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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
683/856

678階 荒波を越えて

悪い予感は当たってしまった



彼は紳士的に名乗ると剣を構えた



将軍ロゼック・サバス



彼の戦闘スタイルは見たままの通り剣を使った近接アタッカー・・・対してネターナ船長は後衛アタッカー・・・冒険者で言うところの魔法使いである


どちらが有利でどちらが不利なのかは私には分からないけど近接アタッカーと後衛アタッカーの勝負は単純に考えれば近付ければ近接アタッカーの勝ち、近付けさせなければ後衛アタッカーの勝ちと・・・思っていた


しかし・・・


「アイスジャベリン!」


無数の氷の槍がロゼックの上空に現れ取り囲む。空を埋め尽くす程の氷の槍・・・戦いを終わらせるには充分過ぎる光景なのだけどこの光景を見るのは3度目だった


「またそれですか・・・貴女も懲りないですね」


「五月蝿い!これを受けてから言いな!アイシクルエッジ!!」


彼女が叫ぶと氷の槍は上空で回転し始め重なり合いひとつの巨大な氷柱と化した。もはや氷柱と言うより氷塊・・・その氷の塊がロゼック目掛けて落ちていく


巨大な船すらも破壊してしまいそうなその塊を見てもなお彼は顔色一つ変えずに剣に魔力を纏わせて塊に向けて軽く振り抜いた


キーンと高い音が響くと塊は真っ二つに割れ彼を避けるようにして地面に落ちる・・・その瞬間地面は激しく揺れ土煙と共に氷の溶けた際に発生する蒸気が視界を塞ぐ


「数を増やそうが大きさを変えようが同じです・・・貴女の魔法とやらは私の『サンライズ』 の前では気温を下げ土煙を上げる児戯に過ぎない」


土煙と蒸気を斬り裂いて彼女に歩み寄るロゼック


そう・・・彼女がどれだけ魔法を放ったとしてもあの魔力を帯びた剣が全て斬り裂いてしまう。魔法使いが得意な距離で戦っているにも関わらず彼は傷一つ負わず逆にマナを消費した分彼女が不利になっていく・・・


このままでは勝てない・・・何か打開策を見つけないと・・・私に出来ることは・・・


「児戯だって?大層な玩具を与えられたからって言うじゃないか」


「玩具・・・か。確かに玩具かも知れませんね・・・子供を夢中にさせる玩具・・・皇位さえも霞んで見えてしまうほどの・・・」


「皇位?」


「言ってませんでしたか?私は一応皇位継承権一位である身・・・本当の名はロゼック・マルチス・ブルデンと申します」


皇位継承権一位?って事は皇帝の一番上の息子って事?ならなぜ将軍と名乗り前線で剣を?


「そりゃまた・・・どうでもいい話をぶち込んで来るねえ・・・今からでも頭を下げた方がいいかい?」


「その必要はありません。どうせ継ぐのは弟達のいずれか・・・おそらく二番目の弟が継ぐことになるでしょう。私は今のまま・・・自由気ままに剣を振れさえすれば良いので」


「あっそ・・・じゃあ今更皇子様って名乗ったのは何の為だい?戦いに関係ないのなら伏せときゃいいものを」


「何の為?共に魔神を倒す方に嘘偽りない真実を伝えるのは当たり前では?命を預けるかも知れませんのに少しの疑念が思いもよらぬ歪みを生み出すかも知れませんし」


・・・?


はっ!そうだった!すっかり忘れていたけどこれはあくまで力試し・・・魔神を為に必要な戦力となり得るか確認するもの・・・序盤はネターナ船長も力を見せるように戦っていたし私も安心して見ていた・・・負けても死ぬ訳ではないのだから・・・


けど思ったよりも白熱してしまったのか互いに本気を出しているように・・・少なくとも彼女は本気を出していたように見えた・・・だからか私も・・・


「参ったね・・・どうやら頭に血が上って忘れてたみたいだよ・・・そういやただの手合わせだったね」


「鬼気迫る勢いはそのせいでしたか・・・殺されるかと思いましたよ?」


「ぬかせ・・・平然とアタイの魔法を斬りやがったくせに・・・それで?『共に魔神を』って事は認められたと思ってもいいのかい?」


「・・・勿論です。逆に私からお願いしたいくらいです・・・本当に・・・」


「ん?どうしたんだい?」


「いえ・・・それよりも彼女も貴女程の実力の持ち主なのでしょうか?」


ロゼックは剣を鞘に納めると更にネターナ船長に歩み寄る


そしてヒョイと体を傾けてネターナ船長の背後にいる私を見た


「いやこの子は非戦闘員でね。けど・・・っ!何すんだい?」


「何って・・・ナイフで腹を抉っただけですが?」


ロゼックにつられて彼女が私に振り返った瞬間だった・・・彼女の体が揺れたと思ったら足元に血が滴り落ちる


「てめぇ・・・」


「油断しましたね・・・身分を明かし褒め讃え剣を納める・・・まあこれだけすればほとんどの人が気を許してしまうでしょうね」


やられた・・・まさか油断を誘う為?


そうだ・・・なぜ彼女と私が力試しである事を忘れていたのか・・・それは私ですら感じ取れる程の殺気が彼から放たれていたからだ


手合わせのはずがいつの間にかその殺気のせいで生死を賭けた戦いに・・・その時と今とのギャップが彼女の油断を誘ってしまった


もしかして悪い予感の正体はネターナ船長とロゼックの相性の悪さではなくこれだったのか・・・


「このっ!」


「おっと・・・あまり暴れない方がよろしいかと・・・出血多量で死んでしまいますよ?」


彼女が近付いたロゼックを振り払うように拳を振ると彼は飛び退き冷笑を浮かべる


初めから味方にするつもりはなくこれが狙いだったかのように


「・・・何故だ・・・あのままやっても・・・」


「勝てたかもしれませんね・・・けどどんな手が他にあるか分からない・・・ここで無駄に戦力を減らす訳にもいきませんし貴女達を受け入れる気も更々ない・・・となるとこうするのが一番手っ取り早いと判断したまでです」


「・・・初めから・・・」


「ええ、勿論。魔神との戦いに不安要素を連れて行く馬鹿がいますか?ただでさえ私は武功を上げなくてはならないのに・・・『皇族だから』と言われない為にもね」


「・・・」


「私が将軍になれたのは確かに『皇族だから』でしょう。他の者とスタート地点が違いましたからね。口には出さないまでも私の部下でさえそう思っているのではないですか?私も否定はしませんし・・・ですがそのままではダメなんですよ・・・今の皇帝のままならまだしも弟の誰かが皇帝の座についた時・・・『皇族だから』は通用しません。逆に目障りな存在として処分されるでしょう・・・皇位継承権を持っていた者に武力を与えるのはとても賢いとは言えませんしね」


「・・・そうか・・・それで武功を・・・」


「そうです。この国の唯一の脅威である魔神・・・その魔神を討てば唯一無二の武功となり皇帝となった弟も私をおざなりには出来ないでしょう。魔神を倒した英雄を無下には出来ない・・・その為にも私は・・・」


「おざなりには出来ない・・・無下には出来ない・・・随分と次の皇帝の目を気にしているんだね・・・」


ロゼックの話が真実なら彼は現皇帝の長男であり皇位継承権一位・・・順当に行けば皇帝になるのは彼になる


しかし彼は自らその地位を捨て武官の道に・・・将軍になれたのは皇帝の息子という身分のお陰のようだが代が変わればその効果も消える・・・ロゼックはハシゴが外された状態でも立っていられる地盤が欲しいんだ・・・魔神討伐という地盤が


それなのに・・・いや、見誤ったのは私達か・・・彼はネターナ船長を戦力としてではなく不安要素として見てしまったか



「兄としては情けないかも知れませんが軍を率い剣を振る道を選んだ以上仕方のない事・・・それよりも大丈夫ですか?顔色が優れないようですが・・・」


「自分でやっといてよく言えるね・・・血の気が多いからちょうどいい具合になってきたところだよ」


ネターナ船長の足元に血溜まりが・・・こちら側からでは分からなかったけどかなり傷は深いのか・・・


「つまりまだ抵抗すると?賢明な判断とは言い難いですが・・・望むなら応える準備はありますよ」


「続行に決まってるだろ?アタイを舐めんじゃないよ!」


ネターナ船長は叫び魔法を唱える・・・が、氷の槍はロゼックとはかなり離れた場所に飛んで行った


まさか目まで?血を失い過ぎて目が見えなくなっている?


どうしよう・・・私が突っ込みネターナ船長を逃がす・・・いや、彼女が私を置いて逃げるはずもない


なら私だけ?・・・もっと有り得ない・・・なら!


「16・5!」


「っ!あいよ!」


私が叫ぶとネターナ船長は呼応し再び魔法を唱える


すると今度はロゼックに向かって一直線に飛んで行く


「チッ!」


「15・5!」


「あいよ!」


おそらく目が見えていないであろうネターナ船長の魔法が正確にロゼックを撃ち抜く


致命傷とまではいかないまでも初めて攻撃がヒットした


私の叫ぶ数字の意味が理解出来ないからなぜ正確に狙えるか不思議に思っているでしょうね


「・・・貴様か・・・」


どんな間抜けでも数字の意味が分からなくても当然私が方向を指示しているのに気付く


ともなればロゼックが狙うのは私だ


「その表情といい舌打ちといい・・・さすが暴君の息子ですね・・・今までのすまし顔よりよっぽどお似合いです」


「っ!・・・誰ぞ奴を狙え!!撃ち殺せ!!」


そう来るのは予想済み・・・ネターナ船長と共に戦うと決めた時点で・・・同じ船に乗ると決めた時点で覚悟は出来ていた


2発の魔法でロゼックの行動は読めた・・・後はそれを伝えるのみ!


「15・5・・・取舵一杯!!」


「・・・あいよ!」


最初の数字は方角を16分割したもの。北を1として北北東が2と時計回りに数字を増やしていく。最初に叫んだ16は北北西の方角にロゼックが居ると15は北西にいると彼女に伝えた


次の数字は距離であり単純に5m離れた距離にいる事を伝えた・・・海の上では一瞬の判断が不可欠でありその為に伝達方法も工夫されている。その中でも取り分け重要なのが方角と距離・・・このふたつは船長や操舵手にすぐに伝えなくてはならない


どの方角に、どれくらいの距離に、どうすれば良いか・・・私は最後に伝えたのはネターナ船長から見て北西5mの所にロゼックが居るという事ともうひとつ・・・彼が魔法を回避する時に右に躱す癖があるという事だ


彼は魔法が飛んでくればまた右に躱すだろう・・・だがその魔法が彼を追い掛けるように左旋回したら?


彼はきっと避けられない・・・今まで通り剣で魔法を斬っていれば彼の勝ちだったかもしれないけど魔力を温存する為に剣を納めたのが運の尽き・・・私達の勝ちだ!


「くっ!このっ!!」


彼を追い掛けるように曲がる氷の槍・・・決着を見届けたかったけど私にも魔銃から放たれた魔力がもうそこまで迫っていた


「マルネ!!」


悔いはない・・・最後に船長と共に船に乗れたのだから


惜しむらくは共に戦うという意味の船ではなく本物の船に乗り海を渡りたかったけど・・・満足です



自然と笑みが零れる


魔銃から放たれた魔力の光に照らされながら願わくば彼女がここから生きてまた航海に出れるようにと祈りながら私は──────





「・・・マルネ・・・っ!」


「・・・魔法とは軌道をも変えれるのか・・・少し惜しくなって来たぞ・・・殺すのが」


貧血により目が霞み意識が朦朧とする中でマルネに何が起きたのか察したネターナが彼女の名前を呟いた時、アイスジャベリンで串刺しになったはずのロゼックが煙の中から姿を現した


その手にはいつの間にか握られていた魔力を纏う剣『サンライズ』・・・ロゼックは躱せないと判断した瞬間に剣を抜きネターナが放った魔法を斬り裂いていた


「・・・そんな・・・」


相討ち覚悟で放った魔法が防がれ、マルネも魔銃で撃たれてしまった・・・何とか気力で立っていたネターナもその場に崩れ落ち膝をつく


「その傷では助かる可能性は低いと思いますが捕らえておきますか・・・貴女にとっては生きるも死ぬも地獄となりますけどね」


このまま死ぬか生きても監獄に逆戻り・・・その現実が更にネターナに追い打ちをかける


絶望的な状況・・・幾度となく荒波を越えてきたネターナにしてもどうしようもない状況に項垂れる・・・と、その時



「1・3!」



背後から声が聞こえた


その声に反応しネターナは真っ直ぐ前に手を伸ばすと反射的に魔法を唱えた


「くっ!死に損ないが!!・・・いや、それよりも・・・」


剣を抜いたままネターナに近付いていたロゼックは何とかネターナの放った魔法を斬る。最後に抵抗してくるかもしれないと警戒を怠らなかったが幸いした


もはや目の前にいるネターナも反撃をする力も気力も残っていないだろう・・・『サンライズ』の魔力もまだ充分に残っているし兵士達も魔人にはやられはしたが魔神に対抗するだけの数は残っている。だがロゼックの額からは冷や汗が滲み出る・・・魔銃の一斉掃射を浴びて死んだはずだと思っていた人物が生きていたからだ


普通の人間なら跡形もなくなっているような銃弾に晒されたはずなのに生きている事に恐怖を覚える・・・ネターナ以上の実力者ではない事を確認してから行動に移したはずなのにと頭の中でグルグルと考えを巡らせた


マルネがいた場所は未だ魔弾の影響で土煙が舞っていて視界は遮られている。なのであの一斉掃射を躱したのか防いだのか分からない


緊張する中、目を凝らし喉を鳴らして土煙が晴れるのを見守っていると突然風が吹き土煙を晴らしロゼックの疑問に答えた


《人間の叡智が詰まった魔法を放棄し道具を用いて魔力を使うとは・・・進化なのか退化なのか分かりませんね。少なくともワタクシには退化に思えるのですが》


「・・・貴様・・・何者だ・・・」


土煙が晴れ現れたのは執事服の奇妙な男。その男を警戒し剣を構えながら尋ねると男は今初めてロゼック達の存在に気付いたような表情を浮かべた後、頭を下げた


《これは申し遅れました。ワタクシの名はベルフェゴール・・・短い間ですが死ぬまでお付き合い下さい──────》


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