700階 ブルデンとエルダー
「貴様は・・・何者だ」
師匠がポイッとされた後、私は父上だったものを睨みつけ尋ねた
見た目は父上だ。しかし中身は全くの別モノと言っていいだろう・・・アレからは何も感じない
そう・・・何も
「・・・父に対して『貴様』はないだろう?しかも『何者』と尋ねるなどどうかしているぞ?」
「どう化しているのはそっちだろう?希薄とはいえ親子の関係を舐めるな・・・貴様は父上ではない・・・全くの別モノだ!」
認めたくないが今の奴に代わって初めて気付いた・・・似ていなくとも私達はやはり親子だ・・・アレは父上では断じてない!
「・・・そうか・・・血の繋がりとは侮れんな・・・いや、魂の繋がりか・・・血は繋がっているのだから」
「どういう意味だ!」
「そのままの意味だ。俺の名はブルデン・・・家名にもなっているんだ・・・聞いた事くらいあるだろう?不甲斐ない子孫を見かねて蘇ったのさ」
これまで父上の喋り方に寄せていただけなのか喋り方が変わった・・・にしてもブルデンだって?にわかに信じ難いが・・・
「どうやって・・・」
「どうやって?ふむ・・・俺も意図してやった訳じゃないからな・・・入れそうだから入っただけだ。今までもな」
「今まで?」
「過去に何度か同じ事をしている。普段はボーッと眺めている事しか出来ないがたまに入り込めるような気がしてな・・・周期的なものなのか存在が近いからか・・・まあそんなのはどうでもいい・・・俺がまた人として暮らせればな」
「意味が分からない・・・一体何の事を言っているんだ!」
本で得た知識を思い返してもそんな事は載っていなかった。過去の人が現在の人に乗り移る?支配する?出来るのか?そんな事が・・・
「理解力の低い方はこれだから・・・ブルデン様がこれだけ言っても理解出来ませんか?」
・・・何となく雰囲気は違うような気がするけどハヌマーはハヌマーだった・・・いや、もしかしたら父上だけ?
「お前もその・・・」
「入り込んだか・・・そう聞きたいのですね?答えは『YES』・・・もっと若い時に入り込みたかったのですがおそらく入り込む隙が出来ないと無理なのでしょう。これまでもそうでしたし」
「・・・そうやって昔から人の体に入り込んでいたのか?」
「そうです。そのお陰でこの国はここまで発展したのですから感謝して欲しいくらいです」
「感謝だと?人の体を奪っておいて・・・」
「何事にも犠牲はつきものですよ?フラン皇子」
くっ・・・こういうヤツが考えたからこそこの国が生まれた訳か
犠牲が出ないようにどうするべきか考えず安易な方法を取る・・・賢しいフリした小物だ
「もっと大局を見ろフラン。廃嫡とはなったがそれで血が変わる事はない・・・俺の血を受け継いでいるのなら見えるはずだ」
こんなヤツの血を受け継いでいるなんて知りたくなかった
大物ぶっているが結局コイツはハヌマーの操り人形・・・どうせ何も見えていない
「記録では1000年も前の人物・・・つまり1000年もそうやって自分の子孫に入り込んでいたのか?」
「言葉遣いがなってないな・・・まあいい。それにしても人聞きが悪いな。まるで取り憑かれたかの言いようじゃないか・・・せっかく手助けしてやってたと言うのに」
「どこが・・・」
「お前も知っているだろ?あの大陸がどんな所かを。平和とは程遠い世界・・・魔物が人を襲い、人間同士で戦争に明け暮れ、かと思えば魔王が現れ人々を恐怖に陥れる・・・その世界に比べてどうだ?私達の作り上げたこの国は素晴らしいと思わないか?・・・・・・だがいずれ・・・」
父上と同じ事を言って悦に入るブルデン・・・いや、父上は言わされていたのかもしれない・・・今みたいに完全に操られていなくとも影響を受けたり思考を変えられたりして
少しだけ違うのは最後の態度と表情だ
言いよどみ何かを懸念しているような・・・
「貴方が反乱を起こし解放しようとしている民は言わば籠の中の鳥です。しかも空を知らない鳥・・・自由に空を飛び回る事を知らない鳥にはこれ以上の環境はないと思いませんか?住む場所と食事を与えられ番までも・・・これを幸せと言わずとして何と言うのでしょうか?」
「答えは自分で言っているじゃないか・・・空を奪っていると」
「奪ってなどいません。ただ知られぬよう気を付けているだけです」
「それを奪っていると言うんだよ・・・現に知る機会を奪っているだろう!」
何が籠の中の鳥だ
まだその鳥の方がマシ・・・普通に飼うなら窓から外を・・・空を眺める事も出来るだろう。飛び立ちたければ飼い主が油断した隙に飛び立てばいい・・・しかしこの街の住民達は窓から空を眺める事すら許されない・・・それのどこが幸せだと言うのだ!
「ふっ・・・もういいじゃないか・・・その話は済んだはずだ。見目は良く女なら囲ってやらないでもないが男では使いようもない・・・殺すのは惜しいから邪魔さえしなければ飼ってやればいい」
「甘いですなブルデン様。こういう輩が一番危険と何度も申し上げておりますのに」
「そうだったな・・・妻に似ているからつい・・・なあ?ヒース」
《っ!・・・ブルデン・・・本当にお前なのか・・・》
黙って聞いていたヒースに向かい邪悪な笑みを浮かべるブルデン。彼の言う妻とはヒースの愛した・・・
「だからそう言ってるだろ。お前はいつも察しが悪い・・・だから俺に突き落とされるんだ」
《~~~!!この・・・》
「よせよせ。お前が強いのは分かるが所詮は勇者である兄の二番煎じ・・・ヤツに対抗する為に作り上げたウォンカーには敵うはずがない」
《・・・ヤツ?》
「俺らが大陸を追われるきっかけになったヤツだよ。お前の兄でも倒せないと言わしめたあの魔族・・・アバドンだ。忘れたのか?」
ヒースの兄であり勇者ですら倒せない魔族・・・その魔族アバドンを倒す為にウォンカーは作られた?
「この国は理想郷だ・・・何年も何年もかけて作り上げた理想郷・・・しかし一つだけ不安があった・・・それがアバドン・・・魔王を討伐し人類最強と誰もが認める勇者・・・その勇者ですら勝てぬと言わしめるアバドン・・・噂では一つの街を一晩で・・・いや、一瞬で壊滅させたのだとか・・・勇気ある者である勇者が街が滅びゆく姿を見て撤退したのだぞ?『勝てない』としり込み逃げたのだ。人類に残された道は逃げるしかなかった・・・今住む大陸を捨て新たな・・・あるかも分からない大陸を目指す他なかった・・・俺達は運良くこの大陸に辿り着き途方もない年月をかけてこの国を作り上げた・・・だが消えないのだ・・・誰も・・・勇者でも勝てないアバドンがいずれこの大陸に辿り着くのでは、と・・・不安が常に付きまとうのだ!」
戦争もなく犯罪などもほぼないこの国でなぜ魔銃の開発を止めないか疑問だった。それに兵士の数も6万から一向に減らさないのも・・・ヒースや魔人達に対抗する為にしては大袈裟だ。何せヒース達はこれまで一度も街を襲撃したりしていないし魔人の数も増えていないのは国も把握しているはずなのに魔銃を作り続け軍を縮小しなかったのはその為か
アバドンから逃げるように大陸を出てようやく安住の地を見つけた・・・それでもアバドンという脅威に苛まされた・・・でも・・・
「それで『収束波動銃』を作ったのか・・・」
「まあな。だが収束波動銃が出来たのは最近だ。どうしても膨大な魔力に耐え切れず壊れてしまうから途中で作るのを諦めたくらいだ。けど先に完成したウォンカーがヒントをくれた」
「・・・完成・・・作った・・・凡そ人間に使う言葉ではない気がするが?」
「人間ではないからな」
「なっ!?」
見た目は人間ではないが人間のそれに近い・・・てっきり獣人族や他の種族のように進化したのかと思ったけど・・・
「人間の形を模して作ったもの・・・言わば人形だ。魔銃と同じくアバドンに対抗する為の兵器に過ぎない。しかも忠実な自律型の兵器だ。最高だろ?」
「・・・その兵器人形のウォンカーがどんなヒントを?」
「知りたいか?」
「ええ、とても」
「ふむ・・・まあいいだろう。エルダーよ話してやれ・・・俺達の最高傑作がどのようにして出来たのかを、な──────」




