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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
700/856

695階 兄と弟

ロウニールがヒースの代わりに役割を果たすと言った瞬間、ヒースの様子が変わった


迷いが消え目の前の敵に集中すると自然と構えを取る


「もう遅い・・・これから幾多の困難が押し寄せて来るっていうのにその都度悩んでいたら何年かかるか分かったもんじゃない。お前と違って人は1000年も生きられないんだよ」


迷うヒースを見限り、ロウニールは最後の一撃とばかりに魔力を拳に溜め始める。その拳には普段魔力が見えない者にも見える程の魔力が宿り辺りが重苦しい雰囲気へと変わる


《まさかそれを!》


受ければ必死の魔力量・・・しかし躱せば背後にいる者達は跡形もなく消え去ってしまうだろう


これまで周囲の人間に気を使って戦っているように見えていただけにヒースにとってロウニールの行動は驚くべきものだった


「安心しろ・・・周りにいる人達を人質にするほど俺は弱くない・・・避けれるなら避けてみろ!魔拳大!」


ロウニールが叫びその場で拳を振り下ろすと頭上に巨大な魔力で出来た拳が現れヒースに向かって振り下ろされた


見上げていち早くその攻撃に気付いたヒースだったが避ける間もなく魔力の拳に打ちのめされる・・・ヒースは体がバラバラになるくらいの衝撃を受けその場に倒れる・・・が、ロウニールは手を休めることなく次の魔力を溜め始めた


《グゥ・・・ア・・・》


巨大な拳に押し潰されたヒースは意識を朦朧とさせ視線を彷徨わせる。そして目の焦点が合うとそこには心配そうにヒースを見つめる者と目が合った


《・・・ミ・・・ラ・・・》


辛うじて動く口で『ミラ』と呼ぶ


しかし無情にも第二の拳が空に現れ瀕死のヒースへと降り注いだ


《ガッ!・・・グ・・・》


第二の拳を食らいヒースの意識は完全に途絶えた


それでもなおロウニールは同じように構え拳に魔力を溜め始めた


これまでの攻防は何だったのかと思えるほど一方的な展開に周りを囲む住民は疎か住民を連れて来た兵士や上で2人の戦闘を眺める者達までもが言葉を失った


そんな中意識を失ったヒースに駆け寄る人影が・・・ロウニールに石を投げヒースを応援していたあの少年である


ロウニールのあまりの強さに呆然となり少年を押さえる力が緩くなった母親の手をすり抜け少年は駆け寄ると両手でヒースの体を激しく揺らし叫んだ


「起きてよ!死んじゃうよ!」


上空に魔力が拳を形作る


ヒースの頑強な体を持ってしても耐えられなかった衝撃に普通の人間である少年が耐えられる訳がない


母親は叫び必死に少年に戻るように言うが少年の耳には届かない・・・彼は何度も何度もヒースの体を揺らしながら叫んでいた


「お願い!起きてよ!!」


もはやその言葉に反応する事はない


静かに目を閉じ死を待つ他ない。それは横にいる少年も同じだった。体が竦み誰も助けに行けず母親と同じように少年に『戻れ!』と口々に叫ぶのみ。2人はこのまま巨大な拳に押し潰されて・・・



と、誰もが思ったその時、ヒースはパチリと目を開け突然手を天にかざした


《少し借りる・・・ぞ!》


ヒースの手のひらから魔力が放出されロウニールの放った巨大な拳とぶつかり合うと激しい音を立ててふたつの魔力は消え去った


「・・・へえ・・・お前誰だ?」


ロウニールは自らの攻撃が掻き消されたのを見て尋ねるとヒースは少年の頭に手を乗せて撫でると立ち上がりロウニールと対峙する


《俺より強い奴を前にするのは何年振りだろうな・・・ったく・・・そういう星の元に生まれたって事か・・・》


「・・・答えになってないぞ?」


《誰だろうと気にするな・・・少し借りてるだけだ》


「なるほど・・・そっちか」


《理解が早いな》


そう言って微笑むヒース・・・その体には異変が起きており瀕死の重症だった体が自然と回復していた


「・・・お前なら俺を倒せるとでも?」


《それは俺の役目じゃない》


「ならなんで出てきたんだ?」


《・・・教える為・・・そして伝える為に》


「何を教え何を伝えるつもりだ?」


《『戦い方』を・・・『お前なら出来る』と》


「なるほど・・・伝わるといいな」


《ああ・・・だから暫く・・・胸を貸してくれ──────》





何故か鮮明に思い出す兄との修行の風景


これは・・・兄が勇者に選ばれた後か。あの時の兄は本当に酷かったな・・・勇者に選ばれて調子に乗る様も羨む私の気持ちなど一切察しようとしない無神経さも・・・


〘悪かったな・・・無神経で〙


っ!・・・兄さん!?


〘お、ようやく届いたか・・・いや聞く気になったが正解か?〙


・・・


〘またそうやって心を閉ざそうとする・・・悪い癖だぞ?ヒース〙


・・・兄さんには分からないさ・・・弟の気持ちも選ばれなかった者の気持ちも・・・


〘うん、分からないな。実際兄だし選ばれたし〙


・・・


〘けど俺が死んだ今お前が一番上だ〙


・・・それは・・・


〘そしてお前は選ばれた〙


選ばれた?誰に・・・


〘俺に選ばれた〙


何を言って・・・


〘旅立つ前に託しただろ?『そっちは任せた』って。・・・まあ俺の方はダメだったけどな〙


・・・兄さん・・・


〘だから無視するなよ・・・寂しいじゃないか〙


別に無視していた訳じゃ・・・


〘本当に?こうやってずっと話し掛けてたんだぞ?それをお前・・・まあ過ぎた事を言っても仕方ないか・・・今は未来を話そう〙


未来?


〘俺を受け入れろ・・・そしてその力を使え〙


・・・そうすればあの男は倒せるって言うのか?


〘・・・無理だな〙


このっ・・・


〘まあ待てそう怒るな。あの男に必ずしも勝つ必要はない気がするんだ〙


なら兄さんの力は必要ないじゃないか


〘んー・・・そうかもしれないけどとりあえず受け入れろ〙


・・・相変わらずだな・・・『気がする』とか『とりあえず』とか・・・とても世界を背負って戦った人には思えない


〘だからじゃないか?〙


え?


〘世界なんて背負える訳ないだろ?真面目に背負おうとしたら潰れるに決まってる・・・だから俺みたいな奴が選ばれたんじゃないか?〙


・・・


〘背負う必要なんてない。俺が負けたら世界が滅びる?そんなのそんな仕組みを作った神様ってやつが悪いのさ〙


なら・・・


〘立ち止まるな。少しずつでもいい・・・前を向き進め。いっぱい背負って重くて歩けないなら振り落とせばいい・・・自分達で勝手に歩くさ〙


・・・どこに歩けばいい?


〘ちゃんと道標があるじゃないか。それについて行けばいいだけの話だ簡単だろ?だけでその道に壁とか障害が沢山あると思う・・・だから俺と一緒にぶち壊そうぜ?〙


勝てないと言ってなかったか?


〘目の前の男が壁なら、な。あの男は・・・壁じゃなくて踏み台だ〙


踏み台?


〘・・・いいから受け入れて飛び込んでみろ!きっとその先には望んだ道があるはずだ〙


・・・望んだ・・・道・・・


〘っと、そろそろ限界だ・・・力の使い方は体に染み込んだはず・・・後はどう使うかお前次第だ・・・まあちょっと遅かったかもしれないけど・・・〙


?・・・どういう意味?


〘目が覚めたら分かる・・・ったく化け物め・・・まだ魔王と戦っている方がマシだ〙


・・・兄さん・・・もう会えないのか?


〘もうとっくに別れは済んだろ?俺の役目はとっくに終わってるし・・・後はゆっくり弟の活躍でも眺めとくわ〙


会いたいな・・・兄さん・・・


〘バカヤロウ・・・甘えんな。いいか?まだお前はやる事盛り沢山なんだ・・・それを全て終えてから来い〙


・・・分かったよ・・・ありがとう兄さん


〘感謝の言葉はこの局面を乗り越えるまで取っとけ。て言うかまあ・・・感謝される筋合いはないって言うか・・・うん、まあ頑張れ〙


あ、ああ・・・じゃあ少しの間だけ借りるよ


〘そうしろそうしろ・・・文句言うなよ?〙


?・・・ああ



私が返事をするとそれから兄は何も言わなくなった


兄の力・・・魔王を倒した勇者の力・・・その力で目の前の男を──────


《倒・・・グッ!》


「動いちゃダメだよ!マジンサマ!」


少年は私が起きようとするのを必死に止めた


痛みで意識がはっきりしてきた。体はかなりの速度で回復しているみたいだがそれでも追い付かないくらい傷付いていた



バカ兄め・・・やられ放題じゃないか



気が付いた瞬間に流れ込んで来る相手と私の体を使った兄との戦闘の記憶・・・その記憶で確かに戦い方を学ぶことが出来たが派手にやられた記憶では意味がない


それでも立ち上がらなくては・・・少年を巻き込む訳にはいかない


「そのままゆっくり寝ておけよ・・・お前は俺には勝てない」


立ち上がろうとする私を見下ろし男は言った


男の言う通りだ・・・体力や傷が回復したとしてもこの男には敵わない。兄の力を手に入れたとしても・・・勝てるはずがない


それでも・・・


《待っている人がいるのだ・・・何が何でも通らせてもらう》


兄は男を踏み台と言った・・・その意味は未だに分からない


私の目には越えなくてはならない壁にしか見えない・・・なぜ兄は踏み台と言ったのか・・・


実際この男は何者なんだ?


私の前に立ちはだかったと思ったら今度は私の代わりになると言う


「いい加減諦めろ。そこまでしてお前が頑張る理由はあるのか?そのまま倒れれば楽になるぞ?」


楽になる・・・そうだ・・・この男が私の代わりをすると言うのならフランは・・・


いやダメだ・・・フランは私が・・・助ける!


「・・・立ち上がるか・・・しつこい奴だ。もういい・・・1回死んで来い」


そう言うと男は右手に魔力を溜め始める。また上から拳が・・・そう思ったが今度は直接私を狙って来た


避けられるか?いや・・・避ければ後ろの人達に・・・その前に近くにいる少年が・・・


《グ・・・オォ!》


言う事の聞かない足に拳を叩き込み強引に立ち上がると一歩また一歩と男に近付く


今の状態で食らえばいくら兄の力を得たからといっても無事では済むまい。それでも・・・誰かが傷付くと分かっていて見過ごしてしまえば今のこの国と同じ・・・誰かが犠牲になって成り立つものなど許してはならない!


男から魔力が放たれる


私は両腕を交差し魔力を纏うと男から放たれた魔力を受け止めた


強力な一撃は腕を弾き体を貫こうとする・・・が、受けた場所に魔力を集中し何とかそれを食い止めようと試みる


全身がバラバラになるような衝撃・・・それでも全ての力を振り絞り何とか受け止めきった


しかしもう体は動かない・・・結局兄から教わった事は活かせなかったか・・・でも・・・これでいいんだよな?フラン・・・それに兄さん──────




ロウニールの魔力を受け、ゆっくりと倒れるヒース


皆がその光景を目にし口を閉ざし静寂が訪れる



だが、その静寂はすぐに破られた



「う・・・うあああぁぁ!!」


「な、何をする!?離せ!」


「やめろ!おい・・・返せ!」


「お、落ち着け!」


1人の青年が叫び隣にいた兵士の魔銃を奪い取る


するとほぼ同時に住民達が魔銃を持つ兵士達に襲いかかった


突然の襲撃に動揺する兵士達は為す術なく住民達に銃を奪われる


騒ぎはそれだけに収まらず銃を持たない住民達がロウニールに向かって走り出した


手に何も持たずただその身を魔神と呼ばれたヒースすら圧倒したロウニールの前にさらけ出したのだ


その波は徐々に膨れ上がり大群となりロウニールを襲う


テラスにてヒースが倒れるのを歯を食いしばり見ていたフランは欄干に手をかけ身を乗り出してその光景を食い入るように見つめた


《あらあら大変・・・餌が暴れ出しちゃったわね。もしかしなくてもこれってあれよね・・・願いが溢れだしちゃった感じ?》


「何を・・・」


《完全に制御しているはずだったのにね・・・魔神に触発されて本性が出ちゃったみたいね残念残念》


「くっ・・・違う・・・これは・・・」


「・・・何が違うのですか?父上。ヒースは貴方の右腕と戦っていただけ・・・それに触発されたと言う事は知らずとも渇望していたのです・・・自由を」


「・・・」


下を眺めながらジルニアスとウロボロスの会話を聞いていたフランが振り返り言うとジルニアスは下を向き拳を震わせ押し黙る


そして顔を上げるとフランを一瞥した後で振り返り命令を下した


「マドマー!アレを用意しろ!」


「っ!・・・は、はっ!」


マドマーは命令を受け慌てて部屋から出て行った。アレとは何か・・・フランが眉をひそめているとジルニアスはそのフランを見て落ち着きを取り戻しニヤリと笑う


「自由などという幻想に踊らされた哀れな民に慈悲など要らぬだろう・・・余に逆らうとどうなるか・・・その目で確かめるといい──────」

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