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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
666/856

661階 不穏

師匠・・・ではなくデネットと一時的に別れ、私は尋問の途中経過を報告する為に丞相の部屋を訪れる


かつて父の先生であり父が皇帝の座に就いた事によりその座を手に入れた男・・・父より歳は上だがその眼光は年々鋭さを増すばかりのこの老年の男と対峙するのはかなり緊張する


まるで全てを見透かされているような・・・そんな気分になるからだ


「どうですかな?順調ですか?フラン皇子」


「無論少しずつだが聞き出せている。おそらく約束の期日には全てを聞き出せているだろう」


「それを判断するのは早計かと・・・聞けば従来の尋問とは別のやり方で聞き出しているとか・・・そのやり方を否定はしませんが従来のやり方で聞き出せなかった部分を引き出せるやもしれません・・・後三日でしたかな?ロザリオ将軍も順調に快方に向かっているようでして予定通り交代・・・いえ交互に尋問をしてもらいます・・・まあロザリオ将軍の次があるかは定かではありませんが・・・」


・・・随分と楽しそうに喋る・・・現皇帝の庇護下にあり絶対に安全という立場から出る余裕・・・今すぐにでもその顔を歪ませてやりたいが今は我慢だ・・・


「それで・・・どうやって監獄から逃げ出したか吐きましたか?」


「ああ・・・もちろんだ」


「ほう?さすがはフラン皇子・・・して囚人達は如何にして独房から抜け出したのですかな?」


「一つ約束してくれ」


「何です?」


「ここからの話はまだ他言無用で頼む。広まれば混乱が生じる可能性が高いからな」


「・・・それほどの・・・分かりました。ただし陛下にはお伝えさせていただきます」


「それは当然だな・・・では話そう・・・地下に閉じ込められていた囚人達がどのようにして監獄を脱走したか・・・」


これは師匠と考えた脱走方法・・・本当の事は伏せておいた方が良いと言うので2人して貴重な時間を使って考え出した・・・あまりに荒唐無稽に聞こえるかもしれないが真実もまた同じくらい私達にとっては突拍子もないやり方なのでどっちにしろすぐには信じてもらえないだろうな


「・・・」


さすがの丞相も興味津々なようで若干前のめりになり喉を鳴らす。忽然と消えた囚人達・・・その方法は・・・


「姿を消した・・・だけだ」


「・・・は?姿を?」


「かの大陸にはそのような技術があるらしく彼らは私達から見えなくなった。ただそれだけだ」


「な、何を・・・それなら初めから・・・」


「だな。私も疑問に思い問い質すと我々と交渉したかったのだとか・・・しかし来る日も来る日も尋問は続き交渉の余地無しと判断し監獄から脱出した・・・」


「・・・にわかに信じ難いですね・・・尋問を受け続けても交渉しようとしていた?」


「それが可能なのが彼等のもうひとつの力・・・欠損部位まで治してしまう『魔法』の存在だ」


「・・・フラン皇子・・・貴方は御自分で何を仰っているのか理解しておりますか?・・・魔法?そんなものは・・・」


「では聞こう。今私が尋問にかけているコゲツという囚人は一度他の者が尋問を行ったと聞いたが?その時何をしたか丞相は聞いていないか?」


「・・・聞いております・・・」


「その時尋問を行ったのは私も見ていた決闘の敗者らしいな。逆恨みとなるがかなり激しく尋問したと聞く・・・その尋問を受けた囚人が五体満足であまつさえ帝都で大暴れ・・・『魔法』以外でそんな事が可能と言うのなら教えて欲しいものだな」


「・・・」


本当に教えて欲しい・・・師匠は何者なんだ一体・・・


もうあの時の決闘場で見たコゲツではない事は薄々分かっている。今回のデネットに化けたのが決定的だった。さすがに欠損してしまった部位を治すのは無理だろう・・・となると師匠は誰だって話になる


多分・・・おそらくだけどゲートちゃんが言っていた『マスター』・・・そのマスターが来れば全て解決するような事を言っていたけど既に来ていたと考えると辻褄が合う


今のコゲツが決闘場で見たコゲツならなぜ尋問される前に逃げなかった?ってなるし別人と言うなら尋問の後であっても五体満足である事も納得出来る


まあゲートちゃんの言う『マスター』であると言うのは私の願望に過ぎないがコゲツじゃないと言うのは間違いない・・・と思う


「では囚人達は尋問を受けてなお交渉しようとしていたが諦め姿を消した・・・それを知らず間抜けにも独房の鍵を開け解放してしまった・・・という事ですかな?」


「そうなるな。だが鍵を開けてしまった者を責める訳にもいくまい・・・調査しろと言われて開けぬ訳にはいかぬのだから」


「まあそうですな。正直今でもにわかに信じ難いと思っています・・・視認出来ないという事は今ここに居てもおかしくないということ・・・はっ!陛下の身は・・・」


「それは大丈夫だ。彼等はまだ我が国との交渉を希望している・・・でなければわざわざ姿を現し暴れる必要はなかったであろう?」


「・・・そう言うのなら暴れる必要もなかったのでは?」


「たとえ回復出来ると言ってもやられた時の痛みはある・・・逆に笑顔で戻って来た方が恐ろしいと私は思うがな」


「報復のつもり・・・ですか・・・」


「それもあるが交渉を優位に進めたい気持ちもあったと思える。消えるだけでも脅威だが実力も兼ねているとなると少人数でも侮れないとなるであろう?」


「・・・そうですね・・・それは確かに」


「見えなくなり更に実力もある者達をあまり刺激してもいい事はないと思うが・・・口には出さないが彼はいつでも監獄を抜け出せるからこそ余裕があるのだと私は思う。なので下手に手を出せば・・・」


「お待ち下さい。それは我が国の将軍が囚人達に劣ると言いたいのですか?」


「そうではない!無理に波風を立てずともいいと言っているのだ!話を聞くと我が国より技術は劣っているようだが未知なる部分が多い・・・無理して敵対し何かあってからでは・・・」


「『何か』とは?」


「それは分からない・・・が、結果的に損をするのは我が国だと私は思う」


「・・・分かりました。ではそのようにロザリオ将軍には伝えておきましょう」


くっ・・・やはりダメか・・・


「・・・頼む。だが言い方には気を付けるのだぞ?」


「承知しております・・・フラン皇子──────」




ハア・・・結局期限は三日のままか・・・


丞相ハヌマーにとっては単なる刺激に過ぎない・・・帝国のNo.2である丞相は皇帝と共にいるだけで安全が保証されている・・・その為にひどく退屈なんだ・・・だから刺激が欲しくなる


安全の上での刺激などこの国ではなかなか得られるものではないから・・・


けど果たしてそれが本当に安全の上での刺激かどうか・・・もし安全じゃないと分かった時の丞相の顔を想像すると思わず笑みが零れ・・・る?あっ!


「随分楽しかったようですね?丞相とやらとの会話が」


「『丞相とやら』などと言わなければ本物と見間違うかと思いましたよ。からかい方はそっくりです」


自動歩行装置に乗っていると私を見つめる人がいた。デネット・・・ではなくデネットの姿をした師匠だ


師匠はタイミングを見計らい自動歩行装置に乗り込むと私の顔を覗き込む


「そりゃどうも・・・で、首尾は?えらく上機嫌だったからさぞかし上手く・・・」


「いえ、期日は変わらず今日を入れて三日・・・その後尋問権はロザリオ将軍に移ります。匿っている人達の食事も尽きますし・・・その時までがタイムリミットとなります」


「の割には随分と嬉しそうだな」


「そう見えますか?だとしたら師匠のお陰かと」


「?・・・あのなぁ・・・俺はこれっぽっちもこの国を救う為に動く気はないぞ?」


「今のところは・・・ですよね?」


「・・・正味あと二日で俺と仲良く出来るとでも?」


「いえ」


「おい」


「・・・帰りましょう・・・それとも残りをデネットとして過ごしますか?彼なら事情を話せば我慢して独房で過ごしてくれそうですが・・・」


「・・・やめとくよ。他人のフリは懲り懲りだ」


私は勘違いしていた


信頼関係を築く為に、仲良くなる為に努力しても彼との距離は縮まることはない


「・・・おい、何がおかしい?」


「何でもありませんよ・・・師匠」


私は師匠を無条件で信じる事にした


互いに一歩ずつ歩み寄るのではなく一方的に懐に飛び込む・・・もし師匠が嘘をついていたら私は国を変えることなく呆気なく死んでしまうだろう


割に合わない賭けかもしれない


けど・・・


「頼りにしてますよ?師匠」


「急に何なんだ?丞相に変な汁でも飲まされたか?」


「言い方・・・てか、何ででしょうね・・・」


丞相に会う前に別れ、先程再会し師匠の顔を見て安心した。私はとっくに師匠を信頼していたんだなと思ったと同時にある疑問が浮かんだ


師匠はデネットに化けてまで城で何がしたかったのか


多分・・・いやもう確信出来る・・・師匠は小細工なんて必要ない。この国を滅ぼそうと思えばいつでも滅ぼせる・・・なのに私の尋問に付き合いデネットに化けてここに来たのは・・・私の・・・いやこの国の為に何かをしに来たのだ


「・・・てか何度も言うようだが俺はお前の師匠じゃないからな?」


「まだ言ってるんですか?」


「・・・お前が何度言っても聞かないからだろうが!」


「一度でも否定しなかった時点で既成事実ってやつですよ。諦めて下さい師匠」


「・・・いい根性してるじゃねえかこの野郎・・・」


「それくらいじゃないとこの国の皇子は務まりませんので・・・さあ帰りましょう!デネットが首を長くして待ってますよ!」


「・・・」


呆れた様子の師匠を置いて自動歩行装置の上を歩き出す


明後日・・・私の死が無駄死にか未来を切り開く礎となるかが決まる


未練も迷いもないけどただ一つ・・・もっと魔法を覚えて派手に使いたかったな・・・それだけが心残りだ──────




フランが魔法に夢を見ていた頃、とある場所で不測の事態が起きていた


「あー・・・ヒース?」


《グルァ・・・二ゲロ・・・》


「・・・何か悪いもんでも食べたのか?って・・・おいおいマジかよ・・・」


ヒースが必死に何かに耐えている横で魔人であるアードスまでもが唸り声を上げ始めていた


《グァ・・・二、ニゲロー!!》


「はいはい逃げますよ・・・こりゃ胃袋の中確定かな?・・・もうどうなっても知ーらないっと」


叫ぶヒースに返事を返し背後にゲートを開く


外には出られないが洞窟内ならゲートで移動出来る・・・ゲートちゃんは共に匿われている船員達の元へ赴くと事情を話しここから脱出する旨を伝えた


その時・・・


「っ!?今の音は・・・あの野郎洞窟をぶっ壊して出て行きやがったのか!?」


何かが爆発したような音が聞こえ洞窟が揺れる。そして魔力の流れを感じる


しばらく身を潜めヒースやアードス、それに他の魔人の気配が消えるとゲートちゃんは船員達を連れて外に出た


「・・・一体何がどうなってんだか・・・多分あそこに向かったんだよな?」


ゲートちゃんは闇夜に浮かび上がる建物を見て呟いた


それを聞いた船員達は顔を見合せ首を傾げるがゲートちゃんは確信していた



帝国の『普通』が終わりを告げる──────

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