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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
617/856

612階 最終決戦⑥

王城5階



大勢は既に決した


トドメとばかりに拳を振り上げたジルバだったが思わぬ反撃を食らい顔を顰める


「おいおい・・・なんだそりゃ」


ディーンの体が沈みかけたその時、突然浮き上がったと思ったらこれまでのお手の本のような剣技と違い雑で力任せ攻撃を繰り出した


あまりの変貌に一瞬呆気に取られたジルバは両腕の篭手でその斬撃を受けるので精一杯となり一旦その場から飛び退いた


「ガッハッハッ!さっきよりはマシになったじゃねえか・・・だが誰が獣になれって言った?」


「・・・?・・・獣・・・ですか?」


ジルバの笑い声と言葉を聞きようやく目の焦点が合ったディーンは我に返り咄嗟に聞き返す


「そうだ獣だ・・・マジで力の使い方が分かっちゃいねえ。闇雲に力を使うのは獣と大差ねえんだよ・・・お手本通りの剣技を使うと思いきや力任せのデタラメな剣・・・中間はねえのか中間は」


「・・・なにぶん不器用でして・・・」


既に体力が限界に近い今、会話を長引かせて回復させようとするディーンの気配に気付いたジルバはニヤリと笑いその場に座り腰を据えた


「仕方ねえな・・・楽しむ為だ。お前に力ってもんを教えてやる」


「・・・それはどうも」


回復を図ろうとしていた事を気付かれ、気付いているにも関わらずそれに乗ろうとするジルバに少なからずプライドが傷付いたディーンは憮然として返事をする


そんなディーンを見て鼻で笑うと腰を下ろしジルバは何故か語り出す


ジルバ流の力について


「もっと嬉しそうにしろってんだ・・・まあいい・・・力ってのは主に三つある・・・権力、知力、武力だ。権力は運が必要で知力は才能、武力は・・・何も必要ねえ。権力については分かるだろ?貴族や王族に産まれりゃ生まれながらにして権力を持つことになる・・・運以外の何ものでもねえわな。知力に関しちゃあんなもん才能だ。知識を詰め込める量に理解する力・・・それに頭の回転なんてもんは鍛えようがねえ。で、最後の武力だが・・・んなもんは鍛えりゃ誰でも強くなれる。そりゃ成長速度は違ぇかもしれねえが鍛えれば鍛えるだけ強くなれるてなもんだ。だろ?」


「・・・そう・・・ですかね?」


それは個人の感想では?と言いそうになるがここで話が終わってしまうとまだ体力が回復していない状態で戦いが再開されてしまうと曖昧な返事を返す


「武力も才能だって言う奴もいるがそれは甘えだ。そんな奴に生きる資格はねえ」


「・・・」


「とまあこれが俺の考える三つの力・・・上に上がりたきゃこの内のひとつを選ばなきゃならねえ。まあ権力に関しては選ぶと言うより選ばれるが正しいかもしれねえがな。俺は何の変哲もねえ家に生まれたから残り二つから選ばなきゃならなかった・・・まっ、体格には恵まれてたからな・・・実質選択の余地はなかった」


「・・・」


「俺は鍛えに鍛えまくって強くなった。しょぼくれた村から出て一旗上げてやろうと必死になって鍛えまくった。歯向かう奴はぶっ飛ばし、気に入らねえ奴は・・・ぶっ飛ばし、あー、まあとにかくぶっ飛ばしまくった。気付いた時にゃ俺はお山の大将よ・・・俺を慕うと言うより俺の武力を利用してノシ上がろうって考える奴らが周りに集まっていた。そうなると国は黙っちゃいねえ・・・まっ、徒党を組んで悪さしてりゃ潰しにかかるのは当然だよな。当時弱かった俺は軍の数の多さに面倒くさくなり大人しくお縄になったって訳だ」


決して負けたと言わないジルバにプライドの高さを感じつつ自分は一体何の話を聞かされているのだろうと疑問に感じ始めた


てっきり強くなる為の方法でも伝授してくるのかと思いきや単なるジルバの過去話・・・あまり興味はなかったが回復の為に黙って聴く姿勢は崩さなかった


「俺を捕まえた連中は俺の強さを利用しようと考えた・・・まあお前も知ってるだろ?コロシアム・・・そこで剣奴として闘わせて盛り上げようとしたって訳だ。強い奴の闘いは盛り上がるからな。そこで俺は勝ちまくって『剣奴王』なんて呼ばれるようになる・・・何も持って生まれなかった俺が()になった訳だ・・・武力で。田舎のお山の大将がコロシアムの王となった・・・観客は俺の強さに酔いしれコロシアムを管理する貴族さえも俺に従う・・・俺を召し抱えようとする奴もいれば俺の強さを手に入れようと抱かれに来る女もいた。お前の母はその内の一人だ」


「・・・」


「しばらくはその暮らしに満足していた・・・が徐々に物足りなさを感じるようになった。結局俺が手に入れたいのは権力じゃなくその権力に対抗しうる武力だ。そしてその武力を手に入れるにはより強い奴と闘うしかねえ・・・そんな事を考えている内にコロシアムの外に出られる好機に巡り合った。まあいつでも出られたんだけどな・・・より楽に出られるって思ったからそいつらの策に乗りコロシアムを出た・・・強い奴を求めてな」


「・・・『タートル』・・・」


「あーそうそう、そう名乗ってたな。まあその辺はどうでもいい・・・とにかくそいつらの策に乗って外に出て強そうな奴を探した・・・まあそこで見つけた奴らと遊んでたらしくじっちまったけどな」


そこからの流れはディーンの知るところとなる


サラ達との戦いにより負傷したジルバはその傷が癒えるとディーンの前に姿を現した。ちょうどロウニールの屋敷のお披露目パーティーが終わった後の帰り道に遭遇したのだ・・・父と子が


「・・・実際に会うまではまさか息子とは思わなかったが・・・不思議なもんだな」


「縁・・・でしょうか・・・あの時は女王陛下に・・・当時は王女でしたが・・・命令を受け各国を回る直前でした。しかし憂いがあったのでなかなか国を離れる事が出来ず・・・」


その憂いこそがジルバだった


剣奴王ジルバ・・・『タートル』が起こした混乱に乗じて消えたジルバが気掛かりでディーンは国を離れるのを躊躇っていた。もし国を離れた隙にジルバが王都で暴れでもしたら・・・そう考えると出るに出られなかったのだがそんな時にジルバが目の前に現れた


ディーンは憂いを断ち切る為にジルバの誘いに乗り戦い始めそこで互いに気付く・・・血の繋がりに


「楽しかった・・・お前との旅は存外楽しかった・・・」


「・・・それはどうも・・・で、結局何が言いたいのですか?今の話のどこに力の使い方の学びがあると?」


「ん?ああ・・・言葉で教えられる訳ねえだろ?今話したのは理由だ」


「理由?」


「俺がお前に力の使い方を教えてやる理由・・・」


「『楽しむ為』と仰っていましたがそれが理由では?」


「そう『楽しむ為』だ・・・知っちまったんだよ・・・自らが強くなるよりも楽しい事を、な」


「?それは一体・・・」


ジルバはディーンの質問に答えず立ち上がる


そして拳を鳴らすとこれまで以上の殺気を放ちディーンにぶつけた


「そろそろ体力も回復した頃だろ?やろうぜ・・・教えてやるよ力の使い方を」


「口伝かと思いきや結局は・・・まあらしいと言えばらしいのですが・・・」


それからジルバの手ほどきが始まった


しかし殺気を多分に含んだその手ほどきは油断すれば死を招くもの・・・ディーンは死に物狂いでその手ほどきを受け学んでいく


「いいか?これから言う事をよく聞け!これから戦う相手はお前のちっぽけな武力じゃ到底敵わねえ・・・ある力を全て使って勝て!」


「これから戦う相手?・・・上にいるアバドンの事ですか?」


「ちげぇ・・・俺だ」


「・・・今戦ってますが?」


「・・・強い奴と戦って自分が強くなるのがこの上なく楽しかった・・・今でもその気持ちは変わらねえ・・・けど・・・楽しいのは変わらねえけど同じくらい楽しい事を見つけちまった・・・」


「話が・・・見えて・・・来ないのですが・・・ぐはっ!」


戦いながら話していると隙を見てジルバは拳をディーンの脇腹にめり込ませた


「脇が甘い・・・そんなんじゃ勝てねえぞ?」


「くっ・・・」


「俺はよぉ・・・楽しかったんだ・・・お前が強くなるのを見るのが・・・自分が強くなるのと同じくらい・・・いやそれ以上に・・・」


「・・・」


「ここに来たのはあれだ・・・ファミリシア王国ってのは面白い国だって聞いたから軽い気持ちで来てみた・・・自分よりお前が強くなる事を望んでいる俺を叩き直す為って言ったらいいのか?・・・まぁそんなノリで来たは良いがやられちまって変なものを体に入れられちまった」


「・・・」


「今は力で押さえつけてるがいつ飲み込まれるか分からねえ・・・いや・・・もう・・・チッ・・・俺を負けさせるなよ・・・失望されるなディーン!!」


ジルバの全身が黒ずんでいく


雄叫びを上げながら体は巨大化しこれまで以上の圧倒的な威圧感を放つ


「父う・・・っ!」


突然の出来事に立ち尽くし呆けていたディーンに一瞬で間合いを詰め強力無比な一撃を放つ


ディーンはその一撃を受けて激しく壁に背中を打ち付けるとそのままゆっくりと倒れゆく



『俺を負けさせるな失望させるな』



ジルバの最後の言葉を思い出し足を出すと何とか倒れず踏みとどまれた


しかし尚も間合いを詰めるジルバ


「・・・」


気を失いかけていたディーン・・・自然と体が動き最初で最後の『技名を言わずに技を出す』をやってのけた


何千何万と振ってきた剣・・・その剣を抜くと同時にマナを放つ



聖光破山剣



ディーンにして最高の一撃は向かい来るジルバの胸を貫く


向こう側が見える程の巨大な穴が空いたジルバは立ち止まりディーンを見下ろしていた


「・・・楽しめましたか?父上・・・」


魔人と化したジルバには既に喜怒哀楽の表情は見えない。しかしディーンは確かに見た・・・満足そうに微笑むジルバの顔を


ジルバは倒れ静まり返った部屋にディーンの息遣いだけが響く


魔人と化したとはいえ自らの父をこの手で殺めてしまったディーンだったが後悔はなかった


むしろ誇らしく思う・・・最期に父の願いを叶えたのだから


「・・・感謝します・・・父上・・・」


戦いはまだ終わっていない


ディーンは倒れたジルバに頭を下げると傷付いた体を引きずり上の階を目指す


最後の戦いに向けて──────

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