679階 武士
シャシはペネットの魔道具『テンタクル』により拘束され、更に視認も出来ず気配すら感じない距離から狙われる身となったコゲツ
圧倒的に不利な状況の中、コゲツは更に窮地に追い込まれる
「さて、動けばどうなるか分かりますね?」
ペネットが右手を上げると周りで待機していた兵士達が一斉に魔銃を構える
「おいおい・・・せめて2対2で遊ぼうや」
「それに何の意味が?」
「意味つーか・・・ほら、連携を見せてくれるんだろ?」
「これが私の戦法です。私が捕らえ兵が魔銃で仕留める・・・その私の戦法と兵を囮にし遠距離から相手を狙い撃ちにするアギニス将軍・・・見事な連携とは思いませんか?」
兵士達の魔銃に狙われ更にはどこか分からない場所からアギニスに狙われている状況・・・暫く睨み合うとコゲツはため息をつき両手を上げた
「降参・・・降参だ・・・やってくれるぜまったく・・・」
「コゲツ!」
拘束され身動きの取れないシャシが叫ぶがコゲツは彼女に振り返らずただ首を振り応える
「賢明・・・と言うか潔いですね。てっきり死を覚悟して暴れ回るかと・・・」
「よせやいそんな義理も覚悟もねえよ。俺は元々この作戦には反対だったんだ・・・魔神を倒すのに協力したからってお前さんらが素直に俺らを受け入れてくれるとは思っちゃいねえし恩を感じるとも思ってねえ」
「随分な言い草ですね。私達はただ侵入者に対して的確な判断をしたまでですが・・・貴方達のような得体の知れない人達と共に魔神を倒すなど以ての外・・・」
「だな」
「気が合いますね。監獄送りは避けられませんが魔人を倒してくださいましたし抵抗せず捕まって下さいましたしそれなりに考慮いたしましょう」
「そりゃどうも・・・三食風呂付きの豪邸風の監獄にでも入れてくれるってか?」
「・・・考えておきましょう」
「コゲツ!それでも武士か!殿が見たら・・・」
触手に拘束されたシャシが暴れながら訴えるとコゲツはようやく振り向き頭を掻きながら苦笑いをする
「俺は元々武士でもなんでもねえよ・・・ただ喧嘩が好きなゴロツキだ・・・知ってんだろ?」
「違う!お主は武士だ!」
「・・・ぶっちゃけ武士ってなんだ?もしかしてアレか?人気の絵巻に描いてあった『武士道とは死ぬことと見つけたり!』みたいなやつか?冗談じゃねえ・・・生きてこそ華が信条の俺には到底理解出来ねえな」
「・・・武士とは負けぬ者の事だ・・・」
「じゃあ俺は武士じゃねえな・・・今さっき完敗したところだ」
「そうではない!負けぬ者・・・敵にも味方にも・・・己にも・・・我が国で武士がいるとしたら唯一人・・・コゲツ・・・お主だけだ」
「だから負けまくってるって」
「他人の為に、な」
「あ?」
「今からそれを証明してやろう」
「は?ちょ・・・シャシ・・・お前さん何を・・・」
「我が名はシャシ!このように拘束されたまま生き恥を晒すつもりは毛頭ない!殺すなら殺せ!殺さず近寄ろうとするならば覚悟するが良い!指一本でも動かせる状態ならば目ん玉から脳ミソを引きずり出してくれようぞ!」
それまで大人しかったシャシは急に暴れ出し喚き散らす
すると魔銃を構えていた兵士達が一斉にシャシに銃口を向けた
「おいバカやめろって・・・こんな所で死んでも意味はねえ」
「・・・意味はない?勝つ為の死に意味はないと言うかコゲツ!」
「その『勝ち』に意味はねえって言ってんだよ!ここで勝ったからってどうなる?ロウニールは生き返らねえし無駄に敵は増えるし・・・勝ったとしても損するだけだ!」
「元々損得勘定で動くようなタマではあるまい・・・ここは私に任せて生き返れ・・・その相手が近くにいるのだろう?・・・あまり私を失望させるな・・・コゲツ」
「・・・」
見つめ合う2人
その2人を黙って見守っていたペネットは我慢の限界を迎えたのか青筋を立てながらも平静を保つように肩を竦める
「痴話喧嘩はそろそろ終わりにしてもらっていいですか?死ぬとか生き返るとか訳の分からない事を言う前に理解して下さい・・・貴方達の生死を握っているのは私だと言うことを」
「はっ!貴様に握られる程私の命は軽くはない・・・行け!コゲツ!行って名を取り戻して来い!お主は『拳聖』だろ!」
ペネットの言葉を軽く受け流しコゲツに喝を入れるシャシ
その喝を受けコゲツは頭を搔くとペネットでも兵士達でもなく遥か先を見つめた
「・・・チッ・・・どうなっても知らないぞ?」
「承知の上だ・・・ここは私に任せてお主はやるべき事をやれ」
「ったく・・・いい女だなお前さんは」
「なっ!?い、いいから早う行け!」
顔を真っ赤にするシャシを見てクスリと笑うとコゲツをフゥと息を吸い構える
そして・・・
「んじゃまあ行って来るわ!・・・何とか生き延びろよ」
「無茶を言うな・・・だが善処する」
その返事を受けるとコゲツは突然駆け出しペネットを通り過ぎ魔銃を構える兵士達を飛び越えるとあっという間に遥か彼方へと消え去ってしまった
「・・・えっと・・・もしかして彼は貴女を見捨ててアギニス将軍の元へ?」
「そうだが・・・それ以外何がある?」
「いや・・・いやいやいや・・・てっきり玉砕覚悟で戦う算段でもしているのかと・・・貴女達の大陸では普通なのですか?仲間を見捨ててしまうのは」
「はっ、仲間を盾にしてる奴が言うセリフではないな」
「私が盾にしているのは仲間ではありません・・・ああ、なるほど・・・同じ立場の仲間と思いきや貴女は彼の部下でしたか・・・それなら納得・・・」
「違うな・・・私とコゲツは同僚だ・・・同じ護天の仲間だ」
「ならば単純に見捨てられた・・・って事ですかね?」
「違うな・・・彼は最善を取ったのだ・・・ここで2人して朽ち果てるよりも貴様らに勝つ為の最善を、な」
「彼がアギニス将軍を討ち戻って来て私も?・・・貴女を犠牲にして?」
「違うな・・・彼がアギニスとやらを・・・私がお前を討つという最善の策だ」
「貴女が・・・私を?・・・クックックッ・・・ハッーハッハッ!それは面白い・・・一体どうやって?拘束され身動きひとつ出来ない貴女が一体どうやって私を討つと言うのです?まだ彼がアギニス将軍を討ち戻って来て私を討つという話の方が現実味がありますよ?・・・まあぶっちゃけどちらも不可能ではあるのですが・・・」
「不可能かどうかはやってみなくては分からんだろう?私はまだ負けた訳ではないぞ?」
「・・・その格好で傲慢極まりないですね・・・どこに希望を見出しているのか知りませんが不可能である事をその身に刻み込んであげましょう・・・そうすれば理解出来るでしょう・・・貴女は既に負けているということを」
「やれるものならやって・・・っ!?」
シャシの手足を拘束する魔力で出来た4本の触手・・・その触手とは別に新たな触手が地面から顔を出す
「もしかして4本で全てだと?」
「別に・・・で?数が増えたところでなんだと言うのだ・・・増えた1本で首でも絞めてみるか?」
「・・・可愛げのない・・・少しばかりその可愛げのない貴女を変えてあげるとしましょうか」
「・・・なに?」
そう言うとペネットは顎を使い兵士の1人を呼び寄せると何かを耳打ちする。そしてその兵士は頷くと数名を引き連れてシャシの前に立った
「それ以上近付けば噛み殺すぞ?」
「・・・脱がせ!!」
「なっ!?」
シャシが威嚇するもそれを無視してペネットに命令された兵士が叫ぶ。すると兵士達はシャシに群がり服を引き裂いていく
拘束され抵抗出来ないシャシが首を動かし兵士の手に噛み付こうとするがその行為は虚しく空振りに終わり彼女は全ての衣服を剥ぎ取られてしまった
「お・・・のれ・・・」
「綺麗な体ですね。穢れを知らない・・・そう思える程に・・・しかし不思議ですね・・・女兵士は少ないのでこれをやるのは久しぶりですが大体の女は裸を見られている恥ずかしさから顔を赤らめるのですが貴女はそうではない・・・恥ずかしくないのですか?」
「・・・貴様らに見られたところで恥ずかしくもなんともない・・・屈辱以外の何物でもないからな」
「なるほど・・・恥ずかしいのではなく屈辱である、と。私がなぜ服を脱がせたかお分かりですか?」
「知らん・・・知りたくもない!」
「そうですか・・・私は貴女に改めて欲しかったのです。私に抗うなど不可能であると知って欲しかったのです。貴女の事はよく知りませんがこれまでのやり取りからとてもプライドの高い方だとお見受けしました・・・なのでそんな方に最も適したやり方・・・『恥辱』を与えようかと」
「・・・」
「屈辱は感じて頂いているようなのでもうひとつ与えましょう・・・兵士達にやらせるのも一興ですがさすがにこの人数・・・やれなかった者が不満を覚えてしまうのは私としてもこの後の魔神戦での士気に関わるのでどうかと思いまして・・・」
「回りくどい言い回しはよせ!何をするつもりだ!」
「・・・察しが悪いですね・・・裸にし恥を与えるとしたらやる事はひとつでは?ちょうどいい物がそこにあるでしょう?」
「・・・まさか・・・」
「ああ・・・やっと理解頂けましたか・・・そう貴女の穴にコレをねじ込むのです・・・そう言えば穴は2つありましたね・・・試した事はないですが同時に2本とかどうでしょうか?」
「ふ、ふざけるな!馬鹿な事を・・・」
「馬鹿な事?そう言いますがこれを見ると兵士達の士気はかなり上がるのですよ・・・まあ士気が上がると言うより興奮しているだけでしょうけど・・・」
話している内に新たにもう1本の触手が生えてくる。そして2本の触手はウネウネと動きシャシの2つの秘部にピッタリとくっ付いた
「・・・よせ・・・」
「よせ?」
「っ・・・殺せ・・・」
「殺せ?」
「貴様には武士の情けというものがないのか!」
「何ですかそれは・・・知らないものがあるとは言えませんしないとも言えませんし・・・とにかく貴女はこれから確実に!その2本に!何度も貫かれ!私達の前で果てるのです!・・・ああ、安心して下さい・・・私の『テンタクル』は拘束を目的としていますので傷付けたりしません・・・たとえ中に入ったとしても」
「貴様っ!!」
「ハーハッハッ!その怒りに満ちた顔がどう変わるか・・・楽しみで仕方ありません!では始めましょうか・・・恥辱にまみれたショーの・・・始まりです!」
「・・・放て」
「そう放て・・・放て?」
上機嫌だったペネットの耳に聞き慣れない声が聞こえた
その声の方向に振り向くと1人の男が離れた場所で剣をペネット達に向けていた。その後ろには無数の兵士の姿・・・湾曲した木の棒を持ちペネット達を睨みつけていた
次の瞬間・・・
「ギャッ!」「ガッ!」「ウワッ!」
何かが風を切る音が聞こえ兵士達が倒れ出す
「第2射構え・・・放て」
先頭に立つ男が静かに呟く
すると背後の兵士達は湾曲した木の棒・・・弓に矢をつがえ再び放つ
「くっ!何をしている!撃ち落としなさい!・・・いや、奴らを撃ち殺せ!」
飛んで来る無数の矢・・・それを全て撃ち落とすのは困難と判断したペネットは突如現れた集団に向けて魔銃を撃てと命令を下した・・・だが降ってくる矢に怯え魔銃を構える事さえ出来ない兵士達・・・その隙に剣を構えた男は号令を出す
「全軍突撃!抵抗する者は容赦なく斬り捨てろ!」
その号令に従い動き出す兵士達
それを見て慌てふためいていたペネットの兵士達がようやく動き出す
「っ!盾隊前へ!来るぞ!!」
魔銃を構える兵士達を見て男はすぐに次の命令を出す
すると駆け出していた兵士達がすぐに立ち止まり後ろの兵士と入れ替わる
入れ替わりで前に出た兵士達は大きな盾を地面に突き刺し固定させた
「何者か知りませんが愚かですね・・・そのような物で魔弾を止められるとでも・・・なにっ!?」
ペネットの予想に反し、盾は魔弾を受けるとまるで飲み込むように吸収してしまった
その光景に驚き固まってしまうペネットと兵士達・・・その隙に先頭に立つ男が素早く移動しシャシの前まで来ると剣の柄を持ちチンと鳴らす
すると魔力の触手は全て切断されようやくシャシは拘束から解放された
「あー・・・見てないので安心しろ・・・」
「・・・別に構わない・・・助けて頂き感謝する」
シャシが拘束されていた場所を擦りながら尋ねると男は剣の柄を持ち構えながら振り返らずシャシに尋ねる
「・・・ラズン王国のシャシ殿と見受けるが・・・」
「はい」
「やはりそうですか・・・とりあえずこれを・・・それと預かり物です」
そう言って男は自らが着けていたマントを渡し、その後でゲートを開くとそこから取り出した一振の太刀を差し出した
「・・・これは?」
「人使いの荒い奴からの預かり物です。魔力を斬れる刀・・・らしい。それとマントは羽織ってもらえれば・・・」
「クスッ・・・裸など見られて困るものではないのですが・・・それにしても貴公は一体・・・」
「貴女の為ではなく隊員達が使い物にならなくなるから困るのです。私は・・・」
男が名乗ろうとした瞬間、足元から新たな触手が暴れ出る。それを冷静に切り刻むと男は振り返らずに名乗った
「フーリシア王国エモーンズ所属・・・ケイン・アジステア・フルー・・・人使い荒い奴に言われ助太刀に参りました──────」




