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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
618/856

613 最終決戦⑦

王城6階



絶望・・・希望が無い状態を指す言葉だ


より深く絶望を味合わせる為にあえて希望があるように見せかけてその希望を刈り取る・・・アバドンってヤツはそういう性格らしい


「『絶望を知れ』か・・・んなもんはとっくに知ってるよ・・・お前のお陰でな!」


もう一度・・・いや何度でも!ヤツに届くまで繰り返してやる!


《・・・まだ理解していないようだな。力の差を・・・そして絶望の意味を》


「なに?」


アバドンは言い終えると槍を俺に向けた


その瞬間、まるで金縛りにあったように体が動かず冷や汗だけが頬を伝う


〘ロウ!避けて!!〙


ダンコの言葉に反応するように体が動き、俺は咄嗟に横に飛んだ


すると槍の穂先から繰り出された黒い光が俺のすぐ横を通り過ぎ壁を破壊する


なんつー破壊力だよ・・・あんなの直撃食らってたらおそらく・・・


《ほう?避けたか・・・貴様の体を霧散させぬよう極力力を抑えたのがアダとなったか》


あれで『抑えてた』だと?・・・化け物め


「・・・なぜ俺の体を残そうとする?死体に悪戯でもするつもりか?」


《貴様は死の瞬間に絶望を知るだろう・・・そして眼下に広がる有象無象の人間はその貴様を見て絶望を知る事になる・・・希望が失われたと理解してな》


コイツ・・・性格悪くて化け物のように強くてその上悪趣味かよ


「・・・どうしてそこまでして人間を絶望させようとするんだ?」


アバドンはインキュバスのように死んではいなかったはず・・・だけど表舞台に出て来なかったのは魔力が足りなかったから・・・人間を滅ぼすだけの魔力が


そして今・・・出て来たって事は魔力は充分だと判断したからのはず・・・だから人間を絶望させて魔力を増やす意味はないはずなのに・・・


《・・・理由か・・・》


なんだ?いきなり悩み始めたぞ・・・まさか理由なんてなかったのか?


《ウロボロスの言葉に惑わされたか・・・確かに取るに足らない存在を滅ぼすには充分・・・となると・・・》


「となると?」


《理由などない》


おい


《単なる戯れだ・・・これから行うのは単調な作業のようなもの・・・少しくらいの楽しみがあっても良かろう?》


「・・・さすがは人類の敵『破壊』のアバドン・・・色々とイラつかせてくれる・・・」


楽しみだと?まるで勝てる気はしないけどコイツだけは野放しにしちゃいけない・・・たとえ・・・この命が尽きようとも!


《・・・まだ足掻くか》


「当たり前だ!何が何でもお前を倒す!」


さっきは何も考えずに突っ込んで失敗した・・・あの魔力で作った槍に防がれて


同じように攻撃してもまた防がれるだけ・・・なら防がれないように立ち回ればいい


問題は流れの中で放てるかだ


マナと魔力の調整・・・そしてその二つの力をぶつける事により発生する力を利用してアバドンを斬る・・・調整をミスすれば俺自身が爆散する・・・か


本来なら動きを止めて慎重にやらないといけない作業をアバドンと戦いながら隙を作り瞬時に作り終えて叩き込む・・・不可能に近いように思えるがやるしかない


アバドンが俺を侮っている今が実質最後のチャンス・・・絶対に・・・成功させてやる!


剣をゲートを開いて放り込むとの拳を握り構える


サラと師匠に習った体術を駆使して先ずはアバドンの隙を作る・・・俺の打撃など通用しないと分かっているが隙を作る為には拙い剣術よりも体術の方が可能性はあるはずだ



構えることなく突っ立った状態のアバドンに向かい突っ込むと体を沈め足払いを放つ・・・まるで鉄の塊を蹴ったような感触に一瞬怯むがそれでも止まることなく攻撃を続けた


《どこに希望を見出した?》


「うるさい!黙ってこれでも食らえ!」


魔力を踵に集めての踵落とし・・・アバドンは頭をヒョイっと横にズラすと肩で踵を受け止める


普通の相手ならこれで肩の骨が折れ苦痛に顔を歪めるはずだがアバドンはまるで効いていないようにその場に佇んでいた


子供と大人・・・いや赤子と大人か・・・ここまで実力差があるなんて・・・


《どうした?瞳から希望の色が薄れてきたが》


「何食ったらそんなに頑丈になるのか考えていただけだ」


希望は薄れいずれ絶望に染まる・・・か。その前に隙を見て・・・・・・・・・


〘どうしたの?〙


以前俺の体を操ったよな?ダンジョンで


〘ええ・・・それがどうしたの?〙


たとえばこんな事出来ないか?『俺が戦っている間に魔力とマナを調整する』とか・・・


〘・・・難しいわね。アナタが戦っている時は使っている魔力とマナが動いているから・・・荒波の中で器いっぱいに入ったスープをこぼさず飲めと言ってるようなものよ〙


例えが斬新だな・・・ん?なら荒波の中じゃなきゃ出来るって事か?


〘まあね。普通の魔族なら無理だろうけどマナと魔力を操る事に長けたサキュバスの私なら・・・って冗談よね?〙


何が?


〘荒波じゃなければ・・・つまりアバドンの前に魔力とマナを使わずに立つ・・・なんて事しないわよね?〙


・・・ダンコと同じく戦いながらってのは無理そうなんだよな・・・戦っているとどうしてもそちらに集中して上手く調整出来ない・・・だから・・・


〘アナタねえ・・・アバドンの一振はマナや魔力を全力で展開して防げるかどうかなのよ?もしそれをマナや魔力なしで受けたら・・・〙


受けたら・・・だろ?まだアバドンは完全に優位に立っていると思って俺を舐め腐ってる・・・さっきも攻撃には反応するけど反撃する気配はなかった・・・今ならまだ・・・


〘いつ反撃してくるか分からないじゃない!〙


ケドどっちにしても同じ事だろ?このまま倒せなくてもいきなり反撃してきて俺が殺られても・・・遅かれ早かれアバドンがその気になれば俺達は・・・人間は終わりだ。なら・・・賭けに出るしかないんじゃないのか?


〘・・・アナタがその気になればアバドンから逃げる事も可能よ?〙


なに?


〘アバドンの魔力が尽きるまで逃げるの・・・ゲートを使えば逃げる事は容易い・・・もちろん数人なら共に行動する事も出来る・・・アバドンの魔力が尽きるまで逃げ続けさえすれば・・・〙


他の人達は?行動を共にする数人以外の人はどうなる?て言うかその方法を今まで黙っていたって事は俺の答えが分かっているからだろ?


〘・・・〙


・・・これでも意外と知り合いが多いもんでね・・・それに・・・仇はきっちり取らないとな


〘・・・そう言うと思ったわ・・・マナも魔力も使わずにアバドンの隙を作れるの?〙


作るさ・・・何がなんでもね


〘・・・分かったわ・・・失敗しても恨みっこなしだからね〙


大丈夫・・・ダンコなら上手くやれる・・・頼んだぞ!


〘・・・簡単に言ってくれる・・・〙



無意識に纏っていた魔力を解除する


これで完全に無防備状態・・・少しでも・・・かすっただけでも死ぬかもしれない


《とうとう諦めたか?》


「そんな訳ないだろ?マナにも魔力にも頼らない・・・人間の技を見せてやる!」


《・・・ふっ》


くそっ・・・鼻で笑いやがって・・・精々油断していろ!


「っと!」


アバドンが僅かに動く


咄嗟に後ろに飛び退くとアバドンは不思議そうに肩を竦めた


《見せたかったのは逃げ方か?》


「それも含めて・・・だよ!」


無理に攻める必要はない・・・今はあくまでも隙を作るのが目的・・・攻めてもダメージを与えるのが目的じゃなく体勢を崩させる為


とは言っても逃げてばかりだとアバドンが何をしてくるか分からない・・・だから付かず離れず攻撃を躱しながらどうにかして隙を作る!


勇気を振り絞りアバドンの懐に入り込むと拳の連打をアバドンに浴びせる


無論効いてはいない・・・と言うかどちらかと言うと俺の拳の方が痛い


《児戯に付き合うつもりは無いぞ?》


「そう言わず付き合ってくれ!」


俺を掴もうと伸ばした手を掻い潜り体を回転させ蹴りを放つ。踵がこめかみにヒットするが微動だにしないアバドンに少し腹が立つ


マナか魔力を込めていれば少しはダメージが通ったか?・・・いや、込めてないから受けただけで込めていたらさすがに防いだか・・・


未だに強さがはっきりしないアバドン・・・強いのは分かっているがどれくらい強いのかが全く掴めない


《これが人間の技・・・か。器用に動き回るものだな・・・しかし力が伴ってなければ当てたところで意味はない・・・何を企んでいる?》


「企むなんてとんでもない・・・いや、ある意味企みか・・・いまいちお前の実力が掴みにくいから色々試しているだけだ」


《・・・まさか我の力を推し量ろうとでも?》


「そりゃまあ・・・戦っている相手の実力を知ろうとするのは当然だろ?」


《遙か頂きにあるものを見ようとして背伸びしたところで見るのは叶わぬ・・・貴様はただ全力を出し抗えばいい・・・それが貴様の唯一出来ることだ》


「そうやって自分を高く見せようとするところが小物感満載だな・・・そんなに強いって言うなら見せてくれよ・・・お前の強さを」


《・・・》


余裕を持たせるな


怒れば攻撃は強力になるだろうけど単調にもなる


大振りの一撃・・・それを放たさせれば俺の勝ちだ・・・躱せればの話だけど


また近付いて攻撃を浴びせる・・・徐々にアバドンの表情から笑みが消えていく


《・・・小賢しい・・・》


だいぶ苛立って来ているな・・・もう少し揺さぶってみるか・・・


という訳で猛攻を仕掛ける・・・と言ってもダメージは皆無だが


するとアバドンの顔から笑みは完全に消え眉間に皺が刻まれ始めた


そして・・・何故か左手に持っていた槍が消えてしまった


《・・・いいだろう・・・貴様の挑発に乗ってやる》


「へ?・・・うわっ!?」


それまで棒立ちだったアバドンが突然殴り掛かってきやがった


当たれば即死間違い無しの攻撃・・・ただの突きだが突然だったのと恐怖で大袈裟に避けてしまう


《・・・ふっ》


・・・この野郎・・・


「大した突きじゃないな!『破壊』のアバドンは破壊は出来ても闘いに関しては素人か?」


《・・・ふむ・・・確か・・・》


アバドンはそう呟き身を屈めると床を蹴りこちらに向かって来る


その速度も凄まじいものがあるが・・・


「コイツ!!」


俺の懐に入り込み拳を突き上げる。それを仰け反り躱すと体を回転させ後ろ回し蹴りを放って来た


まるで俺の真似をしているよう・・・いや、実際真似しているのだろう。俺はそのまま仰け反っていき床に手を付きバク転をして蹴りを回避した・・・が


《こんなのはどうだ?》


着地し屈んでいる状態の顔面にアバドンの蹴りが迫る


『死』という言葉が浮かぶが何とか床に転がり直撃は避けた


《ほう・・・よくぞ躱した・・・次はもう少し速く動いてみるか・・・人間の技とやらを模倣しただけなのだから躱すのも容易かろう?》


・・・思いっきり殴りたい・・・けど我慢だ・・・ん?真似しているって事はもしかして・・・


「来いよ猿真似野郎が・・・いくら速くなろうが全て躱してやる!」


勝負は一瞬・・・アバドンが思った通りのヤツなら多分・・・


ダンコ!準備してくれ!


〘ちょっと!剣は!?〙


俺の右拳でいい・・・拳を中心にしてマナと魔力をぶつけてくれ!


〘忘れたの?さっきは槍で受け止められたから剣は無事だったけど・・・〙


分かってる・・・人類を救う為なら拳ひとつくらいくれてやる・・・頼んだぞ!



さっきはアバドンの槍と衝突した事により蓄えた力は消え剣は壊れなかった・・・けどインキュバスに使った時・・・剣は見事に破壊してしまった。あれはインキュバスを斬った事による衝撃で壊れたのではなくマナと魔力の衝突による力に耐え切れなくなったからだ


この一撃でもしアバドンを倒せれば同じようなことになる・・・行き場を失った力が暴発し俺の拳・・・いや拳だけで済めばいいがおそらく腕ごと・・・それでも躊躇している場合じゃない・・・コイツを倒せるなら安いもんだ!


「っ!速い!」


宣言通りさっきよりも速い・・・この速度のヤツに対して上手く引き出せるか?


何とか初撃は躱せたが流れるような連続攻撃に冷や汗が止まらない・・・しかも受けたら受けた部分がやられるのは必至・・・躱すしかないのがかなりキツイ!


《ほう・・・やはり逃げるのは得意か》


「チッ!・・・逃げてばっかりだと思うなよ?」


突き出した腕を引く瞬間に合わせて左手を突き出す・・・すると待ってましたと言わんばかりにその場で回転し後ろ回し蹴りを放とうとする



上手く引き出せた・・・ダンコ!



俺の動きを真似しているのは分かった。だからこっちが攻撃に転じればヤツは必ず俺と同じ・・・回転して躱してそのままの勢いで蹴りを放つと思った


サラも得意な後ろ回し蹴り・・・何度も食らった事があるから流れは熟知している


回転しその勢いを使い蹴りの威力を上げるのだが一瞬だけこちらに背中を向ける瞬間がある・・・普通ならその一瞬で回避か迎撃か判断するのだが来ると分かっていればもうひとつの方法が取れる


「うおおおお!!」


アバドンが回転すると踏んで一歩前に進み出る・・・すると目の前で一瞬だが背中を・・・隙を見せた。その隙に無防備な背中に一撃を放つ


ダンコが調整してくれたマナと魔力・・・そのふたつの力を拳が背中に届く瞬間に衝突させた


《ぬ?まさか貴様・・・》


後ろ回し蹴りを誘導させられたと気付いた時にはもう遅い・・・拳は確かにアバドンの背中に当たりマナと魔力の衝突した事により発生した力がアバドンに注ぎ込まれる


サラの技『射吹』と『流波』の応用・・・これで倒せなきゃ全てが終わる!


暴れる力が拳を破壊する・・・それでも歯を食いしばり力を注ぎ続けるとアバドンは激しく体を揺らした


効いている・・・そう思った瞬間にアバドンはこちらに振り向き腕を伸ばし俺の首を掴んだ


《・・・誘い込まれたか・・・不愉快な》


「ぐっ・・・これでもダメ・・・かっ!」


胸が熱い


視線を落とすと首を掴んだ腕・・・それともう一本の腕が見えた


その腕は・・・


《死して償え・・・そして絶望を呼び込むのだ》


胸を・・・貫かれ・・・


《いいぞその表情だ・・・すぐに全ての者をその表情に変えてやろう・・・貴様を使って、な──────》

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