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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
686/856

681階 龍槍

龍槍


それはリュウダにとって単なる武器ではない


相棒、親友、兄弟、恋人、分身・・・どれにも当てはまらないがどれにも近い存在がリュウダにとっての龍槍だった


代々伝わるその槍がリュウダに渡されたのは彼が若干5歳の時。その時から彼は寝食を共にするほど常に龍槍と過ごした


自身の身長の倍以上あるその槍を持ちいつしか槍を越えてやるとライバル意識を持った時もあったとかなかったとか・・・


そんな1人と1本は同年代を軽く凌駕する実力の持ち主へと成長していく。ライバルなど龍槍だけで充分だと言わんばかりに圧倒し天才槍士と持て囃され史上最年少で護天の座に就く事に


順風満帆な人生でありこのままラズン王国の頂点まで駆け上る・・・と周りから思われていたが思いの外挫折はすぐにやって来た


護天の一人であり『拳聖』と言われる男コゲツの手によって



それまで無双状態だったリュウダを完全に子供扱い・・・手合わせの最中に欠伸をされてしまうなど屈辱を味合わされての完敗・・・そして完全に鼻っ柱が折られたリュウダに対してコゲツは言った


『槍に振り回され過ぎだな』


その言葉はリュウダに深く突き刺さる


身長は仕方ないにしても実力は龍槍を待つに値する位まで上がったと思っていたがそれを否定されたのだ


落ち込み悩み抜いた末にリュウダは龍槍と離れる決意をする・・・龍槍に見合う男になる為にいざという時以外は手放す事に決めたのだ


そんなリュウダの口癖が『龍槍があれば』になってしまうのは当然の流れだったのかもしれない。本人は気付いていないがそれこそがコゲツの言った『振り回されている』と気付かないまま時が流れ場所も移り変わる



「・・・ハァ・・・ハァ・・・龍槍さえあれば・・・」


兵士達は魔銃を構えもせず両手を後ろで組み直立不動でズラリと並び円を描く。中心にはリュウダとガルバンのみ・・・その光景はさながら簡易的な決闘場になっており2人は生死を賭けた決闘を繰り広げていた


「ガキのクセに強えのは確かだが所詮ガキはガキ・・・泣き言もかわいいもんだ」


「くっ・・・ガキじゃない!リュウダだ!」


真っ二つにへし折られ短くなった槍を構えるリュウダ


受けてはダメだと分かっていたが体勢を崩した時、ガルバンの魔力を纏った拳を咄嗟に槍で受け止めようとして槍が耐え切れず折れてしまった


その際に鳩尾に拳を受けてしまい壁となっている兵士の所まで吹き飛ばされる。兵士達にやられると思いすぐに動くが壁役の兵士達は一切動かずやられたリュウダを見下ろしニヤニヤするだけだった


それが更に気に障りその怒りをガルバンにぶつけようと力を込めるが空回り・・・振りが大きくなり余裕で躱されると更に一撃食らう羽目になった


もしその一撃に魔力が込められていたらリュウダはこの世にいなかっただろう・・・ガルバンの魔道具『ブレーカー』は拳を覆う手甲でありその手甲に魔力を纏わせて殴るのがガルバンの戦闘スタイルであるが二発目の時は何故か魔力は纏われておらずリュウダは九死に一生を得た


一撃目は槍で勢いを殺し何とか耐え、二撃目は魔力が込められていなかったから助かった。誰の目から見ても実力差は明白であり既に勝敗は決したと思われた・・・リュウダ以外は


「なあリュウダ・・・もう終わりにしようぜ?魔人を倒すほどの実力があるからこうやって戦ってるけど・・・言っちゃ悪いがお前はこの場に立つ資格はねえ・・・完全に力不足なんだよ」


「そんなセリフは僕に勝ってから吐け!まだ僕は負けていない!」


「・・・ハア・・・勝ち負けならとうに着いてんだよ・・・遊んでやったのは俺の好意だ・・・てめえがケンカを売ったのは俺じゃなく将軍ガルバン様に、だ」


ガルバンが言い終えると兵士達が一斉に魔銃を構える


「ひ、卑怯だぞ!」


「寝言は寝て言えガキ・・・少しでも遊んでやっただけ感謝しろ。もしてめえが俺を本気にさせてたならもう少し遊んでやっても良かったが弱いものイジメは趣味じゃなくてな・・・恨むんなら国にケンカを売った自分を恨みな」


「・・・」


「んじゃま俺は巻き添えを食らいたくないから退散するわ・・・それにガキの死ぬとこなんざ見てられねえしな・・・」


そう言うとガルバンは背を向けて歩き始める


「ま、待て!おい!」


追いかけようとリュウダが手を伸ばすと周りを囲んでいた兵士達は一斉に引き金に指をかけた


そしてガルバンが安全な場所に到達した瞬間、リュウダに向かい無数の光の礫が光の尾を引いて飛び交った


ガルバンが兵士達の壁を抜けた頃、魔弾同士の衝突により激しい発光が起きる。その発光にて出来た自分の影を見つめ、その影が消えると同時に振り返る


「死体は俺の目が届かない所で処理しておけ。少しでも目に入ったら承知しねえぞ?・・・ったく・・・生け捕りすりゃ拷問、あのままやってりゃイジメの上で撲殺・・・これが一番苦痛なく逝ける・・・悪く思うなよ・・・ガキ」


「ガキじゃねえって言ってんだろ!」


「なっ!?」


「将軍!あれを!!」


叫んだ兵士が指差すのはリュウダが居た場所から少し上空に位置する場所・・・飛んで躱したかと思いきや想像とは違う状態でリュウダは宙に浮いていた


「・・・てめえ・・・誰だ」


「人に名を尋ねる時は自分から名乗るものじゃぞ?小僧よ」


「んだとコラジジイ・・・このガルバン様にそんな口聞いて寿命を全う出来ると思うなよ?」


「見事な名乗りだな・・・では名乗ろう・・・ワシの名は・・・」


「あー!!爺さん何に乗ってんだよ!!」


「こ、これ暴れるでない・・・預かってた物でちょうど良い長さであったから少し拝借しただけじゃ」


地面に突き刺さる槍の上に立つ老人


その老人に首根っこを掴まれているリュウダが槍を見て騒ぎ立てる


「勝手に拝借すなー!それは僕のだ!僕の・・・」


「お、おいこのっ!」


更に暴れたリュウダを持て余し、老人が手を離すと地面に降り立ち瀕死だったのが嘘のように素早く動き槍を手に取り地面から引き抜いた


「・・・ハハッ・・・お帰り!」


「まったく・・・せっかちな奴じゃ。助けてもらった礼もなしか?」


「ありがとうじいちゃん!」


「じいちゃ・・・」


「これで戦える・・・これで・・・」


龍槍に頬擦りしながら呟くリュウダを見て文句を言う気もなくなった老人は静かに近付く者に気付き視線を向ける


「で?まだ名乗ってもらってないけど?」


「・・・ワシの名はハクシ・・・しがない老人じゃ」


リュウダを救った老人、ハクシが名乗るとガルバンは魔銃を撃とうとする兵士達を手を上げて制しニヤリと笑う


「んで?次の相手はてめえか?ガキの次は老人って・・・中間はねえのかよ中間は」


「悪いな・・・若い連中は品切れ中じゃ。しかしワシの賞味期限は切れてはおらんぞ?」


「そいつは楽しみだ・・・言っとくけど俺はグルメだぜ?」


「雑食のような顔をしおってグルメときたか・・・意外と繊細なのじゃな」


「誰が雑・・・」


「お前の相手は僕だ!!」


「・・・おいコラ急に割り込むな。てめえは終わったんだよ小僧・・・相手して欲しけりゃ・・・」


「この龍槍がある限り・・・お前には負けない!!」


「元気がいいのは結構だが人や話を最後まで・・・」


「怖気付いたか!ガルバン!」


「・・・おいジジイ・・・そっちの大陸の教育はどうなっていやがる」


「山の中で育ったワシにそれを聞くか?」


「いや知らねえし!山ん中ってどういう・・・」


「行くぞ!ガルバン!」


「待てコラ待て・・・もう分かったから・・・さっきまで死にそうな顔してやがったクセにその槍を持った途端に元気になりやがって・・・何なんだその槍は・・・秘密兵器か何かか?」


「秘密兵器なんかじゃない!龍槍は・・・」


相棒でもなく親友でもなく兄弟でもなく恋人でもなく分身でもない。龍槍はリュウダにとって・・・


「僕のチンチンだ!」


「長ぇなおい」


「チンチンだ!」


「なぜ2回言った・・・おいジジイ・・・解説しろ」


「なんじゃと?槍が・・・イチモツじゃと?」


「身内が一番驚いてるじゃねえか!・・・なんだ?比喩的なもんか?それともバカにしてんのか?俺がさっき元気になりやがってって言ってそれがチンチンだとしたら違う意味に聞こえるじゃねえかコラ」


「違う意味?」


「そこでウブるな小僧!・・・で?チンチンを手に俺に再度挑もうってか?・・・まさか槍の先から変なもん出るんじゃねえだろうな・・・」


「変なもん?」


「ウブるな!・・・もういい・・・すごーくやりたくねえがやってやるよ・・・」


複雑な表情を浮かべたガルバンは拳と拳をぶつけると構えて手のひらを上にし指先でリュウダを誘う


リュウダはそれに応えるようにチン・・・龍槍を振り回し槍先をガルバンに向ける


「生き生きしやがって・・・おいジジイ!立合人となれ」


「槍が・・・イチモツ?」


「引きずってんじゃねえ!」


「・・・っ!槍がイチモツ!?」


「しつけぇ!!ボケてんのか!立ち合えジジイ!小僧・・・リュウダが勝ったら見逃してやる・・・負けたら大人しく投降しろ・・・一応無駄だと思うが皇帝陛下に掛け合ってやる・・・将来が楽しみな野郎がいるってな」


「将来が・・・楽しみ?」


「・・・ジジイ・・・」


「冗談じゃ。で、飯はまだか?」


「・・・」「・・・」「・・・」


無言になる3人


さすがにまずいと思ったかハクシは咳払いをし喉の調子を整えると真面目な顔で「冗談じゃ」と小さく呟いた


「・・・次ボケたら一斉射撃の餌食になると思え」


「あい分かった・・・して、ワシはリュウダとお主の試合に立ち合う・・・それは分かったが決着はどうするのじゃ?」


「決まってんだろ?納得するまでだ」


「なんとも曖昧じゃのう・・・」


「その曖昧さがたまんねえんだよ・・・俺と小僧が納得したと思ったなら止めに入ればいい・・・だがもし片方でも納得してねえ状態で止めた日には・・・蜂の巣になる覚悟はしとけ」


「なるほどのう・・・その為の立ち合いか・・・なかなか面白い事を思い付く」


「だろ?」


ハクシが審判となりリュウダとガルバンが戦う・・・審判であるハクシが途中で止めればハクシが魔銃の餌食となり止めなければどちらか片方が死ぬまで戦い続ける事になる


リュウダとガルバン・・・双方死ぬまで納得などしないはずだから・・・


「ちなみに小僧が勝った場合は?」


「勝者を後ろから撃つような真似はさせねえ・・・2人共大手を振って歩いて帰れ」


「その言葉を聞きたかった・・・小僧も分かったか?要は勝てば良いのじゃ」


「うん・・・負けないよ・・・龍槍がある限りね」


「・・・さっきの言葉が頭から離れねえからイマイチ締まらねえな・・・まあいい・・・もう一度ボコボコにしてやんよ──────」

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