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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
646/856

641階 フランの苦悩

ああもう!なぜこう上手くいかない!


魚人族の若者の決死の覚悟が実を結び別大陸から希望を引き寄せたと思ったのにヒースが船を壊しちゃうし・・・全員救おうと思ったけど異変に気付いた憲兵に半数を連れて行かれてしまうし・・・けどこちらで救った中に伝説の魔族がいてしかもその魔族が絶対の信頼を寄せるマスターなる存在・・・その者を味方に付けられればと思った矢先に決闘だと?


「アビニオン監獄から移送されてどれくらい経つ?」


「1時間ほどと聞いております。なので・・・」


「もうすぐ始まるか・・・相手はアギニスではないのだろう?」


「はい・・・配下の者が出ると聞いております」


四種族会合に顔を出して正解だったかも・・・決闘場はこの建物の地下にある・・・行ってどうなるものでもないけど何か出来るかも知れないし・・・


しかしなぜ決闘に?話によるとアギニスとの決闘になったらしいが当然将軍であるアギニスが出るはずもない・・・だがキッカケはアギニスとの決闘・・・コゲツとやらが何か仕掛けたのか?


大人しくしていれば救えたかも知れないのに・・・決闘となればもはや救う手立ては無いに等しい


何かないか・・・何か・・・


「これは皇子様、御機嫌・・・」


「挨拶はいい。乗っても構わないか?」


「勿論で御座います。行先はどちらでしょうか?」


「地下だ」


「・・・畏まりました。では円の中へお進み下さい」


管理者の女性に言われるがまま円の中へと進み出る


どうしても慣れない・・・便利ではあるんだけど・・・


「では地下へと向かいます」


管理者が操作盤に触れると円の中だけが下へと降りていく。魔力を動力とした昇降機・・・下がる時も上がる時も何やらお腹の辺りがフワッとしてどうにも慣れない


「皇子、私めに掴まって下さい」


「要らぬ世話だ。私は平気だ」


とは言ったものの本当は掴まりたい・・・が、人前で誰かに掴まるなど皇族として・・・と、そんな事よりどうするかだ


決闘は止められない・・・身分的にもそこまで高い者は出ないだろう・・・となると武器は・・・


「お待たせ致しました。地下、決闘場となります」


「・・・ありがとう」


何も浮かばない・・・せめて相手が誰でどのレベルの武器か分かればそれを・・・どう伝えればいいんだよ・・・


1人ツッコミをしながら歩き、途方に暮れていると歓声が聞こえてくる。この程度の歓声ならまだ決闘は始まってないか・・・久しぶりだから集まった観客が興奮して声を上げているだけだろう


まだ時間はある・・・相手の情報を聞き出し彼に伝えるには・・・


「これはこれは麗しき弟ではないか」


最・・・悪だ!よりにもよって・・・


「これは兄上・・・お元気そうでなによりです」


いきなりコイツに見つかるなんて・・・・


私の兄であり第二皇子であるテジハ・・・最も次期皇帝に近い兄・・・


「しばらく見ない間にまた大きくなったか?」


「・・・3日前に会ってますが?」


「そうだったか?最近色々な事が起こり過ぎて記憶が追い付かん・・・しかしお前が決闘場に来るとは珍しいな」


「・・・別大陸の者がどこまでやるか見たかったので・・・」


「そうか・・・まあ男ならそういう事にも興味が湧く年頃だろう・・・だが期待しても無駄だぞ?」


「何故ですか?」


「別大陸の者は武器を持つのを拒んだらしい。つまり素手でアギニスの配下の者と闘うらしいのだ・・・どこまでやるかではなく何秒保てるか、になるだろうな」


監獄に入れられていたのだから当然隠し武器なども持っていないはず・・・となると素手で?死にたいの!?


「・・・な、ならばこちらも素手でやるのが礼儀では?」


「礼儀?何を言ってるのだ・・・決闘は同じ身分の者同士で行うもの・・・つまり決闘を行う事でかなり憂慮してやっていると言うのに更に相手に合わせろと?」


「もしかしたら相手のコゲツとやらもそれ相応の・・・」


「我が国では囚人だ」


「・・・」


テジハらしい言い分だな・・・別大陸の者がどんな身分であれ敬う気はないようだ。報告によれば沈没した船の回収をし色々調べた結果この国の技術力を脅かすような物は発見出来なかった。それどころかかなり古い・・・それこそ何百年前でも作れるような粗末な船だったと聞く


つまり彼らに取り入っても得るものはない・・・そう判断したのだろう


「・・・先程からの物言い・・・お前まさか別大陸の者に肩入れしているのか?」


「まさか・・・私はいい勝負が観たいだけ・・・」


「・・・そうか。ならいい・・・では行くぞ」


「何処へ・・・」


「決まっているだろ?俺の個室だ・・・決闘場に来ないお前は個室を持っていないだろ?狭くはないからお前を招待してやる。断ると言うのなら好きにするといいが・・・」


「いえ、ご一緒させて頂きます・・・兄上」


半ば強制的にテジハの個室へと向かう羽目に・・・断れば怪しまれ更に詮索されかねない・・・そうなれば私がコゲツを助けようとしていることもバレてしまうだろう。その結果はどうなるか目に見えている・・・私が保護している人達もバレて全員捕まり酷い仕打ちを受けるだろう・・・それだけは避けなくては


「このガラスは魔弾すら跳ね返す特別製でな。たまに流れ弾が観客に当たって死者が出る事もあるがこの部屋にいればその心配もない・・・今後使いたければ使うといい・・・部屋を管理している者には伝えておく」


「・・・ありがとうございます。しかし観戦は今回が最後になるやもしれません」


「それはどうかな?お前のお気に入りの別大陸の者がまた決闘を繰り広げるやもしれないぞ?まあそれも今回次第だがな」


まさか要望があれば無理やり決闘をやらせるつもりか?そんな事をされたら・・・助けようにも助けられない


1人を取るか20人を取るか・・・そんなの答えは分かっている・・・けど・・・けど・・・


決闘場に私の悩みを嘲笑うかのように歓声が鳴り響く


首に手を当てまるで観客の目など気にしてないようにその首を左右に傾けながらボサボサ頭の男が入って来た


「ふっ・・・アレがそれ相応の身分の者に見えるか?」


「見た目で判断するべきではないのでは?」


「それもそうだ。結果が全て・・・おい!今の賭けはどうなっている」


「ハッ!1分が1番人気で2倍・・・後はほぼほぼ同率の5倍程となっております」


急に従者に話し掛けたと思ったら・・・賭け?1分?


「賭けをしよう。決闘場の賭けではなくお前と俺で。俺は1分に賭けるつもりだがお前はどうする?寛大な兄が譲ってやってもいいぞ?」


「申し訳ありません・・・意味が分からないのですが・・・」


「・・・1分以内に勝負が着くか2分か3分か・・・勿論アギニスの配下が別大陸の者を始末するのに掛かる時間の事だ。逃げ回るのであれば少しは時間を稼げるかも知れ・・・」


「別大陸の者・・・コゲツが勝つ方に」


「なに?」


「聞こえませんでしたか?コゲツが勝つ方に賭けると言ったのです。賭け金は私の全財産・・・如何ですか?」


「ふふ・・・ハッハッハッ!豪胆に育ったものだな弟よ!いいだろう私はその反対に賭けよう。ただお前と俺では財産の桁が違うからお前の全財産に合わせる・・・でいいか?」


「合わせる?・・・そこは兄上も全財産では?」


「あまり調子に乗るなよ?こちらが多く賭ければお前の全財産など小遣い程度に見えてくる・・・そうなると他で補填させたくなってしまうだろ?俺はまだ可愛い弟を失いたくない・・・兄の優しさを理解しろ」


確かにテジハの全財産は私より遥かに多い・・・私が勝てばかなりの財産を得るがテジハは勝っても大した額を得られない。となれば賭け自体に面白味がなくなる・・・か。しかし『まだ』とは本音がダダ漏れだぞ?テジハ


「言葉が過ぎました・・・ですがそれを言ったら私は失うものが多く兄上は少なくなるのでは?」


「・・・何が望みだ?」


「私が勝ったら一つだけ我儘を聞いて下さい。可愛い弟の、ね」


「・・・いいだろう・・・本気で勝てると思っているのか?」


「まさか・・・この決闘場の熱気にやられてしまったようです。これまで無意識に決闘場を避けて来たのは熱くなりやすいからかも知れません」


熱くなどなっていないけどね


この勝負・・・どっちに転んでも私の勝ちだ


その時、一際大きな歓声がして見るとアギニスの配下が入場している最中だった


手には小型の・・・となると百人長クラス!?


「フン・・・十人長でも良さげなものを・・・アギニスもひよったか・・・どうした弟よ顔色が悪いぞ?」


どうしたもこうしたも・・・十人長ならともかく百人長が相手では・・・


「今から時間に変えても構わんぞ?流石に百人長相手に素手では・・・」


その時、決闘の開始を告げるブザーが鳴り響く


「・・・っと、残念だったな。さすがに開始してから変更は無理だ」


元より変更するつもりはない


勝つ必要がないのだから


「あっ!」


「遊びはなしか・・・1分保たなかったな」


百人長が小型の魔銃をコゲツに向けるとすぐさま引き金を引き魔力を放つ。拳ほどの大きさの魔力は糸を引き一直線にコゲツへと向かい・・・


「・・・1発か・・・しかも顔面とは惨い事を・・・」


ゆっくりと前のめりに倒れていくコゲツ。顔は魔弾で貫かれ見るも無惨になって・・・っ!?


「違う!」


テジハ専用の部屋は他の観客より高い位置にある。つまり決闘場からは最も離れている為に向かい合う2人の表情こそ見て取れるが細かい部分は遠すぎて見えない。だから気付かなかったが・・・コゲツはギリギリで魔弾を躱している!


倒れるかと思ったコゲツは右足を前に出しそのまま低い姿勢で百人長に詰め寄ると掌底を百人長の顎にヒットさせた。百人長の体は宙に浮き無防備な腹部にコゲツは肘をめり込ませる


百人長は既に掌底を受けて気を失っていたのか肘を受けると力なく後方へと吹き飛んでしまう


数m飛ばされるとそのまま地面に大の字になりピクリとも動かなくなる。まさに電光石火の早ワザ・・・別大陸の者はこれ程速く動け流れるように技を繰り出し人を倒すのか・・・って今はそれどころじゃなかった


コゲツが勝ってしまった・・・勿論勝って欲しかったのが本音だが負けるものだと思っていた


だからこそ私はコゲツの勝ちに賭けた


私は・・・賭けに勝ってはいけなかったのに・・・


「・・・別大陸の者の勝利とアナウンスがあった・・・つまり賭けはお前の勝ちだフラン。お前の全財産を言え・・・すぐに持って行かせよう」


「兄上!私は・・・」


「その言葉の続きを言ってみろ!俺に恥の上塗りをした事を一生後悔する事になるぞ!」


「っ!・・・申し訳ありません・・・」


超がつくほどの負けず嫌い・・・それがテジハだ。遊び程度の賭けでさえ負けまいと本気で考えている


私にとっての最良は『コゲツは負けるが軽い怪我程度で済む』だった・・・負けて死ぬのは仕方ない・・・決闘を申し込んだ本人の自己責任だから


そして最悪は『コゲツが勝ち私が賭けで勝つ事』だった。勝つと分かっていれば百人長に賭けていたものを・・・


「先程言った『ワガママ』は考えているのか?」


「いえ・・・まだ・・・」


「そうか・・・思い付いたら俺の所に来い。くだらない『ワガママ』など持って来るなよ?・・・俺を苛立たせるな・・・分かったな?」


「・・・はい・・・心得ております」


私はこの時からテジハの『敵』となった。取るに足らない末の弟から『敵』に・・・



ああもう・・・なぜこう上手くいかない──────

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