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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
644/856

639階 魔神の過去

衝撃だった


魔力を遮断する材質なんて聞いた事がない。そんな物が本当にあるのならゲートは使えない


「もちろん魔力を完全に遮断するのは無理だ。強力な魔力の攻撃を与えれば砕く事も可能だろう・・・しかし今聞く限りだとそのゲートは難しいだろうな」


「だろうね・・・ああクソッ!胃の中ってなんだよ!絶対ピリピリしそう・・・てかどうやって出るんだ?・・・まさかオシリの・・・」


「ンンッ!とにかく!私も仲間が多いに越したことはないから救う手立ては模索してみる・・・だから勝手な真似は慎んでくれ。君達だけではなく私達まで・・・そうなればこれまでと同じ・・・いやこれまで以上に民が苦しむ事になる。だから・・・」


くっ・・・胃の中は嫌だけど・・・


「・・・分かったよ・・・ハア・・・マスターがいればどうにでもなるのに・・・」


「先程から出て来る『マスター』とはそれ程の者なのか?」


「あったりまえ!マスターにかかれば悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい簡単に解決しちゃうから。マスター舐めんなよ!」


「いや舐めてはないが・・・」


「もしその魔力障壁ってのがなければすぐに呼べるのに・・・あっ!ねえ魔力障壁を一時的にでも消す事は出来ないの?それが出来たら問題なんてすぐに解決するけど・・・」


そうだマスター・・・マスターさえいれば簡単に・・・


「それも無理だ。魔力障壁が消えた事など一度もない・・・私でさえどうやって魔力障壁を出しているのか知らないのだ」


「・・・知っている人は?」


「皇帝陛下なら確実に知っているだろう。他は・・・いやでも・・・」


「何でもいい・・・少し・・・ほんの少しの間でもその障壁を停められれば全て上手くいく・・・絶対に、ね──────」




()()どうでしたか?」


「・・・どうやら主力は持って行かれているらしい・・・けど・・・」


「けど?」


「望みはある。彼の言う事が真実であればの話だがな」


「鵜呑みにするのは危険かと・・・別の大陸の者であるのは間違いありませんがそれ以外は・・・」


「実は友好の使者ではなく侵略者かも知れぬと?」


「可能性はあります。なのであまり信用するべきではないかと」


「とは言ってもこちらも時間がない・・・友好の使者ではなく侵略を目的としているのならばそれを受け入れればいい」


「皇子!」


「デネット・・・侵略され統治された方が今よりマシになる未来しか見えないのは私だけか?・・・この世は最悪だ・・・これ以上悪くなる事など・・・決してない」


「・・・皇子・・・」


「四種族会合は今日だったな・・・これも神の思し召しかもしれん・・・」


「まさか会合に?外を出歩くのも疑われる危険性があるのに会合などに顔を出せば・・・」


「もう止まることは出来ぬのだ・・・この機会を逃せば未来永劫この国は変わりはしないだろう・・・今が・・・神の元で動ける最後の機会なのだ──────」





イテテテテ・・・鎖に繋がれていた部分が擦れて傷が出来てる・・・まあ放っておけば治るだろう


拘束を解いたのは信用しているってことか?見張りはいるけどゲートの事も話したし見張りを立てても無駄って事は分かっているはずだし・・・もしかしてゲートの事を信じてないとか?


ただ名前は結局聞けなかったけど悪い奴じゃなさそうだ・・・オレが魔族って分かったのも配下の人間にオレ達を回復するよう命じたからだし・・・


魔族の体に回復魔法であるマナを流しても意味はない・・・と言うか逆に傷口が悪化する・・・それを見てアイツはオレが魔族だと気付いたらしい。魔族が存在しない大陸でよくまあ知っていたものだ・・・魔族の特性を


にしても厄介だな・・・魔力障壁か・・・それさえなければゲートでマスターの元に戻れるのに・・・会話も出来ないとなると指示も仰げないし・・・


もっと厄介なのがネターナ達の事だ


マスターの知り合い・・・それを死なせてしまったら・・・てかなんでオレがこんな事で悩まないといけないんだ?そもそもオレは戦闘向きじゃない・・・つまりアイツらの護衛でも何でもないのに・・・


「・・・食事は要らぬのか?」


「うわぁ!?・・・喋れたのかよ・・・えっと・・・ヒースだっけ?」


考え事をしていたら急に話し掛けて来たヒース・・・てっきり喋れないかと思っていたから驚いて悲鳴をあげちゃったじゃないか!


「元より喋れる。それよりも悪かった・・・」


「何が?」


「船を壊してしまったことだ」


「あー・・・まあいきなり近付いて来た船を警戒するのは分かるし・・・喋れるなら一言声をかけて欲しかったけど・・・」


突然甲板に現れてコゲツを殴って船を真っ二つだもんな・・・ゲートを使う暇なんてなかったよ


「あれは・・・無意識の行動なのだ」


「無意識?」


「いや意識はあるか・・・感覚的には夢を見ているようなそんな感じで体の制御が出来ぬ・・・殴った相手はここに居らぬようだが無事だといいが・・・」


「コゲツは頑丈って聞くから平気だと思うけど・・・体の制御が出来ないって・・・それって大丈夫なのか?いきなり暴れたりとか・・・」


「それはない・・・はずだ。船に対して攻撃してしまったのも大陸を脅威から護る為・・・君達は既に味方と認識しているから攻撃はしないはずだ」


さっきから()()って自信なさげなんですけど・・・


「それって魔神とやらの特徴なのか?時たま魔人みたいに暴れ出すみたいな感じになるとか・・・」


「私は自分で魔神になったとは思っていない。ただの長い期間魔人であっただけだ」


「へぇ・・・けど魔人って誰かに命令されない限り暴れ回る印象だけど・・・」


「最初は私もそのような状態だった・・・が、ある時ふと意識を取り戻し・・・」


てっきり魔力を使い切って死んでしまうものかと・・・まあでもほとんどが魔力を使い切る前に弱ったところを人間に攻撃されて倒されているって聞くし実際そうなのかもな


「それからずっと大陸を護って来た?」


「・・・そんないいものではない。私はただ復讐したかっただけだ・・・」


「復讐?誰に?」


「ブルデン・・・私が魔人へと変わるきっかけとなった男だ──────」




それはもはや昔と言う言葉では表せない程の過去の話


ヒースとブルデンを含めた男女100人の人間がアバドンの脅威から逃れる為に新天地を探す旅に出た時に遡る


新天地が何処にあるか・・・いやそもそもあるかどうか分からない・・・そんな状態で人間達は食糧と家畜、そして新天地で育てる為の色々な種を船に詰み出航した


その船旅は最初こそ順調ではあったがあるかどうかも分からない為か次第に肉体的にも精神的にも追い詰められていった


喧嘩は日常茶飯事・・・病気に罹る人間も出るなどもはや限界を迎えそうな時、この大陸を発見したのだとか


その時は喧嘩ばかりしていた人間達も涙を流し喜びあった・・・これで何の脅威もなく生活出来る・・・そう信じていた・・・が


「・・・既に記憶にないがかなり長い期間船旅を続けていた・・・大型の船と言っても家畜もいるので人数的にはギリギリ・・・そんな中で男と女が同数いれば何も起こらない訳もなく・・・」


「あっ!分かった!イチャイチャし始めたんだろ?」


「・・・まあそうだな・・・かなりの人数が恋人同士となっていった・・・私もその1人・・・愛する者が出来た」


「ふーん・・・てか男と女50名ずつなんでしょ?なら最初から結婚してる人間が行けば良かったんじゃない?」


「その考えもあったが新天地で生活の基盤が出来るまで何年かかるか分からない・・・なのでなるべく歳の若い者をという話で私達が選ばれた・・・船を操れる体格の最も若い者達・・・もちろん知識は必要だったがそれは書物として持って行けばいいからな」


「なるほどね・・・で?」


「・・・彼女の名はミラ・・・互いに新天地に着いたら結婚しようと約束し励まし合い・・・そして奇跡的にこの大陸を見つけ上陸すると慌ただしい日が続いた。結婚する暇もないほどに・・・もちろん互いに約束は忘れていなかった・・・落ち着いたら結婚しよう、家を建ててから結婚しよう・・・そう何度も先延ばしにしている間にあの男が・・・」


「・・・ブルデン?」


「そうだ・・・私は100人の中でリーダー的な位置にいた。ブルデンはそれが気に食わなかったらしい。それに加えて・・・」


「加えて?」


「ミラに惚れていたらしいのだ・・・私という存在がいるにも関わらず」


「うわ・・・つまりヒースはブルデンが欲しいものを全て持っている・・・みたいな?」


「奴にとってはそうだったのだろうな・・・リーダー的な存在と言えど別に命令していた訳ではない・・・何とか少ない人数で仲良くやろうと心掛け、なるべくみんなの負担を減らそうと・・・」


だからみんなに慕われていたか・・・そして自分が好きな相手を恋人に持つヒースを見てブルデンは何を思ったか・・・


「・・・ある晩、残り少なくなった酒をみんなに振舞った・・・だいぶ生活の基盤も出来てきて楽しく酒が飲めると思ったからだ。私は飲んだ事はなかったがその時ばかりは飲もうと思い酒を口にし酔っているとブルデンから話があると言われ・・・」


「いやな予感しかしないね」


「初めは仲良く話していたと思う・・・だが次第に私への愚痴へと変わり最後には・・・『安心しなミラは俺が可愛がってやるよ』と言って私を崖から突き落としたのだ」


「・・・」


「酔っている私を崖まで誘導し突き落とす気満々だったのだろう・・・私はそれに気付かずホイホイとついて行き落とされた・・・が、下は海で私は何とか生き延びた・・・だが・・・気を失っていた私はかなりの距離を流されてしまい・・・気が付いた時は見た事のない場所だったのだ。しかも落ちた際に怪我をしたのか全身が痛む・・・それでも私は必死にみんなの元へ戻ろうと・・・体を引きずりながら腹が減ればその辺に生えた雑草を口にし喉が乾けば泥水をすすり・・・数日間彷徨い歩いてようやく辿り着いた時目にしたのは・・・ミラの肩に手を回しみんなと談笑するブルデンの姿だった・・・その姿を見た時色んな感情が沸き起こった・・・怒り悲しみ絶望殺意・・・それらが一気に押し寄せ私は・・・魔人と化した」


あれ?その時既に核が傷付いていたのか?感情で魔人になるなんてあるのか?


「・・・その時の記憶はない・・・あるとすれば私を見て恐怖するミラの顔だけ・・・次の記憶は1人で再び彷徨っている記憶のみだった」


怒りで魔人になり人間達に襲い掛かるが恋人を見て立ち去った・・・そんなところかな


「魔人の姿に怯えるミラ・・・ミラをもう二度と怯えさせまいと私は彼女達から離れる事を決意した。幸い魔人は食事をしなくても生きていけた・・・1人でも・・・生きていけたんだ・・・」


「それで今までずっと1人で?」


「・・・そうだ。もう二度と彼女の前に姿を現さないと決めて自ら離れて暮らした・・・どれだけの時間1人で過ごしたか分からない・・・もはや日にちの感覚すら薄れた頃、彼らは私の居る場所まで開拓を進めてきた」


「それってどれくらい経ってるか全然分からないの?」


「分からない・・・恐らく数百年は経っているだろう」


「じゃあとっくに・・・」


「ああ・・・ミラもブルデンもいなかったはずだ。それでも私は逃げ続けたがな」


「なぜ?」


「結果を知りたくなかった・・・私が居なくなった後の結果・・・ミラはどうなったか・・・ブルデンは・・・」


「なるほどね・・・もし知ればまた襲ってしまう・・・」


「・・・私はその時まで自分がそれほど嫉妬深いと知らなかった・・・何年経ってもミラへの想いは消えず何年経ってもブルデンへの恨みは消えなかった・・・だから私は逃げ続けた・・・私が私であるために・・・だが・・・更に年月が経ち彼らがブルデン帝国という国を興したと知った。それだけでも我を失いそうになったが民が苦しんでいることを知り再び怒りは頂点に達した・・・気付いた時には今とは比べ物にならないほどの小さな城に魔人と化して攻め込んでいた・・・残念ながら途中で魔力が切れて敗走する羽目になったがな」


「・・・」


魔人ってそんなに冷静になれるものなのか?聞いた話じゃ理性なんてなく暴れ回るだけと・・・


「何度か繰り返す内に民は気付く・・・私が民を攻撃せず王族・・・つまりブルデンの血を引く者達やそれに従う者達だけを狙っている事に」


「名前にブルデン帝国って付けるくらいだから王族はそのブルデンって人間の血族だろうな・・・なるほど・・・民はそれに気付き圧政から民を救おうとしている魔人に見えたってわけか・・・」


「そうだ。本当は嫉妬に狂った醜い魔人なのだがな・・・そして人々は私の事を民を救う『魔神』と呼び崇めるようになったのだ──────」

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