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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
69/856

66階 新装備④

「鉄扇・・・まさか・・・」


「その『まさか』だ。が、多少オリジナルな所もある。威力も上がっているがとりあえずどう変わったか説明しよう」


ローグは手に持つ鉄扇について教えてくれた


風牙扇のように開くほど広範囲に、閉じるほど高威力2なるのは変わっていない。ただ明確に5段階の開き方があるらしい


全開状態を五とすると、一つ開いた状態を一とする


五、暴風・・・振れば強風を巻き起こす


四、竜巻・・・その名の通り振れば竜巻を発生させる


三、千牙・・・数多の風の牙を生み出す


二、龍の顎・・・上顎下顎を模した風が対象に食らいつく


一、風牙・・・強力な風の牙を出す


・・・ほぼ風牙扇の能力と同じだ。二だけがちょっと特殊っぽいけど・・・


「名は思いつくままに付けただけだから変更しても・・・」


「いえ!このままで!」


「そ、そうか・・・それで・・・試してみるか?その為にケン達には隣の部屋に移動してもらったのだし・・・」


「はい!」


もうヒーラに対する嫉妬なんて吹き飛んでしまった


ローグに他意はないのだと思う・・・たまたまヒーラの道具が指輪だっただけ・・・きっとそうだ



まずは全開から・・・ローグに影響が及ばないように方向を気を付けて・・・


「ハッ!・・・・・・はあ!?」


鉄扇を全開にして振ると強風・・・と言うにはあまりにも強い風が巻き起こる。これは正しく・・・暴風・・・荒れ狂う風が視界を遮り放った私ですら立っているのがやっとだ・・・これで全開?・・・嘘でしょ・・・


「やっぱり避難してもらって正解だったな」


土の壁で咄嗟に身を守ったローグが呟き私はその言葉に頷く


これは制御しないと近くにいる者まで巻き込んでしまうぞ・・・



やっと収まった暴風・・・続いて試すのが怖くなったけど・・・ええい!


「ハッ!・・・きゃあ!!」


竜巻・・・紛うことなき竜巻が部屋の中心に現れる


全てを飲み込もうとする風の渦は私の体を浮かせて飲み込もうとする


「・・・少し強過ぎたか・・・」


「・・・少しでは・・・いえ、なんでもありません・・・」


浮いた体をローグが背後に現れて掴んでくれたから助かった・・・ちょっと幸せ


「次の開きからはそこまで広範囲ではないから大丈夫だと思うが・・・そうだ、あの竜巻に当ててみればどうだ?」


竜巻に千牙を?・・・どうなるんだろう・・・


近くにローグがいるからか普段はやらないであろう冒険をしてみる気になってしまった


自分で出した風に自分の風を当てる・・・果たしてどうなるか・・・でも私には・・・ローグがいる!


「ハッ!」


千牙・・・千ほどはないが数え切れないほどの風の牙が竜巻に向かって牙を剥く


激しいぶつかり合いの末、既に勢いが弱まっていた竜巻を牙が容赦なく食い込む・・・そして・・・


「随分と静かになったな」


「ええ・・・猛獣達の削り合いは終わったみたいです」


竜巻も牙も消え静寂が訪れる・・・壁に無数の傷を残して・・・


竜巻を喰らい尽くした牙はそのまま壁に激突し深い傷跡を残して消えた・・・はっきり言って風牙扇の風牙が児戯に思えるほどの威力だ


「さて・・・今度は二だがこれはあまり周囲に危険は及ばない・・・と思う」


「・・・なるべく遠くに出すようにしますね・・・」


三であの威力なら二は・・・そう思うと近くに出す気にはなれなかった



大きく息を吐き、衝撃に備えて二の開きで鉄扇を振る


するとローグの説明がようやく理解出来た


風が猛威を振るい上と下に現れたと思ったら互いにぶつかり合う。私の狙った場所は何もない空間だがもしそこに何かあったとしたら・・・人間ほどの強度なら跡形も残らないだろう・・・それほど強烈な風と風のぶつかり合いに思わず体が危険を察知し力が入る


「・・・っ!・・・凄まじい・・・これに耐えられる魔物を私は見た事がありません・・・」


「今後出て来るさ・・・その時までに強くならないとな・・・じゃあ次いってみようか」


最後・・・一つ開き構える・・・緊張しなかなか唾が飲み込めない・・・あの威力を超えるとしたら・・・それは想像もつかないほどの威力になるはずだ


「・・・風牙!!・・・あれ?ローグ・・・出ないけど・・・」


風の音は聞こえたような気がした・・・でも想像したように風の牙は出ない・・・失敗?


「狙った場所は?」


「えっと・・・1番離れた壁・・・なっ!?」


突然壁に大きな傷跡が現れた


さっきの千牙の時よりも大きく深い傷・・・これって・・・


「風が視える必要はないだろ?不可視の高威力の斬撃・・・それが『風鳴り』の風牙・・・ってはどうだ?」


体が震える


なんて武器・・・想像を遥かに超えている・・・ああ・・・許されるならローグを思いっきり抱きしめたい・・・感謝のキスを浴びるように・・・


「サラ?」


「あっ、すみません・・・さ、最高です・・・もはやこれは風牙扇ではなく・・・名付けるならば・・・『風牙龍扇』」


二の開きの龍の顎からヒントを得て咄嗟に付けた名前『風牙龍扇』を全て閉じて抱きしめた・・・ローグ二抱きつけないのならせめてと気持ちを込めて


「気に入ってくれたようで嬉しいよ。では最後に・・・」


「え?」


「ああ、言ってなかったな・・・風牙扇でもそうだったように閉じた状態でも能力を発揮する。その風牙龍扇は閉じた時は少し特殊でな・・・少々説明が難しくて名前もまだ決めてないので最後に説明しようと・・・」


「ま、まだあるのですか!?」


「ある・・・少々危険・・・だがな──────」





私は今・・・ローグに抱かれている


腕を掴まれ、引き寄せられて・・・未知だったマントの中で・・・


コツコツとマントを叩く音・・・これはローグが部屋に岩の塊を魔法で作り出してくれてそれが小石ほどの大きさに粉砕されマントに当たる音だ・・・粉砕したのは・・・風牙龍扇の閉じた時の能力・・・


「・・・岩で試すべきではなかったな・・・」


「・・・一体何が・・・」


マントの中でローグに抱きつきながら顔を上げた


初めてローグの首を見たような気がする・・・いつも首は素肌だったはずなのに・・・近くで見ると肌がピチピチしてる・・・もしかしたら私と同じか私よりも・・・


「使い方は分かっただろ?後は使う時を見極めて・・・・・・聞いているか?」


「へ?・・・あっ、はい!」


「・・・とにかく危険極まりない能力だ・・・人間に使えばもちろん岩と同じ運命になるだろう・・・まあマナで抵抗はされるだろうがな」


果たしてこの威力に抵抗出来る人間なんているのだろうか・・・


それよりも抱きついているせいかローグの胸の鼓動が伝わってくる・・・私の鼓動も彼に伝わってしまってるのだろうか・・・かなり速くなっている鼓動が・・・



ローグは私の為に色々としてくれている


でも私はその恩をひとつも返せていない・・・ひとつもだ


私はローグに何か命令されたら何でも言う事を聞くだろう・・・例え死ねと言われても・・・この命で良ければと差し出す覚悟はある


でもローグは何も言ってくれない・・・何も命令してくれない・・・いっそう私の方から・・・あれ?なんで・・・なんで涙が・・・


「サラ?」


もうどうなってもいい・・・嫌われるかもしれないと臆病になるのはおしまい・・・誰かに奪われるなら・・・私から・・・



仮面に手をかける


すぐに払いのけられるかと思ったけどローグは動かなかった


少しだけ・・・顔は全て見えなくてもいい・・・口元だけでも・・・


仮面を少し上にズラす


するとローグの口元が現れた


やっぱり若い・・・本当に私よりも?・・・うううん・・・そんなことはどうでもいい・・・今はその口に私の口を・・・



「サラ姐さん!ローグさん!大丈夫ッスか!?なんかすげぇ音が聞こえ・・・た・・・えっと・・・失礼しました!!!」


なぜ!なぜ男はノックをしない!!


扉が閉まってたらノックする・・・当たり前じゃろがい!!


「あっ・・・」


暖かさが突然失われる


ローグが仮面を戻し私からスっと離れたからだ


「あわわ・・・その・・・」


もう一度・・・は無理でも少しでも傍に居たくて近付こうとした時、ローグの鋭い声が耳に届く


「ダメだ」


「・・・そう・・・ですよね・・・」


明確なる拒絶・・・もしケンが来なくても・・・避けられてたのかな?


「どうやら治ったようだな」


「え?」


「ダメと言ったのに何も変化がなかった・・・つまり治ったって事だ」


し、しまった!油断した!長くローグといる為に治ったとしても『ダメ』と言われたら反応しようと思ってたのに・・・不意をつかれてしまった・・・あれ?これってもしかして・・・



最低だ私──────



ローグの善意につけこもうとしていた・・・なんでそんな事に気付かなかったんだろう・・・ローグだって色々忙しいはずなのに私なんかの為に・・・それなのに私は・・・


「サラ?もしかしてやっぱりまだ・・・」


「ありがとう・・・ローグ。私はもう平気・・・ヒーラだって立ち直れたんだし・・・先輩冒険者の私がしっかりしないとね!」


何とか取り繕って誤魔化す


きっと今・・・心の内をさらけ出すととても醜いものになってしまうから


「そうか・・・何かあったら通信道具にマナを流してくれ・・・すぐには無理かもしれないがなるべく早く駆け付ける」


「うん・・・その時は・・・」


甘えてばかりじゃダメだ


もっとしっかりしないと・・・せめて・・・肩は並べられなくてもすぐ後ろを歩いて行けるくらいに──────




「どうしたの?サラさん達の様子を見に行くって飛び出したのに慌てて戻って来たりして・・・」


「マホ!俺を匿ってくれ!もう俺は・・・ダメかもしれない!」


「はあ?何言って・・・あっ、サラさん!何かケンがやらかし・・・えっ、ちょっと・・・サラさんの背景にゴリラが見えるんですけど!?サラさん??」


「ひぃ!!俺は何も見てません!本当ッス!・・・いや・・・いやああああ!!!」




エモーンズにある歓楽街


エモーンズが村から街へと変わり一番変わったのはこの区画であろう


初めは元から居た住民もあまりいい顔をしなかったがそこは他の街で歓楽街で店を営んで来た商人・・・すぐに住民達に取り入る事に成功した


歓楽街には料理を楽しめる店や酒を飲める店、遊べる場所などが存在する。その中で人気なのが遊べる店・・・・特に性サービスを提供する店は冒険者に人気があった


命を懸けて稼いだ金で快楽を求める


まるで当然の如く冒険者は足繁く通い、中にはその為に冒険者をしている者まで存在した


そんな店のひとつで店ではよくある光景が繰り広げられていた


「チェンジだチェンジ!誰が高い金払って化け物みたいな女を抱くんだよ!!」


「申し訳ありません。当店ではそのようなシステムは行っていませんのでこのまま帰るか彼女を・・・」


怒鳴り散らす冒険者をスーツを着た老年の店員が宥める。だが店員の言葉に冒険者は青筋を立て詰め寄り頭を下げる店員を睨みつけた


「ふざけろ!!このまま帰る?この女を抱く?・・・てめえ舐めてんだろ?俺はDランクの冒険者だぞコラ」


「ですがお支払いの際に何度も御説明致しましたので・・・」


「んなの関係ねえって言ってんだろ?金返せ!いや・・・慰謝料込みで払った金の倍出せ!そしたら帰ってやるよ・・・だが払わねえって言ったら・・・どうなるか分かってるよな?」


「どうなるのでしょうか?」


「明日から営業できねえかもしれねえな・・・この店は」


「脅し・・・ですか?」


「どう受け取るかはそっちの勝手だ・・・さあどうする?俺は別にいいんだぜ?このまま暴れても・・・」


「暴れる・・・ですか。なら仕方ありません・・・お願いします」


最後の言葉は冒険者に向けられたものではない


店の奥から出て来た男に向けられたものだった


「あん?誰が来ようと・・・・・・ア、アンタ・・・」


冒険者は後ろを振り返りガタガタと震え出す


その男には見覚えがあった


「誰が来ようと・・・なに?」


「ヒッ!・・・きょ、今日のところは勘弁してやる!つ、次はもっといい女を・・・」


「勘弁()()()()?それは誰に言ってるのかな?」


「て、店員だ・・・です!アンタには言ってない・・・です」


「そう?ならいいや・・・ちょっと待っててね。店長、どうする?」


男は冒険者にそこにいるよう釘を刺すと老年の店員、店長に声をかける


「そうですね・・・このまま帰られたら店の評判はガタ落ち・・・今後の商売に支障を来たすでしょう。なので・・・」


「お、おい・・・別に今日の事は誰にも・・・」


「そんな話・・・信用出来る訳ないだろっと!」


背後から回し蹴り一閃


鈍い音がして冒険者は無言になりそのまま倒れてしまう


冒険者はDランク・・・かなり鍛えられていたはずだったが男の一蹴りで首を折られ絶命してしまった


「・・・お見事です。さすがA()()()()冒険者・・・前にこの街の元兵士を雇いましたが全く役に立たなかったのですが・・・比べるのも烏滸がましいほどです。まさか私どもの店の用心棒になって下さるとは・・・」


「なーに、少し暇が出来たからね・・・やり残した事もあるし・・・それで分かってるよね?」


「はい。ケン、スカット、マホ、ヒーラ・・・それと『風鳴り』サラ・セームンと『ダンションナイト』・・・これらが我が商会の管理する店に来た時は・・・必ずやお知らせ致します。シークス・ヤグナー様──────」

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