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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
696/856

691階 『顔なし』ロウニール

ふむ・・・何だか楽しくなってきた


もしかしてサラ師匠やハクシ師匠は俺に対してこんな感情を抱いていたのだろうか


これまで力任せに攻撃して来たヒースが俺の真似をしてなのか技を使ってくると何故だが嬉しくなる


「今の蹴りはもっとこう腰を入れてだな・・・うわっ!」


《・・・黙れ・・・》


「今の蹴りはいいな。その調子だ」


《・・・》


「もうさすがにお前の黙りには慣れたよ・・・とりあえず手を止めなくていいし返事も要らないけど耳だけは俺の言葉に傾けろ。フランから色々と話を聞いた・・・お前達は主従関係ではなく仲間のようであり互いに利用し合う協力者みたいなもんなんだろ?」


《・・・》


「そして目的を達成する前か後で魔人達は死ぬ予定・・・他殺か自殺か知らないが全員この世を去る・・・だろ?」


魔人は人間には戻れない・・・核に傷が入り魔人になる前なら何とか治せるが完全に魔人となってしまうとウロボロスさえ元に戻す事は出来ないらしい


まあそりゃそうだよな・・・考えてみれば魔人は進化とも言える。人間よりあらゆる部分が強化されているし魔力があれば生きていけるし・・・自我が残ってればの話だけどな。けど自我がないのは周りには大迷惑だが本人にとっては・・・いや、体にとっては問題は無い


回復魔法や再生は傷を負ったものに対して効果を発揮する魔法・・・体に異常がなければそりゃ治す必要はないもんな


俺の力は無から有を創り出す『創造』の力だし俺も無理・・・頼みの綱の『再生』ウロボロスが戻せないと言うのなら戻せないのだろう


だから魔人は今回の作戦で全員死なせるつもりだ。それが魔人達にとって救いなのかもしれないし下手に情をかけて生かしふとした拍子に街で暴れられても困るしな


そしてフランが考えたのかヒースが考えたのかは不明だが魔人達をまとめず転々と配置した。それは何の為か・・・おそらく各場所で魔人に暴れるよう指示しそれに対応する為に来た将軍と戦わせる・・・勝敗は関係なく暴れて帝国軍を引き付ければいい・・・その間にヒースが皇族を仕留めればいいだけだから・・・


なのにヒースはこの期に及んで躊躇した・・・いやずっと躊躇し続けていたのかもしれない・・・ヒースなら回りくどい事をしなくても街のひとつやふたつ滅ぼせるくらいの力はある。技術が発展してない昔なら尚更だ


躊躇した理由はなんだ?何がヒースをここまで躊躇させている?


《魔人だけではない・・・フランも死ぬつもりだ》


「っ!・・・知っていたのか?」


フランは皇族を根絶やしにするつもりだ・・・

んで、根絶やしにする皇族の中にフランも入っている。幼い子供とかは殺した事にして逃がすらしいが・・・他人に甘く自分には厳し過ぎるよな


《以前フランに聞いた事がある。『皇族を全て始末して自分が皇帝の座につくのか』と・・・しかし返答は否だった・・・その理由はひとつしかあるまい》


だよな・・・クーデターが成功したのに空いた皇帝の座につかないって事は自分もいなくなるからとすぐに察しがつく・・・死ぬ気だったとしても嘘をついて皇帝になると言えば黙せたかもしれないけど・・・


「もしかしてそれが原因か?皇族を根絶やしにするイコールフランが死ぬ・・・そう考えて躊躇していたのか?」


《・・・それもある・・・が、それが全てではない》


「って言うと?」


《フランが読んだ本は私が大陸から持って来た本だ。別の大陸を発見した時に参考になるような本を持って来たと記憶している》


「で?」


《植物の図鑑、動物の図鑑、料理の本、道具の作り方や建物の建て方・・・》


「で?」


《ためになる本を沢山持って来た・・・ためにならない本はないと言える》


「で?」


《つまり都合のいい事だけが書いてあるのだ・・・例えば人間の醜い部分が書いてなかったり、な》


「・・・」


《分からないか?都合のいい事だけが書かれた本・・・それを読んでフランは勘違いした・・・大陸が理想の世界だ、と》


「・・・それがどうした?何が悪い?」


《・・・今の大陸は知らぬが私がいた頃は酷いものだった・・・戦争を繰り返し人間同士で醜い争いを続けていた・・・魔王が出現し戦争は一時的に止まったがもし魔王が出現しなければ戦争は延々と続いていただろう》


・・・魔王インキュバスの出現により人間が一致団結した・・・本来なら魔王の出現は歓迎されるものではない・・・けどヒースはまるで魔王の出現のお陰とも取れる発言をする


俺達の時はどうだろうか・・・確かに戦争は起きた・・・リガルデル王国が大軍を率いてフーリシア王国に攻め込んで来て・・・まあ国境を越えた所で俺が追い返したから事なきを得たがあれは戦争に他ならない。それにリガルデル王国はシャリファ王国にもちょっかいを出そうと・・・そう考えるとリガルデル王国はどうしようもないな


聖者聖女を毒として各国に派遣させてたフーリシア王国も大概だけど


それより過去はどうだろうか・・・小競り合いはあっただろうけどそこまで大規模な戦争はあったのだろうか・・・授業中ほとんど寝てたから覚えてないな


「結局何が言いたいんだ?」


《なぜ戦争が起こるか私には分からない。だがひとつ言えることは人間は共通の『敵』がいるといがみ合わない・・・戦争が起きないのだ》


「まあ戦争している余裕がないからな」


《しかしこの国には共通の『敵』がいないにも関わらず戦争は起きていない》


「は?国ひとつでどうやって戦争を起こすんだよ?」


《国同士で戦うだけが戦争ではない。国を割り権力を取り合うのもまた戦争》


「んじゃ今起きてるじゃねえか・・・戦争」


《だからだ》


「あん?」


《フランは要らぬ知識を得たから故行動に出た。もしフランが知識を得なければこの戦争は起こっていない。しかもその知識が偽りの知識ならは尚更この戦争は無意味・・・そう思わないか?》


「・・・」


《この国の魔力障壁の外に行ったことがあるか?私にとってはとても居心地の悪い場所だった・・・魔力を糧にする私にとってはな》


「・・・」


《もちろん全く魔力がない訳ではない。それに障壁で覆われてない分散っているというのもあるだろう・・・だがそうだとしてもかなり魔力が薄い・・・その理由が分かるか?》


「・・・快適なんだろうな・・・障壁の外の世界は」


《そうだ。だがフランは・・・私はその世界を壊そうとしている・・・だから私グッ!?》


「クソみたいな話はそれで終わりか?なら次は俺がお前にありがたい話をしてやろう」


油断していたのかムカつく顔で悟ったような事を言ってるヒースの腹に拳をめり込ませる。イラつくな・・・本当にコイツはサタンか?


《この・・・》


「いいかよく聞けヒース・・・てめえはただ見て見ぬふりをしようとしているだけだ。障壁の外がどうとか戦争が起きてないとかを理由にして目をつぶってるだけ・・・その目をかっぴらいてこの街を見てみろ!」


《・・・》


「まったく・・・反吐が出るってのはこういう時に使う言葉だな・・・サタンが聞いたら落ち込み過ぎて地面にめり込むレベルだ」


《何を・・・》


「・・・人間が魔族の餌として生まれたのは知ってるか?」


《っ!?》


「その様子じゃ知らないみたいだな・・・もう少し歴史の勉強をした方がいいぞ?・・・まあどの教科書にもそんな事は載ってないけどな」


《・・・ならば貴様はなぜ知っている?》


見てきたから・・・と言ったら頭おかしいと言われそうだな


「聞いたからだ。魔王インキュバスの分身とも言えるサキュバスにな。で、話を戻すとインキュバスが魔力を生み出す存在として人間を創り出したんだとか・・・んでその人間の管理を任されてたのがサタン・・・人間と同じくインキュバスが創り出した魔族であり後に勇者と言われる者だ」


《・・・勇者だと?》


「そう・・・勇者だ。サタンは人間に可能性を見出した・・・そして人間を餌として扱うのではなく対等に扱うようインキュバスに訴えた・・・まあ却下されたがな。その後でサタンはインキュバスにあるお願いをした・・・『男にしてくれ』と」


《・・・》


「おい勘違いするなよ?魔族は基本的に性別がなかったらしい。けどサタンは人間との間に子供が出来るようインキュバスに頼んだんだ。結果サタンと人間の間に子供が出来て・・・その子供が魔王インキュバスに挑む事になる・・・それが勇者の始まりだ」


《・・・勇者はサタンの子孫なのか?》


「んー・・・血は引いてるかもしれないが子孫かどうかは関係ない。肝心なのは魂だ・・・勇者に相応しい人間にサタンの因子とも言える魂が受け継がれる・・・お前の兄のようにな」


《・・・その兄の魂を私が・・・》


「と思ったんだがどうやら違うみたいだ」


《なに?》


「サタンの因子を受け継いでいるのなら安易に逃げたりなんか絶対にしない・・・『このままだったら戦争が起きないかも~』だと?笑わせるな・・・この街の住民が餌にされているのを知っててサタンがそんなセリフを吐くはずがないんだよ」


《・・・》


「人の不幸の上に立ってあぐらかいてる皇族も何も知らずに平和を満喫している外の奴らも気に入らねえ・・・けど一番気に入らねえのはそれを見て見ぬふりをしようとしているてめえだヒース」


《不幸と言ったか・・・なぜこの街の民が不幸と思う・・・この街の民は・・・》


「はいはい何も知らないから不幸とも思っちゃいないって言いたいんだろ?お前本当にそれが不幸じゃないと思ってんのか?」


《・・・》


「知らないじゃなくて知られないように仕向けているだけ・・・知れば不満を持ち暴動が起きると分かっているから知られないようにしているだけだ」


《ならばどうすればいいと言うのだ!知れば不満を抱きフランを支持するだろう・・・皇族がいなくなり自由と知識を得た民は必ず・・・必ず戦争を起こす!必ずだ!》


「いや努力しろよ」


《・・・なに?》


「戦争が起きないように努力しろよ。なに勝手に諦めてるんだよ。フランとお前で考えて戦争が起きないようにすればいいじゃないか」


《それが出来れば苦労はせぬ!》


「出来る」


《出来ぬ!歴史が証明しているのだ!》


「歴史がなんだってんだ。歴史が正しいって言うなら今頃大陸は・・・俺達はアバドンに滅ぼされていたはずだ」


《・・・どういう意味だ・・・まさか・・・》


「歴史は繰り返されるが決して変えられないものじゃない・・・諦めなければな」


《・・・諦めなければ・・・変えられる?・・・私は・・・》


悩んでいる様子のヒース。諦めてここでぼーっと立っていた時とは明らかに表情が違う


2人が目的を達成して死ぬと言うならヒースの言う通りこの大陸は乱れ戦争が起きるかもしれない。けど2人が生き、諦めなければ・・・フランとヒース2人なら変えられるはずだ


後はヒース次第・・・俺の弟子を生かすも殺すも、な


《・・・私は・・・フランと・・・?これは・・・》


なんだなんだ?大勢の人がこちらに向かって歩いて来た。街の住民?いや兵士もいる・・・一体何事だ?


その大勢の人達は広場まで来ると俺達を取り囲むように左右に分かれ周囲を囲む。そしてあっという間に人集りが出来ると周りを囲んだ人達は俺達がいる広場の中央を向いた


「・・・祭りか?」


《ふざけるなそんな訳・・・》


《よく聞け我が国の民達よ。余は皇帝ジルニアス・マルチス・ブルデンである》


魔力の声?・・・皇帝ジルニアス?なんだ皇帝は魔族だったのか?・・・いやそんなはずは・・・てか一体どこから声が・・・


《諸君らが今目にしているのはこの国で知らぬ者はいないであろう魔神ヒース・・・そしてそれと対峙するは余の右腕『顔なし』ウォンカーである》


おい


《今この時だけ上を見る事を許そう。見上げよ》


見上げよ?


集まった人達が見上げる・・・城の上部を


思わず俺も見上げるとそこには偉そうな何かを持つオッサンと・・・フラン!?それに・・・ウロボロス!?あいつ何やってんだあんな所で・・・


《魔神ヒースは事もあろうに余を殺そうとしているらしい。いや余だけではなく皇族全てを。もしそこにいる『顔なし』ウォンカーが敗れれば余は殺され皇族は一掃されてしまうかもしれぬ・・・つまりそこで行われている戦いの勝敗でこの国の行く末が決まるやも知れぬのだ。知らぬ所で国の行く末が決まるのは口惜しかろう?なれば見届けよ・・・この戦いを》


え、なに?この人達は観客って事?てかいつから俺は『顔なし』になったんだ?そりゃ少し前に『頭なし』にはなったけど・・・


フランが皇帝の隣にいるのも謎だしウロボロスまで・・・一体どうなってんだこりゃ──────


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