ・・・本当はアバドンに乗っ取られてるんじゃないの?》
「それが遺言か?」
《・・・消す方法は本当にあるわ。それもアナタが死ぬ必要もない方法がね》
「初めからそっちを言えよ・・・で?その方法は?」
《アナタの中にあるアバドンの記憶を誰かに移せばいい・・・簡単でしょ?》
「・・・その移した相手はどうなる?」
《アバドンに乗っ取られるでしょうね・・・アナタみたいに抵抗出来る人間なんていないはずだし・・・あ、そうそう魔族でも可能よ?魔物は無理だけどね》
「魔物が無理な理由は?」
《魔物は記憶ではなく記録する生物だからよ。人間や魔族のように脳に記憶するのではなく核に記録する・・・だからアバドンの記憶は移せないの》
「・・・理解した」
《嘘つき・・・まあアナタが記憶する魔物を創れば話は別だけどね・・・それはもう魔物じゃなくて魔族と言うべきかしらね。試しにアナタが創った魔族に移してみれば?出来るはずよ》
俺が創った魔族と言えば・・・ゲートちゃんとゲートくんの事か・・・
「俺がやると思うか?」
《やらないでしょうね。特に今のアナタは・・・だからあえて言わなかったのよ》
「どうだか・・・まあいい・・・つまり当分はアバドンと一緒ってわけか・・・」
人間に移すことなんて出来ない・・・それと同じくらい魔族に移すことも・・・
魔物は『物』魔族は『家族』・・・こう考えるようになったのはインキュバスのせいだろうか・・・いや、ただ単に俺が変わったんだろうな
これまでずっとダンジョンを経営する為に魔物を創って来た・・・その理由は人間にマナを使わせる為だ。マナを溜める為の道具・・・そう思わなければとてもじゃないが創り続ける事は出来なかった
まあ魔物の中でもスラミやシャドウセンジュは他の魔物とは違うけど・・・他は全部・・・
《あまりアバドンを邪険に扱わないであげて・・・彼はただ素直だっただけ・・・自分のやるべき事に・・・だから》
「それ以上は言うな」
《・・・そうね。やめとくわ》
アバドンの行動に悪意はなくただ『破壊』のアバドンだから破壊したと言うのなら俺はあの怒りをどこに向ければいい・・・矛先があるからこそ収まっているってのに・・・
「もうこの話は終わり・・・聞きたいことも聞いたし帰れ」
《えぇ・・・ちょっとヒドくない?それ》
「じゃあ他に何か用事でもあるのか?」
《んー・・・ない》
「帰れ」
《どこによ》
「知るか・・・ゲートを開いてやるから元の大陸に・・・いや、やめとこう」
目を離すと何するか分からないからなコイツ
《ねえ》
「なんだ?」
《向こうの大陸とかこっちの大陸とか・・・分かりにくいと思わない?》
「・・・まあそうだな・・・」
確かにどっちの大陸の事を言っているのかたまに分からない時がある。もし交流を続けるのであれば尚更だ
《名前付けちゃおう!》
「あのな・・・そんなノリで付けれるもんでもないだろ?」
《あらそう?誰も付けてないし便宜上付けるなら軽いノリで良いんじゃない?私達の付けた名前で呼ぶか呼ばないかは自由だしね》
そういうものなのか?・・・まあうん・・・そんなもんか
「もしかしてもう考えてるとか?」
《ええ・・・とても分かりやすい名前を考えてたりするんだけど・・・発表していい?》
「・・・聞くだけ聞いてやる」
《きっとロウニールも気に入ると思うわ・・・その名前は──────》




