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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
626/856

621階 最終決戦⑮

時間にしたらあっという間だったのかもしれない・・・インキュバスとの会話を終え我に返るとそこは過去を振り返る前の光景と全く変わらなかった


《貴様は何も分かっていない・・・飽きるなど・・・》


ん?ああ、そう言えばそんなような話をしていたな


《創っては壊され創っては壊されを続けてたらそりゃ飽きるだろ・・・それとも永遠にそれを続けたかったのか?》


《貴様が息を吸って吐くように至極当然のこと・・・まさか貴様は飽きたからと言って呼吸を止めるのか?》


《飽きてるって事は否定しないんだな?》


《・・・飽きさせたのは貴様だ!インキュバス!以前のように・・・もっと我を楽しませろ!》


《だからインキュバスじゃ・・・まあいいや・・・んじゃあ御期待に添えるよう頑張りますか・・・その結果楽しいかどうかは保証しないけど、なっ!》


可視化するくらい体から魔力が迸るアバドンに向かい大地を蹴る


間合いを詰めると更に大きく見えるその体に魔力をタップリ込めて突きを放った


《っ!こんの・・・何食ったらそんなに頑丈になれるんだ?》


突いた拳の方が痛い・・・頑丈にも程があるだろ!


《ほう・・・砕けぬか。褒めてやろう》


《嬉しくねえ・・・なっ!》


体を捻りその場で回転すると踵をアバドンのこめかみに突き刺す・・・が、ヤツは微動だにせずそれを受けゆっくりと両手を広げた


《くっ!》


たったそれだけの動きで本能が危険を察知し慌ててアバドンから離れると動きを止めてこちらを見て鼻で笑う


《その程度か》


アバドンの力に対して技で対抗しようとしたが無理がある・・・やはりヤツの力を超える一撃を・・・


《・・・貴様はあの者に似ていると思ったが・・・勘違いであったか・・・それともまだ追い込みが足りぬか?》


《あの者?》


《貴様が創ったにも関わらず貴様を超える力を発揮したあの者・・・再び相見える事だろうと期待していたが終ぞ現れなかった。あの者を超える者も・・・》


《・・・サタンか》


一緒に暮らす人間を守り死んでしまった魔族・・・単身でアバドンを撃退し再び眠りにつかせた魔族・・・インキュバス頑丈初めて創った魔族であり最強の・・・魔族サタン


《そう言えばそのような名を口にしていたな・・・くだらぬ理由で意地を張りさえしなければもう少し楽しめたものを・・・》


《くだらない理由?お前は何も分かってないんだな》


《なに?》


インキュバスの記憶にもアバドンとサタンの戦いはなかった・・・駆け付けた頃には決着がついておりどう戦ったかは知らない・・・けど・・・


《お前の言うそのくだらない理由がサタンを強くした・・・人間を守ろうとするその気持ちが・・・お前を退ける力となったんだ!》


見ず知らずの・・・記憶の中でしか知らないサタンの事を悪く言われると何故か無性に腹が立つ


それはインキュバスの記憶がそうさせてるのかもしくは・・・


《ふっ・・・ならば貴様も同じ理由で我に抗ったらどうだ?それで力を得られると言うのならば!》


《ああやってやるよ・・・それがサタンの意志であり・・・インキュバスの意志だからな!》


サタンはインキュバスの創った魔族であり苦楽を共にした友だった・・・他の魔族はサタンをインキュバスを裏切った魔族と罵るがインキュバスは違った


分かっていたんだ・・・サタンが人間の可能性に賭けた理由を


《お前も解放してやるよ・・・創造と破壊の呪縛からな》


《解放だと?笑わせるな!!》


アバドンが動く


地面が揺れる程の踏み込み、そして拳を突き出す


死を予感させる突き・・・その突きに対して逃げることなく踏み込みギリギリで躱す


《インキュバス!!》


《だから俺の名は・・・ロウニールだ!》


自力の差は明白・・・少しでも油断すれば瞬く間に決着となる


掠っただけで意識を失いそうになるが歯を食いしばり何とか耐える・・・一撃を・・・叩き込む為に!


しかしこの猛攻もさることながらアバドンは隙などない。しかも今はダンコはいない・・・中途半端な攻撃は防がれてしまうだろうし一体どうすれば・・・


《我を前にして考え事か?》


《しまっ・・・ガハッ!》


腹にアバドンの拳が突き刺さり衝撃は背中を突き抜ける


《どうやら気の所為だったようだ・・・貴様があの者・・・サタンと重なって見えたのは・・・》


息が・・・出来ない・・・動かなきゃ・・・殺られる・・・


《幕だ・・・人間よ!》


「ロウ!!」


まだだ!


《んなろ!!》


屈んだ状態から飛び上がりアバドンに頭突きを食らわせる。予想外の攻撃だったのか初めて有効打を食らわせたような気がする・・・頭はかなり痛いけどアバドンも俺の頭突きを顎に食らって痛みで顔を歪めた


《貴様ァ!!》


違った・・・痛みで顔を歪ませたのではなく怒りで、だ


全身から出る魔力は更に勢いを増す。もはや近付く事さえままならないくらいに


でも不思議と恐怖はない。何せ・・・


《どうやら俺には勝利の女神がついているらしい》


《ならばその勝利の女神とやらから消し去ってくれる!》


は?ちょっ・・・


アバドンが手のひらをサラに向けた


俺が急ぎ間に入ろうとする前に魔力は放たれサラへと一直線に伸びていく


《サラ!!》


ダメだ・・・サラまで失ってしまったら俺はもう・・・


振り返ると激しい音と共に土煙が舞いサラの姿が見えない


目を細め土煙が収まるのを待つとそこには傷一つないサラの姿があった


《サラ!!》


「おい・・・先ずは防いだ俺らを労え」


「次は・・・勘弁して欲しいですね」


ダンとシャス・・・そしてシュルガットの結界が間に合いサラとその隣にいたフレシアは無事だった


《小癪な・・・ならば・・・っ!?》


《てめえの相手は俺だろ!アバドン!!》


怒りが込み上げる


アバドンに対して然り自分に対しても


その怒りは魔力を増幅させ体から溢れ出る魔力はアバドンと匹敵する


《そうだ・・・その意気だ・・・》


《うおおお!!》


雄叫びを上げ攻め続けるとアバドンはニヤリと笑いそれを受ける


《やはり貴様らは似ている・・・そして同じ結末を迎えるのだ》


同じ結末・・・つまりサタンのように撃退に成功するが自らは死に至る・・・あの時はサタンの勝ちだと言えた。けど今は・・・


同じ結末を辿ったとしたら俺の負け・・・人間の負けとなる


命を賭して魔力を尽きさせても再び魔力が回復すればアバドンは動き出す・・・もうインキュバスはいない・・・輪廻も途切れている


だから倒さなきゃいけない・・・退かせるのではなく消滅させなきゃならないんだ


『怒りだけでは倒せない』


そう俺に告げたのはおそらくローラ


彼女は知っていたんだ・・・怒りで魔力を増幅させてアバドンに対抗したとしても決して勝てない、と


だったら俺は・・・


「ロウニール!」


呼ばれて振り向くと何かが飛んで来て慌てて受け取った


それは光り輝く剣・・・聖剣『魔王殺し』だった


《ジーク?これは・・・》


「こっちはあらかた片付いた!後はそいつだけ・・・少しの間貸してやるからさっさとぶっ飛ばせ!」


見ると本当に魔人の数はかなり減っていた


しかしかなり激戦だったらしくジークもディーンもキースも・・・他のみんなも傷だらけ・・・そんな中でみんなは期待を寄せて俺を見ていた


「ロウニール君!君なら!」


「ぶちかませロウニール!」


ああ・・・そうだった・・・俺はみんなの命を背負ってる・・・そして俺も・・・


《ゲート》


「あ!?返せコノヤロウ!」


「黙ってろ!国の宝刀がこれ以上なく輝く場面だ」


ギリスは俺が取り出した刀カミキリマルを見ると叫びワグナがそれを窘める


まあこの戦いが終わったら返してやるよ・・・武器なんて必要ない未来が来るからな


《道具を増やせば我に勝てるとでも?》


《どうだろうな・・・試してみろよ》


右手にカミキリマル左手に魔王殺し


魔力を纏う妖刀とマナを纏う聖剣を構えるとアバドンはまたあの槍を魔力で作り出す


これまで以上に禍々しく巨大な槍を


《チッ・・・そりゃ出すよな》


前回はあの槍に阻まれた・・・今回も・・・いや考えるな・・・俺はただ全力を出すだけだ


《全てを破壊する槍・・・『深淵』・・・この槍で破壊出来ぬものはない》


《そりゃ凄いな。けどひとつ賢くしてやろう・・・その槍にも壊せないものがある・・・右手に魔力・・・左手にマナを・・・》


今度こそあの槍を砕きアバドンを・・・倒す!


《行くぞ!アバドン!》


大地を蹴り槍を構えるアバドンへと向かって行く


そして激突する前に右の刀と左の剣を交差させる。魔力とマナは反発し腕が吹き飛びそうになるのを必死に押さえその反発する力をアバドンに向けて押し出した


《こんなものか!》


今度は刀と剣・・・そして槍が交差する


《こ・・・のっ!》


イメージだと槍を弾きアバドンを斬りつけて終わり・・・のはずが力は拮抗どころか微かに押されている


まだ足りないのか?・・・でもこれ以上は・・・


魔力に合わせればもっと強力な一撃を放つ事も出来る・・・が、それにはマナが足りない


あくまでも魔力とマナが同じでないと反発する力は生まれないし下手すれば俺の体が吹き飛んでしまう


魔力をマナに変換し聖剣に注ぎ込むが今のが限界・・・そのマナ量に対して魔力を調整しているが・・・


《期待外れだったな・・・もうよい》


弾き飛ばされ尻餅をつく俺をアバドンは無表情で見下ろした


改めて力の差を感じる・・・これがアバドン・・・破壊の・・・アバ・・・ドン!?


「なに?もう終わり?なら続きは私がやるけど?」


《サ、サラ!?ダメだ!コイツは・・・グエッ》


「声に魔力を乗せない!胎教に悪いって言ってたのは貴方でしょ!」


《あ・・・はい」


「で?」


「で?とは・・・」


「やるのやらないの?やらないなら私が・・・」


「やります!やらせてもらいます!だからサラは・・・んっ!?」


サラは屈んで顔を近付けると唇を重ねる。何万という人間とアバドンが見る前で


「なら早くしてよね・・・待ってるから」


「ああ、もう少し待っててくれ」


恥ずかしさもあったけど・・・弱気になってたのが嘘みたいだ


今はアバドンが小さく見える


《くだらぬ・・・貴様の限界はとうに見えた・・・我には遠く及ばぬのは貴様も・・・》


「もう喋んな・・・お前の声は胎教に悪い」


《・・・》


「限界だと?お前は人間ってものをちっとも分かってない・・・人間はな・・・誰かの為にならその限界すら軽く超えるんだよ・・・見せてやるよ・・・人と魔の間にいる人間ってやつをな」


マナに合わせて魔力を調整?んな事して勝てる相手じゃねえだろ!


魔力を最大に・・・そしてマナも最大に!


インキュバスが創りサタンが守った人間の意地を見せてやる!



右手に魔力が宿る



俺の・・・人間の怒り



左手にマナを創り出す



みんなの・・・人間の希望



カミキリマルから魔力が溢れ出す


魔王殺しからマナが溢れ出す


「今度こそ・・・お前を倒す!」


《何度でも来い。だが貴様が倒れた時・・・それは人間の終焉を意味すると知れ》


「貴様だと?俺の名は・・・ロウニール・ローグ・ハーベスだ!!」


刀と剣を肩に担いで飛び上がる


明らかにマナが足りない・・・このまま続ければ・・・けど魔力をマナに合わせても・・・くそっ・・・もっと・・・もっとだ・・・もっと──────




人々は飛び上がったロウニールを見上げていた


肩に担いだ妖刀カミキリマルから溢れ出る魔力が黒き光となり尾を引きまるで片翼の翼のように見えた


しかし可視化する力の奔流を見ても人々の不安は拭えない


彼が向かう先にいるアバドンはそれ以上の魔力を通して纏った槍を手にしていたから


祈るように見つめる中、ロウニールは苦悶の表情を見せた


そのロウニールの表情が更に人々の不安を掻き立てる



「ロウ!!」



一人の女性が彼の名を叫んだ


それを皮切りに仲間が、友が、兵士達が、彼を知るもの全ての者が彼の名を叫ぶ


その叫びは彼に届き、力となり左手にある聖剣魔王殺しから白きマナが光を増した


だが・・・マナは翼と形容する程には至らず彼は片翼のまま深い闇へと落ちて行く


誰しもが諦めかけたその時、彼の背中がトンと押された





パパ





「なんだ・・・ほら聞こえてたじゃないか・・・ちゃんと」


彼が微笑み呟くとマナは膨れ上がり白き翼となる


両翼となった翼は彼の軌跡を辿ると彼を追い越し深い闇の前で交差する


眩い光が人々の目を閉じさせる


次に目を開けた時、全てが終わる



希望かそれとも絶望か



人々は光が収まると目を開け結末を見た



()()()()()()・・・アバドン」


《・・・後悔する事になるぞ・・・》


「執拗いな・・・分かってるよ」


そう答えたロウニールに対しアバドンは微笑んだ


会話の聞こえない人達はそれを見てロウニールガ負けたと思ったがすぐにそれが勘違いであった事を知る


アバドンの持っていた魔力で出来た槍『深淵』が砕け散ると体も徐々に崩れていく


《貴様には終わりがない・・・我とは違ってな。それがどんなものか・・・貴様はいずれ知ることになるだろう・・・分かっているのか?解放者よ》


「経験者は語る、か・・・てか貴様とか解放者とか・・・俺の名は・・・」


《ロウニール・ローグ・ハーベス・・・であろう?》


「よく出来ました・・・じゃあなアバドン」


《・・・ウロボロスを頼む》


「知るか」


ロウニールが素っ気なく答えるとアバドンは微笑んだまま目を閉じると体は一気に崩れ落ちる


ロウニールは崩れた体が全て消えると右手に持ったカミキリマルと左手に持った魔王殺しを高々と上げた


「俺達の勝利・・・だ?」


ロウニールは両手を上げ叫びながらそのまま後ろに倒れた


その瞬間大歓声がその場を包み込む


アバドンに、魔人の群れに勝利した人類


その代償は決して小さいものではなかった


「ロウ!!」


大歓声の中、悲痛な声が響く


ロウニール・ローグ・ハーベスは深い・・・とても深い眠りについたのだった──────

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