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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
691/856

686階 ロウニールとヒース

魔神ヒースは魔人でも魔神でもなくましてや人間でも勇者でもなく魔族サタンでした、と・・・・・・・・・うむ、意味が分からん


「ヒース・・・今の話は・・・お前は本当にサタンなのか?」


《・・・》


「また黙りか・・・まあ拳で語り合うって言ったのは俺だしな・・・お前がサタンだろうが何だろうが関係ないか・・・とりあえずぶっ倒してから考えるとしよう」


《あら?始まるのね・・・なら私は近くで見学させてもらうわ・・・インキュバスとサタン・・・2人の戦いを、ね》


そう言うとウロボロスは飛び上がりどこかへと消えてしまった。見学するって事は邪魔にならないよう近くの場所で見ているのだろうけど・・・まあ邪魔にならないならどうでもいっか


とりあえずコイツ・・・コイツが魔族サタンだったとしても関係ない・・・早くこの戦いを終わらせて帰るだけだ


「無口なお前が喋れるように手伝ってやるよ!アースブレッド!」


《っ!》


ヒースの周り上空を拳大の無数の土塊が覆い尽し驚きの表情を見せる彼に一斉に降り注いだ


「拳だけじゃ物足りなさそうだったからな・・・少しは興味・・・うおっ!?」


土煙が立ち込める中、話し掛けているとその土煙を引き裂いてヒースが飛び出して来やがった


アースブレッドのダメージはないみたいで無傷な状態で殴りかかって来たのを何とか体を回転させ躱しその回転を利用して後ろ回し蹴りを放つと俺の踵がヒースの脇腹にヒットした


《・・・小賢しい》


なぁるほど・・・受け止められなかった訳でもなくて躱せなかった訳でもない・・・その必要がなかったって訳か


蹴りを食らっても平然としているヒースはそのまま俺を打ち抜こうと拳を握る


「少し痛いぞ?・・・流波!!」


《ぐっ!》


脇腹に当てた蹴り足から体内へとマナを大量に流し込む


するとヒースは痛みで顔を歪め握った拳をそのままに仰け反るように後ろに下がる


「ちゃんと防御も考えないとすぐ終わっちまうぞ?・・・射吹」


出来た隙を見逃さず大地を蹴り距離を詰めるとがら空きになっていた胸に掌底を叩き込んだ


《おのれ!》


これまで・・・少なくとも魔神と呼ばれるようになってからはまともに戦った事がないのだろう。圧倒的な力を持っているが故なのだろうけどそのせいで戦い方が雑だ


「おわっ!」


とは言え油断は禁物だ。破壊力なら俺よりかなり上・・・一撃でも食らったらかなりのダメージを受けてしまう


それに戦いのセンスも抜群と来たもんだ・・・徐々に動きが洗練されていく・・・ただ殴りかかって来るのではなく掴もうとしたり足技を混ぜたり・・・こりゃ長引くと不利かも知れないな


《・・・ちょこまかと!》


「っ!消え・・・」


目の前からヒースが姿を消すと背中に冷たいものが走る。気配ごと消えた?見えない位置に移動したか・・・なら上・・・じゃなくて背後か!


振り返ると既にヒースは拳をこちらに向けて放っていた。躱すには遅過ぎる・・・かと言って受けたら痛いじゃ済まなそう・・・なら!


振り返りながら体を仰け反り足を曲げ膝を突き立てる。拳が俺の体に到達する前にマナを込めた膝がヒースの腕をカチ上げた


ブンと音を立て目の前を通る拳・・・ギリギリ上にズラせたから良かったものの食らったら危なかった・・・っ!


躱したと思い安心したのも束の間、目の前を通過した拳は目の前で開かれそのまま下に降りて来る。そしてそのまま俺の顔面を掴むと同時に五本の指が頭蓋骨を粉砕しようと牙を剥く


「イテテテ!人のおニューの面を壊そうとすな!」


ヒースの腕を掴み体を引き寄せると腰を捻り上段蹴りを放った


《ぐっ!》


蹴りが顔面にヒットすると手の力が緩みその隙に抜け出し距離を取る


痛い・・・なんつー握力だ。本気で握り潰されるかと思った・・・


「新品だって言ってんのにコノヤロウ・・・しかも掴むなんてトラウマが蘇ったじゃねえか!」


今度は右手にマナ、左手に魔力を込めて突っ込んで行く。どちらが効率的にダメージを与えるか・・・それはやはり魔力だろう。けど魔力は相手の魔力を上回る必要があるのに対してマナは上回らずともダメージを与える事が出来る・・・だから両方を使い必要に応じて魔力とマナでダメージを与えていく事にした


魔力の分厚い部位にはマナで、魔力の薄い部位には魔力で攻撃する


すると戦闘慣れしてきたヒースだったが徐々に体力は削られ苛立ちを見せる


《・・・小賢しい・・・》


「それ口癖か?ちゃんと言わないと伝わらないぞ?・・・『お強いですね』だ」


《・・・小賢しい・・・》


「んにゃろ・・・素直に言えるように教育しちゃる!」


アバドンを倒した技なら一瞬でカタがつく・・・が、俺の望んでいる決着はそこじゃない


とっとと終わらせて帰りたいのに・・・ハア・・・


《・・・兄の声が聞こえた気がした》


「あん?突然何を・・・」


《兄はいつも私の事を考えてくれていた・・・大陸に残り旅立つ私達を見送る時でさえ・・・自分の心配などせず私達の事を心配していてくれていた》


兄・・・インキュバスを倒し最終的にはアバドンに殺された勇者か・・・


《そんな兄の声が聞こえた気がした・・・私はその声に全てを委ね手に入れた・・・兄が得た力を・・・手に入れたのだ》


兄が得た力って勇者の力だろ?けどそれならヒースは魔人みたいな力ではなくジークのような力を得たはずだ。ジークと本気で戦った事はないけど明らかに異質・・・ヒースの身に何が起きた?


いや待てよ・・・ヒースは何も今力を手に入れた訳じゃない・・・かなり昔・・・千年も前の話だ。最初はジークと同じような力だったけどそれが時間が経つにつれて変化した?・・・でもそもそも勇者ってそんな長生きなのか?


これまでの勇者は全員死んでるはず・・・生きているのはジークくらい・・・まあジークの場合はまだ若いから別として他の勇者でヒースのように長生きしているなんて聞いた事・・・いやそもそも寿命を全う出来た勇者はいたのだろうか?


インキュバスと戦う運命の勇者・・・負ければもちろん死んでしまうが勝ったとしてもアバドンに・・・という事は寿命を全う出来た勇者はいない・・・つまり未知数って訳か・・・勇者の寿命は


もし・・・もし仮に勇者になった者は長寿だったとしたら・・・その長い寿命の中で独自の変化をしたとしたら・・・今目の前にいるような存在が出来上がったとしてもおかしくはない


間違いない・・・ヒースは魔人が長い時を経て魔神となったのではなく勇者が長い時を経て勇者本来の力を得たんだ


インキュバスが初めて創った魔族にして勇者の力の根源・・・そして俺が断ち切る前の輪廻の中心だった者・・・魔族サタンの力を


道理でウロボロスがノリノリのはずだ・・・サタンの因子を受け継いだ人間ではなくサタン自身になったようなものだからな・・・もう二度と見れるはずのなかったインキュバス対サタンが見れるんだ・・・アイツにとっては楽しみでしかないだろう


アイツの思い通りになるのは癪だがそうも言ってられないし・・・計画通り進めるしかない、か


「ならとりあえず見せてもらおうか・・・その自慢の兄から得た力とやらを、な──────」





城内謁見の間


父上が引き金を引くと眩い光が魔銃から発せられた


「ぐ・・・ぐぁぁ!!」


「陛下!!」


押さえつけられ身動きの取れない絶体絶命の状況・・・父上はただ私に銃口を向けて引き金を引けばいいだけだった。しかし引き金を引くと魔銃は魔弾を吐き出さず父上の手を喰らい尽くした


「な、何をしておる!し、止血をせよ!!」


おびただしい血が床に落ちるのを見てハヌマーが兵士達に命令を下す。兵士達が止血を試みる中、父上は痛みで顔を歪めながら私を睨みつけた


「・・・貴様・・・魔銃に細工をして・・・」


「細工とは少し違いますが・・・まあでもどちらにしても引き金を引いたのは父上自身です。責められる謂れはありませんね」


咄嗟だった・・・せめて一矢報いてやろうと思った瞬間に思い出した・・・師匠が作った魔銃が懐に入っている事に


どうせ普通に魔銃を撃っても防がれる・・・なら暴発すると師匠が言っていた魔銃を父上に撃たせれば・・・そう考えて魔銃を取り出しわざと父上の足元に転がした


父上自身が魔銃を撃つかどうかは賭けだったが押さえつけられ身動きの取れない私を見て勝ちを確信したのだろう・・・だからこそ油断し普段なら絶対にしないであろう行動に出てしまった


「・・・責めてはおらぬ・・・見事だ・・・だが残念だったな・・・余はこうして生きておるぞ?」


「一矢報いただけで充分です・・・後は他の者に任せます」


「・・・魔神・・・か」


「・・・ヒースは決して止まらない・・・父上を・・・皇族全てを根絶やしにするまで・・・長きに渡り続いたブルデン帝国の終焉・・・その日が今日です!」


「・・・して、その後はどうなる?導き手が居なくなって路頭に迷うのは貴様が救おうとしておる者達だぞ?」


「皇族が導き手とは父上は冗談もお上手ですね」


「無知は罪とはよく言ったものだ・・・この国の事をどれだけ知り尽くそうと所詮は動ける範囲しか知る術はあるまい・・・貴様は魔力障壁の外の世界をどこまで知っていると言うのだ」


「魔力障壁の・・・外?」


魔力障壁の外には名も無き村が点在するだけと聞いている・・・何故今それを?


「街の住民と兵士達との違いに気付かぬか?」


「違い?」


住民達は絶対的支配者である皇族の元で徹底的に管理されている。日々の生活から配偶者まで・・・もはや生死すらも管理されていると言って過言ではない。それは兵士達も同じでは?違いなどあるはずも・・・


「この街の住民は言わば餌だ・・・人間本来の役割を担っておる」


「は?人間本来の?貴方はご自分で何を言っているのか理解しているのか!」


「・・・まあ聞け・・・ふぅ・・・ようやく痛みも引いてきた・・・さてどこまで話したか・・・」


「くっ・・・人間が餌とはどういう意味だ!虐げ搾取するだけに飽き足らず餌だと?・・・そこまで腐ったか!父上!!」


私が叫ぶと押さえつけていた兵士達の手に力が入る。人間を餌と呼ぶ皇帝に従う理由は何だ?何故このような者に忠誠を誓う?街の住民と兵士では何が違うと言うのだ?


「危急の為失礼致します!」


「何事だ!」


謁見の間の扉が大きな音を立て開け放たれ1人の兵士が息を切らせ部屋に入って来た


そしてすぐにマドマーの元へ駆け寄ると兵士はマドマーに耳打ちする


「っ!それは本当か!?」


「・・・はい・・・今は交戦中・・・ですがその相手の仔細は不明でして・・・」


「不明と敵と交戦中だと?・・・将軍共は何を・・・ウォンカーはどこにいる!」


「各地で交戦中との情報が・・・」


「魔人か!」


「いえそれが・・・魔人を制圧後に新たな敵と交戦中です。その中には以前捕らえていた者達の姿もある事から別大陸の者達である可能性が高いかと・・・」


「まさか・・・」


マドマーが私を睨みつける。おそらく私が仕向けたと勘違いしているのだろう・・・しかしヒースや魔人達はともかく別大陸の人達は・・・まさか師匠が?でも師匠は・・・


「・・・どうしたマドマー」


「はっ!各地で将軍達が何者かと交戦中との事です。そして魔神も・・・城の前広場にて何者かと交戦中との事です」


「何者かと?情報はないのか?」


「はっ申し訳ございません・・・一部の者は別大陸の者であるという報告があるのですが・・・」


「・・・そうか・・・」


父上はそう呟くと私を一瞬見た後、歩き出した


おそらく直接見に行くつもりだ・・・城前の広場ならここからは無理でもある場所に行けば見えるはず・・・


「父上!」


私が呼ぶと足を止め振り返る


「・・・貴様の処分は後回しだ・・・それとも早目の幕引きを希望するか?」


「私も・・・連れて行って下さい!」


「なに?」


「覚悟は出来ております・・・が、その前に知っておきたいのです・・・この国の真実を」


魔力障壁の外には何がある?街の住民と兵士達の違いは?・・・私は知らなければならない・・・そんな気がする・・・


「・・・いいだろう。貴様の言うこの国の終焉とやらが来るか来ないか・・・それを眺めながら知るがいい・・・この国の真実を、な──────」



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