619階 最終決戦⑬
今の形になる前・・・つまり男女の営みを経て妊娠出産に至るまでかなりの時を要した
最初は人が人を産む・・・特にナニをしなくてもその人が成熟仕切ったら人を産み落とすって感じだった。けどそれだと色々と問題が発生する
まず第一に子を産む時にあまり大きいと産めない為にかなり小さくした・・・今で言う赤ん坊よりも小さいくらい。そうすると自力歩行が出来ず食べ物も食べれない為にすぐに死んでしまった
核のない人は食事など必要なかったが、核のある人は長生きする為に食事を取る必要があったのだがそれが出来ないとなるのは致命的だった。なのである程度大きく・・・それこそ人が産む時に耐えられるくらいのギリギリのところまでお腹の中で育てる形にした。それが今で言う妊娠期間である
でも産めるギリギリまでお腹の中で育てても人は未熟なまま・・・食べ物を噛む為の歯もなく自力で歩く事も出来ない・・・という訳で産んだ後、しばらく産まれたばかりの子に食事を取らせられるように体から液体を出せるようにしてその液体を産まれたばかりの子に飲ませる事にした。まあ母乳だな
それと妊娠期間中は極端に動きが遅くなる・・・そりゃお腹に子供が入っているのだから当然なのだが・・・んで、外敵・・・主に人の食料と力を付ける為に創り出した獣・・・動物に襲われたらひとたまりもないので妊娠中の人・・・つまり妊婦を守る役回りの人を創り出した
んなもん獣が人を襲わないようにするか魔物や魔族に守らせればいいじゃないかとも思ったがインキュバスとサタンは少しでも干渉せず人だけの暮らしが見たかったみたい・・・まあ結果的にそのお陰でようやく男と女が誕生したって訳だが・・・
女は子を産み、男は女と子を守る・・・それがインキュバスとサタンの考えた男女であり、その為に女は子を産みやすく、男は女子供を守れるように創り変える
だがここで問題が・・・女だけが子を産むのだが、そうなると女しか産まれない・・・力を引き継ぐっていうのはある意味自らの分身を産み出すのと同じらしいからそりゃそうだろう・・・で、そうなると女の力は引き継がれるが男の力は引き継がれない事になる。そこで考えに考え抜いて出した結論が性交渉って訳・・・インキュバスとサタンよ・・・ナイスだ
男と女が交わり2人の力が子に引き継がれる・・・これでほぼ今の人間の完成だ
後は人を繁殖させ成長を見つつもう一つの謎を解明するのみとなった
『誰かの為に自分の力以上の力を発揮する』
それを解明する為にサタンは人と生活する事になりインキュバスは思い出したように来たるアバドンとの対決に備えてサタン以外の魔族を創り始めた
アバドン周辺の魔力をマナに変えているとはいえ完全ではない・・・数百年くらいしたらアバドンは活動に足りる魔力を得ると踏んでいた・・・・・・何か時間の感覚が違い過ぎてよく分からなくなる・・・まあいいや
んで何だかんだで時は流れアバドン活動開始!迎え討つはインキュバスと魔族それに魔物達
もちろん最大戦力であるサタンと魔力供給の為に必要な人も総動員・・・のはずだった
《何故招集に応じなかった?サタンよ》
サタンと人はアバドンとの決戦に来なかった。そのせいか結果は惨敗に終わる
苦労して創った魔族や魔物は一切破壊され辛うじて生き残ったインキュバスはウロボロスの手により再生されるが魔力はゼロに近い状態となってしまう
しかし激しい戦いを繰り広げたアバドンもかなりの魔力を消費した為にまた眠りについた・・・魔力をマナに変える装置を全て壊した後で
《これで後何回かはアバドンめに勝てぬだろう・・・奴はこちらの準備が終える前に活動を開始し我を討ちに来るだろう・・・準備が整うのは後何回先か・・・》
インキュバスはサタンを呼び出し終わった事をグチグチと言い続けた。そこに怒りはない・・・あるのは興味だった
創造主たるインキュバスの召集に応じなかった訳・・・絶対服従のはずなのに逆らえた訳が知りたかった
《・・・その戦いに・・・意味はありますか?》
《意味だと?》
《はい・・・アバドンに勝ったところでいずれまた活動を開始します。逆もまた然り・・・それにどのような意味が?》
《アバドンにとって破壊は己の存在理由になる。我も同じだ。創造する事が我の存在理由・・・そして相反するものが存在すれば衝突するは必然・・・意味などそこにはない》
《・・・意味がないのなら・・・負けても良いのでは?》
《なに?》
《もしインキュバス様の存在が無くなってしまうと言うのなら・・・私は全力で戦いもするでしょう。しかし勝っても負けても戦いの果てに残るのはインキュバス様とアバドンだけ・・・》
《まさか臆したか?》
《ええ・・・ただ私が消える事に臆したのではありません・・・人が死ぬのが嫌だったのです》
そっか・・・サタンは人を守る為に・・・
それを聞いたインキュバスの心情はこれまた怒りは全くなく、興味と驚き・・・そして・・・喜び?
《ならば人を置いてお主だけでも来れば・・・》
《私が行ってしまったら誰が人を守るのですか?私が参戦し負けたとしたらアバドンは残りの魔力で人を滅ぼすでしょう・・・その時一体誰が人を?》
《滅ぼされたらまた創れば良い・・・そうであろう?》
《その創った人は今の人とは別人です。そんなものに・・・意味はありません》
こりゃ驚いた・・・サタンは人と生活する中で人に対して情が生まれたのか・・・いやでもそこまで驚く事でもないのかも・・・サキだって人間と意外と上手くやってたしベリトだって・・・
《確かにこれまでの成果がゼロになる・・・が、次に始める時はゼロからではない。既に人の創りは確立している・・・また同じように・・・》
《同じではありません。同じように創ったとしてもそれは別の人になります》
うん。俺もそう思う
それにインキュバスもそれには同意している・・・はずなのに・・・
《人は成長速度に目を見張るものがあるのは確かだ。しかしアバドンに届く事は無いだろう・・・いや、届くとしても途方もない時間を要する・・・つまり人に時間をかける事はそれこそ無意味ではないのか?》
《アバドンに対抗する事こそ無意味であると・・・私は思います》
《我とアバドンの存在を否定するか?》
《いえ!・・・アバドンの存在理由は『破壊』と仰られました・・・インキュバス様の存在理由は『創造』とも・・・確かに相反する存在ではあります・・・が、それはあくまでアバドンと相対した場合の事・・・インキュバス様は『創造』・・・『破壊』に対抗するのが主ではないはずです》
確かにサタンの言う通りだ
アバドンが破壊するから対抗しているだけでインキュバスは創造の魔族・・・つまり創る事が存在理由になるはず。けどアバドンが創ったものを破壊するから仕方なく・・・うん?じゃあインキュバスの存在理由が創造だとしたら最終目標的なものは何になるんだ?
・・・インキュバス自身も分かってないか・・・いやそれどころかおそらくアバドンやウロボロスも・・・何故創造するか破壊するか再生するか・・・力を与えられたがそれを何に使うか何を意味するか・・・誰も分かっていない・・・
《では我の主とは・・・存在する主たる理由とは何だと言うのだ?》
インキュバスは期待していた。考えても答えを持っているものはいないと諦めていた答えをサタンが持っているのではないかと・・・そして期待し待っていた答えはインキュバスにとって意外なものだった
《私は・・・『人』だと思います》
《なに?『人』だと?我は『人を創造する為の存在』と言うのか?》
《語弊はありますが・・・私はそう思います》
インキュバスにとって『人』は魔力を生み出す言わばエサ・・・その『人』を創造する為に存在していると言われたら腹も立つ・・・が、表面上は怒りを顕にするも妙に納得しているような部分もあった
それは何故か・・・それは目の前にある魔族サタンを『人』が変えたから
創造主であるインキュバスに逆らい『人』を守ろうとするサタンを変えたのは間違いなく『人』・・・つまり『人』にはインキュバスが意図していない力があるという考えに至っていた
このままサタンの言葉を信じ『人』を創造する事を主にする道もあった・・・が、インキュバスはその道を選ばなかった
《・・・その理由を聞こうか》
《私を含めたインキュバス様に創造して頂いた存在は『人』で言う子に当たると思っております。インキュバス様が親で私達が子・・・しかし残念ながらインキュバス様の力を私達は引き継いでおりません》
《・・・『創造』の力か・・・意図して創っておらぬだけで『創造』の力を持つ魔族は創る事は出来るぞ?・・・まあいい・・・それで?》
《意図すればそうなのでしょうが・・・ただ『人』は意図せずともインキュバス様の力を引き継いでいたのです》
《ほう・・・『人』が『創造』の力を?》
《はい・・・ただ無から有を生み出すのではなく在りしものを別のものに変える『想像』の力ですが・・・》
《・・・想像?》
《はい。私達はインキュバス様に創造され命令通りに行動する・・・それだけです。しかし『人』は違いました・・・与えられた環境でただ過ごすのではなく『想像』の力を発揮し自分達により良い環境へと変える力があるのです。インキュバス様は今の『人』の集落をご覧になられましたか?雨風をしのぐ家が建ち、身を覆う服を着て、獣を仕留める道具を作る・・・確かに『人』は魔物や魔族よりも脆弱ですがそれを補って余りある程の力・・・自ら考え行動する『想像力』があると・・・それはまさにインキュバス様の『創造』の力に匹敵するものと・・・》
『創造』ではなく『想像』
人はインキュバスから『想像』する力を引き継いだ
どうやらサタンはその力を高く評価しているらしい
戦う力ではなく『人』の『想像力』を高く
《雄弁に語るではないかサタンよ・・・で?》
《『人』をエサとして扱うのはお止め下さい。アバドンと戦う為の道具ではなく『子』として・・・》
《断る》
《インキュバス様!》
《我が『人』を創造する為に存在しているだと?冗談ではない・・・確かに『人』の成長には目を見張るものがある・・・が、その程度だ。魔物やお主達に活用出来ればと研究を重ねたが結果はとても活用出来るものではない・・・まあそれが分かっただけでも進歩か・・・とにかく『人』の未熟ゆえの成長速度など必要ではない。今の『人』は消し去り元の・・・》
《させません!》
《なに?》
《・・・まだ途中です・・・今暫く・・・今暫くお待ち下さい!》
《何の途中と言うのだ?まさか『人』が我を満足させるとでも?『人』を創造する為に我は存在したと認めるほどに?》
《はい・・・その為にひとつお願いが・・・》
《・・・なんだ?》
《私を・・・私を男にして下さい!》
おいサタン──────




