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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
652/856

647階 運の悪いヤツ

「おっ終わったか?随分と派手にやったな・・・最後の足掻きはそんなに激しかったのか?」


グロスが独房のある部屋から出て来るとすかさず3階を担当する同僚がグロスに話し掛けた


「ん?・・・ああ激しく抵抗してな。まあ今は大人しくなったが・・・」


「なったが?」


「錯乱状態にあるみたいだ。自分の事を『俺はグロスだ』と喚き散らしてる」


「はっ、なんだそりゃ・・・それで出してくれるとでも思ってるのか?」


「だから錯乱状態だって言ったろ?自分が囚人ではなく看守だと思い込んでるのさ・・・俺は持ち場に戻るぞ」


そう言うとグロスは先程受け取った鍵を同僚に渡して歩き出す・・・が


「おいグロス!」


「・・・なんだ?」


「2時間後にいつもの店だ・・・すっぽかすなよ?」


「・・・ああ・・・お前もな」


グロスは呼び止められ立ち止まると約束を確認してきた同僚に返事を返し再び歩き出す。そして・・・


「確かここを押して・・・いやここは3階だからこっちか?」


エレベーターの操作盤の前で悩みながらもグロスが押したのは『⬇』のボタン。するとすぐに扉は開き驚いたのか体をビクつかせる


「・・・この野郎・・・開くなら開くと言え」


突然開いた扉に悪態をつきながら中に入ると内側にある操作盤を前にしてまた考えた後でボタンを押した


そのボタンには『B1』と書かれておりグロスに押されるとほのかに光る


「『1』の下にあるからこれが地下だろ・・・多分」


グロスは不安気な表情を見せながらも扉が閉まるのをじっと待った。するとまた突然扉が閉まり始め2度目なのに体をビクつかせる


「・・・これは慣れそうにないな」


扉は閉まり不快な浮遊感を感じつつグロスは『B1』と書かれた場所へと1人向かうのであった──────




「・・・あいつ・・・相当派手にやらかしたみたいだな・・・まさか・・・死んでないよな?」


グロスが鍵をかけたか確認する為に独房のある部屋の前に立った兵士は1人呟く


もし囚人が死んでいれば責任はグロスにあるが自分にも責任が及ぶのではと考え鍵をポケットにしまい扉を開けた


中に入ると奥にあるひとつの独房に人影が見える


寝ているのか倒れているのか横になっているその人影を見て一抹の不安を抱えながら兵士は奥へと進んだ


そして独房の前に立つと様子を伺いながら倒れている囚人ケイトに声をかけた


「おーい・・・生きてるか?」


兵士が声をかけると横たわっていたケイトが突然起き上がり兵士ににじり寄りながら呟く


「た、たふけてくれ・・・俺はグロスだ!」


「はぁ?・・・本当に錯乱してやがる・・・そう言えば出してもらえるとでも思ってるのか?」


「ちがふ!俺が・・・俺がグロスだ!出てったアイツが・・・」


「はいはい・・・つまりお前が言いたいのはグロスとお前が入れ替わった、と。顔と服を交換してな。そんな話誰が信じるよまったく・・・鏡がありゃ見せてやりたいわ。お前は・・・と、名前は聞いてなかったな・・・まっ、ベラ様のオモチャである事には変わりないか・・・という訳だから大人しくベラ様が来るのを待っておけ。そしたら少しは・・・優しくしてくれるかもな」


兵士は言い終えると踵を返し独房から離れて行く


目的は果たした。生きているなら錯乱してようがどうでもいいと戻る兵士にケイトはずっと叫び続ける



『俺がグロスだ』と──────





エレベーターが『B1』と書かれた場所で止まると扉が開き中からグロスが姿を現す。それを見たその場にいた兵士が首を傾げるとエレベーターから降りて来たグロスへと近付いた


「おいグロス地下に何の用事だ?」


「あー・・・千人長ベラ様から言われてな・・・野暮用だ」


「そんなの聞いてな・・・ああ、そうか。確かここの管轄は一時的に・・・けどベラ様が地下に何の用だ?・・・まさかベラ様がアイツらを・・・」


「余計な詮索はしない方がいいぞ?ここはいっぱいでも3階にある独房はまだまだ余裕があるからな」


「っ!・・・さ、さっさとその野暮用とやらを済ませろ!」


グロスを邪魔すればひいてはグロスに何かを命令したベラの邪魔をするようなもの・・・兵士はそれに気付き急いで独房へと続く扉の鍵を開けた


「賢明だな」


「うっせぇ!さっさと行け!」


「・・・あー、ちなみに何か物音が聞こえても中に入って来ないように・・・これも」


「ベラ様から言われたって言うんだろ?いいから行けよ!けど何があっても俺は中に入らないからな!後で後悔すんじゃねえぞ?」


「もちろん」


グロスは焦る兵士に対して手をヒラヒラさせながら答えると扉の奥へと進んで行く


3階にある独房と同じように鉄格子で仕切られた独房が多数存在する部屋・・・その中をグロスは顔を顰めながら進んで行く・・・独房の中にいる『お客様』の様子を伺いながら


突き当たりに差し掛かる少し手前でこれまで呻き声ひとつ上げなかった『お客様』だったがムクリと起き上がり鉄格子の中からグロスを睨みつける者がいた


「・・・今度は何だ?連れて行くなら僕にしろ・・・他の人を選んだら承知しない・・・」


「・・・鉄格子の中にいてどう承知しないんだ?」


「くっ!・・・龍槍さえあればお前なんて・・・」


「どっかで聞いた事のあるセリフだな・・・これで全員か?」


「そうだって何度も言ってるだろ!」


「それにしてはゲートちゃんが居ないな」


「何故その名を・・・あっ!」


慌てて口を塞ぐ鉄格子の中の者リュウダは『しまった』と心の中で呟く。これまで全員が守り通して来たものを今の発言で壊してしまったと思ったから・・・しかしグロスはそんなリュウダを気にすることも無く質問を続ける


「一体何があったんだ?コゲツやお前・・・それにネターナがいれば大概の事は乗り切れたはずだろ?」


「知った口を聞くな!何がお前に分かるって言うんだ!」


「知ってるから言ってるんだよ・・・まあそれはともかく・・・やっぱり無理か・・・床にも使ってるのか?それとも他の・・・」


「おい!何ブツブツ言ってるんだよ!連れて行かないならさっさとどっか行け!目障りだ!!」


「連れて行くさ・・・全員な」


「・・・は?」


「とりあえずやってみるか・・・ダメなら強行突破すればいいし・・・」


「お前・・・何言ってんだ?」


「まあ見てろって・・・地獄の案内人グロス様がこれから見せてやる・・・地獄への行き方を、な──────」




不機嫌そうに歩く女性とそれに付き従う男性・・・千人長であるベラとその副官はとある場所を訪れていた


アビニオン監獄


ベラの上官である将軍ロザリオの命令によりベラが監獄を管轄する事になったのでその事を監獄側に伝えに来ていた


「ロザリオの野郎・・・理由が『よく出入りしている』からだって?ふざけんのも大概にしろって話だよ!」


「まあまあ・・・将軍の考えも分からなくも・・・」


「おい・・・アタシがこの陰湿な監獄の責任者に適任だと言いたいのかい?」


「そうは言ってませんよ。ただ他の方よりお詳しいかと・・・よく訪れているのは事実ですし」


「チッ・・・こうなりゃ一通り見終わった後にやる事やらないと気が済まないね・・・さっき送り込んだ奴はもう到着して独房に入ってるんだろ?」


「おそらくは・・・私もベラ様と共にあの場を離れたので確認した訳ではありませんが百人長の2人が護送していたので間違いはないかと」


「そうかい・・・にしてもアギニスの野郎は何してんだい?やらかして総出で何かを探しているらしいけど・・・」


「情報が開示されてないので何とも・・・ただ監獄の地下に特別な者達を捕らえているとか・・・それが関係しているかもしれませんね」


「特別な、ね・・・地下って事は独房だろ?もしかしてお痛し過ぎちゃったか?」


「どうでしょうね・・・痛め付け過ぎて殺してしまったかもしれませんし上手く情報を引き出せなかったかもしれませんし・・・ベラ様は何かを聞き出せ等言われてないので手出しはしない方がよろしいかと」


「分かってるよ!・・・それにアタシは部下の躾に忙しいしね。そんな奴らに構っている暇はない」


「・・・やっぱり担当になってよかったんじゃ・・・」


「何か言ったかい?」


「いえ・・・それより・・・おや?お出迎えが1人しかおりませんが・・・」


「休憩か何かだろ・・・とりあえず行くぞ」


副官の言うお出迎えとはアビニオン監獄の入口を守る守衛のこと・・・普段は2人いるのだが今日に限っては1人しかいなかった


「ご苦労様です!」


「アタシが送った奴は届いたか?」


「ハッ!先程もう1人が独房へと連れて行きましたと思われます!」


「思われます?」


「え、あ、はい・・・それが連れて行った奴が戻ってなく・・・もうとっくに独房に連れて行ったはずなのですが・・・」


「本人が戻って来てないから確認が取れない・・・か。そいつの名は?」


「グロスと申します」


「・・・そいつも運がないな。アタシがいつもの用事だけで来ていればサボりも不問にするところだが・・・」


「と言いますと・・・」


「アギニス将軍の代わりに一時的にロザリオ将軍がここを預かることになった。で、アタシがここの担当・・・つまりアビニオン監獄の所長代理ってやつだ。そのアタシが来てるタイミングでサボるとはね・・・運が悪いとしか言いようがないだろ?」


「しょ、所長代理・・・そうだったのですね・・・私はてっきり・・・」


「てっきり?」


「いえ!何でもありません!」


「・・・まあいい。そのグロスって奴の処分は後だ。今からここを預かる身として何も異常が無いか見て回る・・・マスターキーも貰っているし勝手知ったる何とやらだから案内は要らないよ」


「ハッ!お気を付けて!」


「何を気を付けると言うんだい?独房や収容されてる罪人が牢を抜け出し暴れ回るとでも?」


「い、いえ!その・・・」


「・・・まあいい。そのグロスって奴が戻って来たら言っときな・・・アタシが戻るまで待機してろってね。逃げたらどうなるか・・・ここに勤める者なら分かるだろ?」


「ハッ!必ず伝えておきます!」


看守とのやり取りを終えベラは副官と共に監獄内部へと入ると真っ先に各階へ行く為のエレベーターを目指す


「やはり地下からで?」


「まあね。一体何者が収容されているのか興味がある。まあ下手なことしてアギニスの不興を買う気はないから安心しな」


「・・・ベラ様・・・そろそろ人の目がありますので・・・」


「ああ、そうだね・・・アギニス将軍の馬鹿野郎の不興は買うつもりないよ」


「・・・ベラ様・・・」


「冗談冗談・・・さてさて一体何が捕まっていることやら・・・楽しみだねえ」


エレベーターに乗り込むと副官は『B1』と書かれたボタンを押した。するとエレベーターは下へと下がり到着すると扉が開く


「こ、これは千人長ベラ様!お待ちしておりした!」


「・・・お待ちしておりました?ここに来るとは言ってないが?」


エレベーターの扉が開いた瞬間に地下を担当する看守がベラに気付き頭を下げる。しかしここへの訪問は事前に知らせていない為に看守の言葉に違和感を覚えた


「え?あ、そうですね・・・グロスに何か頼まれただけで来られるとは一言も・・・」


「グロス?サボりの守衛か・・・アタシはそいつに何か頼んだことは疎か会ったこともないが・・・何を勘違いしている?」


「へ?・・・あの野郎・・・嘘つきやがって・・・」


「・・・何が嘘なのか報告せよ」


「ハッ!先刻グロスがここに訪れ千人長ベラ様より野暮用を頼まれたと独房部屋に入って行きました。逆らう事はベラ様に逆らう事になると脅されやむを得ず・・・」


「サボりどころかアタシの名を使って独房室に侵入したと?・・・どうやら余程独房が好きみたいだな・・・そのグロスって奴は」


「何があっても入るなと念を押されて1時間ほど中にこもったままです・・・鍵は開いてますので入れますが・・・」


「中に入って確認する。ちょうど独房に用事があったしな」


ベラは先程の守衛に説明した通り一時的にここの所長になったと伝えると看守は慌てて独房への扉を開けた


ベラと副官はその開けられた扉の奥へと足を一歩踏み出すとすぐに立ち止まり目を細める


「ど、どうかされましたか?」


グロスが何もやらかしてないようにと祈るような思いでベラの後ろから尋ねると彼女は振り返り看守を睨みつけた


「そのグロスとやらと独房に入れている奴らは見えないほど小さいか透明なのか?」


「え?・・・仰っている意味が・・・」


「自分の目で確かめてみろ」


「は、はい・・・・・・・・・は?な、なんで・・・そんな・・・」


「監獄の外に逃げ出した可能性は?」


「あ、ありえません!出入口はこの扉だけで私が外でずっと見張ってましたから・・・い、居眠りなどもしておりません!グロスが入ってからトイレも行ってませんし・・・」


部屋を見渡せど独房に入れていた者達やグロスの姿は見当たらなかった。ガランとした独房・・・その様子を再度見渡すとベラは舌打ちをする


「チッ!監獄全体に緊急事態と告げろ!監獄から出ていないと言うなら草の根を分けてでも探し出せ!いいか?見つからなかったらお前らが代わりに独房に入ることになる・・・分かったらさっさと行け!」


「ハ、ハッ!!」


看守は慌てて部屋を出て行き残されたベラと副官は何か見落としがないか部屋を探る


誰もいない独房・・・鉄格子が開いた形跡もなくただ居たであろう囚人が残した血痕の跡だけが生々しく残っていた


「・・・ここは地下だよな?」


「はい・・・窓もなく換気は人が通れる大きさには設計されておりません」


「って事は消えたってことか?それともあの看守が嘘を?」


「嘘をついているようにはとても・・・追って捕まえて尋問しますか?」


「いやアタシも同意見だ・・・嘘をついているようには見えない・・・だがここから脱出する手段もない・・・一体何が起こっている?」


「・・・分かりません・・・しかしひとつ分かっているのは・・・」


「もし逃げていたら責任はアタシにある・・・か。グロスに対して運が悪いと言ってたけど本当に運が悪いのはアタシかもしれないね・・・降格で済めばいいけどここにいた連中がもし重要人物なら・・・独房は確定だね・・・」


ベラは感情を抑えながら呟く


だが抑えきれない感情が爆発し拳に伝わると意味もなく鉄格子を叩いた


その音が無人の独房部屋に響き更に焦燥感を駆り立てる


「・・・アタシの隊をここに寄越しな・・・絶対に見つけ出す・・・絶対にだ──────」

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