63階 新装備①
コンコン
ノックが二度鳴る
外を見るともう朝だ。私は飛び起きてドアの前に立つと身だしなみを整え勇気を出してドアを開けた
「おうサラ!調子はどう・・・」
無言で勢い良くドアを閉め、ベッドに戻る・・・ドアの向こう側にローグが居るものだと思ってたからショックはデカい・・・なぜこのタイミングでフリップ・・・危うく顔面に蹴りをお見舞するところだった・・・
コンコン
ベッドに戻る途中で再びノックが・・・あの髭オヤジ・・・
肩を怒らせ再びドアの前に立つと今度は怒りに任せてドアを開け放つ。一言怒鳴ってやろうと大口を開けたらそこには・・・ローグが居た
「元気そうだな・・・準備が出来たら行くぞ」
「・・・はい・・・」
しまった・・・フリップと思ってやってしまった。ドアを開けたらいきなり大口開けて叫ぼうとしている女・・・軽くホラーね・・・
昨日は色々と考え過ぎてあまり眠れなかったから判断能力が低下してる・・・気を付けないと・・・
「お待たせ・・・行きましょうか・・・ってどこに?」
そう言えば治療を開始するとは聞いてたけどどこに行くかは聞いてなかった。そもそも治療方法も聞いてないけど・・・
無言のローグについて行くとそこはケン達の居る宿屋・・・どういう事?
「渡したい物があってな。みんな気に入ってくれるといいが・・・」
みんな?ケン達に何かを渡すって・・・い、意味が分からない・・・
特に何かを持っているようには見えないし、一体何を渡すつもりなのだろう?持ってないって事は別の場所に用意してるって事?それとも懐に入るような小さい物?
疑問は尽きないけど黙ってついて行こう・・・ローグには何かしらの考えがあるはず・・・きっとこれも私の治療の一環なんだわ・・・そうよそうに決まってる・・・
宿屋の主人に承諾を得て2階へと上がると相も変わらずドアの前でうずくまるスカットがいた。まだヒーラは・・・
その向かい側のケンの部屋に行くかと思いきやローグはスカットの前に立つ。そして・・・
「少し入らせてもらってもいいか?」
「・・・へ?・・・ダンジョンナイト・・・」
うっつらうっつらとしていたスカットがいきなり話しかけられ顔を上げると仮面の男がいて少しビックリした後、困ったように私の方を見るが私を見られても困る・・・私も絶賛混乱中なのだから・・・
「出来れば私1人で入りたい・・・彼女の状態はある程度聞いてるから無理はするつもりはないが・・・どうだろう?」
「えっと・・・はあ・・・」
スカットは悩んだ挙句にローグに道を譲る・・・そしてローグはドアをノックしたかと思ったら少ししてドアを開け中に入って行った
どうするつもりなんだろう・・・ヒーラはあの時のショックで塞ぎ込んでいるって聞いてるけど・・・もう2日・・・そろそろ食事・・・せめて水分を取らないと危険かもしれない・・・でもケン達はどうする事も出来ずに手をこまねいていた
スカットは何も出来ない自分を責めるようにずっとドアの前で・・・
多分だけどケン達は色々と考えてあえて待ってたのではないだろうか・・・ヒーラが自ら部屋から出て来るのを・・・ヒーラならすぐに立ち直れると信じて・・・
だから私もあえて何かをするつもりはなかった
長い付き合いのケン達が信じて待っているんだ。横からしゃしゃり出て自力で立とうとするヒーラを強引に立たせてはいけない。もし今立ち上がれなければ今後同じような目にあった時に誰かがいないと立ち上がれなくなってしまう・・・そう考えていた
「・・・ダンジョンナイトは一体何をしてるんですかね?」
「ローグだ。私にも分からない・・・悪いようにはしないと思うが果たして・・・」
もう10分くらいだろうか・・・悲鳴などは聞こえてこないから落ち着いて話せてる?それとも実はまだ眠っていてローグはその寝姿を眺めているだけとか・・・いやいやいやいや・・・それは無い
そんな変な妄想をしているとドアが開きローグが姿を現した
「待たせたな・・・さて、朝食でも食べてみんなで出掛けるとしようか」
「みんなでって・・・あっ」
ローグの後ろにヒーラの姿
決して無理やり連れ出されている訳ではなく、自分で立っているように見える・・・一体どうやって・・・
「ヒ、ヒーラ・・・もう大丈夫なのか!?」
「廊下で騒ぐなスカット。それとケン達を起こして来てくれ・・・宿屋の1階に食堂があったな・・・そこで落ち合おう」
「へ?・・・お、おう・・・分かった!」
動揺するスカットを窘め、ローグはふらつくヒーラの手を引いて1階に向かい歩き出す
ヒーラが部屋から出れて良かった
けど・・・ヒーラのその位置は私の場所のはず・・・どうして・・・
1階に降りて食堂にあるテーブルに着くとすぐにケン達が降りて来た
3人は喜びを爆発させ良かった良かったとヒーラに声をかける・・・マホなんて涙を流すほどに・・・
私も嬉しいはずなのに・・・一時とは言えパーティーを組んだ仲・・・これまでの冒険者の中では一番仲がいいと言っていいほどだ・・・その1人が心の病に立ち向かおうとしている・・・手放しで喜ぶべきなのだろうけど・・・
「サラ姐さん?どうしたんッスか?どこか具合でも悪いんッスか?」
「いや、何でもない・・・ほら、お前ら・・・あまりヒーラに濃いものを食べさせるな。かなりの間物を口にしてなかったのだ・・・少し軽めのものから食べさせろ」
私は最低だ・・・ヒーラがせっかく部屋から出て来たと言うのに・・・私は・・・
嫉妬している──────
食事も終わり、私達は今ある場所に向かっている
今はその場所にはあまり向かいたくないのだが・・・ローグが言うにはそこで渡したい物があるらしい・・・ケン達に
ケン達も最初は微妙な反応だったがヒーラが行くと言うと態度を変えて全員で向かう・・・忌まわしき記憶が残るダンジョンに
「悪いが訓練所を使わせてもらう」
「はい、聞いております。どうぞ」
どうやらローグは事前に話を通していたらしくすんなりと訓練所へ入る事が出来た
私とローグは入場料免除だが、ケン達の分は・・・ローグが払ってくれたのだろうか?
そんな事を考えてる間に訓練所に到着しローグはひとつの部屋を選んで入る
何も無い空間・・・ただ広いだけの・・・一体ローグはここまで来て何をケン達に渡すというのだろうか
「あの・・・渡したい物って・・・」
ケンも疑問に思ったのだろう
もしかしたら事前に訓練所に置いてあったのかと思いきや何もない・・・となるとやはりかなり小さい物なのだろうか?
「ああ、今取り出す」
取り出す
そう言うとローグは何もない空間に手を入れた
「???」
手が消えて再び現れたと思ったらその手には一振の剣が握られていた・・・どこから剣が・・・
「この剣はケンに。まずは使い方を・・・」
「ちょちょちょい待って欲しいッス!その剣・・・どうやって!?」
「ん?ああ・・・今私がつけているブレスレットの能力だ。とある空間に繋がっててな・・・その空間から取り出した」
「え、ええ!?」
ケン達が驚くのも無理はない・・・私も聞いた事がある程度の超がつくほど高価な魔道具なはず・・・
「ちなみに後で説明するつもりだったがヒーラも持ってるぞ?ヒーラのはブレスレットではなく指輪だがな」
ヒーラも・・・いや!そこじゃない!・・・指輪!?
・・・頭がクラクラする・・・ヒーラが指輪をローグから貰った!?・・・マズイ・・・今にも倒れそうだ・・・
「さて、では使い方を・・・この剣は能力付きだ・・・この剣に限らず今から渡す物は全て、な。で、この剣だが・・・」
「能力付き!?」
「うそっ!」
「はあ!?」
「・・・説明を続けてもいいか?」
驚く3人をローグは冷静に対応すると剣を掲げマナを流した・・・すると・・・何も起きなかった
「・・・マジッスか・・・」
「何を期待した?この剣はマナを流すほど強度が上がる・・・見た目じゃ分からないがな。ケンはパーティーの大黒柱・・・何より折れないことが大事だ・・・心も体も・・・剣も、な」
「はあ・・・確かにそうッスね!強度か・・・地味だけど重要だし俺にはない力・・・ありがたく貰うッス!」
「ああ、それともう一つ能力がある」
「え?」
「マナを流す時にイメージすると・・・」
再びローグが剣にマナを流すと・・・驚きの光景が!
剣は音を立て変形し、なんと盾になってしまったのだ!
「はへ?・・・う、嘘だろ・・・」
柄はそのままで剣先から折れていき四角い盾に・・・一体どうやったらそうなるのか見ていても理解できない・・・
「昨日聞いた話ではケンはタンカーとしても活躍したいのだろ?ならば剣で防ぐよりも盾の方が何かと便利だ。まあこのままだと少し小さいがマナを流せば十分なほど盾として機能する」
またまたマナを流すと今度は盾からマナが放出される・・・その範囲は体を余裕で覆うほどでこれなら魔法攻撃でも防ぐことが出来るだろう・・・これは・・・
「うわ・・・いやこれって・・・国宝級じゃないッスか!?」
ケンの言う通り国宝級・・・この剣の存在を知れば他の冒険者は狙われ国からは献上を迫られるだろう。それほど強力な武器だ
「国宝級かどうかは知らないが地味だが折れず護れる剣・・・大黒柱のケンにはピッタリだと思ったが・・・どうだ?」
「ほ、本当にその剣・・・貰っていいんッスか!?・・・どうだ?って・・・最高ッス!家宝にしまッス!」
興奮し過ぎて語尾がおかしい事になってるけど・・・まあ興奮もするよね・・・さすがローグ・・・でも確かにケンにピッタリだけどピッタリ過ぎる・・・一体どこでこのような剣を手に入れたのだろう・・・
ローグが盾を剣に戻し鞘に納めるとケンに渡した。するとケンは大はしゃぎ・・・それを見て自ずとマホとスカットの期待値が上がる
自分達はどんな物を貰えるのか目を輝かせている
・・・ハア・・・羨ましい──────




