703階 ようこそ
あー今更だが我ながら無茶な頼みを聞いちまったもんだ
敵意剥き出しで俺達を睨む住民・・・この住民を守りながら軍と戦えって?無茶にも程があるだろ
「どうした?早う避難させねば軍がやって来るぞ?隊長殿」
何が隊長殿だシアめ・・・ニヤニヤと笑いやがってこの状況を楽しんでやがる
《ロウニール様からの指示に従い、致し方なく貴方に従いましょう》
《・・・何の因果で人間の命令に従わねばならぬのか・・・ハア・・・》
うっ・・・そういや率いるのは魔族も含めたクセのある奴ばかり・・・住民は俺達を敵視してるし味方はクセの強い奴ばかりだし・・・うん無理・・・無理だわ
「あっ!あの時の盾の人!」
うん?住民の中で1人俺を指さし叫ぶガキは・・・あの時の子供か!
俺が戦っている時に背にしていた家の中で震えていた家族・・・その家族もここに連れて来られていたのか。それにしても・・・へっ、そうか『盾の人』か・・・まああのガキにとって俺は・・・
「なんだ?知っているのか?」
「うん!なんか軍の人に逆らってボコボコにされてた!」
あ、なんか吐きそう
え?そんな感じで見てたの?だってほら・・・こうヒーローが守ってくれてる的な目で見てたし頑張って的な感じで叫んでなかったか?
「家にゴッツンゴッツン当たって来るし変な目でこっち見てくるし・・・だからずっと『どっか行ってよ!』って叫んでたんだ」
吐いた
嘘だろ!?あの状況でそんな感じ!?俺は何の為に必死になって・・・
《はーいゲートくんです!》
《・・・ゲートちゃんです》
《2人合わせてゲートくんちゃんです!・・・お兄様?何で言わないんですか?》
《恥ずかしいだろ!何でポーズまで決めて・・・》
・・・俺が吐いているとゲートが開き2人が現れた
その2人は空気を読まずに変なポーズを決めて自己紹介を・・・ロウニール・・・アイツは必ずぶん殴る!
《・・・ベルフェゴール様・・・何だか空気が重いのですが・・・》
《気にしなくて結構です。それよりもロウニール様に言われて?》
《はい!お言葉をそのまま伝えますと『どうせダンの奴は困って泣いているだろうから手助けしてやれ』との事です!》
・・・やっぱりぶち殺す・・・
《なるほど・・・しかしあなた達2人はゲート以外使えないはずでは・・・もしかしてゲートで人間を何処かに逃がすのですか?》
《いえ!魔力障壁が消えたようなので助っ人を呼びます》
《助っ人?》
《はい!》
元気に返事をするとゲートくんちゃん?の2人はゲートを開きどこかへ行ってしまった
すると・・・
「おい!あれ・・・」
コゲツが何かに気付き指をさすとその先にはあの2人が・・・住民達の背後に回って何する気だ?
《2人が織り成すパワー!》
《・・・パワー・・・》
《マスターより授かったこの力でこの地に呼び寄せます!》
《・・・ます・・・》
《えっと・・・こうして・・・あ違うお兄様!右手は上で左手は下!》
《・・・》
何だ?2人は手を繋いで輪を作り・・・一体何をしようと・・・
《私達に与えられた二つ名は・・・はい!お兄様!》
《・・・『召喚』・・・》
《そう!『召喚』ゲートくん『召喚』ゲートちゃん2人合わせて『大召喚』!》
無駄にテンションの高い妹?と低い兄の作った輪っかが次第に光を帯びていく・・・そして2人から離れると巨大な・・・これはゲートか?
《さあ人間共を召し上がれ!魔物達よ!》
・・・おい
巨大なゲートからニュっと出て来る魔物・・・それは途切れる事なく続いた
スライム、コボルト、スケルトン・・・大型のサイクロプスやコカトリス・・・それにあれは・・・ドラゴン!?
《・・・なるほど》
「なるほどって・・・何がなるほどなんだよ!?」
したり顔で呟くベルフェゴールを見て殺意が湧いた・・・もしこれで何も分かってなかったら殺される覚悟でぶん殴ってやる!
《ロウニール様は敵を作って下さったのです》
「・・・は?」
《見てご覧なさい人間共の恐怖する顔を。ワタクシ達に向けていた敵意は消え去りただただ魔物に恐怖する顔を》
「そりゃ恐ろしいだろうよ・・・この大陸には魔物がいないらしいし・・・いきなりあんなのが現れたら俺でもチビるってぇの」
《もしその魔物からワタクシ達が人間を守ったら?》
「・・・そういう事か・・・」
あのままだったら住民達は俺達の言う事なんて聞かないだろう。そうこうしている内に軍が押し寄せて・・・ロウニールはそうなる前に敵を作った・・・俺達が住民達の味方であると気付かせる為の敵を
「・・・それにしては多過ぎないか?」
《少ないくらいです。それと魔物は殺さないで下さいね?あれらもロウニール様が創りしものですから》
ハハッ・・・住民達を守り軍が来る前に信用を得て更に魔物を殺すなだって?・・・バカじゃないのか?
「ほれ魔物共は早速動き出しておるぞ?このまま人間達と共に逃げるか?」
襲い来る魔物達、逃げ惑う住民達・・・こんなの見せられたら悩む暇なんてねえじゃねえか!
「クソッタレ!野郎共!魔物を止めるぞ!」
「ワシは野郎ではないのじゃが」
「うるせぇうるせぇ!さっさと行け!!」
俺の号令に仕方なさそうにのそりのそりと動き出す連中を見て俺は天を見上げおもくっそため息をついた
「・・・クソッタレ・・・覚えてやがれロウニール!──────」
「・・・へっぷし!」
《なに?》
「いや・・・多分我が子がパパに会いたいと泣いているだけだと思う」
《・・・》
狭い謁見の間で行われている激しい戦闘・・・と言うのは聞こえはいいが実際は2人の実力差によって大分違ってくる
実力が拮抗していれば名勝負であり実力差があれば・・・ただの残虐なショーとなる
ヒースとウォンカーは激しい戦いを繰り広げていた
無論その戦いは後者の方だ
《不屈の闘志で何度も立ち上がる・・・見ていて楽しいのは2回目か3回目くらいまで・・・4回目からは『サッサとくたばれ』に変わるものよ?》
「それはお前だけだウロボロス・・・けどまあ見ていて楽しくはないわな」
ヒースは俺と戦っていた時より確実に強くなっている・・・けどその強くなっている度合いが微々たるものに感じるほどの圧倒的な実力差・・・ヒースの攻撃は全くと言っていいほど効かずウォンカーの何気ない一振が致命傷に近いダメージをヒースに与える
その度にヒースは立ち上がるのだが・・・
《見ていて楽しくないなら参加して来れば?》
「参加しても楽しいとは限らないだろ?」
《私は楽しいわ》
「・・・なんで俺がお前を楽しませる為に体を張らないといけないんだよ」
《さっきヒースの腕を再生させてあげたでしょ?少しくらいお返ししてもバチは当たらないわよ?》
「・・・まだその時じゃない」
《まだ?まさか本気で勝てると思っているの?》
「さあ・・・どうだろうな?」
作り方はさておき進化の集大成と言うだけあってウォンカーは強い・・・街中に蔓延していた魔力をその身に収め耐えられる肉体は当然のようにヒースの攻撃を弾き、腕を振るだけで必殺の一撃と呼べる攻撃を放つ
一瞬でも気が緩めば一巻の終わりだ・・・俺でもかなり厳しいだろうな
〘ならばどうするのだ?〙
喋りかけるな記憶
〘記憶・・・か。そうだな・・・今の余はただの記憶・・・貴様に保管され再生されているに過ぎない存在・・・〙
保管したつもりはないんだけど・・・まあいい。そういやずっと気になってた事がある
〘なんだ?〙
なぜお前はインキュバスではなくヴォルガード・ギルダンテなんて洒落た名前を名乗っていたんだ?
〘ヴォルガード・ギルダンテ・・・懐かしい名だ。なに人間の流儀に合わせたまでのこと・・・貴様らも人間を人間と呼ばぬであろう?〙
なるほど・・・インキュバスは種族名みたいなもんか
〘そういう事だ〙
ならウロボロスもアバドンも種族名みたいなもんか?
〘ふむ・・・それは違うな。ウロボロスもアバドンも唯一無二の存在だから個体名と言っても差し支えないだろう〙
ふーん・・・そっか、2人とは違ってインキュバスには沢山『子供』がいるもんな
〘・・・貴様・・・〙
怒るな怒るな・・・てか記憶にも怒るとかそういう感情があるんだな
〘・・・保管された記憶が貴様の魔力によって再生されているだけだが記憶と魔力が合わさり感情に似たようなものになる。実際の感情と同じかどうかは定かではないがな〙
へぇ
〘貴様の中にいたサキュバスも同じようなものだ。感情のようなものがあったであろう?〙
確かに・・・人と話しているのと全く一緒だったな
〘そんな事よりも良いのか?〙
何が?
〘・・・ヒースとやらと組めばあの人間の作りしモノを倒せるやも知れんぞ?〙
出しゃばらないって言ったろ?
〘ならば負けるのを見届けるつもりか?〙
そうなればそうなったで仕方ないだろ?人間の可能性を見出し味方してお前に楯突いたのはサタンだ。ウォンカーもサタンの見出した人間の可能性のひとつだしな
〘アレはサタンではない〙
サタンだよ。ウロボロスが俺をインキュバスと言うようにヒースもまた・・・言ってみれば種族名サタン個体名ヒースみたいなもんだ
〘・・・〙
ヴォルガード・ギルダンテ
〘その名で呼ぶな。今の余はただの残滓だ・・・その名は相応しくない〙
せっかく子が付けてくれた名前だから記憶のみの自分にはもったいないってか?
〘・・・〙
肝心なところで黙りするのはその血のせいかもな・・・まあいい
にしてもなんでだろ?
〘何がだ?〙
ウォンカーだよウォンカー。あれだけの強さを持ち作った2人に対してさぞかし恨みを持っていそうなのになんで言うこと聞いてんだ?しかもヒースを殺さないように手加減しているようにも見えるし・・・
手加減しているのは決して命令しているであろう2人を欺いている感じではなく嬲るような・・・そんな陰湿な感じだな
〘そんなもの決まっている。操っている人間が陰湿なのだろう?〙
操っている?
〘貴様まさか気付いていないのか?〙
あん?
〘・・・貴様はガワに魔力を注いだだけで簡単に動くとでも?たとえ動いたとしても指示通り動く事などない・・・人間が魔人となったようにその魔力が尽きるまで暴れて終わりだろう〙
・・・ん?という事は・・・でもどうやって?
〘貴様は・・・まさか本気で人間が人間を操るのに言葉だけで出来るとでも思っているのか?〙
人間が人間をって・・・ウォンカーはさっきお前が言ったようにガワが人間ってだけで・・・
〘そうではない。ここで行われていた会話を聞いていただろう?その時の会話を思い出せ〙
そりゃ聞いていたけど・・・人間が人間を・・・そういや教育係とやらが皇族を洗脳するとか何とか・・・・・・んん?
〘ある程度誘導は出来るが洗脳など不可能に近い。ましてや身分の違いもある・・・他の人間からの言葉を聞けばその者の言ってる言葉の矛盾に気付くはず・・・それに気付かぬというのは何かしらの力が働いているからだ〙
・・・回りくどいな。だったらどうやって・・・その力ってのはどんな力なんだよ
〘余が創った魔族の中にそれが得意な者がいるだろう?〙
インキュバスが創った?人間を洗脳するのが得意な・・・あっ
〘あやつは人間を操るのに長けていたからな。そして人間との間に多くの子を成しその子らが多く存在する・・・貴様の仲間にも何人かいるだろう?〙
思い当たるのが1人いるな・・・マジか・・・そういう事か・・・
〘人間の理想の地・・・人間の行く末を占うこの地で異物が混入しているとしたら貴様はどうするのだ?ロウニール・ローグ・ハーベスよ〙
・・・んなもん決まってんだろ?身内の不始末ってのもあるしそろそろ我慢の限界だったし・・・
〘・・・地面に手を付き何をしている?〙
ああ、お前は自分で創らないから知らないか・・・これは・・・
この部屋・・・いや、街全体にしとくか
手のひらから街全体へと俺の魔力が伝わ街を作り変えていく
「さあ受け取れ・・・ダンジョンへの招待状だ。俺のダンジョンへようこそ──────」




