64階 新装備②
次にローグが取り出したのは杖
これは紛れもなくマホの武器だろう
1m位の長さで先端に水晶のような玉が付けられた杖・・・先程の剣の能力を考えるとあの水晶に能力が付いているのだろうか?
「次はマホ・・・これは魔法の威力を増幅する効果がある・・・試しに向こうに向かって今の武器で魔法を放ってみてくれ」
「・・・は、はい・・・」
ん?少しガッカリしているような・・・まあケンの貰った剣に比べればかなり劣るかも・・・
「魔物よ・・・蒸発しな!ファイヤーボール!」
どんな詠唱よ・・・まあ本人がイメージしやすいのなら何でも構わないけど・・・
そこそこ大きい火の玉が1つマホの持つ杖の先に出現しマホが杖を振るうと飛んで行く。そして壁に当たると広がり壁を燃やした
「・・・では、これを使って同じマナ量を使って魔法を使ってみてくれ」
「・・・はい」
どれくらいの威力になるのだろう・・・1.5倍になれば御の字・・・だがローグの事だ、もしかしたら2倍くらいに・・・
「魔物よ・・・蒸発しな!ファイヤーボール!・・・で!?」
バカな!?さっきの3倍!?いやそれ以上ある?
少し離れた場所にいるがさっきは感じなかった熱がここまで伝わってくる・・・凄まじい熱量を持つ火の玉・・・あんなの食らったら私でも・・・
「ちょっこれ・・・ええ!?」
「何をしている?早く放て。熱くて適わん」
「は、はい!・・・てい!」
マホは先程と同じように杖を振ると物凄い勢いで壁に向かって飛んで行き轟音と共に壁を・・・破壊した
「・・・は?」
「お、おいマホ・・・お前・・・マナの量間違えてないか?」
いや、マナの量云々ではない・・・これは初級魔法の威力を明らかに逸脱している・・・大魔道士と呼ばれる魔法使いがかつて初級魔法で上級の魔物を討伐したと聞いた事があるがそれに匹敵するぞ!?
「なにこれ・・・嘘でしょ・・・」
「今の威力が最大だな。イメージによっては小さくも出来るしその辺は慣れが必要だと思うが・・・それともう一つ・・・マホ、今度は水晶にマナを流して杖を振ってみてくれ」
「へ?・・・は、はい」
動揺する中、ローグの指示に従い杖に付いた水晶にマナを流すマホ。まさかこれ以上何の能力があると・・・
「えい!・・・のわぁぁぁ!!」
マホが杖を振ると尖った石が複数飛んで行く
アースブレッドか!マホはマナを流しただけだから・・・つまり風牙扇と同じような効果を・・・
「凄っ・・・土魔法苦手だから地味に嬉しいかも・・・」
杖をまじまじと見つめ嬉しそうにしていたマホはもう一度水晶にマナを流し杖を振る・・・だが
「あれ?・・・えい!・・・やあ!・・・とりゃ!・・・・・・ローグさん・・・壊れたかも・・・」
マナを流して杖を振っても魔法が発動しない
まさか1回限り?それはちょっと・・・
「当たり前だろ?さっき使ったじゃないか」
「そんな・・・1回しか使えないのです?」
「ああ・・・封入した魔法は1回限りだ。もちろん魔技もな・・・だから使うタイミングが・・・」
「ちょっと待って!・・・ローグさん・・・今なんて?」
「だから使うタイミングが・・・」
「その前!」
「?・・・封入した魔法は1回限りで魔技も同じく1回しか使えない・・・か?」
「・・・ダンジョンナイトジョーク?」
「なんだそれは・・・その玉はマナを流すと封入されている魔法や魔技が発動される。問題は1回使ったらまた封入するまでは空っぽになってしまうところだ。なのでいざって時に使うか必要な時に使うかしないといけないのが難点だな・・・封入する魔法や魔技、使い処、その二つを考えて・・・」
「か、回復魔法も?」
「当然だ」
ローグは淡々と説明しているけどこれは・・・風牙扇どころじゃない・・・
魔法どころか魔技までも封入出来てマナを流すだけで使用出来る・・・そんなものの存在なんて聞いた事もない
「ちょっとケン!なんか魔技入れてみてよ!」
「え?あ、ああ・・・どうやって??」
「玉に触れて普段使うように魔技を使えばいい。空っぽの状態ならそれで玉が魔技を吸収する」
ケンはマホに近付くとローグに言われた通り玉に触れて魔技を使う。すると魔技は発動されず玉が一瞬淡く光った
「これで?・・・ちょっと試してみるわ」
そう言ってマホが玉にマナを流すと・・・
「ふおおおお・・・纏ってる・・・私マナを纏ってるよぉぉぉ・・・」
あれは紛れもなく近接アタッカーの使う武器にマナを纏わす魔技・・・信じられない・・・
「ちょっとケン・・・殴らせて?」
「よせっ!普通に死ねるわ!」
今目の前で起きている事が夢か現実か分からなくなる・・・マホは気付いているのだろうか?その杖を売ればマホの望む悠々自適な生活を一生送れるという事実に・・・それほどの杖だ
「使い方はマホ次第・・・上手く使えば強力な武器になるだろう。例えば眼前に魔物が迫って来た時、強力な魔法を封入しておけば詠唱なしで魔法を放てる・・・とかな」
「あっ・・・」
ローグの言葉で思い出せるのは対トロールとの一戦・・・トロールが向かって来ているのにマホは何も出来なかった・・・でもその杖があれば・・・
「さて、色々と試すのは後にして次はスカット」
「はいぃ!」
期待も最高潮。声を裏返しながらスカットが返事をしローグの前に進み出ると彼は4本の短剣を取り出した。短剣というより・・・ナイフ?投げやすそうなシンプルな作りだが・・・
「あ、えっと・・・これにはどんな物凄い能力が?」
「ハードルを上げるな・・・このナイフの使い方は・・・こうだ」
そう言ってローグはナイフを投げた
するとナイフは壁に突き刺さる・・・この訓練所の壁はかなり硬い・・・それなのにあっさりと突き刺さるなんて・・・凄い・・・けど・・・
「えっと・・・え?」
ケンとマホの武器が凄すぎたせいかガッカリしているスカットがいた
十分凄いと思うが・・・多分ある程度の魔物なら貫けるぞ?あのナイフ
「ふむ・・・気に入らないか・・・まあもう少し能力はあるが・・・もう一度投げて見せよう」
私は・・・いや、ここにいる全員がもう一度投げるって事は残りの三本のどれかを投げるものだと思ってた・・・けどローグは・・・投げて壁に刺さっていたナイフを・・・引き寄せた
「よし、次は・・・」
「ま、ま、待ってくれ!なんで!?」
「何がだ?」
「いや!ナイフ・・・ナイフが勝手に・・・」
「ああ、それもナイフの能力だ。勝手に戻ったのではなく操作した・・・このようにな」
「ぬぁ!!・・・え?」
そう言ってナイフを投げる・・・しかもスカットに向かって・・・ナイフは真っ直ぐにスカットへと向かって行き目を瞑るスカットに・・・と思ったが途中で軌道を変えて横を通り過ぎ、そのままスカットの背後の壁に突き刺さった
「・・・なんで?だって・・・」
「端的に言うとこのナイフの能力は『操れる』。もちろん4本同時にな・・・私も慣れてないが慣れれば4本同時に違う魔物を狙う事も可能だ。例えばこのように・・・」
そう言ってローグは持っていた3本のナイフを上に放り投げるとナイフはまるで意思を持っているかのようにそれぞれ飛んで行き壁に突き刺さる
4本のナイフが四方の壁にそれぞれ突き刺さった・・・もし壁が魔物とすればローグの言う通り4体の魔物に突き刺さった事になる・・・
「マジで?嘘だろ・・・こんなの・・・」
「スカウトはダンジョンを見渡せる『目』を持つ・・・例えば遠くにいる魔物、例えば曲がり角から出て来ようとしている魔物・・・そんな魔物にナイフを操り先制攻撃・・・なんて事も出来る。どうだ?」
「どうだ?って・・・当然最高だ!マジで・・・最高過ぎる!」
「ちなみにマナを流した者にしか操れないから・・・」
ローグは四方の壁に刺さったナイフを全て手元に引き寄せると4本全てをスカットに渡す
「盗まれる心配はない・・・が、マナ切れには注意しろ?常にナイフにマナを流す・・・そう習慣づければ問題ない」
「はい!絶対手放しません!」
これは・・・ケンとマホのより危険だ・・・恐らくスカットはそれに気付いていない
「スカット・・・そのナイフは人前では使うな」
「え?サラさん・・・なんで?」
「そのナイフの能力はお前が思っている以上に危険だからだ・・・もしそのナイフが暗殺者にでも渡ってみろ・・・その暗殺者は姿を見せることなく誰でも殺せてしまう・・・例えば騎士に護られている国王でさえ・・・」
国王は常に近衛兵に護られている。だがそのナイフはその近衛兵を掻い潜り国王を殺す事を容易にしてしまう・・・例えば演説中の国王の遥か上空からナイフを落とせば?マナを感じられなければ近衛兵も防ぐ術はないだろう・・・気付いた時には国王の脳天にナイフが突き刺さっているはずだ
「・・・そうですね・・・気をつけます・・・」
本当に大丈夫か?まあダンジョンなら人前で使う事などそうそうないと思うが、シークス達がダンジョン外で何かを仕掛けて来ないとも言い切れない・・・ああいった輩に渡ったら最悪な武器と言えるだろうな
「・・・さて、残りはヒーラか。ヒーラには事前に渡してある。能力の説明も・・・どうだ?試しに使ってみるか?」
「はい!」
これまでの武器はそれぞれの弱点を補うものだった
ケンは攻めと守りの両立、マホは緊急時の魔法、スカットはいざと言う時に狙いを外す・・・それを補って余りある武器をローグは彼らに渡した
だがヒーラは?
ヒーラーは回復役であり率先して戦闘には加わらない。魔法使いのように杖を持つがあくまでも回復魔法の補助だ。となると指輪は回復魔法を強化?
「!」
ヒーラは返事をすると何もない空間から杖を取り出す
そう言えばローグは言ってた・・・ヒーラも使えると・・・もしかしてそれが指輪の能力・・・
「では、使います・・・みんな・・・今度から私は見てるだけじゃなく・・・みんなの力になる・・・私なりのやり方で・・・この力で・・・私はパーティーの要となる!・・・『オーバーパワー』──────」