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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
682/856

677階 魔族の貴族

一体何が起きてるんだ?


街が妙に騒がしい・・・けどどういう訳か街の様子を見ようとしても街中にゲートを開けない・・・ここは魔力障壁の中のはずなのに・・・まさか二重に障壁があるのか?


〘お兄様!〙


〘んおっ!?・・・なんだ妹か・・・んん?『お兄様』??〙


とつぜん頭に響く声・・・その声は妹のゲートくんの声で間違いない・・・けど・・・これまで互いに兄、姉を主張していたのにどういう風の吹き回しだ?


〘お兄様はお兄様です。私より多くを経験した人を弟とは呼べませんので〙


〘そりゃ殊勝な心掛けだね・・・ん?てかなんで繋がるんだ?魔力障壁があって繋がらないはずじゃ・・・〙


〘詳しい話は後で・・・それよりも今は私達が出来ることをしましょう〙


いや凄い気になるんだけど・・・まあいいや


〘僕達の出来ることって?〙


〘決まってるでしょ?火山に落とされたいの?〙


〘・・・妹になっても変わらないな・・・ん?火山?・・・そうか・・・僕達の出来る事言えば・・・ゲート・・・〙


〘そうよ。さっさと準備して・・・始まるわよ──────〙




こりゃまた・・・難儀じゃのう


目の前の魔人は『吸魔』の使い手・・・魔力による攻撃は全て吸収してしまう


つまり・・・ワシの攻撃は一切効かないに等しい


ならばと直接の打撃に切り替えるが普通の魔人と違い単純に暴れ回る訳ではなく老獪に立ち回りおる・・・先程『吸魔』と呟いた事といい・・・コヤツ意識がはっきりしておるのか?


「くっ!」


蹴りを放つと腕で防がれ、その腕を軽く振るだけで吹き飛ばされる・・・如何ともし難い体格の違いとパワー・・・ワシが勝っておるのはスピードだけか


そのスピードも何か決め手があったら活かせるのじゃが如何せん魔力を使った攻撃は吸収されてしまう・・・そしてそれはコヤツを着実に強くさせてしまっているようじゃ


魔力量イコール強さと言うならワシにとって最も最悪な相手と言えるかもしれん


「少しくらいマナを使った技も覚えておけば良かったのう」


八方塞がりか・・・ならばワシの役目は・・・


「悪いがもう少し付き合ってもらうぞ」


逃げるという選択肢はない


もしワシが逃げれば他の者に迷惑がかかるやもしれん。相性が最悪と言えどここで足止めせねば・・・


・・・どうしてワシは命を懸けてまでここまでする?ロウニールの為?他の者の為?それとも・・・


いや、答えは分かっておる


もうあの時のワシに戻りたくない・・・それだけじゃ


独りで生きていくと決めたのに・・・ロウニールが・・・サラが・・・他の人間達がいる今のこの環境をワシはどうしても捨てられないらしい



たとえそれがワシの命と引き換えでも



《・・・何故邪魔をする》


「ぬおっ・・・お主普通に喋れたのか?」


魔人より少しマシな程度と思っておったがここまで流暢に喋れるとは・・・


《喋る必要がなかっただけ・・・我は王に従うのみ》


「王?」


《魔人の・・・いや全ての者の王・・・ヒース様だ》


「・・・カッ、結局は権力を得たいだけか?崇高な考えあって暴れると思いきや思いの外・・・魔神とやらもたかが知れておるのう」


《どういう意味だ?》


「皇帝に取って代わろうとしているだけじゃろう?民にとってはどっちもどっちじゃ・・・支配する者が代わるだけ」


《ヒース様は・・・》


「皇帝とは違う、か?よく聞く言葉じゃ・・・民の支持を得ようと始めは上手いこと言いおっていざ玉座に座れば人が変わる・・・お主も魔神も同じように・・・」


《何を勘違いしている・・・我らは目的が成った後死ぬ身・・・無論ヒース様も含めて全ての者が討ち果てる》


「・・・なぬ?」


《支配などに興味は無い。いや出来ぬと言った方が正しいか・・・ヒース様と我以外は自我を持たず暴れるだけ・・・辛うじてヒース様の言葉には従うし、ヒース様がいらっしゃらない時は我の吸魔で凌いでいたがもはや限界・・・人間に戻れる訳でも無く時が経っても何をしても自我を持てぬようならいっその事・・・》


むぅ・・・存外喋るのぅコヤツ・・・しかももしかして愚痴っておるのか?


《朝から晩まで吸魔吸魔・・・しかもヒース様・・・フラッと居なくなったと思ったらまた新たな魔人を連れて来て・・・こちとら複数人の魔人の魔力を吸って腹いっぱいじゃい!と言うのに一言『吸え』と・・・》


うむ・・・愚痴じゃのう。しかもキャラが変わっとりゃせんか?


「・・・つまり今回の襲撃は人間に殺してもらう為の襲撃じゃと言いたいのか?」


《そうではない。目的が成った後と言ったであろう?フラン皇子の計画に乗り皇族を皆殺しにする・・・その役目を終えた後、我々は・・・》


「自決する、か。しかしそのフラン皇子が皇帝になったとて頭がすげ変わっただけで何も変わらぬのではないか?」


《・・・フラン皇子は今までの皇族とは違う》


「どこがどう違うと言うのじゃ?・・・仮に今違えど玉座に座った瞬間に変わるやも知れぬぞ?お主らがこの世を去った後に、な」


地位が人を作ると言う・・・今のフランがどれだけ品行方正でも皇帝となって変わらぬという保証はない・・・いやきっと変わる・・・人間とはそういう生き物だ


《・・・そうかも知れない・・・だがだからといって手をこまねき何もせずにいろと言うのか?少なくともフラン皇子はこの国を憂い自らの命を懸けて戦おうとしていた・・・この国の圧政から民を守る為に・・・だから邪魔をするな》


「なるほどのう・・・事を起こしたお主らは成し遂げた後さっさと去り、幼き人間に後を託すか・・・美談に聞こえるが無責任にも程があるのう」


《何とでも言え・・・我らは既に限界なのだ・・・心も・・・体も・・・》


「お主とヒースは違うのではなかったのか?」


《・・・そう思っていた・・・が、ヒース様の様子を見て思い違いだと気付いた。我ら2人はたまたま他の魔人よりも遅かっただけ・・・いずれ自我を失い人々を傷付ける・・・せめて最後を見届けてからと思ったが・・・そう上手くはいかぬものだな》


気配が変わる・・・まさか今も必死に耐えていたのか?しかも耐えながらワシと?


《出来れば誰も殺したくはないと人を避けていたが・・・立ち去る気がないならせめて生き残れ・・・健闘を祈る》


そう言い終えた瞬間、殺意と共にワシの横を何かが通り過ぎた。そしてそれに続いて脇腹に痛みが・・・なるほど・・・持っていかれたか


痛む脇腹に手を当てると欠けた部分がよく分かる・・・内臓はギリギリ大丈夫のようじゃがかなりの深手・・・時間稼ぎも出来そうにないぞ


唯一勝っていたスピードまでもが上をいかれた・・・明らかに自我を失ったみたいじゃから攻撃は単調になるはず・・・じゃがそれを補って余りある速度・・・しくったのう・・・自我があった時の方が幾分マシじゃわい


「切り替わりが急過ぎるじゃろ・・・ったく・・・」


魔力が一定量超えたからか?それとも既に限界じゃったのか?とにかく今まで以上に気を張らねば一瞬でやられる・・・これで吸魔も使われたら・・・うん?待てよ・・・自我を失っても使えるのか?・・・試してみる価値はあるのう・・・血は充分過ぎる程あるでな


「・・・ブラッドミスト・・・」


もし吸魔が使えぬのなら・・・勝機はある


案の定ブラッドミストを展開しても吸魔は使わず血の霧に視界を奪われワシを見失ったようじゃ


よし、これで・・・っ!


ワシが動こうとすると気配を察知したのかピクリと反応しこちらを見た。自我を失い感覚も鋭くなったのか?厄介じゃのう


動けば位置がバレ攻撃される・・・動かなねば攻撃はされぬがもし誰かがこの場に来た時その者が殺されてしまう


またもや八方塞がりか・・・とことんコヤツとは相性が悪いのう・・・むっ!


ワシが攻めあぐねている間に何者かがブラッドミストの中に・・・普通赤い霧に覆われている場所に足を踏み入れるか?なんちゅう痴れ者じゃ


《・・・》


魔人も気付き身構える


助けるか・・・いや、そんな義理はない・・・外に出るなと言う沙汰が下っておるのにノコノコ出歩く方が悪い・・・そうじゃ・・・今の内にワシは・・・


「魔人よ!こっちじゃ!!」


ワシもいよいよロウニールの奴に毒されたか・・・見ず知らずの者を助ける為に命を捨てるとはのう


あのまま気配を消し立ち去れば生き延びれた。そして時間をかければ攻略出来た可能性もある・・・じゃがそれは犠牲あっての話になる


そんな事をすれば生き返った後にどう顔向けすれば良いか分からんしのう・・・あのアホタレに



魔人はワシの声に反応しこちらを向いた


誰かは分からぬがブラッドミストに入り込んだ者もワシの叫びで魔人が近くに居ることに気付き逃げてくれるじゃろう


これでよい・・・後はワシが必死に足掻くだけじゃ


「タダでは死なぬぞ・・・心してかかって来るがいい!」


何も死ぬと決まった訳ではない・・・必ず打開策はあるはずじゃ・・・攻撃に老獪さは消え単純に・・・しかし代わりに目で追えぬ程の速度で放つ・・・そうか!


魔人は一直線に突っ込んで来てワシの胸を貫いた・・・が、その体は霧散し消え去る


「それはワシの姿をしたデコイ・・・どうじゃ?騙された気分は」


血の霧の中で更に血を使い自分を作り出す・・・自我を失った魔人にだからこそ効く方法・・・


何度か繰り返せば攻撃に転じられるはず


魔人はデコイを破壊するとすぐさま振り返る・・・その前に再びデコイを作り出し身を隠そうとすると何かに当たった・・・まさか先程の奴が血の霧に迷うてここまで来て・・・


「くっ!」


何者かは知らぬがよりにもよってここまで来るとは・・・魔人がデコイを破壊したら次の標的はこの者になる可能性が高い・・・となれば次のデコイを破壊した瞬間に魔人を倒さねばならない


「はっ・・・ちょうどいい・・・腹を括る手間が省けただけじゃ」


勝負は一瞬・・・魔人がデコイを破壊した瞬間を狙うのみ・・・奴がワシに反応する前に・・・


魔人は狙い通りデコイに向かいそして呆気なく破壊してしまう。耐久力はほぼないからそれは問題ない。問題は奴が攻撃した直後にどれだけ隙を見せるかじゃ


腕を振り抜き伸び切ると一瞬の膠着が訪れる。その僅かな隙を狙い間合いを詰めると血で作り出した爪を魔人の心臓目掛けて突き出した


が・・・


「これを・・・躱すか!」


ワシの存在に気付き体を捻り血爪を躱す。すると今度はワシの方が奴に隙を見せる羽目に


《・・・》


無言で膠着するワシを見下ろす魔人・・・その拳が握られワシの背中に振り下ろされた


「がっ!」


息が・・・


体は地面にめり込むほどに勢いよく叩きつけられ息が出来ない





頭の中に最悪の文字が浮かび上がる


もうとっくに生を満喫したと思うていたのに本能が全力で死を受け入れる事を拒んでいた



動け


ワシはまだ何も成してはおらん


ワシはまだ・・・



《・・・何を遊んでいる?》


な・・・ぬ?


《困ったものだ・・・貴族の責務を果たさねばならぬと言うのに・・・貴族とは王より身分を与えられそれ相応の責任を果たす義務がある。その中で最も重要な義務が王の代わりに民を導くこと・・・故に我らは民を導くことに長けた種族でなくてはならない》


幻聴・・・ではなさそうじゃな


何故こやつがここに・・・


《その責務を半分果たしていると言うのに何を怠けている・・・さあ立ってその責務を果たせ・・・レファレンシア・オートニークス・エムステンブルズよ》


「・・・言ってくれる・・・父としての責務を放棄した者がよくも言えたものじゃな・・・ヴァンパイア」


一体なぜここにいる・・・ゲートちゃんが独断で呼び寄せたか?よりにもよってヴァンパイアを


《貴族としての責務を果たす事こそ本懐であり至高・・・その他は些事に過ぎない》


「・・・」


《さあ立て・・・立って導くがいい・・・王の為に!》


このっ・・・ん?待てよ・・・こやつの事はともかく魔人はどうしたと言うのじゃ?確かワシを殴打しその後・・・


ボロボロの体を動かし何とか顔を上げてみる・・・すると魔人はかなり遠くにいた


「魔人は・・・」


《鼻についたので蹴り飛ばした。文句は聞かないぞ?制御出来ない貴様が悪い》


文句?文句などある訳が・・・ん?


「制御とは?」


《・・・貴様・・・》


なんだ?怒っておるのか?確かに無様な姿を見せたが力の差は歴然・・・健闘した方だと思うのじゃが・・・


《・・・その顔は本気で分かっていないようだな。このブラッドミストもただの煙幕か・・・無知は罪とは言ったものだ。我らにとって血は何なのか思い出せ・・・我が種族の端くれならな》


・・・殴り飛ばしたい・・・が、それは後に取っておくとして・・・血は何かじゃと?我が種族・・・ヴァンパイアの血とは・・・


《ブラッドミストはただの煙幕ではない・・・視界を遮る事が目的ではなく・・・》


いやどう考えても視界を遮る事が目的じゃろう・・・血の霧が他に何の・・・あっ


そうか・・・ヴァンパイアが別名で吸血鬼と呼ばれておるのは首元に口を当て牙から血を吸っていると思われているから・・・しかし実際は首から血を入れ眷族化させている・・・


「・・・血の盟約・・・」


《ようやく気付いたか・・・随分大口を開けていたからな・・・充分に貴様の血は魔人の中に入っているだろうな》


そうか・・・そうだったのか・・・


伝え聞いて真似した血の霧・・・ブラッドミストはこやつ・・・ヴァンパイアが人間を眷族化させる為に用いたものだったか・・・確かに口から血を入れるよりも散布し飲ませた方が容易い・・・それに何人も同時に眷族化出来る・・・なるほどのう・・・


《王は人間を眷族化するのを嫌うが自我を失った魔人であれば話は別だ。さっさと眷族化して王の元に馳せ参じるぞ》


「・・・分かっておる・・・」


やり方は簡単じゃ・・・確かに遊んでいると思われても仕方ないのう


蹴り飛ばされた魔人が向かって来る


その魔人に対して命令すればいいだけ・・・魔人の主として


《跪け!魔人よ!》


《っ!?》


魔人はワシの目の前で立ち止まり驚きの表情を浮かべ跪く。まだ意思までは操れてはおらぬが口から入ったワシの血が魔人の自由を奪ったようじゃ


後は・・・くっ・・・


《どうやら血を失い過ぎたようだな・・・まあ及第点といったところか・・・帰ったら少々鍛えねば・・・王の配下として相応しくなる為に、な》


勝手な事を・・・いかん・・・意識が・・・


まだ完全に制御出来ていない魔人を前に意識が遠のいていく


そのワシに向かいヴァンパイアは手を差し伸べることなく呟いた



《少し眠れ・・・起きた時には全てが終わっているはずだ・・・魔王様の降臨と共に、な──────》

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