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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
692/856

687階 ブルデン帝国の真実

拘束されながら父上の後について行き辿り着いたのは場所こそ知っているが入った事のなかった父上の自室だった


そこからテラスに向かうと街が一望でき、下を覗くと確かにヒースと誰かが戦っていた


「あれは・・・」


「知り合いか?」


「・・・いえ・・・魔神・・・ヒースはともかく相手は見た事もありません」


ここから見る限り対等に戦っているように見える・・・あのヒースを相手に・・・


「嘘は・・・ついても意味はないか・・・余もあのような者を見た事がない・・・となると別大陸の者であるがフランの協力者でもない・・・なぜ故魔神と戦っているのか・・・」


考えられるとしたら師匠の・・・仲間の仇討ちか・・・ヒース・・・何故師匠を・・・


いや逆なのかもしれない・・・ヒースが師匠を攻撃したのではなく、師匠がヒースを攻撃した・・・その理由として考えられるのはヒースの暴走・・・暴走し住民に危害を加えようとしていたヒースに師匠が立ち塞がり返り討ちにあったと考える方が自然か・・・


しかし未だに信じられない・・・たとえヒース相手だろうと師匠ならと思えてならないからだ



状況は私にとってあまり良くないのかも・・・私かヒースのどちらかが父上を討てればいいと思っていたがどちらも討てなければ無駄死にになる・・・それだけは避けなくては・・・


ふと父上の方を見ると魔銃の暴発により失った手が目に入る。普通なら痛みに耐え切れないと思うのだが・・・


「・・・私が言うのも何ですが痛くはないのですか?」


止血し包帯が巻かれているとはいえ血の滲んだ包帯が見ていて痛々しい・・・しかし父上は何故か痛がる素振りを見せなかった


「包帯に痛みを消す効力が施されておる。尋問の時によく使う物だから効果の程は知っておったが・・・まさか自らの身に使う事になるとは思わなかったがな」


「便利な物ですね・・・使い方はともかくとして」


「便利・・・そうだな・・・この世は便利な物で溢れておる。そしてそれは全て街にいる民の出す魔力のお陰だ」


「お陰・・・ですか?無理矢理搾取しておいて?」


「搾取とは人聞きが悪い・・・そう言えば知りたいと言っておったな・・・この国の真実を」


「真実を聞いたところで搾取には変わりないと思いますが・・・一応お聞かせ願いますか?」


「ふっ・・・言いよるわ。心して聞け・・・そして恥よ・・・自らの無知さを、な──────」





父上の語るこの国の真実とやらに黙って耳を傾けた


それはとてもじゃないが信じられない話だった


魔力障壁の外・・・つまり帝都の外は納税の義務も法律もないらしい。かと言って放置している訳ではなくあるふたつの決まり事さえ守っていればいいと言う状態なのだとか


そのふたつの決まり事の内容は・・・『徴兵制度』と『移動禁止』


徴兵制度は決められた人数を兵士として帝都に寄越すこと。そしてそれは毎年何名とかではなく、この街は何名、この村は何名と決められており退役したり亡くなってしまった場合のみその人数を補充するといった形である


なので例えばAという街があったとしてその街が1000人の兵士を出すと決められていたとしよう。すると常にA出身の兵士が1000人帝都にいる事になる。A出身の兵士が退役し900人になったら100人の人を寄越す必要があるけど減らなければ寄越す必要はないのだ


もうひとつの移動禁止は単純に街や村間の移動を禁止するもの・・・交流交易一切禁止でもし交易するとしても帝都を介するしかない


このふたつの決まり事以外は特に帝都から口を出さないらしい。なんなら食糧不足などに陥った場合は無償で食糧を供給する事もあるとか・・・


にわかには信じ難い話だが父上が私に嘘をつく理由は無い。となると本当に・・・


「・・・なぜそのふたつを守らせているか分かるか?」


話し終えて唐突に質問され考える


理由・・・それはおそらく・・・


「各地から徴兵する事により人質のような扱いを?それと移動禁止は徒党を組まないようにする為・・・ですか?」


「ふむ・・・当たらずとも遠からずといったところか・・・徴兵は人質などではなく帝都のいる民からはほとんど徴兵しないから仕方なく人口に合わせて調整し寄越させている」


「どうしてですか?」


「帝都にいる民は魔力の供給源・・・言わば餌・・・家畜と言った方が近いか・・・お前は飼っている家畜に武器を持たせたりするのか?」


「・・・」


「不測の事態に兵士は必要となる・・・だが家畜を兵士にすれば良からぬ事を考える者も出て来るだろう・・・それを防ぐ為に帝都以外の者達を兵士にしておるのだ」


「・・・退役し街に戻った兵士達が反乱を起こすとは考えないのですか?」


「何の為に?」


「何の為って・・・それは・・・」


「反乱とは現政権に不満を持つ者達が起こすものだ。街に帰れば自由に生活出来るのに何故わざわざ反乱を起こす必要がある?それに退役した兵士だからこそ知れる事がある・・・例え退役した兵士達が不満を持ち集まろうとも帝都に存在する兵士の数と魔道具の数々を知っておれば不満に思おうが反乱する気にはならんだろう・・・鉄の剣や木の棒で魔銃に勝てるなど思うはずもないからな」


「・・・」


「それと移動禁止は徒党を組むのを防ぐ為というのは合っていると言えるが厳密に言うと目的は情報の統制だ。この世には不満を持たずとも欲をかく者は存在する・・・仮に魔力障壁の外に存在する者達全てが帝都に攻め入って来たら道具の差があったとしてもここも無事では済まないだろう。それを防ぐ為にも情報統制が必要なのだよ。・・・まあ今の暮らしに不満がない限りはそんな事をするはずもないがな」


徴兵制度は帝都の民を兵士にしない為・・・移動禁止は街や村間の情報のやり取りを防ぐ為か・・・


「それだけですか?他にもっと・・・」


「他には何もない。まあ想像出来ぬだろうな・・・皇族としてここでの生活しか経験した事のないお前では今の話がどれほどの意味を持つか分かるまい」


「ええ分かりませんね。結局支配されているのと同じ・・・先程街に帰れば自由に生活出来ると言いましたがそれのどこが自由なのですか?一定の数の民を徴兵され他の街に行く事も出来ない現状のどこが・・・」


「・・・想像してみるといい。何かに脅かされる事もなく追われる事もない・・・しがらみもなければ争いもない・・・徴兵される事も他の街に移動出来ない事も問題にならないほどの環境と思わないか?」


「・・・そこまで言うなら帝都も同じ環境にすれば良いのでは?」


「分からぬか?この帝都あってこその自由であり平和であると。争いとは力の差がなくなって初めて起こるもの・・・圧倒的な軍事力、発展した技術力、絶対的な支配力を持つ帝都があるからこそ魔力障壁の外は平和であり自由でいられるのだ」


「その平和と自由は帝都の民の礎・・・いや、犠牲があってこそ!そんなものは平和とは言わない!自由とは言わない!!」


「この世は犠牲の上に成り立つよう出来ている。動物を殺し肉を貪り植物を引きちぎり口に含む・・・それとも何か?お前は水だけで生きろと言うのか?」


「違う!・・・確かに動物の肉を喰らい植物を食す・・・けどそれが同じ人間を虐げていい理由にはならない!」


「なぜだ?同じ生きているものだぞ?それに何も取って食おうと言ってる訳ではない。魔力を効率良く出させる為に適度にストレスを与えているだけだ・・・それに必要以上にストレスを感じぬよう情報統制も行っている・・・逆にお前のやろうとしている事は無責任であり何の救いにもならん・・・それが何故分からない?」


「・・・帝都の民にも知る権利はあるはずです・・・知って選ぶ権利が・・・」


「それが苦痛になるとしても?」


「・・・」


「知れば苦痛になる・・・今まで当たり前と思っていた事が実は当たり前ではなかったと知ればそれは不満に繋がり反抗心が生まれるだろう。従順だった民は反乱を企てるかもしれん。となれば武力による制圧をせねばならぬな・・・監獄も増設する必要も出て来そうだ・・・法の整備も必要となるやもしれん・・・無責任な者の戯言により苦痛を感じ更なる締めつけを受けることになる。まだ余を討ち民を導くと言うのならマシだったが・・・所詮子供のわがままだな」


「っ!・・・そんな事は・・・」


「本で知識を得たようだが本など良い事しか書いておらん。別大陸がさぞかし良いものに見えたのだろうがそんなものはまやかしだ・・・国が多く存在し力が拮抗しているから戦争を起こし犠牲になるのは常に力弱き者・・・つまり民だ。教育係にその辺をみっちり教わっていると思っていたが教わっていないのか?」


「くっ・・・」


私が間違っているのか?本で得た知識を元に考えこの国が間違っていると判断した。だから正そうとして力を求めヒースと接触し計画を立てた。計画が上手く行けば国が変わり皆が笑顔になる日が訪れる・・・そう思っていたけど・・・私はその笑顔を奪おうとしていると言うのか?



確かに魔力障壁の外の事は知らない・・・もしかしたら父上が嘘を付いているかもしれない・・・けどそれなら魔力障壁の外の出身者である兵士達がそれを否定するはずだ・・・話を聞いても頑なに父上を守ろうと必死な兵士達・・・その行動こそが父上の言葉が真実であると証明しているのでは?


・・・分からない・・・誰かの犠牲の元で他の誰かが幸せになる事はいい事なのだろうか・・・否定したいのに出来ない私がいる・・・本には感情までは書かれていない・・・ただ事実を羅列しているだけ・・・だから本当に本が正しいのか・・・私は・・・分からなくなってしまった・・・


「余は嬉しく思う」


「・・・は?」


「子の成長を喜ばぬ親はおらん・・・間違いは成長の糧となり悩みは成長を促す・・・悩み苦しむ姿は成長の証だ。利き手を失ったのは大きいがそれ以上に子の・・・お前の成長が嬉しいのだフランよ」


「・・・」


「さて・・・このままでは結論など出まい・・・かと言っていつまでも待っていられるほど暇ではないのでな・・・親の役割とやらをしてみようか」


「・・・親の役割?」


「子を導くのが親の役割・・・特に道を踏み外した子には大いなる導きが必要だ」


「・・・一体何を・・・」


「お前に見せてやる・・・民が今の生活からの解放を本当に望んでいるかを、な──────」


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