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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
698/856

693階 導き

今・・・少年が小石を投げた?ヒースにではなくあの男に?


それは些細な出来事かもしれない。大きな海に小石を投げたも同然・・・僅かな波紋を残しすぐに消え去るようなほんの些細な出来事だ。しかし・・・


振り返り父上の顔を見ると眉間に皺を寄せ私の年齢の半分程の少年を睨みつけていた


「あの子供とその家族はこの件が終わり次第直ちに処刑しろ」


「はっ!」


「ち、父上!たかが子供が・・・っ!」


振り返った父上はこれまで見た事のないほど怒りを滲ませていた。なぜそこまで怒りを露わにする?あんな年端もいかない子供のやる事になぜ・・・


「・・・子供の教育がなっていない。ああいう輩は他もダメにする・・・早い内に摘むべきなのだ」


私が驚いているを事に気付いたのか怒りを鎮め淡々と語る。しかしそれだけであれ程の怒りが湧くものなのか?他の人達に悪影響を及ぼすと言いたいのだろうけど・・・


《あら?いるじゃない・・・傍観者ではなく参加者の人間が》


「ウロボロス殿!」


ウロボロスの発言に父上は激しく反応した


傍観者ではなく参加者・・・その言葉になぜそこまで・・・傍観者・・・参加者・・・観る者と参加する者・・・参加?少年は今何をした?


皇帝である父上が自らの右腕と紹介した『顔なし』ウォンカー・・・その彼に石を投げた・・・それは父上に石を投げたも同然・・・この国の法に則るなら反逆罪で処刑されても仕方ない・・・つまり少年は国に対して反逆行為を行ったのだ。教育?自らの意思?どちらでも構わない・・・とにかく少年は同じ行動をしたのだ・・・私と


それはつまり同志と言える。年端もいかない子供だが援軍を得た気分だ・・・私は間違ってないと背中を押してくれるような・・・強力な援軍を


「父上」


「・・・なんだ?」


「あの少年の行動を見て思いませんか?抑圧されていないあの姿こそが本来の姿であると」


「抑圧?」


「大人は権力や周りからの同調圧力・・・それに自制心から行動に移せません・・・けど子供は正直です。素直に本能のまま行動を起こしあのような事をしたのです。教育や指示されたからじゃない・・・単純に魔神ヒースの味方となったのです。己の願いを叶えてくれる魔神ヒースの」


「願いだと?」


「支配からの解放・・・父上・・・貴方からの解放です」


「フ・・・憶測でものを言う・・・あそこにいる全ての者がそれを望んでいると?」


「ええ」


「しかし先程も言うたようにその望みは『その程度』・・・願いはすれど自ら行動に移さない時点でたかが知れている」


「・・・確かに今は『その程度』かも知れません・・・」


子供とは違い大人は首に鎖を繋がれた状態だ・・・その鎖から解き放てばきっと・・・


でもどうやって?どうやったら鎖を断ち切れる?


《ねえ・・・抑圧された人間を解放してアナタは何がしたいの?》


「え?」


《餌として飼っているのなら家畜と同じよね?その家畜を逃がしてそのまま?飼い慣らされた家畜がいきなり解放されて生きていけると思う?》


家畜・・・そう表現された彼らを見た


ヒースが戦っている姿をただ見ているだけの人達・・・彼らを解放して生きていけるかと問われれば答えは否だ。衣食住全てを与えられてきた彼らがそれらを全て失い一から何か出来るのか・・・出来ると信じたいが難しいだろう


そうか・・・私は『先』を考えていなかったのか・・・支配している皇族を根絶やしに・・・私も皇族として死ぬ・・・だがその先は?結局新たな支配者が出て来てまた彼らは・・・新たな鎖で繋がれてしまう


ではどうしたらいい?魔力障壁の外に?けど外の人達が受け入れてくれるかどうか・・・それに連れ戻されたりするかもしれない


この街には魔銃という強力な武器がある・・・それに様々な魔道具も・・・遠くが見える望遠鏡、夜なのに昼間と勘違いするような光を放つ電灯、さっき父上が使っていたような声を拡声させる拡声器など様々な道具・・・おそらく魔力障壁の外には存在しない道具がある


外の人達ではとても勝ち目はない・・・連れ戻されるか処刑されて新たな餌として外の人達が連れてこられるかもしれない


ダメだ・・・そんな事をしたらまた繰り返すだけ・・・人の不幸で成り立つこの国がただ支配者を変えてまた・・・


っ!・・・いや、ひとつだけ方法がある・・・現支配者である皇族が居なくなり新たな支配者が誕生するくらいなら・・・


「・・・私が・・・導く・・・」


「なに?」


「私とヒースで民を導きます!」


《いい答えね。そうじゃなくっちゃ・・・戦争は》


かなり困難な道になるだろう。外の人達の反発もあるかもしれない・・・けど私は誰かの犠牲の上に立つのではなく皆と共に並び立ちたい


「・・・結局はこの座を欲したか・・・それならば大人しく兄達と争えば済む話ではないか?このような事をせずとも・・・」


「皇帝になるのは私ではありません」


「・・・なんだと?」


「皇帝になるのはヒース・・・魔神ヒース・クランです。私は皇子・・・その私が皇帝になってこの国を変えると言っても懐疑的になってしまうでしょう。みんなの信用を得る為には大きな変化が必要・・・血を入れ替える程の大きな変化が。だからこそヒースが皇帝になるべきなのです」


街の人達は魔神ヒースを守り神や救世主みたいに神格化している・・・そのヒースが声を上げ変革を唱えれば・・・


「バカバカしい」


「なっ・・・」


「今思い付いた事をさも正しいかのように論ずるな。魔神が皇帝に?余の耳に魔神が暴走した事が入っていないと思うているのか?」


「そ、それは・・・」


「奴は諸刃の刃どころではない・・・爆弾だ。いつ破裂するやも分からぬ爆弾なのだ。それが皇帝だと?おままごとをやっている訳ではないのだぞ!フラン!!」


「おままごとなど・・・」


「皇帝はただ座しているだけではない。常に民の先頭に立ち導く者こそ『皇帝』なのだ。その皇帝が突然暴れ出し破壊の限りを尽くし倒れたとしてその後に残るのは路頭に迷う民達だとなぜ分からぬ。それが分からず言ったのか分かってて言ったのか知らぬがどちらもおままごとの域を出ない妄言・・・考え足らずの阿呆の言う言葉だ」


「・・・」


《あら?暴走なんてもう起きないわよ?》


「え?」


「ウロボロス殿!貴女は一体どちらの・・・」


《味方?味方も何も初めて会った時に言ったでしょ?私は戦いを見るのが好きって。利害が一致しているから助けただけで味方になった覚えはないわ》


「くっ!」


《文句があるなら私を黙らてみれば?ここにいる中であのトラウマを克服した人間がいれば出来るかもしれないわよ?》


チラリとウロボロスが振り返るとマドマーを含めた兵士達が一斉に目を逸らした。一体何をしたんだこの女性は・・・


《いないなら話を続けるわね。魔神ヒース・・・だっけ?彼の暴走は魔人のソレとは違う・・・魔人は人間が魔力の凶暴さにあてられて自我を失うから暴走してしまうの・・・けどヒースは迷いのせいで暴走していただけなのよ。言っても分からないと思うけどヒースはふたつの魂をひとつの体に宿している稀有な存在・・・普通ならとっくに魂がぶつかり合いどちらかが消滅しているはずなの。けど彼の中には未だにふたつの魂が混在している・・・おそらく彼の魂ともうひとつの魂が特別な関係であるからこそ成立しているのだろうけど・・・》


ううっ・・・話の半分も理解出来てない・・・魂って言うのは本で読んだことあるけど大して興味もなかったからうる覚えだし・・・でも何となくは分かる気がする・・・本当に何となくだけど


「・・・それで?」


《けど彼の中で何かしらの迷いが生じた・・・そしてそのせいで何とか均衡を保っていたふたつの魂の関係が崩れてしまい暴走に至ったという訳よ。分かった?》


「・・・多分。となるともう暴走が起きないと言うのは・・・」


《迷っている場合じゃなくなったからよ》


「場合じゃない?」


《下を見てご覧なさい・・・迷っている暇なんてあると思う?》


下・・・2人の戦っている姿を見て納得した


迷う暇なんてあるはずもない・・・まさかあのヒースが圧倒されているなんて・・・しかも魔道具を一切使っている様子もないのに・・・


「師匠と同じく別大陸から来たのだろうけど・・・別大陸の人はみんなあんなに強いのか?」


《は?》


「うん?私が何か変な事を言ったか?」


《いやだって・・・まいっか。て言うかみんなあんなに強いわけないでしょ?もしそうだとしたらとっくに大陸が消滅しちゃってるわよ》


「大陸が消滅って大袈裟な・・・」


《そう思いたいなら思っとけばいいわ。ちなみに向こうの大陸で彼が一番強いわ。そしてこの大陸で一番強いのはおそらくヒース・・・つまり大陸最強対決・・・なのにいまいち気分が乗らないのよね》


「・・・と言うと?」


《迷う暇がないだけで迷ってない訳じゃないからか上手く力が発揮出来てないみたいなのよね・・・迷いが完全に消えれば本領発揮出来ると思うのだけど、ね》


そう言ってウロボロスは私を横目で見た


「・・・もしかして・・・私次第?」


《御明答!そんなアナタにプレゼント》


そう言って彼女は私に手のひらサイズの長方形の板を渡して来た・・・これって・・・


「い、いつの間に!?」


父上が驚いている・・・それもそのはずこの板は父上が自らの声を下に届ける為に使った魔道具・・・拡声器だったからだ


「・・・これで何をしろと?」


《ここまでくれば分かるでしょ?ヒースを皇帝にしたいのであれば下の戦いで勝利を収めないといけない・・・けどこのままじゃ勝てない・・・ならやる事はひとつ・・・ヒースの迷いを消しふたつの魂をひとつにする事・・・そしてそれが出来るのはアナタだけよ》


拡声器を使ってヒースの迷いを消す・・・確かにこれを使えばヒースの耳に私の声は届くだろう・・・けどどうやって迷いを消すのだ?何に迷っているかも分からないのに・・・


《・・・ヒースが一番やりたかった事は?》


「・・・皇族への復讐・・・」


《なら導きなさい》


「え?」


《道に迷った人間を目的地に辿り着かせたいのなら導く以外ないでしょ?》


導く・・・ヒースを目的地・・・皇族への復讐へ


迷いがなくなれば後は一本道・・・みんなは解放され後はそのまま私とヒースで道を切り開けば・・・きっと・・・


「分かった・・・私が導いてみせよう・・・ヒースをこの場所まで──────」

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