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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
697/856

692階 マジンサマと悪い人

はいこんにちは『顔なし』ウォンカーです・・・な訳あるか


観客を用意してその観客に俺が『顔なし』と嘘をつく・・・んで魔神ヒースが皇族を殺そうとしていると伝えて・・・何がやりたいのかサッパリだ


《っ!・・・フラン・・・》


ヒースは見上げるとフランの姿を見て驚愕の表情を浮かべる。そりゃそうだ・・・ラスボスである皇帝のすぐ近くに居るって事は捕まったと考えるのが普通・・・まっ実際捕まったんだろうな


けどウロボロスもいるし大丈夫・・・いや待てよ・・・俺はなぜウロボロスを信用しているんだ?あの戦争大好き女?が何か企んでる可能性は?・・・てか皇帝が俺を『顔なし』であると言った時点でウロボロスはだいぶ怪しい・・・何処の馬の骨とも知れない俺を普通味方であると公言するか?まあヒースと戦っている姿を見て咄嗟に味方だと判断した可能性もなくはないが・・・


《・・・貴様が『顔なし』だったのか・・・更にフランを人質にして・・・》


「いや待て・・・素直か。俺が『顔なし』ウォンカーじゃないのは分かるだろ?大陸から来て間もないのにどうして俺が『顔なし』だと思うんだよ」


《・・・『顔なし』ウォンカーとは名にあらず・・・その時その時の最強の者を指す言葉だ。皇帝の右腕にして最強の矛・・・それが『顔なし』ウォンカー・・・貴様が大陸から来たとしてもこの国で最強であるなら『顔なし』ウォンカーになったとしてもおかしくはない》


「いやいやおかしいだろ。今までのやり取りを覚えていないのか?」


《黙れ!貴様の言葉にはもう惑わされぬ!貴様を倒しフランを助け皇帝を討つ!》


皇帝の言葉には惑わされるのな


もう何を言っても無駄みたいだ。聞く耳持たずやる気満々・・・もしかしてこれが狙いか?ウロボロス・・・っと!


ヒースは大地を蹴ると怒涛の攻撃を仕掛けて来る。まだ拙いが最初の頃に比べるとかなりマシになってきたな・・・余裕ぶっこいてる場合じゃなさそうだ


「こんの・・・一旦頭冷やせ!」


隙を見てぶん殴ると観客の所までぶっ飛んで行った


あまり広範囲の術は使えないな・・・下手すると観客を巻き込んでしまう


さて、どうしたもんか──────





「・・・ヒース・・・一体どういうおつもりですか!父上!!」


外出禁止令が出ていた為に家の中にいた住民を兵士を使って引っ張り出し広場に集め・・・何をするつもりだ


「聞いていたであろう?魔神が皇族を狙って戦っている・・・民がお主達の反乱を支持するのであれば声援を送るなり手助けするなり何かしらの行動を起こすであろう。まっ、そんな事はありえないが、な」


「住民の近くには兵士がいる・・・それに父上も見ている中行動を起こすなど・・・」


「なればその程度という事だ。もし本当に民が現状に不満を抱き変えたいと願っていたとしてもその気持ちはその程度なのだよ・・・フラン。命を懸けるに値しない・・・それが民の答えだ」


「っ!・・・それはみんなが知らないから・・・」


「何度も言わせるな。知らないから望まないのであれば知らぬままにしておけばいい。知れば今の生活を苦痛に感じるやもしれぬ・・・が、知らぬのなら苦痛に感じないのであれば知らせるのは正しい行為と言えるか?」


「そんなの不公平だ!みんなにも知る権利はあるはず!」


「知る権利ときたか・・・いいだろう。では今からこの場で『お前達は魔力を補う為の道具である』と告げてみようか?」


「・・・」


「それを聞いた者の中には余に反発する者も出て来るやも知れぬ。暴れ出し城の中に攻め込んで来る者も出るやも知れぬな・・・そんな事をすればどうなるか想像すれば分かりそうなものだが・・・」


「これまで暴力とは無縁だった人達です・・・そこまで短絡的な行動を取る人がいるとは思えません」


「そうであって欲しいものだな」


くっ・・・もし下の人達が暴徒と化して暴れ始め城に攻め込んで来たら為す術なく排除されるだろう・・・逆に何も行動に移さねばみんなの気持ちは『その程度』・・・皇族からの解放など望んでいない事に・・・


「違う・・・いきなりで混乱しているだけできっとみんなも望んでいるはず・・・いや、望むはず・・・きっと・・・」


《・・・『はず』『きっと』・・・国をひっくり返そうとする大した思想家かと思えば単なる妄想家だったのね・・・興が削がれるわ本当》


いきなり父上と私の会話に割り込んで来たのは父上の手を治した女性・・・言うに事欠いて・・・


「妄想家だと?」


《大勢の人間の代弁者であるはずでしょ?アナタ。そのアナタがブレてる時点でこの戦争の結末は見えてるわ・・・ぶっちゃけアナタ達が目的を成し遂げたとしても・・・勝ったとしても負けよ》


「意味が分からない・・・勝ったとしても負けとはどういう意味だ!」


《本当に分からないの?この戦争でアナタ達が勝ち支配していた一族が処刑されたとしてその先の未来はどうなると思う?絶対的な支配者が不在となり次にその座を巡り争いが起こる・・・そうなれば犠牲になるのはアナタが声を代弁した力弱き者達・・・自由を得た人間達よ》


「なぜそう言い切れる!」


《歴史がそれを証明しているから》


「っ!」


《まさか支配者が居なくなったら仲良しこよしで生きていくとでも?笑わせないでよ・・・人間がそんな無味無臭の種族だったら私も興味を抱かないわ。人間はアナタが思っているよりも遥かに強欲なの・・・それを満たす事などない。それが人間の原動力だから仕方ないのよ・・・分かる?お嬢ちゃん》


「私は男だ!」


《え?・・・そう・・・珍しいわね》


「?・・・訳の分からない事を・・・」


《訳の分からない事を言って実行しているのはアナタの方でしょ?人間にとって理想郷とも言えるこの地を壊して一体何がしたいのかしら?》


「理想郷だと?この地は理想郷などでは断じてない!」


《そう言うならアナタの理想を語ってみなさい。理想と理想がぶつかり合う事により戦争に意意味が生まれる・・・今のままじゃ理想と妄想のぶつかり合いよ?妄想が理想に勝つ事はないわ》


この地は理想郷なのではなく私のやろうとしていることは妄想ではない!


《お子ちゃまが理想と称して妄想を語るのは滑稽で面白いけど私が求めているのはそんなお遊びじゃないの・・・さてどうしたらいいかしらね・・・アナタの頭が握り潰されたら少しは本気になってくれるかしら?》


そう言うと彼女は私の顔に手を伸ばし鷲掴む


「ぐっ!」


華奢な女性とは思えない程の力・・・本気で握り潰そうと・・・


「ウロボロス殿!」


《なーに?まだ未練があるの?やっぱりこの子が原因みたいね。せっかく面白いメンツが揃っているのにいまいち盛り上がらないのは・・・っ!》


な・・・んだ?・・・力が・・・緩んだ?


《・・・怖い人ね・・・灼け尽きそうな殺気をふたつも浴びたからイキそうになったじゃない・・・》


完全に手の力が緩み私はその場にへたり込む。そして周りを見ると父上や兵士達にハヌマー、マドマーまでもがその場で震えていた


《もしアナタが女性なら傾国の美女と呼ばれていたかもしれないわね》


「・・・どういう意味だ」


《下を見てご覧なさい》


言われて下を見るとヒース・・・それにヒースと戦っていた男が戦うのを止めてこちらを見ていた


「・・・別におかしなところはないが・・・」


《あーそうか・・・器用な事をするのねまったく・・・殺気をこちらに向けたのではなくアナタ以外に向けるとは・・・》


私以外に殺気を?そんな事出来るの?・・・そう言えば父上達と共に何気にデネットも震えている・・・けどなぜ?ヒースはともかくあの人とは別に・・・


《まあでもきっかけになったから良しとしましょう。始まるわよ・・・心躍る戦いが──────》




んにゃろ・・・ウロボロスのやつ何をやろうとしたんだか・・・脅しのつもりか本気でフランを殺そうとしていたか・・・何考えてんだアイツ・・・


《・・・退け》


「あん?」


《退けぇ!!》


いきなりヒースが叫びながら突っ込んで来た


しかもさっきまで冷静だったのに今は冷静さを欠いているし・・・フランを助けに行こうと必死みたいだな


「気持ちは分かるが冷静になれ。お前が今行ってフランを助け皇帝を殺したとしても何も変わらない・・・いや下手すりゃ悪化する」


《黙れ黙れ黙れ!貴様らはいつも!》


「アイツらと一緒にすんな。もしかして皇帝の言ってたこと真に受けてるのか?俺は『顔なし』ウォンカーなんかじゃ・・・」


《黙れと言ってる》


速い!


これまで以上に速く動き間合いを詰めてくるヒース・・・しかし動きは単純で攻撃を捌くと隙だらけになる


「ちょっと頭を冷やせ・・・バカタレが!」


隙だらけの脇腹に拳をめり込ます・・・が、効いているはずなのにヒースは歯を食いしばり痛みに耐え反撃に転じてきた


ダメージを受けた直後の無理な態勢からの一撃など食らうはずもなく難なくいなすと再び拳をヒースに叩き込んだ


《グッ・・・こ・・・》


「しつこい」


まだ反撃しようとするヒースに蹴りを放つ。するとヒースはぶっ飛んで行き危うく観客に突っ込みそうになる・・・が、何とか途中で失速し観客の手前で落ちて事なきを得る・・・危ない危ない・・・すっかり観客の事を忘れてた


《おの・・・れ・・・》


まだ冷静にならないか・・・なら冷静になるまで叩きのめすのみ


起き上がろうとするヒースに向かって行き立ち上がる前に拳を何度も叩き込む。血飛沫が舞うが頑丈なもんで大して効いた感じではないな・・・まあ倒すのが目的じゃなくて冷静さを取り戻させるのが目的だし・・・イテッ


頬に何かが当たった。小石?一体どこから・・・


顔を上げると俺を睨みながら投げた後のような格好をする少年と慌てて少年を引っ張ろうとする母親らしき女性の姿が目に入った


「マジンサマをイジめるな!」


「よしなさい!なんて事を・・・なんて事を・・・」


?・・・俺がマジンサマ・・・ヒースを虐める?バカを言うな・・・どっちかって言うと虐められてた方だぞ?首をもがれたし


「だって!お母さんが言ってたじゃないか!マジンサマは悪い人をやっつけてくれるって!」


「黙りなさい!違っ・・・違うんです!これは・・・」


何故か必死に言い訳をしようとする母親。別に小石を当てたくらいでそんなに必死で言い訳する必要は・・・ん?待てよ・・・今の俺って皇帝の右腕だったか・・・となると必死になるのも仕方ないか


「なんでだよ!マジンサマが悪い人をやっつけてくれるって・・・そしたらお外で遊べるようになるって・・・だからお願いしてたんだ!マジンサマに悪い人をやっつけてって!」


・・・これは驚いた。この子は外で遊びたかったのか・・・


確かこの街は不要な外出は出来ない事になっているとフランに聞いた。俺は必要だと思うがこの国が子供が外で遊びたいと言うのを必要であると判断するとは思えない・・・おそらく禁止されていたのだろう。可哀想に・・・ん?


可哀想?いやそれはおかしいぞ・・・この人達は字を書けないし読めない・・・それに交流も禁止されている・・・決められた仕事をして決められた相手と結婚して子供を作るだけを義務付けられているはず・・・なのに『遊びたかった』?


他の子供が遊んでいるのを見てそう思うなら自然だが他の子供も遊んでないはずだ。親が教えた?いや子供に出来もしない事を教えるなんてする訳がない。親である自分達だって子供の頃遊んでいないはず


じゃあなぜ?


《グゥゥ》


ヒースが立ち上がる


それを見て少年が母親の手からスルリと抜け近付いて・・・


「マジンサマ!どうか悪い人に負けないで!」


《・・・なに?》


「マジンサマは悪い人を倒してくれるんでしょ?僕達を守る為に・・・だから・・・負けないで!」


《・・・》


ここ最近魔人は出ていないらしい。少なくとも今生きている人達は魔人を見た事がない。それでもどこからともなく颯爽と現れて魔人を倒す魔神の話は語り継がれている。そして子供は見た事も聞いた事もないのに遊びたいと願っている・・・ははっ、そうか・・・そうだよな


「負けないでだってよ?マジンサマ」


《・・・そう言う貴様は悪い人のようだな》


ようやく冷静さを取り戻したか


更に気付いてくれると助かるんだが・・・もう少しか・・・


「実力差は分かったと思うけど・・・まだやるか?」


《・・・貴様を倒し・・・皇帝を討ちフランを助ける・・・必ず》


「そうか・・・んじゃ倒されないように悪い人は本気を出す事にするか・・・死ぬなよ?マジンサマ──────」

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