683階 クソッタレ
ピシッ
んおぉ!?今『ピシッ』って言ったか!?
一応デスターの砲撃をまともに受けないようにしていたけどそれでも限界が近いみたいだ
奴は好き放題撃ちまくり弾切れしたらスペアタンクに取り替える・・・そのタイミングが唯一の隙なんだけど突っ込もうとすると周りの兵士が威嚇射撃してきやがる・・・どうすりゃいいってんだこんなの
「ガッハッハッ!粘るじゃねえか・・・タン」
「ダンだ!・・・なあ、男らしく殴り合いで決着つけねえか?遠くから撃ったりタンクを替えている時に部下に守らせたり・・・男らしさの欠片もねえと思わないか?思うだろ?思ってくれ」
「男らしく派手に散れ」
ぬぉぉぉ!?脈絡もなく撃つんじゃねえ!
デスターの放った砲弾は一直線に俺へと向かって来る
盾を斜めに構え受け流すが完全には勢いを殺せず体は吹っ飛び壁に背中をしこたま打った
「・・・にゃろぉ・・・」
クソッ・・・頭がクラクラする・・・全身の骨が砕けたかと思ったぜ・・・
「どうした?タンカーの恐ろしさを教えてくれるんじゃなかったのか?」
「うるせぇ!黙ってろ!」
くっ・・・大声を出すと体中に痛みが・・・いやマジでこれどこか折れてないか?
「・・・タンカーという存在はいないがこの国にも貴様のように盾を持つ者はいる・・・もし貴様がこの国に生まれていたら・・・今のマドマーの地位に貴様が就いていたかもしれんな」
「・・・マドマー?」
「近衛兵長マドマー・・・何とかだ。一応いけすかねえが将軍より・・・つまり俺より地位は上になっている」
上官の名前くらい覚えろよ
近衛兵長マドマーか・・・こいつ・・・一応は俺を認めてるって言いたいのか?
「・・・俺の部下にしてやろうか?」
「フラフラのくせしてよく言う・・・だが同じ事を考えていた。もちろん主従は逆だがな・・・俺の下につけタン!悪いようにはしねえぞ?」
「まずは名前を覚えろよ・・・んでもってお断りだクソッタレ」
「・・・それは残念だ。貴様のような気骨がある者はこの国には少ないからな・・・本当に・・・残念だ」
ちっとも残念そうな顔しないで大筒を構えるデスター
どうせ口からでまかせなんだろうな・・・あの大筒は連射は出来ないみたいだ・・・どうやらクールダウンが必要みたいで会話をしてその時間を稼いでまた撃つ・・・それの繰り返し
分かっちゃいるけどもう俺も体力が残ってないからそれに乗るしかねえ・・・それに盾も・・・
ピシピシッ
おいおい勘弁してくれ・・・これで相棒すら逝っちまったら・・・いっそ躱すか・・・どうしても躱せない時だけ盾を使い・・・ん?
不意に視線を感じ振り返る
すると建物の窓のそばに人影が見えた
どうやら背中のこれは家らしい・・・見ているのはこの家の家族か・・・ガキが恐怖に怯えた目で俺を見つめそのガキを母親が抱き締める・・・そして父親は縋るような目で俺を見ていた
あーそうか・・・俺が砲弾を躱したらこの家は・・・中の家族は・・・
知らねえよそんなの・・・この国に生まれたことを恨め・・・街中で暴れるあのバカを恨め
俺は生きなくちゃならねえんだ・・・間抜けなアイツを生き返らせて彼女の待つエモーンズに戻らねえとならねえんだ
・・・クソッタレ!
「ほう・・・まだ動けるか・・・」
「あったりめえだ!まだまだピンピンしてらぁ!」
重い足を引きずるように前に出る
間違いなくまともに受けたら盾が逝く・・・かと言って逸らしたとしても流れ弾がどこに行くか分からねえ・・・躱せばあの家族は・・・いや違う・・・この足じゃ躱せるか分からねえから躱さないだけだ
さてどうしようかね・・・左右に流すのはダメだ・・・なら上か下か・・・
「生まれ変わったらこの国に生まれな・・・そしたらこき使ってやる」
「っざけんな!死んでも御免だね!」
「そうか・・・じゃあなダン」
ようやくまともに名前を呼びデスターは砲弾を放った
下はダメだ・・・弾き返しても地面に当たり衝撃が来る・・・なら残されたのは・・・
「上ぇ!!」
盾を斜めに構え砲弾を受け止める
「ぐっ!!」
角度が甘かったのか受け流せず前に出た分を簡単に押し戻された
すぐ後ろには壁・・・このままじゃ・・・
「クソッ・・・タレッ!!!」
背後に壁を感じた
その瞬間盾をかち上げ砲弾を持ち上がるように押し出した
全身に激痛が走る・・・そして同時に相棒が・・・逝った
鈍い音を立てて粉々になる相棒・・・その衝撃で体は吹き飛ばされまた背中を打ち付ける
・・・今のでマナも使い切ったか?体も立てねえくらいボロボロだ・・・見ず知らずの家族を守って死ぬか・・・情けねえ・・・
「ガッハッハッ!まさか今のも防ぐか・・・マジで惜しくなってくる・・・せめてもの情だ・・・俺の手で逝かせてやる」
おいおい・・・ふざけんな・・・倒れてる俺に砲弾を撃つ気かよ・・・
デスターはまたスペアタンクに取り替えると構えた
さすがにオーバーキル過ぎるだろ・・・こちとら盾もねえしマナも尽きかけてるって言うのに
チラリとまた窓を見た
すると今度は父親が恐怖に怯えていやがった・・・そりゃそうだ・・・もう防ぐ手立てはないのだから
けど・・・父親とは逆にガキは俺を変な目で見つめやがる
まるでヒーローでも見るような・・・そんな目だ
気まぐれでやっただけなのに何を期待してんだか・・・そんな目で見られたら・・・
「動くしか・・・ねえだろ!!」
気力で何とか立ち、重い足を上げる
俺が動けば大筒の向きは変わるはず・・・せめて家から離れ・・・
「なんだ?まだ逃げる気か?ガッカリだぜ」
「・・・うるせぇ・・・」
足を引きずり横に移動すると家から少しだけだが離れることが出来た
これで大丈夫なはず・・・ハア・・・柄にもねえ事はするもんじゃねえな・・・疲れちまった
「もう逃げないのか?まあいい・・・食らえ!」
「チッ・・・好き放題言いやがって・・・」
一瞬振り返りあの窓を見た
角度のせいで中は見えなかったが最後に成し遂げた事を確認し笑みが零れる
適性があったからタンカーになったはずなのに心までタンカーになっちまったようだ
「さて・・・死ぬか」
大筒の砲口が光を発する
目を閉じると何もやり遂げてねえけど込み上げてくる笑いを抑えきれず笑みを深めた
だってある意味俺の勝ちだろ?なあ・・・ロウニール──────
あん?
いつまで経っても痛みが来ねえ
いや、痛みもなく逝ったか?そりゃあの砲撃をまともに食らえば即死だろうけどそんなもんなのか?
死んだことねえから分からねえ・・・これが死なのか?
ゆっくりと目を開ける
すると見慣れた背中がそこにあった
死後の世界?・・・いや・・・違うな・・・
「・・・やっぱりな・・・クソッタレ」
「・・・そのクソッタレはいい意味のクソッタレか?」
「クソッタレにいい意味も悪い意味もねえだろ」
「そうか?言葉には色んなものが詰まってて・・・」
「うるせぇうるせぇ!ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ・・・こちとら体中のあちこちが痛えって言うのに・・・」
「何だよ・・・せっかく教えてやろうと思ったのに・・・言葉に意味を込めると・・・」
「なんだぁ?てめえ何者だ!!」
コイツを見たデスターが叫びクールダウン中の大筒を放り投げ魔銃を構えた・・・馬鹿なヤツだ・・・コイツに関わるとろくなことはねえって言うのに
「・・・人の言葉を遮るなよ・・・ちょうどいい・・・お前で実践してやろう・・・{跪け}」
「がっ!・・・なっ!?」
だから言ったのに・・・いや言ってねえか・・・
コイツの言う通りに跪くデスター達・・・なんだか肩の荷がおりたのか更に体が痛くなってきやがったな・・・
「な?」
「な?じゃねえよ・・・まあいい気味だけどな」
散々俺をいたぶっていた奴らが全員跪く姿は滑稽でもあり壮観でもあった。そういやコイツ魔人含めてすげえ人数を一斉に跪かせた事もあったっけか・・・
「さて、んじゃあ俺はそろそろ行くわ」
「あん?行くってどこに?」
「・・・知らん」
「おい」
「俺の相手はコイツらじゃない・・・魔神にリベンジしないといけないんだよ」
「あー・・・って、コイツらはどうすんだよ!お前が行ったら動き出すだろ?」
「うん」
「『うん』じゃねえ!盾もオシャカになっちまったしマナも尽きかけてるってのに俺に死ねってか!?」
「生きろ」
「・・・ちょっとこっち来い・・・ぶっ飛ばしてやる」
「冗談だよ・・・一方的にやられてムカついてるだろ?だから・・・」
そう言ってゲートを開くと俺の盾『大食漢』によく似た盾を取り出し俺の目の前に放り投げてきやがった
「だからマナが・・・」
「マナは必要ない。それとそいつは魔力も喰らう・・・名付けて『悪食』・・・大事に使えよ」
「マナは必要ないって・・・おい!本当に行くのか?マジで体がボロボロなんだが・・・」
「・・・ハア・・・仕方ない・・・ウロボロス」
「いやよ」
「まだ何も言ってないが?」
「治せって言うんでしょ?せっかくの魔力がもったいないからイヤ」
ウロボロス・・・いつの間に・・・てかそう言えば魔力が足りないって言ってたけど結局足りたのか?・・・いや、凍らせた頭部は確かシアが持っていて・・・
「ここまで我慢したんだ・・・治さないとこの場に放置するぞ?」
「それはイヤ・・・ハア・・・本当人使い荒いわね」
「魔族使いだろ?いいからさっさと治せ」
「ハイハイ・・・出来ればもっとカッコイイ人を治したいもんだわ」
「諦めろ」
「・・・てめえら黙って聞いてれば・・・おっ」
すげえなやっぱり・・・『再生』の魔族の名は伊達じゃない。一瞬で体の痛みが消えてしまった
「・・・なあ、コイツらどれくらいで動き出す?」
「抵抗すれば数十分かな?」
「そこのデカブツだけ解くことは?」
「可能だけど・・・平気なのか?」
「動かねえ奴をぶっ飛ばしても目覚めが悪いだけだ・・・正々堂々正面からぶっ飛ばす!」
「・・・分かった。気を付けろ」
「死んでたてめえに言われたくねえ」
「それもそうだ。じゃあな」
そう言ってゲートを開きどこかへと行っちまった
残されたのは俺と跪く兵士達と・・・
「・・・なんだありゃ・・・どうして俺は奴の言葉通りの行動をしちまったんだ?」
「アイツが『跪け』って言ったからだろ?てめえはそれに従ったんだよ・・・言葉にはそういうシャレにならねえ力があるらしい」
「・・・マジか」
「マジだ」
さて・・・本当にこの盾はマナは必要ないのか・・・そもそも魔力を防げるのか・・・やってみなくちゃ分からねえが・・・まあ何とかなるだろ
「・・・他の奴らはまだ動けねえか・・・まあいい・・・とりあえずダンを吹っ飛ばしてから奴を追うか・・・そういや聞きそびれちまったな・・・奴の名は?」
「覚えられねえくせに聞くんじゃねえよ・・・奴の名はロウニール・・・ロウニール・ローグ・ハーベスっていうクソッタレ野郎だよ──────」




