620階 最終決戦⑭
サタンが言った『男にしてくれ』の意味は『人と交わり子を成せるようにしてくれ』って意味だった・・・紛らわしい・・・
インキュバスはその願いを叶えてあげた・・・これで魔族であるサタンが人と交わったら子が出来る・・・それは当然魔族と人の間の子となる
人には両親の力を引き継ぐ力がある為、当然サタンと人の子は人と人同士の子よりも強い力を持って産まれた
インキュバスはその間に新たに魔族を創り出す
サタンと同じように男性機能を持った魔族を・・・
《インキュバス様!裏切り者のサタンは処分するべきです!》
おっベルフェゴールだ
他にも知った顔・・・ヴァンパイアやベリト、バフォメットなんかもいるな
《ふむ・・・暫し待て・・・奴が証明するというのだその証明が終わってからでも遅くはない》
《しかし!》
《くどいぞベルフェゴール》
《・・・申し訳ありません・・・》
ベルフェゴールは身勝手な行動を取るサタンが許せないみたいだな。叱責されても納得のいかない表情を見せていた
そんなある日・・・
《とうとうアバドンが行動を開始したか・・・》
《ハッ!見張っていた魔物によれば行動を開始した後すぐにここより南東の方角に向かったと・・・》
《南東・・・まさか!》
《ここより南東はサタンと『人』の住処・・・まさか我々より先にサタンを狙って?》
《各地にいる魔族を集め急ぎ出撃の準備をしろ!準備が出来次第南東へと向かうのだ!我は先に行く!》
《インキュバス様!お待ち下さい!アバドンがサタンを狙ったのは好都合・・・腐っても魔族・・・少なからず魔力を削り我々が有利に・・・》
《二度言わせるな》
《・・・ハッ》
インキュバスはすぐに南東へと向かった。それこそ全速力で
しかしその行く途中でアバドンとすれ違う事に・・・それを意味するものは・・・
《・・・アバドン!》
《褒めてやろう・・・貴様の創造物も意外にやる・・・》
《なに?》
《今回は短い時間であったが満足した・・・また破壊しがいのある創造物を創るよう精進するのだな・・・インキュバスよ》
そう言うとアバドンは何処かに飛んで行ってしまった。インキュバスはそれを見届けると再びサタンの元へと向かった
そして・・・
《・・・サタン・・・》
人集りの中心で息も絶え絶えのサタンを見つけた
もはや再生も追い付かない程の傷にインキュバスはサタンの死を悟る
《・・・インキュバス様・・・ご覧下さい・・・これが・・・成果です》
《アバドンに殺られた事がか?》
《違います・・・インキュバス様に創造された私が・・・アバドンか人を・・・守れたのです・・・あの破壊のアバドンから・・・守れたのです・・・》
《それがどうした!それに何の意味がある!》
《・・・いずれお分かりになるかと・・・いえ・・・もう既にお分かりなのでは?・・・インキュバス様・・・『人』を・・・いえ人と人・・・人と魔族の間に生まれた子・・・『人間』をよろしくお願いします・・・》
《サタン!》
《インキュバス様の子・・・『人間』には無限の可能性が・・・きっといずれインキュバス様を・・・》
サタンはそう言い残し跡形もなく消えてしまった
インキュバスが初めて創った魔族サタンの死・・・それを悲しむのはエサとして創った『人』・・・『人間』達
《インキュバス様!・・・これは・・・アバドンは何処に?それにサタンは・・・》
各地に点在していた魔族を集めベルフェゴール達はインキュバスに遅れこの場所に辿り着いた。が、見渡せどアバドンの姿は疎かここにいるはずのサタンの姿も見えず首を傾げる
《サタンはアバドンの手により滅した。アバドンは魔力を消耗したので再び眠りについた・・・ただそれだけだ》
《サタンが・・・ではこの『人』はどう致しますか?ワタクシ達で管理を・・・》
《放っておけ。所詮はエサ・・・放っておいても害は・・・》
「僕達はエサじゃない!」
《貴様・・・エサの分際でインキュバス様の言葉を遮るとは・・・》
「父が・・・教えてくれたんだ!僕達はエサじゃない・・・『人間』だと!」
《だからその『人』こそがエサ・・・》
《もうよいベルフェゴール・・・にしても似ているな・・・》
「え?」
《その『人間』がエサでないと言うのなら証明して見せろ》
「ああやってやるよ・・・父の・・・サタンの仇は僕が取る!」
人間にとってアバドンもインキュバスも同じ魔族・・・彼らにとってはインキュバスはサタンの仇に映った
こうして始まったインキュバスと人間の因縁はウロボロスも介入し俺がインキュバスを倒すまで続いた
インキュバスが最期に俺を『解放者』と呼んだのは輪廻からの解放ではなく・・・
《解放者よ》
おい記憶・・・喋りかけんな
《『創造』が無くなった今、『破壊』はもう必要としていない。そろそろ解放してやってくれ》
その言い方だと『創造』があるから『破壊』が存在したって聞こえるが?
《その通りだ。『創造』があるから『破壊』が存在した。『創造』が増やし『破壊』が減らす・・・それで世界はバランスが保てる》
けど俺・・・『創造』の力あるんですけど・・・
《お主には『想像』の力もあるであろう?その力で何とかせい》
投げやりだなおい・・・まあいいや・・・とにかくお前が死んでアバドンのヤツも役目を終えた・・・そういう事だろ?
《そういう事だ。もう役目を終えたのだ・・・解放してやってくれ解放者よ》
俺に出来ると思うか?
《お主が出来なければ輪廻が途切れた今何も残らぬぞ?アバドンとウロボロス以外全て無に帰す事になろう》
気軽に言ってくれる
《開放されるまで気苦労も多かったのだ・・・仕方なかろう?》
まあそこは認める・・・人類の敵としての魔王とサタンの意を汲み人類に救いの手を差し伸べて来た創造主・・・それがインキュバス・・・
《待て》
ん?
《別に我は救いの手など・・・》
はいはい・・・自身の分身であるサキュバスを大陸各地に配置したのは何の為だっけ?
《マナを溜める為だ。魔力を溜める器は我でも創れないからな・・・マナを溜めてマナと魔力を自由に変換出来るサキュバスが溜めた大量のマナを魔力に変え我を復活させる為に・・・》
サキュバスを創る前はどうやって復活してたっけ?
《・・・肉体が消滅してもウロボロスのヤツが・・・魔力は待っていれば自然に・・・》
・・・
《ハア・・・魂の接触などするものではないな・・・そうだサキュバスは人間を鍛える為に配置した。人間を鍛え我と戦い我に勝利した人間がアバドンに挑む・・・我に勝てなければアバドンに挑んでも同じ事だからな・・・その時は・・・》
初代勇者・・・サタンと人間の子のパーティーメンバーの一人・・・聖女セーレン・・・またの名を『再生』のウロボロスの力でやり直した・・・か
《そうだ。ウロボロス曰く魔力とマナの衝突で生まれたエネルギーを使い器を作る・・・その器とは魂を受け入れる器・・・衝突の力が大きければ大きいほど魂を受け入れる数は増える・・・我と勇者の衝突で生まれた器・・・それをウロボロスは輪廻と呼んだ》
輪廻を繰り返して待った・・・アバドンを倒せる程の人間が生まれるのを・・・
《生まれるとしたらサタンの血を引く者と思いきや・・・まさか理の外にいる者だとはな・・・》
理の外・・・つまり輪廻に組み込まれていなかった俺がお前を倒してしまった・・・当然輪廻は崩れ去り器に収まっていた魂は・・・
《二度とこの世に戻って来る事はないだろう。本当の死を迎えた事になるな》
ハア・・・そうならそうと初めっから言ってくれれば・・・
《仕方あるまい・・・我もまさかこんな事になるとは・・・それよりも分かっておるのか?お主が負ければアバドンはそのまま人間を滅ぼすだろう・・・そして輪廻が途切れ我がいない状態では・・・》
何度も言うなって・・・分かってるよ。ったく・・・過去の勇者がとっととお前とアバドンを倒してればこんな事には・・・
《いや・・・それは無理だったかもしれぬ》
なに?
《サタンはどうも詰めが甘い・・・最初に創り出した魔族という事で甘やかしたツケかも知れぬな》
父親か
《サタンの血族であるジークとやらも甘さが目立つ。あれでは妻となる者の尻に敷かれかねん》
母親か
《力はあるのだが・・・甘さは致命的となる。ウロボロス相手にはな》
あん?アバドンじゃなくて・・・ウロボロス?
《そうだ。もちろん脅威は『破壊』のアバドンだ。ヤツが望むのは全ての『破壊』だが『再生』のウロボロスは『再生』を望む》
再生を・・・いやいいんじゃないか?再生・・・大歓迎だけど・・・
《そうか?ならば聞こう・・・再生の力が必要になる時とはどんな時だ?》
そりゃ・・・っ!まさか・・・
《ウロボロスは争いを好む・・・自らの『再生』の力を遺憾無く発揮出来る場であるからな》
ちょ・・・それって自分の力を誇示する為に争いを起こさせるって事だろ?再生って言葉とは真逆・・・待てよ・・・んじゃあ『創造』であるお前は・・・
《我は無を好みアバドンは有を望む》
・・・三大魔族ってろくなのいないな・・・確かに何も無ければ『創造』の力はありがたいし色んなものが有ればさぞかし『破壊』しがいがあるだろうよ
けど好むなよ!望むなよ!
《仕方なかろう?存在理由が・・・欲しかったのだ》
頬を染めるな!
ったく・・・初めて会った時とはえらい違いだな
《当然であろう?あの時は魔王ヴォルガード・ギルダンテだったからな》
はいはい・・・魔王を演じてたって訳ね。で、本来のお前が今って訳か・・・それで話を戻すけどウロボロスが争いを好むから何が問題なんだ?
《ヤツは弱さにつけ込む・・・そうやって幾度となく争いを起こさせてきた・・・我を倒し人間に平和が訪れた際にも暗躍し争いを起こさせ結果アバドンに魔力を供給する羽目に・・・いずれは起きるアバドンだが平和な世が続けば遅らせる事も出来た・・・しかしヤツはその束の間の平和すら壊してしまう・・・『再生』の力を使いたいが為にな》
じゃあ俺がアバドンを倒すのを邪魔してくると?
《分からぬ・・・戦いに介入出来るほどヤツは強くない。だがヤツは必ず争いを起こさせようとするだろう・・・それが戦いの最中か終わった後かは分からぬがな》
なるほど・・・サタンの血族であるジークだと唆される可能性があるって訳か
《そうだ。勝っても平和などとは程遠い戦乱の世が待っているだろう・・・それは決して人間が望む世ではないだろう?》
当たり前だ・・・ウロボロスか・・・けど先ずは・・・
《うむ・・・アバドン・・・決して抜かるでないぞ。サタンの期待に応えよ人間の子よ》
違うだろ?お前の期待だインキュバス
《・・・》
仕方ないから応えてやるよ・・・それに受け継いでやる・・・お前の意志を
《ふっ・・・頼んだぞ我が子ロウニールよ──────》




