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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
628/856

623階 サラの苦悩

ファミリシア王国から簡易ゲートを使いエモーンズに戻って来て1ヶ月が経った


そして戻ってから1ヶ月もの間、彼は一向にその目を開け私を見てはくれなかった


メイド達は毎朝毎晩身体を拭き1ヶ月もの間お風呂に入っていないのに清潔を保たれているしモッツさんは朝昼晩彼の為に食事を出してくれた・・・残されるのが大嫌いなモッツさんがいつ起きるか分からない彼の為にそうやって毎回作ってくれるのは『起きた時に腹が減ってるだろうから』だそうだ


他のみんなも起きると信じている・・・私も・・・


「奥様・・・ケン様がお話があるとの事ですが・・・」


「・・・ここに通して」


「畏まりました・・・奥様・・・あまり根詰められては体に毒です。たまには外の空気を・・・」


「いいのよサーテン。目を覚ました時に私が居ないと寂しがるでしょ?」


「ですが・・・」


「いいから・・・それよりケンを連れて来た後でもいいから何か飲み物を持って来て頂戴・・・お願いね」


「・・・畏まりました」


サーテンはそれ以上何も言わず頭を下げ部屋を出て行った


心配して言ってくれてるのに悪い事しちゃったかな?


私だってこうしてただ彼の傍にいても何も変わらないのは分かっている。だからこそ・・・何も出来ないからこそ私はここから離れられない・・・私が彼に出来る唯一の事は傍に居る事だけだから・・・


彼が目覚めない理由・・・その原因はアバドンにあった


アバドンの力である『破壊』の力が彼の体内で暴れておりそれに抵抗する為に持てる力を総動員しているらしい


つまり彼は眠っているのではなく戦っているのだ・・・たった一人で


彼を診てくれたセシーヌ曰く『魔力と魔力のぶつかり合いにマナを流してしまうとどうなってしまうか分からない』と


アバドンの力も魔力なら対抗している力も魔力・・・そこにセシーヌの回復魔法・・・マナが加わると最悪の場合彼の魔力が弱まりせっかく拮抗を保っているのにそれが崩れてしまうかもしれないらしいのだ


アバドンの力だけ弱められればいいのだけど彼の体内で魔力が入り交じってしまっているのでそれも不可能だと・・・


けど諦めた訳じゃない・・・セシーヌが無理でも彼を回復させる事が出来るかもしれない人物が一人いる


『再生』のウロボロス


三大魔族の一人であり彼女?の回復は魔力を使うらしい。マナでの回復魔法では欠損部分の再生は出来ないがウロボロスなら可能なのはその為だ


そのウロボロスなら・・・


ベルフェゴールとヴァンパイアは彼を救うべくウロボロスを探しに出て行った。ウロボロスは元々神出鬼没らしく見つけるのにかなりの時間がかかるかもしれない・・・けど見つけて連れて来れたら治る可能性はかなり高い。その為にも余計な事はせず見つけて来てくれるのを待つしか・・・


「姐さん!入ってもいいすか?」


ノックの音と共にドアの奥から声がする


どうやらケンが来たようだ


「構わない入ってくれ」


私は答えると彼の元を離れ部屋にあるテーブルへと向かった


「お久しぶりっす・・・元気でしたか?」


「まあね。とりあえず座って」


「あ、どうもっす」


ケンは軽く会釈をすると私の前のソファーに腰掛けた


「どうだ?新婚生活は」


「ええ最高っす・・・ってすみません・・・なんか・・・」


ケンは照れながら答えた後、私の後ろで眠る彼に視線を向けてバツが悪そうな表情をして頭を下げた


「気にするな・・・それで?何か私に用か?」


「え、ええ・・・思い出したんっすよ」


「何を?」


「戦場で・・・ほら、あの時・・・魔人に囲まれてた時に見た奴の事を」


「?・・・魔人に囲まれてた時?・・・ああ、城壁を背にして戦ってた時の事か?」


「ええ・・・そこで魔人の群れからひょこっと顔を出した奴がいましてね・・・てっきり遅れた兵士が命からがら陣に戻って来たのかと思ったんですけど何か見覚えがあって・・・」


「ふーん・・・で、結局誰だったんだ?そいつは」


「・・・十二傑の一人・・・『不死者』ダンテっす」


「なんだと!?バカな・・・ダンテはジークの手で・・・」


「俺もそれは聞いてたっすけど・・・間違いないっす・・・あれはダンテっす」


そんな・・・ダンテはジークに首を刎られて・・・


「いやぁー驚きっすよね・・・『不死者』の名もダテじゃないって事っすかね?」


「ありえない・・・私が知る最高のヒーラーであるセシーヌでも無理だ・・・・・・いや、元々ダンテの回復魔法はおかしかった・・・欠損部分を再生出来るヒーラー・・・そんなのまるで・・・」


確かロウがオルシア将軍の四肢を切り落とした後でその部分を治したのもダンテだったと聞いた・・・つまり彼は・・・


「姐さん?」


「ありがとうケン・・・確認してみるわ」


「いえ・・・お2人が幸せになる事が俺らの願いっすから・・・」


そう言い残しケンは部屋を去った



2人の幸せ・・・か・・・常に問題があって結婚してからもゆっくりした事なんて殆どなかった・・・ようやく大きな問題が解決したと思ったらこれだもんね。もしかして本当にそういう星の元に生まれたのかしら?


振り返り眠るようにベッドに横たわる彼を見た


「・・・もしダンテが生きていて・・・私の予想通りなら・・・」


立ち上がると未だ目を開けない彼に近寄り額にキスをしてから部屋を出た。ベルフェゴールとヴァンパイアが不在の今、聞くとしたらあの人しかいない


そう思い向かうとちょうど子守りの真っ最中だった


「・・・どうはれまひたか?まほうひはま」


「・・・シシリアちゃん、ちょっとお爺さんとお話があるから借りてもいい?」


「いいよ!」


シシリアに両頬を引っ張られていた人物・・・シュルガットはシシリアを下ろすと私に向き直り先程の言葉をもう一度言う


「どうされましたか?魔王妃様」


「ごめんなさいね大変な時に・・・今日は子守り?」


「いえこれがワタシの日常です」


「・・・それは何より・・・。まあそれはともかく聞きたい事があるの」


「何でしょうか?」


「人間が・・・回復魔法で人体を再生出来る?」


「無理です。魔力ならば可能ですがマナでは再生能力を高めるに留まります。開いた傷口を閉じるのも病を消し去るのもマナにより自己回復力を高めた結果でして言うなれば『他人を強化する』というのが人間で言う回復魔法なのです。再生とは全く異なる為回復力を高めても再生には至らないでしょう」


「・・・やっぱり・・・そうよね。となるとダンテは・・・」


「ダンテ・・・ですか?」


「ええ・・・かつて勇者ジークの仲間だった十二傑の一人ダンテ・・・彼は人体を再生出来るらしいの。目の前で見た事はないけどロウが手足を切り落とした相手はそのダンテによって再生していたわ」


「・・・それが本当でしたらおそらくウロボロスの再生の因子でしょう」


「再生の・・・因子?」


「はい。魔族や人間で言うところの遺伝のようなものです」


「えっ・・・ダンテってウロボロスの息子?」


まさかそんな・・・あのダンテが!?


「違います」


・・・違うのね。てか冷静にツッコまないでよね・・・一人で盛り上がって損した気分になるから・・・


「人間の言う三大魔族に子を成す能力はありません。そもそも性別すらありませんから」


「・・・ウロボロスって女性じゃないの?」


「女性でも男性でもありません。もちろんアバドンやインキュバス様も」


見た目は完全に女性だって聞いてたけど違うのね


「じゃあどうやって・・・」


「子は成せませんが先程言った因子を授けることは出来るようです。インキュバス様がサキュバスを創ったように・・・そしてアバドンが魔王様にしたように・・・」


・・・そうか・・・インキュバスはサキュバスに創造の因子を・・・アバドンはロウに破壊の因子を・・・そしてウロボロスは再生の因子をダンテに・・・


「授けるって言う割には相手を傷付けたりするのね」


「何せ『破壊』の因子ですから・・・あの力はアバドン以外使えないでしょう・・・使えない相手には毒にも・・・いえ、失礼しました」


「気にしてないわ。じゃあ再生の力を持つダンテはウロボロスから再生の因子を授かった人間の可能性が高い訳ね」


「ほぼ間違いないでしょう。その者が何か?」


「・・・例えばの話だけどロウの中にある破壊の因子・・・それを再生の因子で破壊出来たりしないかなって・・・」


「出来るやも知れません。ベルフェゴールとヴァンパイアがウロボロスを探しているのは正にそれを頼む為ですから」


今は破壊の因子と創造の因子がロウの体内で拮抗している・・・でも再生の因子で破壊の因子を弱める事が出来れば・・・


「魔王妃様?」


「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて・・・分かったわありがとうシュルガット」


「・・・もしやそのダンテなる人間を探しに?」


「何処にいるかも分からないのに探しになんて行けないわ。ただ聞いてみただけよ」


「そう・・・れふか」


「シュル爺!」


「・・・ヒヒリハ・・・」


背後から忍び寄って来たシシリアがシュルガットの背中によじ登りまた頬を引っ張った


「もう子守りの続きをしていいわよ・・・じゃあまたねシシリアちゃん・・・それにシュル爺」


「・・・」


「バイバーイ!」


魔族も孫相手だと形無しね


とても微笑ましくもあり羨ましくもある・・・私達もきっと・・・



シュルガットの元を去り次に私が訪れたのは今この屋敷の中で最も忙しい人の部屋・・・全部押し付けちゃってるから何だか話し掛けづらい・・・


「・・・何でしょうか?奥様」


「今ちょっといい?ナージ」


「・・・あまりよくありませんが・・・何用でしょうか?」


「やっぱり後にしようか?」


「構いませんよ・・・ただロウニール様が倒れられてその影響かダンジョンの魔物も全ていなくなってしまって冒険者の都市離れが進み都市経営が傾いているのを何とかしようとしているだけですから」


「・・・そ、そう・・・苦労かけるわね・・・」


「それで何の用ですか?」


「ダンテって覚えてる?」


「はい。十二傑の一人でヒーラーの・・・確か勇者ジークに・・・」


「そう・・・そのダンテが生きているとしたら何処に潜伏すると思う?ジークに見つからないように他国に逃げるかな?元々リガルデル王国にいたからリガルデル王国に・・・」


「話が見えませんが・・・どこの国に潜伏してもおかしくはないかと・・・ただ私ならファミリシア王国に残りますね」


「どうして?」


「御存知の通りファミリシア王国が復興するまでかなりの時間を要するでしょう。一年や二年ではきかないかと・・・各国も支援をするでしょうけどファミリシア王国の残存貴族がそれを受け入れるかどうかはまだ未知数ですし・・・もし受け入れなければもっとかかるかも知れません」


「そっか・・・国もダンテどころでは無いから追われる心配はない・・・」


「はい・・・ところでダンテはなぜ追われているのですか?」


「同じ十二傑だったウルティアとその家族を・・・」


「なるほど・・・それで勇者ジークに・・・それで奥様は?」


「え?」


「なぜダンテを?ウルティアと仲が良かったとは聞いておりませんが・・・」


「あ、いやケンが見かけたって言うから気になってね・・・それだけよ・・・それだけ」


「・・・」


ナージは無言で私を見つめた。まるで心の内を覗き込むように


「じゃ、じゃあ邪魔しちゃ悪いから私はこれで・・・」


「奥様」


「な、なに?」


「・・・いえ、なんでもありません」


ううっ・・・絶対気付かれてる・・・


本当は正直に話しておくべきなんだろうけど絶対に反対されるし反対を押し切って強行したとしても誰かしらは着いてくるわよね・・・しかも一人二人じゃなくゾロゾロと・・・


執務室を出た私は覚悟を決めると急いで部屋に戻り準備する


何日かかるか分からないけどきっと連れて来てみせる・・・だから待ってて・・・ロウ──────

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