699階 集結
「ぬわあぁぁぁ・・・このっ!」
地面に激突する寸前で空中で回転し何とか足から着地する
んにゃろ・・・人を物みたいに投げやがって!
怒りのまま戻って突撃したいのは山々だがそんな事をしても同じ事の繰り返し・・・少し冷静になるとしよう
突如現れた皇帝と丞相・・・いや、ブルデンとエルダーが作った人工生物『護国神』ウォンカー。そのウォンカーとの戦いが始まった
と言っても最初は動く事も・・・俺を見る事もなく佇んでいるだけ。なので思い知らせてやろうとかなり本気で殴ってみる・・・が、硬くてダメージが通らない
一体何で出来てるのやら・・・仕方なく拳に魔力を溜めるとヤツはその魔力に反応し突然動き出す
腕をただ振っただけの攻撃で俺は壁まで吹っ飛ばされ、更に口を開いたかと思ったら口から魔力・・・あの収束波動銃と同じような魔弾を吐きやがった
ゲートを・・・とも思ったが咄嗟すぎてどこに開くか考えがまとまらず受けるのは危険と判断して何とか避けた
収束波動銃には街を覆っていた魔力を集めた玉が使われていたがおそらくウォンカーにも・・・もしかしたら収束波動銃に使われていた玉が核の代わりをしているのかもしれない
魔弾が当たった箇所を見ると物の見事に外まで貫通していた。この城の壁は魔鉄鋼を使っているはず・・・俺でさえこの壁を貫くのにかなりの魔力を溜めなくてはならないのに何の予備動作もなくパカッと口を開いただけでこの威力を出しやがった
体もカチカチでただ振っただけの腕で俺を吹き飛ばし口を開いただけで必殺の魔弾が撃てる・・・正直同じものを創ろうとしても俺には創れないだろうな
んで貫通した穴を眺めていたら後ろから俺の首根っこを掴みその穴に向かって放り投げ今に至る
思い出したらまた腹が立ってきた・・・仕掛けなければ暴れなさそうだし謁見の間に仕掛けてある通信道具から聞こえてくるのは悲鳴ではなくフランが皇帝と話している声だけだから急いで戻る必要はなさそうだけど・・・あー今すぐ戻ってぶん殴りたい!
それにしても調子が上がらない。違和感と言うべきか何となくだけど力の伝わり方がおかしい気がする・・・そう言えばウロボロスのヤツ妙なことを言っていたな・・・『今の』俺ではとか何とか・・・もしかしてそれと関係しているのかも・・・
「・・・あれって・・・」
「あ、ああ・・・魔神様と戦っていた・・・」
「消えたと思ったらいきなり城から・・・もしかして城の中で魔神様と?」
「てかその前の光は何だったんだ!?突然城から光が・・・」
おおう・・・いつの間にか城前広場にいたこの街の住民達が集まって遠巻きに俺を見ていた
「動かないぞ?魔神様にやられて動けないんじゃ・・・」
「だったら俺達でも・・・」
「でも皇帝陛下の右腕って・・・」
「・・・どうせ魔神様が負けたら俺達はお終いだ。だったら少しでも魔神様の手助けをした方がいいんじゃないか?」
何だか雲行きが怪しい
周りを取り囲みジリジリと近付いて来る住民達・・・ぶっ飛ばす訳には・・・いかないよなやっぱり
「か、かかれ!!」
誰かが号令を出すと一気に押し寄せて来た
ほとんどが青年から中年までの男で素手の人もいれば兵士から奪った魔銃を持つ人もいる。だが魔銃を持っていても使い方が分からないのか銃身を持って鈍器として使うつもりらしい
本人達はヒースの手助けのつもりみたいだから俺がヒースの味方と言えば止まってくれるか?・・・まあ興奮しているようだし目の前で戦っているのを見ているから素直に信じてくれるとは思えないな・・・となると
「{止まれ}」
言霊を発すると襲いかかって来ていた全員が動きを止めた
「う、動けない!?」
「何をした!このっ!!」
「魔神様!お助け下さい!!」
走っている最中にいきなり体が動くのを止めたらそりゃびっくりするわな・・・言霊ってゲートの次に便利かも
でも口は動かせるのをいい事にみんなそれぞれ言いたい放題言い始めたからうるさくて仕方ない
「{静まれ}」
言霊を使って強制的に黙らせる
さて、どうしたもんか・・・謁見の間の方はしばらく大丈夫そうな雰囲気だがいつウォンカーが暴れ出すか分かったもんじゃないしな・・・でもみんなをこのまま放置するのも・・・うーん・・・
「何の集会だ?」
「・・・これが集会に見えるか?ダン」
背後から声がしたので振り返るとそこにはダンとキースが立っていた
「てか魔神と戦ってんじゃなかったのかよ・・・何してんだ?」
「うるさいな・・・これには色々事情があって・・・あれ?そう言えばなんでダンとキースが?確かキースは・・・」
「コゲツなら女の所に戻って行ったぞ」
「あん?女?」
「どうやら置いてきたみたいで将軍を倒した後に来た道を戻って行ったぜ・・・まあ青春ってやつだ」
「・・・よく分からないけど無事なら良かった。そう言えばゲートちゃん達にフランを探させているままだったな・・・」
コゲツも大丈夫そうだし他の人達も多分大丈夫だろう・・・応援が間に合っていれば
というわけでゲートちゃんとゲートくんの2人にフランが見つかった事を伝えて他の人達の様子を見に行ってもらった。ついでに戦いが終わっていればここに連れて来るよう伝えたからすぐに集まるだろう
「んでこの状況はなんなんだ?」
「んー魔神と戦ってる最中に真の敵が現れたって感じ?」
「真の敵?この街の住民達が?」
「違う違う・・・面倒だから詳しい説明は後でみんな揃ってからするとして・・・とりあえず真の敵ってのは・・・皇帝と丞相それに『護国神』ウォンカーだ──────」
暫くすると全員無事?に集まった。何故かネターナがベルフェゴールに担がれてるしシアは寝てるし魔人はいるし・・・まあ全員死んでないから細かい事は気にしないでおこう
怪我をした人はセシーヌと俺が治療し全員に顛末を説明しようとした時、珍しくベルフェゴールが俺の話を遮った
《お話を遮り申し訳ありません。ですが先に聞きたい事がふたつあります》
「ふたつもかい・・・ひとつめは?」
《この方にお聞きしたのですが詳細をお聞きしたく・・・ロウニール様は一度魔神ヒースとやらに殺されたのですか?》
どうやらマルネが余計な事を言ってしまったらしい。口調はいつも通りだが抑え切れない怒りが溢れ出てるな・・・まあそれもそうか
「一瞬・・・ほんの一瞬死んでただけだ。すぐに生き返ったしさっき戦った時は俺の圧勝だ」
そうでもなかったけどな
何処の馬の骨とも知れない相手に負けたとあったら心中穏やかじゃないのだろう。下手すりゃ愛想尽かして・・・
《その者はどちらに?ご挨拶したいのですが》
「・・・まさか鞍替えするつもりか?」
そりゃまずい・・・貴重な戦力もとい有能ななんちゃって執事を失う訳には・・・
《鞍替え・・・ですか?よく分かりませんが我が主を一瞬でも死に至らしめた者を生かしておく訳には・・・そうであろう?ヴァンパイア》
《無論だ。ちょうどそこに丁度いい塩梅の人間共がいる・・・眷属化して主の力を示さねば・・・》
「やめれ」
なんだ・・・ガッカリしているのかと思いきや単純に俺がやられて怒ってただけか・・・ちょっと安心した
「まあ俺が油断しただけだし後で事情は話すが今は味方だ。間違っても手を出すなよ?・・・で、ふたつめは?」
《・・・畏まりました。ふたつめは・・・おめでとうございます》
「あん?」
《先程魔力の膜が狭まった後、ロウニール様の眷族が増えた気配を感じました》
「眷族?・・・ああ!子供の事か」
眷族って・・・そっか・・・ベルフェゴールにも伝わったのか。謁見の間で産まれた事を教えてくれたのはスラミだった。別に出産に立ち会った訳ではなくどうやら産まれた気配みたいのを感じて俺に報告して来たらしい。どうやらそういうのも分かるみたいだな
《やはりあれはそうだったのか!!》
《ふっ・・・察せぬとは貴様もその程度だヴァンパイア》
《くっ!》
何の戦いかよく分からないがヴァンパイアは凄く悔しそうにしている・・・何なんだこれは・・・
「それだけか?」
《はい。お話を遮り申し訳ありませんでした。すぐに確認せねばならぬ問題でしたので》
んな大袈裟な・・・いや、子供の事は何より大事だけど今じゃないだろ・・・
と、何とか話せる状態になり簡単に今の状況を説明した。走る姿で止まっている無言の住民達に睨まれながら
「何だかいつの間にかややこしい事になってるじゃねえか」
まるでややこしくなったのが俺のせいかのように言うダン・・・いや、俺は巻き込まれただけなんだけど・・・
「魔神と言われるヒースが遥か昔の勇者の双子の弟で勇者の魂を受け継いでる?しかも俺達の大陸から来た奴らの一部の魂も受け継いでる奴らがいてそれが皇帝とその補佐でそいつらが作ったもんがかなり強い・・・って事でいいか?」
「コゲツまとめありがとう。大体そんな感じだ」
「この連中は?こっちに睨み利かせててイラッとするんだけど」
シークスが細い目を片方開きながら今にも襲って来そうな勢いの住民達を見ながら言った
「彼らにとってヒース・・・魔神の敵は自分達の敵だと認識しているからな・・・ヒースと戦ってた俺を倒そうと勇気を振り絞った結果だ」
「でもロウニール様はそのヒース様の味方なのですよね?説明したら分かって頂けるのでは?」
「うーん・・・無理・・・かな?」
セシーヌの言う通り味方なんだが話が通じそうもない・・・ん?
「広場にいた兵士の数が妙に少ないな・・・逃げたか?」
「ああ、兵士の格好した連中なら向こう側に走って行ってたぜ?」
向こう側・・・住宅街じゃなく監獄のある方・・・その手前には・・・チッ!
「応援を呼びに行った可能性が高いな。そうなると住民達をこのままにしておく訳にも・・・」
まずいよな・・・住民達に殴られたり魔銃を奪われたりした兵士が応援を呼ぶんだ・・・仕返しとばかりに住民達を撃ちまくるだろう。しかも動けないと知ったら尚更・・・
「ハア・・・説得は無理で相手は俺を敵視しているけど守らないといけないか・・・フラン達の元にも戻らないといけないし・・・仕方ない・・・ダン!」
「あん?」
「お前がみんなを率いて住民を守れ」
「・・・なんで俺なんだよ」
「この中で他にタンカーはいるのか?守りに関しちゃこの中でお前が一番だ・・・実力は下から数えた方が早いけどな」
「一言余計だ!」
実力で言うならベルフェゴールかヴァンパイア・・・次点でシアだろう。けど誰かを守るというならダンが適任だ
「任せてもいいか?」
「・・・お前の仲間はどういう訳か血気盛んな野郎が多いからな・・・仕方ねえ引き受けてやる」
血気盛んと言うか人間を何とも思ってないと言うか・・・
「んでお前は?任せたと言うからには行くとこがあんだろ?」
そろそろ向こうも始まりそうだ。本調子じゃないのが気掛かりだが初めて出来た弟子だ・・・見捨てる訳にはいかないしな
「ああ・・・ちょっくら倒してくるわ・・・この国の亡霊共を、な──────」




