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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
701/856

696階 収束波動銃

喧騒の中目が覚めるとあの少年が私の顔を覗き込んでいた


私と目が合うと喜ぶ少年・・・ここに居ては危ないとすぐに体を起こし安全な場所に連れて行こうとした時初めて異変に気付いた


遠巻きに見ていただけの街の住民が兵士ともみくちゃになりながら争っている


銃を奪い兵士を制圧する者、兵士一人を何人かで取り囲み押さえ付ける者達・・・兵士よりも住民の方が圧倒的に多く兵士達は為す術なく取り押さえられていた


《・・・これは・・・ハッ!あの男は!?》


いくら数が多いとはいえあの男には無意味・・・下手に近付けば危険だと思い見回すがあの男の姿は見えなかった


「マジンサマ・・・アイツはみんなが暴れ出したら急にいなくなっちゃって・・・」


《居なくなった?》


逃げた?いや・・・それは考えにくい


あの男なら一振でこの状況を打破する事が可能だろう。ならなぜ?


その時浮かんだのは兄の言葉・・・『必ずしも勝つ必要はない』という意味不明な言葉


そう言えばあの男は私の代わりにとも言っていた・・・つまりそれは私の代わりにフランを助け皇族を討つという事・・・であればあの男は元々敵ではない?


冷静になって考えればおかしな点がいくつもある。魔道具を使わず、私と同じく魔力を使う。そしてどこか懐かしい技の数々・・・あの男は別大陸の人間である事は間違いないだろう


そしてフランは別大陸の人間を味方につけると言っていた・・・もしかしたらあの男がその味方・・・しかしならなぜ私の前に?


「魔神様!大丈夫ですかい?」


頭の中で考えを巡らせていると1人の住民が私に声を掛けてきた。手に魔銃を持ちながら息を切らせこれまで見たことの無いくらいのギラギラした瞳で私を見ている


《あ、ああ・・・これは一体どうして・・・》


「何言ってんですか・・・アンタが呼び起こしてくれたんだ・・・眠っていた感情を・・・諦めていた希望を」


眠っていた感情・・・諦めていた希望・・・


「ずっと当たり前だと思ってた・・・けど心の片隅で何か違うって・・・けどようやく分かったんだ!さっきの皇子の言葉とアンタの行動で!」


フランの言葉と・・・私の行動?


「俺達は笑っていいんだ泣いていいんだ怒ったって悲しんだって・・・何かしたら罰せられると怯えていたけど・・・俺達には魔神様がいる!守ってくれる魔神様が!だから戦うよ・・・例えここで力尽きたとしても子供達に・・・そんな未来があるのなら!」


そうか・・・だから兄は勝つ必要はない、と・・・


私の敵はあの男ではない・・・皇帝でも皇族でもない・・・私自身だ


そもそも敵を倒すのが目的ではない。この国のやり方を変えることが目的・・・その為に皇族を倒そうとしていたのだ。だから必ずしも皇族を倒さなければならない訳ではない。例えば皇帝が改心してやり方を変えるなら倒す必要はなくなってくる


では私はどうするべきか


答えは単純だ・・・突き進めばいい


兄の言う通りあの男は踏み台になってくれた・・・私のではない・・・住民達の、だ


これまでただ言う事だけを聞いて生きてきた住民達が自らの意思を表す大暴動・・・この暴動が望んで得た暮らしではなく強要されていた暮らしであったと行動で表している


戦争が起きないからこのままでもいいと思っていた自分が恥ずかしい・・・こんなにも彼らは溜めていたのだ・・・鬱憤を


足に力を入れ立ち上がる


地面に這いつくばり立ち上がったのは何度目か・・・いや、何度でも構わない・・・倒れたらその都度立ち上がればいいだけだ


「お、おお・・・魔神様あまり無理をなさらずに・・・私達で上でふんぞり返る皇帝陛下を・・・皇帝をギャフンと言わせてみせます!」


《・・・ここの兵士達と違い城に入れば容赦なく撃って来るぞ?》


ここにいる兵士達は皇帝の操り人形だ。住民達とは違うが言われたことしか出来ない連中・・・城の中の兵士も同じかもしれないが受けている命令が違う


皇帝を守れ・・・そう命令を受けていれば城に入った瞬間に容赦なく撃って来るはずだ。例え数が多いとはいえ戦う事などなかった住民には荷が重い


「そ、そこは気合いで何とか・・・」


《君達は意思を見せてくれた・・・それだけで充分だ。後は私に任せよ》


私が切り開くはずだった道を住民達が切り開いてくれた。ならば私はその道を突き進むのみ・・・そしてまた壁が現れたら今度こそ私が・・・



私が歩き始めるとそれに気付いた住民達が道を開けてくれた


左右に分かれ城まで続く道・・・その道をゆっくり進む


目的を果たす為に──────






父上が言った『慈悲など要らぬ』・・・その言葉の意味は下で暴動を起こした人達を・・・殺す気だ


マドマーに命令した『アレ』とは何なのか分からないがそれを使って皆を・・・


「へ、陛下!民達の様子が・・・」


下を見ると住民達が真っ二つに分かれ道が出来ていた。そしてその出来た道を歩く人影が・・・


「魔神め・・・まだ生きておったか」


ヒース!良かった・・・殺されたものかと・・・そう言えばあの男は?


見渡しても見つからない。ヒースより強そうだったし普通の人間である住民達に倒されるとはとても思えないが・・・


《城に入って来そうね・・・どうするの?》


「・・・城を訪ねると言う事は余に用があるのだろう・・・歓迎の宴でも開いてやりたいところだが・・・誰かマドマーに伝えよ!謁見の間にて迎え撃つ、と」


《あらあら・・・楽しそうな宴になりそうね》


「・・・涼しい顔をしていられるのも今の内かもしれぬぞ?アレを見れば銃口をどうかこちらに向けないでと懇願するかもな」


《凄い自信ね・・・奥の手だっけ?見せてもらおうじゃない》


父上とウロボロスの不穏な会話を聞きながらヒースが城へと入って来る姿を見ていた


ヒースなら大丈夫という気持ちとは裏腹に言い知れぬ不安が押し寄せる


「行くとするかフランよ・・・夢の終焉の時だ──────」




連れて来られたのは謁見の間


父上が言う『夢の終焉の時』を迎える場所に選ばれた


果たしてどちらの夢の終焉か・・・これが最後の戦いになるだろう


父上は玉座に座り私は後ろ手で縛られた状態で父上のすぐ横でヒースの到着を待っていた。するとヒースより先にマドマーが奇妙な形の魔銃と吸い込まれそうなくらい黒い漆黒の玉を持って来た


「お待たせ致しました」


「うむ・・・お主に大役を任せる。その銃で逆賊を撃て」


「はっ!」


あれが奥の手?もしかして魔銃が奥の手?


「そうガッカリするなフランよ。あれはただの銃ではない」


「ガッカリなどしてません・・・それでただの銃ではないとは?」


「・・・魔力障壁がどのようにして展開されておるか知っているか?」


「いえ・・・知りません」


「あの玉よ・・・あの黒き玉が魔力を遮断する障壁を張るのだ。出力が最大ならこの街を越えて覆う事が出来る代物だ」


あの玉が・・・


「それと先程の質問はどのような関係が?」


「分からぬか?あの玉が魔力が外に逃げ出さないように壁を作る・・・その壁を狭めていきあの玉に収めたとしたら・・・どうなると思う?」


「?・・・言っている意味が分かりません。狭めていくとは?」


「魔力障壁は魔力だけを通さぬ。つまりだ・・・その障壁を狭めれば自ずと魔力も・・・」


「まさか・・・あの玉の中にこれまで街に蔓延していた魔力の全てが・・・」


「その通りだ。障壁を極限まで狭め玉に封じ込める・・・そしてその玉を・・・」


父上に促されマドマーは奇妙な形の魔銃に玉をはめ込んだ


街に漂っていた魔力・・・その魔力があの玉に・・・そしてその玉から魔力を抽出しあの銃が放つ・・・


「威力は想像を絶するものとなるだろう。暫く魔道具が使えぬのが玉に瑕だが魔道具内に溜めてある魔力もあるからさほど支障はないはずだ・・・とにかくあの銃から放たれた魔力に耐えられるものなどこの世に存在しないのは確かだ・・・たとえ魔神とて塵も残らぬ」


「・・・貴方はなんという・・・」


だからこその余裕か・・・てっきりウロボロスがいるから傷付いても問題ないと思っているのかと・・・そうではなく圧倒的な火力を持っているからこその余裕・・・このままではヒースが危険だ


《凄いわね・・・私的にはとてもつまらないものだけど賞賛に値するわ。下手したらアバドンですら撃ち抜きかねないわね》


「どうだ?妾くらいにならしてやってもいいぞ?」


《冗談・・・言ったでしょ?とてもつまらないって。私は手に汗握る戦いが見たいのであって呆気なく終わる戦いなんて見たくないの》


「それは残念だな・・・まあ手を治してもらった恩は狙わない事で返した事にしよう。それでよかろう?」


《随分勝手な言い草ね・・・本当にその玩具で私が倒せるとでも?》


「試してみるか?マドマーはお主を狙いたくてウズウズしておるぞ?あの時の屈辱を忘れた訳ではないだろうしな」


睨み合う2人


父上の言うあの時とは何なのか・・・おそらくウロボロスが城に来て父上と会いそこで一悶着あったのだろう。そしてマドマーはその時にウロボロスにやられのだろう


《・・・やめとくわ。本当に危なそうだし・・・それに私は見る専門・・・やるのは他の人に任せるわ》


「ふ・・・よかろう。ではそこで黙って見ておくがいい・・・魔銃・・・収束波動銃の恐ろしさをな」


《収束波動銃ね・・・センスがいいこと》


呆れた様子のウロボロスは私の反対側で玉座にもたれ掛かる


ウロボロスに対して自信満々の父上を見て最悪の展開が現実味を帯びてきた。あの銃は危険だ・・・何とかヒースに伝えないと・・・


「陛下・・・対話の必要は?」


「ない。入って来る者は魔神以外におらぬだろうから構わず撃て」


「はっ!」


そんな・・・ヒースに伝える間もないと言うことか!


後ろ手で縛られていて身動きも取れない・・・扉が開いた瞬間に叫んでも間に合わない・・・せめてあの拡声の魔道具があれば伝える事は可能だったかもしれないがここに来る前に取り上げられてしまったし・・・


頭の中でグルグルとどうすれば伝えられるか考えていると思ったよりも早くその瞬間は訪れてしまう


ゆっくりと扉が動きヒースの姿が見えた


「ヒ・・・」


ヒースが見えた瞬間に叫ぼうとするよりも早く開く前より扉に銃口を向け構えていたマドマーが引き金を引いた


目が眩むような眩い光を放ち銃口から発射された魔力はヒースへと向かい伸びていく


普通の魔銃とは比べ物にならない光の帯は瞬時にヒースを包み込む


「ヒース!!」


まだ光のせいで目が見えない・・・それでも叫んだ私をホッとさせる声が聞こえる


《大層な歓迎だな》


「ヒ・・・っ!?そんな・・・」


ようやく目が見えるようになる


現状を見た瞬間に血の気が引いた


ヒースの左肩から先がゴッソリと失われている・・・そしてヒースの後ろの壁などが魔弾の大きさに外までくり抜かれていたのだ


「・・・外したか」


「申し訳ありません。次は必ず」


ダメだ・・・ダメだダメだ・・・あんなのを食らったらひとたまりもない・・・逃げてと言わないと・・・逃げてと・・・


左腕を失い片膝をつくヒース・・・そのヒースに照準を合わせてマドマーは引き金に指をかけた


逃げてと言って逃げれるのか?下で戦いかなり体力が消耗しているところにあの大怪我だ・・・もはやヒースには動く体力は残ってないのでは?


ならどうすれば助かる?ヒースが助かる道は・・・どうすれば・・・どうすれば・・・


「これでお終いだ・・・我が国に長きに渡り巣食う亡霊のごとき魔神よ・・・撃て!」


「はっ!」


マドマーが引き金を絞る


私は動けず叫んだ


「師匠!!」


ヒース・・・ではなく咄嗟に口から出たのは『師匠』・・・師匠ならこの状況でも打破してくれるのではという願望から思わず出た言葉だった


そんな奇跡など起きるはずもなく無情にもヒースは光の中へ・・・今度こそヒースは・・・死・・・



「・・・ったく・・・何て物を作りやがるんだ」


・・・え?誰の声だ?ヒースが居た方向から聞こえる声・・・また目が眩み見えないが薄目で必死に見ようとすると朧気ながらふたつの人影が見えてきた


ヒース?それと・・・


「さて、この長い長い戦いに決着をつけようぜ・・・フラン」


ヒースの前に立つ男の言葉を聞き、私は思わず口にする


「・・・誰?──────」



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