689階 異変
「ったく・・・しつけぇんだよ・・・」
ロウニールから貰った『悪食』・・・確かにアイツの言うようにマナなんて要らねえ代物だ。構えているだけで魔力をバクバクと食いやがる・・・そのお陰でデスターは大筒を捨て殴りかかって来るもんだから俺も応戦して殴り合いに・・・武器に頼っていると思いきやそれなりに強く暫く殴り合いは続きようやく立ち上がらなくなった
「イテテテ・・・ん?何見てんだコラ」
未だロウニールの言葉に従い跪く兵士達
頼みの綱のデスターが倒れ次は自分の番と怯えているかと思いきや生意気にも睨んできやがる
こいつらが動き出したらさすがにやべえ・・・『悪食』で魔力を防げるのは正面だけ・・・四方八方から狙われたら余裕で死ねる
かと言って身動きの取れない相手をぶん殴るのも気が引けるしなぁ・・・ここは退散した方が良さそう・・・だ!?
この場を離れようとして振り向いたその時・・・少し離れた場所で巨大な剣が突然現れる。しかも見た事ある剣・・・あれってキースの大剣だろ!?
天にも昇る勢いでグングンと巨大化している大剣・・・よく見るとその剣先には見覚えのある奴がくっ付いていた
「・・・コゲツ?・・・何やってんだありゃぁ・・・」
遠くを見る為にあんな事をしてんのかそれとも上に何かあるのか・・・そんな事を考えていたらその大剣がゆっくりと倒れ始めた
「おいおい・・・一体どうなってんだよ・・・」
その下に何かあるのか知らねえがもし家とかあったらかなりの犠牲が・・・チッ・・・何やってんだか・・・
痛む体を引き摺りながら大剣が振り下ろされた場所へと急いだ。ここの住民がどうなろうと知ったこっちゃねえが別に罪を犯した訳でもねえから何かあったら目覚めが悪い・・・まあつっても今行ったところで遅せぇけどな
「確かこの辺が剣先・・・あっ」
大剣が振り下ろされた場所に辿り着くと仁王立ちするコゲツを発見・・・その足元には数名の兵士が倒れていた
「ん?おおダンじゃないか。やられて逃げて来たのか?」
「っざけんな!きっちり倒して来たっつーの」
まあアイツが現れなかったらやられてたかもしれないけどな
「そうかい。こっちは今終わったところだ」
「終わったって・・・そっちもやっぱり襲って来やがったのか?」
「まあね。どうやら俺達の事を敵と認識してるらしい・・・まあそれはこっちも同じようなもんだが・・・」
捕まってたコゲツにとっちゃ帝国の奴らを敵と認識しても仕方ねえか・・・それより・・・
「・・・あのバカでけえ剣はキースが?」
「そうだ。ちょいとコイツがいやらしい戦法をしてきやがってな・・・近付こうとすると撃ってきやがったり配下を壁にして邪魔しやがったりするもんだから一気に近付ける方法はねえかって考えてたら旦那がいきなりおっ立てたって訳よ・・・まさかあそこまでデカくなるとは思わなかったな」
「デカ過ぎだ・・・ってそれにしては被害がねえようだけど・・・」
周りを見ても大剣が振り下ろされた痕はない・・・まさか幻って事はねえよな?
「見た目に反して器用みたいだぞ?地面にぶつかる直前に小さくしたみたいだ・・・まっ、あのまま振り下ろされていても道路に裂け目が出来るくらいでお前さんが心配しているような被害は出なかっただろうけどな」
「心配してねえよ・・・てかあのオッサンが器用?んな訳ねえだろ。全て力で解決するような・・・ッデ!」
「誰が脳筋だコノヤロウ」
「キース!」
イテテ・・・いつの間に俺の後ろに・・・人の頭をそのでけえ拳で殴るなってんだ!
「どうやら片付いたみたいだな・・・んでなんでここにダンがいるんだ?」
「いちゃ悪いかよ。でけえ剣が振り下ろされたのを見て何が起こったかと見に来ただけだよ・・・あんたもロウニールと?」
「まあな。ロウニールと来たと言うより連れて来られたっていうのが正しいが・・・」
「ロウニール?」
ああコゲツは知らないのか・・・あの野郎が生きているという事を
「どうやら俺達はウロボロスの奴に騙されてたらしい・・・魔力が足りねえって言ってたのは嘘で本当は足りてたみたいだ」
「は?」
「・・・何の話だ?ウロボロスに騙されてた?」
キースもよく分かってねえみたいだな
コゲツも混乱してるしとりあえず今分かってる事を共有しておくか
「・・・ロウニールが生きてた・・・いや、既に生き返っていたのか・・・なら初めっからコイツらに協力する必要はなかったってことだな」
「うっ・・・」
コゲツは忌々しそうに倒れている将軍アギニスの顔を踏みつけた。どうやら息はしているみたいで少し反応しているが動けるほどの状態ではないらしい
「ロウニールが死んでいた・・・か。まあ言わなかったのも無理はないかもな・・・そんな事を言ったらこの国は今頃火の海だ」
「・・・そうかもな」
アイツの配下には魔族がいる。ロウニールを慕って・・・いやあれはもう慕うどころか心酔していると言っていいだろう。そんな魔族にロウニールの死が知られたら・・・ゾッとしないな・・・
「しかしなんでウロボロスはそんな嘘を俺達についたんだ?ロウニールがキースの旦那達に自分が死んだ事を言わないのは分かるがウロボロスが俺達に嘘をつく理由が分からねえ」
確かにな・・・助かると分かってりゃ帝国の味方なんざする必要はなかった・・・味方しようとしたのは魔力を溜める技術を得たかったから・・・ぶっちゃけ魔人と帝国の争いなんて俺達からしてみれば知ったこっちゃ・・・待てよ・・・
「俺達を絡ませたかった?」
「絡ませる?」
「魔力を溜める必要がなければ魔人が暴れようが俺達には関係ねえ・・・けど魔力を溜める必要があるから帝国が魔人に滅ぼされたら不味いから俺達は仕方なく参戦しただろ?ウロボロスの奴の狙いはそこだったんじゃないか?」
俺の言葉にキースは珍しく神妙な顔をして頷いた
「・・・ありえるな。ウロボロスは戦争観戦が大好きって話だ。魔人とこの帝国とやらの戦力が拮抗してれば問題はねえが魔人に傾いてたら・・・」
「拮抗させる為に俺達を?・・・とんだ女狐だな」
コゲツの言うようにとんだ女狐だ・・・三大魔族かなんだか知らねえが自分が楽しみたいからって俺達を巻き込みやがって・・・
「まあロウニールがそのまましてやられる事はねえだろ。俺達がここに来た時点で拮抗も何もねえ・・・俺達次第で戦況なんていくらでもひっくり返せるからな」
「・・・ロウニールはこの国を滅ぼすつもりなのか?」
「どうだろうな・・・俺達はただ手伝ってくれと言われてここに放り込まれただけだし・・・まあその気ならもっとやり方があるだろうからそれはないんじゃないか?」
「やり方?」
「ロウニールからは『なるべく殺すな』と言われてる・・・そこに転がっている将軍やら兵士やらを無闇矢鱈に殺すなって・・・滅ぼすつもりならそんな事は言わねえんじゃねえか?」
確かに・・・アイツが本気でこの国を滅ぼす気なら魔物とか大量に出して蹂躙しちまえばいいだけだし・・・
「まっ分からなけりゃ聞けばいいんじゃねえか?」
「誰に?」
「そりゃロウニールに決まってんだろ?」
「何処にいるんだ?そのロウニールは」
「俺が知る訳ねえだろ?俺は『キースはここをお願いー』ってゲートちゃん?ゲートくん?どっちでもいいか・・・どっちかに連れて来られただけだってえの」
「じゃあどうやって探すんだ?」
「俺に聞くなそんな事」
言い出しっぺはお前だろ!・・・とツッコミたいが腐ってもSランク冒険者であり十二傑の1人だ・・・せっかく生き残ったのに味方に殺されたんじゃ堪らん・・・ん?
「チッ・・・どっから湧いて来やがった」
キースは呟くと地面に突き刺していた大剣を肩に担いだ
どこからともなく現れた大量の兵士達・・・だがおかしな事に俺達に向かって来るどころかこちらには見向きもせず・・・更に言えば倒れている将軍や兵士達すら気にする様子もなく道路の左右にある建物の中に入って行った
1人の兵士が建物に入ると次の兵士は別の建物へ・・・そうやってどんどんと兵士達が1人ずつ建物の中へ・・・なんだこりゃ
「・・・何の儀式だ?」
「儀式じゃないだろ・・・ってあれを見ろ!」
兵士が出て来たと思ったら続けて兵士とは違った・・・おそらくその建物に居た住民?が出て来た
あの兵士達は建物の中に入りその住民を連れ出しているのか?一体何の為に?
「こりゃきな臭いな・・・行くか」
「行くかって・・・どこに?」
「ついて行くんだよ・・・何を企んでいるか興味あるだろ?」
「そりゃ・・・けどロウニールは?」
「どこにいるか分からねえし多分だけどコイツらについて行けばいそうな気がするんだよな・・・ロウニールが」
・・・そう言われるといそうな気がするな・・・
「・・・俺はちぃと一旦仲間の様子を見てくる・・・お前さん達2人で先に行っててくれ」
コゲツはそう言うと倒れている将軍の傍に行き片足を上げた
「・・・おい・・・殺すのか?」
足を上げた状態のコゲツにキースが尋ねるとコゲツは振り返り首を振ると勢い良く足を下ろす
「いや・・・イタズラ出来ねえようにするだけだ」
下ろした足の下には長いパイプのような物・・・そのパイプは踏みつけられた拍子にひしゃげてしまった
あれは・・・あの将軍の武器か?
「なるほどね・・・んじゃまあコゲツは仲間の元へ・・・俺達はコイツらについて行くか」
「・・・俺に決定権はねえのかよ・・・」
「ん?ならコゲツと行くか?」
「いや・・・言ってみただけだ。キースについて行くわ」
キースの言う通りコイツらの行く先にロウニールがいる気がするし・・・コゲツと2人っきりってのは何となく気まずい・・・
「・・・あー・・・何だかこの大陸に来てから情けな過ぎんぜ・・・魔神に一撃でやられて捕まって拷問されて・・・終いにゃ仲間を置いて自分の恨みを晴らそうと躍起になってまた助けてもらって・・・」
住民達とは反対側に進もうとしたのに足を止めいきなり何を言うかと思ったら・・・
「『お前は強い』とでも言ってもらいてえのか?」
「・・・違ぇよ・・・あまりにも周りが見えてなかった事に今更気付いただけだ・・・そんな自分が情けなくてよ・・・思わず出た愚痴だ・・・気にすんな・・・それとありがとよ・・・キースの旦那に・・・ダン」
「気持ち悪っ」
「おい」
いやだって気持ち悪いだろ・・・いきなりイケイケの奴にしおらしい事を言われたら
「とにかく!いずれ借りは返す・・・じゃあな」
最後はこっちを振り返らずに言ってそのまま走って行ってしまった
何だったんだ一体・・・
「・・・何かあったのか?」
「別に・・・それより急ごうぜ・・・こうしている間にもどんどん人が増えてってるぞ?」
兵士達は住民達を連れて行く・・・老若男女関係なくだ。それが何を意味するかは分からないが住民達の行先にアイツは居るのだろう
「そうだな・・・ああ、それとダン」
「ん?」
「ちぃとばかしマナを使い過ぎた・・・敵が来たら任せたぞ」
「バッ・・・俺ももうスッカラカンだよ!どうすんだよ!」
「・・・まっ、何とかなるか・・・」
そりゃ大剣をあれだけバカでかくすりゃマナも尽きるわな・・・やっぱりコゲツについて行くべきだったか・・・
いきなり先行きが不安になるも仕方なく俺とキースはある場所を目指す住民達に紛れて進む・・・この先に一体何が待ち受けているのか・・・てめえはそこで何をやろうとしてるんだ?・・・なあロウニール──────




